黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『刻まれない明日』三崎亜記(祥伝社)

2009-07-31 | 読了本(小説、エッセイ等)
10年前、街の中心部にあるその場所から理由もなく、3095人の人間が消え去った。その地域は『開発保留地区』と呼ばれ、今でも街はあたかも彼らが存在するように生活を営んでいる。
10年前の事件で消え残り、その時の記憶を失ってずっと町から離れていた沙弓は、久しぶりに帰って来た。そこで、歩行技師に出会った彼女は、一緒に歩かせて欲しいと申し出て……“序章 歩く人”、
外部から越してきたばかりの図書館員・藤森は、第五分館という図書館の存在と、その利用状況を知らせる“第五分館だより”というお知らせが発行されていると知る。
そんな中、人々から“担当者”と呼ばれている西山係長の手伝いをすることになったが……“第一章 第五分館だより”、
10年前に父をなくした16歳の少年・駿には、かつて人々に聞こえないはずの鐘の音が聞こえていた。
そんな彼は、ある日、異邦郭からやってきた少女・鈴と出逢う。共鳴士である彼女は音の歪みを直す役目を負っていた……“第二章 隔ての鐘”、
40歳の誕生日の夜、マンションの屋上で紙ひこうきを飛ばす女性・持田に出逢った坂口。
左手が不自由な彼女は、かつてバスの運転士であったが、今では遠くからバスの光を眺めているのだという。
そのバスとは、ターミナル12番乗り場から出る、23時40分発、開発保留地地区行きのバス。誰も出発する姿を見たことがないが、遠く離れた場所から光だけが見える幻のバスだという……“第三章 紙ひこうき”、
壁に描かれた蝶が、次々と消え始めていた。
裏通りの片隅で奏琴を奏でる宏至の元に、ラジオ局・ひかりラジオで働き始めた沙弓が訪れ、消え始めた蝶の代わりに皆に蝶を描いてもらい、それで街の交流センターを彩りたいという。その提案に反対する宏至は、蝶を描いた<彼女>について語る……“第四章 飛蝶”、
供給管理公社の分局で働く黒田と後輩の梨田。
10年前、異質化した気化思念の漏出を食い止める為、危険を冒してバルブを閉めにいった黒田は、その<後遺症>により、人の記憶に留まれない顔になってしまった。
そんな彼は、事件で失った妻と廃屋で今も逢瀬を続けていたが……“第五章 光のしるべ”、
2年ぶりにこの街に戻ってきた、歩行技師の幡谷。
新たに<ひかり大通り>という道が作られ、その開通前日……“新たな序章 つながる道”を収録。
  
3095人の人間が消えた事件。しかし消えた後も、図書館から本が貸し出され、ラジオ局にはハガキが届いている。それから10年が過ぎ、そんな日々が終わりを告げようとしていた。残された人々の心の再生の物語。
『失われた町』の姉妹編(?)。短編『七階闘争』と同じ世界でもあるっぽい(第三章に出てくるマンションには7階がない)。
それぞれに心の整理をつけ、前に向かって歩いていこうとする姿が良い感じです。

<09/7/30,31>


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