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旧ソ連憲法評注(連載第2回)

2014-06-13 | 〆ソヴィエト憲法評注

第一編 ソ連の社会体制および政策の諸原則

 全9編174か条から成るソ連憲法中、筆頭の第一編は総則に当たる部分で、ここでは全5章32か条にわたってソ連の基本的な体制と政策の基本理念が体系的に列挙されている。

第一章 政治システム

 本章は、経済システムを定める次章とセットで、ソ連の政治経済体制の基本原則を列挙している。このように社会システム論的な構成を採るのは、政体論が中心のブルジョワ憲法よりも先進的な特徴であった。
 ただ、政治的な原則が経済的な原則より優先されているのは、経済的なもの、特に生産様式が社会の土台となるとするマルクス理論からは外れ、むしろ政治哲学が優先されるブルジョワ社会思想への傾斜が見られる。

第一条

ソヴィエト社会主義共和国連邦は、労働者、農民およびインテリゲンチャならびに国のすべての民族および小民族の勤労者の意思と利益を表現する社会主義的全人民国家である。

 本条は、ソヴィエトの政体を「社会主義的全人民国家」と規定する。前文でも述べられていたとおり、当時のソ連体制は「プロレタリアート独裁」の労働者階級国家の段階をすでに終了し、農民や知識人、諸民族を束ねる階級・民族包括国家となったとの規定である。
 この「全人民国家」という概念は、支配民族の優位性を前提とする「国民国家」とは異なり、小民族(少数民族)を含めた多様な人々を包摂する意義を持っていたが、実際のところ多数派ロシア民族の優位性が裏に隠されていた。

第二条

1 ソ連におけるすべての権力は、人民に属する。

2 人民は、ソ連の政治的基礎である人民代議員ソヴィエトをとおして、国家権力を行使する。

3 他のすべての国家機関は、人民代議員ソヴィエトの監督をうけ、それにたいする報告義務をもつ。

 本条は、人民主権の原則を宣言したものである。ただし、第二項にあるように、国家権力は人民代議員ソヴィエトを通じて行使される。これは間接民主制を規定したものである。
 人民代議員ソヴィエトとは、形の上ではブルジョワ議会制における国会及び地方議会に相当するが、単なる立法機関ではなく、全国家権力の源泉となる人民代表機関である。第三項はそうしたソヴィエトの国家監督権を規定したもので、人民主権原理の具体的な表現である。

第三条

ソヴィエト国家は、下から上までのすべての国家権力機関が選挙され、それらが人民にたいして報告義務をもち、下級機関は上級機関の決定にしたがう義務をもつという民主主義的中央集権の原則にしたがって、組織され、活動する。民主主義的中央集権は、統一的な指導を、現地のイニシアチブおよび創造的な積極性ならびにすべての国家機関および公務員が自分にゆだねられた仕事について責任をもつことと結合させる。

 本条は民主集中制という本来はレーニン主義的な共産党の運営原則を国家機関の活動にもあてはめたものである。この原則が真に民主的に機能するのは、条文にあるとおり、下から上までのすべての国家権力機関が選挙されるという保障がある限りであるが、結局のところ共産党の一党支配下では、国家機関も共産党の指導に拘束されることとなり、本条の意義は共産党中央指導部への権力集中にすり替わっていた。

第四条

1 ソヴィエト国家およびそのすべての機関は、社会主義的適法性にもとづいて活動し、法秩序、社会の利益および市民の権利と自由の保護を保障する。

2 国家的組織、社会団体および公務員は、ソ連憲法およびソヴィエトの法律を遵守する義務をおう。

 本条は、社会主義的法治国家原則を規定している。単に国家機関の活動の形式的合法性のみならず、社会的利益と市民の権利自由の保護まで義務づけていることが注目される。第二項で憲法・法律遵守義務が、公務員のみならず、社会団体に及ぶことも社会主義的法治国家の特徴である。

第五条

国家生活のもっとも重要な問題は、全人民的討議にかけられ、全人民投票(レファレンダム)に付される。

 第二条で間接民主制を原則としつつ、国政上の重要問題については人民投票に付するという形で限定的に直接民主制を取り入れる規定であるが、共産党支配下では実際のところ機能しない空文であった。

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