kenroのミニコミ

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「民主化」と「民主的」  映画トガニに見る韓国の「民主主義的」現実と日本

2012-08-19 | 映画
韓国では日本に先んじて2008年1月から陪審員制度である国民参与裁判がはじまった。その実情を知るために2010年11月にソウルの裁判所を訪れた。その際国民参与裁判も傍聴した(もちろん、優秀な通訳と日韓の法曹が同席したので内容が分かった)。国民参与裁判は、被告人の選択制と裁判官による廃除(対象事件としない)決定があるため、国民参加としては不十分だとの批判がある。しかし、日本の裁判員裁判でも、対象事件の少なさ、陪審制ではないこと、裁判員の重すぎる守秘義務など「民主的」とは言い難い面も多い。
ところで、昨今福島第一原発の事故後、野田政権が大飯原発の稼働を許したことにより、反原発運動が盛り上がっている。首相官邸前では10万人をはるか超える人々が集まり、抗議の声を毎週あげているし、筆者も大阪は関西電力本社前の毎週金曜日の抗議行動に参加している。
これら市民の自発的デモ行動について、60年代の安保闘争や労働組合の動員・自己満足型のデモとは違う、民主主義を自ら作り出す動きとして積極的な評価がされている(柄谷行人「人がデモする社会」(『世界』9月号)や小熊英二の言説など)。柄谷は言う。「デモは単なる手段なのではない。デモ自体が重要なのだ」「人々が主権者であるような社会は、代議士の選挙によってではなく、デモによってもたらされる」(同上)。要するに民主主義社会であるからデモがあるのではなくて、デモによって民主主義がつくられていくのだと。であるからデモのなかった日本はその間民主主義をつくってこなかったし、それに対して多くの人が無自覚であったことを。
映画そのものではなくて、こんなことを書いたのは、本作の現実の事件=聾唖学校において教師による子供らへの日常的な虐待、性虐待が行われていたこと(それもつい最近のこと)を告発、しかし、加害者らへの刑事責任追及は地元の権力者であった故、不十分であったことが、後にトガニ法(子供への性暴力犯罪の処罰に関する法律)結実へとなったことを記したいからだ。加害者である校長らへの寛刑に怒った市民団体(聴覚障害者の団体、人権団体など)らの運動によって、メディアを動かし、世論をトガニ法成立、そして、加害者らへ責任追及は終わっていないという。これは、80年代まで軍部独裁政権であった韓国が光州事件で金大中を葬り去らんとしたのに、「民主化」勢力によって、金大中大統領誕生、いまや「民主化」にとどまらず法規範も「民主的」に手に入れようとしているからの証しでないか。そう、デモによって民主主義を顕現化させたのだ。
翻って、日本では民主主義の国であるから「民主化」など関係のないことのように思われている。しかし、橋下徹大阪市長の暴政に代表されるように、民主主義の危機ではなくてそもそも、この国の民主主義がとてもぜい弱であった、いや、育っていなかったことが明らかになっている。まだ「民主化」が必要なのだ。これほど「民主的」にことがはこんでいる(ことになっている)国で、原発再稼働をみても民主主義の要件=市民の「民主化」要求と行動、そしてさまざまな面での「民主的」な過程がなかったことこそ驚きではないか。
映画トガニより事実が重いのは、韓国社会が小説トガニや映画の公開によって、事実究明に再び動き出し、先述の法制定ほかの成果の上、加害者へあらためて訴追がなされたことだ。ただ事後法による訴追が正当かどうかは、韓国刑事法の専門家ではないのでここでは置いておく。映画で興味深いのは、校長らへの責任追及、刑事裁判が不十分であったのは警察や司法、検察官らも弱き者への正義の視点が欠いていたことだ。
冒頭韓国参与裁判を傍聴した経験を紹介したが、同日韓国の最高裁判所にも行った。裁判所の玄関に「自由、平等、正義」の大きな標語があった。映画の中で、町の地方法院の玄関にも大きく描かれていた「自由、平等、正義」。「民主化」運動を妨げない自由はこの20年でもちろん大きく前進したであろう。しかし、「平等」と「正義」はどうか。
ちょうど李明博大統領の独島(日本名は竹島)上陸が伝えられた。紛争地域への上陸という単純なナショナリズム誇示の当否はさておき、そのような行為でしか大統領の人気を測ることができないのであれば、韓国もまだ「民主的」とは言えないし、「民主化」にとどまっていると言えるだろう。日本から言えた義理ではないが。
(本作ともちろん直接関係はないが、家族関係等で不幸な境遇ゆえ、実の親と離れて暮らすことになった子どもらとよりそう保育士の日常を丹念に撮ったドキュメンタリー「隣る人」(刀川和也監督 2011年)もあわせて見てほしい作品である)
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