黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『茗荷谷の猫』木内昇(平凡社)

2011-03-01 | 読了本(小説、エッセイ等)
父が亡くなったのを機に、武士の身分を捨て町人になった徳造。
植木屋に弟子入りし、やがて一人立ちして店を持った彼は、気がよくて真面目で、職人としての才もあったが、武家の家に生まれ育った年上の妻・お慶は巣鴨の裏店に籠りっきりになって、人前に出ることがなくなった。
徳造がもっとも精を出したのは、桜の変わり咲きを生み出すことだった。
それから五年。世間の評判を集める桜を作り出した徳造だったが、そこに自分の名が残ることを望まず、また周囲の忠告をよそに容易く人に教えてしまう。
やがて、お慶が流行病の麻疹で亡くなり……“一 染井の桜   巣鴨染井”、
上京して職を転々としていた男・小日向春造は、八つ目の仕事を理不尽な理由で馘首になったその日、蛙やいもりの黒焼きを売り歩く、黒焼屋に遭遇。その店に、雇って欲しいと申し出る。
かくして、そこで働くことになった春造は、画期的な効能を持つ黒焼きを生み出せぬものかと考え始め……“二 黒焼道話   品川”、
夫を市電の事故がきっかけでなくし、茗荷谷にある家にひとりで暮らす文枝の元に、ひと月に一度ほどの割合で顔を出す緒方。
絵を描く文枝が開いた小さな展覧会を、観に来たことから知り合った彼は、画商と画家の仲立をして作品を周旋している。
緒方は、文枝に自分の「ものがたり」を描いてはと勧めるが……“三 茗荷谷の猫   茗荷谷町”、
旋盤工になるべく上京してきた青年・松原均。
四谷の下宿先の大家に頼まれ、市谷仲之町に借金の取り立てにいくことになった松原は、そこで“先生”と呼ばれる大入道に出会う。
しかし何度出かけても払ってもらえないまま、そこに通うことになり……“四 仲之町の大入道   市谷仲之町”
父が亡くなり、遺産が舞い込んだ耕吉。田舎の土地や店を処分し、茗荷谷に家を借りて、悠々自適に隠遁生活を送りはじめる。乱歩好きな彼は、その家の持ち主である緒方から、菊坂にある偏奇館という古本屋の存在を聞き、出かけて気に入り、やがてそこに通うように。
そんな中、二軒先の若夫婦が何かと関わってくるようになり、疎ましく思うが……“五 隠れる   本郷菊坂”、
映画の支配人を務める男。彼の映画館に通い詰めていた青年を、下働きとして雇う。
いずれ活動写真の監督になるのだと、大真面目に答える彼は、“庄助さん”というあだ名で呼ばれる。泣きと笑いの映画を撮るのだと、支配人に熱く語っていた彼だったが……“六 庄助さん   浅草”、
空襲で家族と家を亡くし、池袋の駅舎で、タッちゃん、健坊と共に靴磨きをする尾道俊男。健坊は、拾った言葉を集めては喜んでいる。
そんなある日、闇市にいた三人は、警察の手入れに遭遇してしまい……“七 ぽけっとの、深く   池袋”、
結婚し、今では東京で暮らす佳代子。
昔から自慢だった母が、田舎から上京してくることになり、一緒に東京観光する。しかし次第に母の態度に苛立ちを覚え……“八 てのひら   池之端”、
結婚し、渋谷金王町のアパートに住んでいる電気工・俊男。
通勤途中、外国製のタイルをあしらった家があり、その家に憧れを抱いて、ちょくちょく外から眺めていた。
そこで居候している自分の姿を夢想するが……“九 スペインタイルの家   千駄ヶ谷”を収録。

江戸の終わりから戦後にかけての東京の町に暮らす人々を描いた、連作短編集。
それぞれ別のお話かと思いきや、微妙に繋がっていたり、他の話で前に出てきた人のその後が語られていたり、登場したりで、ちょっと楽しいです。
全体的には切なかったりやるせなさの残る読後感ですが、『隠れる』は、単独だとある意味ホラー的…(笑)。
……そして『冥途』が読みたくなりました(笑)。

<11/2/28,3/1>