黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『飛行士と東京の雨の森』西崎憲(筑摩書房)

2013-02-28 | 読了本(小説、エッセイ等)
音楽ディレクター・下川の事務所に、六国という男がやってきた。
去年の秋、ビルの屋上から飛び降り自殺したという自分の娘の為に、彼女が好きだったものをモチーフとしたプライベートCDを作って欲しいという。二千万という多額の報酬で依頼で引き受けた下川。
彼から提示されたのは、10個の条件……
彼女が昔住んでいたという父方の親戚のある<美野>という村。
祖母から引き継がれた古いワンピース。
ドイツの教会のステンドグラスの前で写る彼女自身の写真。
母の実家の窓のステンドグラスの欠片。
小学生の頃。伝染病で隔離されていた折に看護婦から貰ったインディアン娘の像。
可愛がっていた文鳥の羽根。
亡くなる際、揃えた靴の上に置かれていたオルゴールのシリンダー。
シモーヌ・ヴェイユの『重力と恩寵』。
写真集『理想的な月の写真』。
そして、死の寸前まで恐怖に駆られていたらしい彼女へ、「怖いものなど何もない」ということを示すものを。
それらの意味を探るため、彼女の軌跡を辿り、音楽を作り上げてゆく下川……“理想的な月の写真”、
ぼくが手に入れた『威爾斯航空史』という、ウェールズの航空史を著した一冊の本。著者の安藤一助という名から、大学時代の友人・安藤一太の名を想起したぼく。それから一年以上過ぎた頃、久々に合う機会があった安藤から、安藤家にまつわる話を聞く。
日本人を父に持つウィールズに生まれた娘・ノーナ。4歳の時、仕事で日本に戻っている時に事故で父は亡くなり、母アウェラに育てられたが、母も14歳の時に病で亡くなってしまった。おばの家に引き取られたノーナ。
そんなある日、母宛に日本から届いたはがき。イッセイアンドオという人物からで、父の血縁者であるらしい。
日本へと思いを馳せるようになったノーナは……“飛行士と東京の雨の森”、
ある男と女の話。ある一夜。高速道路である。
男はいま都市に向かっている。時速108キロ。女はいま郊外に向かっている。時速105キロ
三年後出会い、十一年後離婚するふたり……“都市と郊外”、
両親を亡くした後、体調不良により休職しているテツオ。
カメラを手にし、写す光景は、どこか淋しさを感じるものばかりだった……“淋しい場所”、
友人の村内から聞いた、繰り返し思い出す光景のこと。それは天井からぶら下がっている白い紐だという……“紐”、
かつて高校時代の友人・越智直己(ナイキ)と、<モートスプーン>というバンドでメジャーデビューをしていたが、音楽を楽しめなくなり脱退。今は書店で働いているイケ。
ある日、姉が子宮筋腫の手術を受けることになり、その間、小学三年の娘・モナミの絵画教室への付き添いを頼まれた。
ひょんなことから、その教室の先生・時田町子が音楽をやっていることを知ったイケ。彼女がやっているユニットでギターを弾いて欲しいと頼まれ……“ソフトロック熱”、
義母が亡くなって五箇月ほど経った頃、家の中で不便を感じ、良家の夫人・芙巳子は奴隷を買うことを思いついた。
夫の聡の賛同も得、あちこちあたる中、大手町の奴隷市場で、彼女が理想とする若い男の奴隷を手に入れることができたが……“奴隷”の7編収録。

『理想的な~』が中編。他は短編。どれも淡々と語られ、どこかひんやりとした手触りと静謐さを感じる作品。
『理想的~』は、既にいない人、という閉じられた匣の中を推理するような趣。このCD、ちょっと聴いてみたいかも…。
『奴隷』は、合法的に奴隷が売り買いされる世界での話。あたかもペットやモノのように表現されてるのが衝撃的ですが(しかも淡々とした口調で)、かつての奴隷制度が生きていた時代の上流階級の感覚というのはこんな感じだったのかも。

<13/2/27,28>


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