猟犬に襲われたイノシシを、ハンターが山刀(malat)で叩き殺すのを見たことがある。猟犬をつかった狩猟の場合、吹き矢(keleput)の先の鉄製の槍(ujep)で、止めを刺す。そのようにして、獲物に接近した場合、吹き矢の先についている槍で殺す。それに対して、通常、獲物との距離がある場合、吹き矢を吹き、矢を飛ばして、獲物を射る。それが、プナンの標準的な狩猟法である。地上40メートルほどのところにいるサル類を射るのにも、地上のイノシシやシカなどを狙うのにも、吹き矢が使われる。矢(taat)には、一般に、植物毒(ipoh)が塗られる(写真参照)。イノシシ猟では、植物毒とヘビの毒など、5種類の毒(tajem)を混ぜた毒矢が使われる(belat)。カールトン・スティーヴンズ・クーンの『世界の狩猟民』(法政大学出版局)という新刊書を読んでいる。道具としては、棍棒、槍、投槍器、弓矢および毒矢、囮などを用いる狩猟民のさまざまな狩猟法が紹介されているが、残念ながら、プナンが用いるような吹き矢猟については記述がない。ボルネオの先住民のなかで、吹き矢を用いるのは、プナンだけではないだろうか。他の焼畑民たちは、猟犬を用いて、槍で獲物を狩ってきたのではないだろうか。現在、プナン以外の周辺の焼畑民は、銃をもって猟に行くのがふつうである。プナンには、神話で語られるように、最初、吹き矢があって、犬がいなかったと考えられる。いずれにせよ、吹き矢は、ボルネオの狩猟民の特徴的な狩猟具である。吹き矢があれば、猟犬がいなくても、獲物を狩ることができる。いったいどのようにして、プナンは、槍が先に付いた、このユニークな吹き矢という道具を手に入れたのであろうか。