『怪談』柳広司（光文社）

業界のパーティーに出かけた、ミノワ工務店の副社長・箕輪健太郎。六年前に亡くなった父・健吉の会社で堅実に商売をしてきた彼は、そこで出会ったコンパニオン・ゆきこと本庄由紀子に、自分でもわからいまま何故か興味を惹かれる。
子供の頃に両親を亡くし、遠い親戚の家で育てられてきたという由紀子。彼女と一緒にいる時に、ふと十年間前に亡くなった叔父・茂のことを思い出し、その話をする。母・久子の歳の離れた弟で、健太郎が昔から可愛がってもらっていた存在。だが茂は、白馬にある会社の保養所の山荘で凍死していて……『雪おんな』、
諏訪駅で、長野県警の丸山に声をかけられ、職務質問を受けた外科医・磯貝平太。
昨日まで甲府市内の菊地総合病院に勤めていた彼に、その院長・菊地満昭が行方不明だと告げる丸山。最後に会っていたのが、磯貝だったために話を聞きたいという。実は、院長から病院の薬の横流しを指摘されたことから、殺害してしまった磯貝。絶対に見つからないと自信を持っていたが……『ろくろ首』、
高台に作られた新興住宅地のマンション<緑が丘ヒルズ>に住む独身サラリーマン・赤坂俊一 。
仕事が遅くなりタクシーで帰宅し、料金が上がる坂道の手前で降りた赤坂は、マンションに向かう途中で若い女に出会う。彼女は同じマンションに住むご近所さんだったが、夫からＤＶを受けたらしく殴られた形跡が。薄着で飛び出してきた彼女に上着を貸し、荷物を取りに戻りたいという彼女の代わりに、部屋の様子を見に行った赤坂は、そこで夫が亡くなっているのを発見し、交番に駆け込むが……『むじな』、
六本木の高級マンションで、四十代の男が首を吊って死んでいるのが発見された。都内で某有名レストランを経営するオーナーシェフで、“美食倶楽部”という会員制レストランで、秘密裏に絶滅危惧種の動物を食材として提供していたことが騒動に。
その後、匿名でタレコミがあり、彼が出入りしていたという冷凍コンテナの存在を知った刑事たち…作庭邦男巡査と室田勝巡査長は、調査に出かけ、そこでさまざまな肉や内臓とともに、人間の肉を見つけたが……『食人鬼』、
遠江聡美は、自宅にたびたび送り付けられてくる支援物資にうんざりしていた。聡美の名を騙り、何者かがＨＰ上でアフリカへのボランティアを募っているらしいのだが、いくらＨＰを削除してもいたちごっこだった。
友人からの紹介された探偵事務所の探偵・井川春彦に、聡美が犯人だと睨んでいる間山ゆかりについて調べるように調査を依頼する。
三年前、紅茶を楽しむサークル・カリヨンを主宰していた聡美。ある時、サイクロンで被害を受けた、インドの女性たちに援助物資を送ろうという話が盛り上がったのだが、そこでトラブルが発生し……『鏡と鐘』、
ビジュアル系ロックバンド<鬼火>の、リードギター兼ボーカルのヨシカズが、顔に大けがをして運ばれた。
ヨシカズこと枇杷木芳一は、三日前に執事然とした男に声をかけられ、ある女に六日間歌を聞かせることになった。そのテストで合格した暁には、望むものが与えられるというが、それを誰にも言ってはならないと言われていた。
その話を聞いた、渋谷のライブハウス<阿弥陀堂>のオーナーである赤間元了は、一計を案じ……『耳なし芳一』の6編収録。

小泉八雲の『怪談』をモチーフに、現代に置き換えてアレンジされた短編集。
ミステリ的に解釈されているものもあれば、怪奇風味を残したものもあり、楽しめました♪

<12/2/5>