たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



スガガン(segagang)というリスに似た動物(=スカンクの一種)は、かつて動物のなかの王であった。あるとき、スガガンは、人間に大木を切り倒すように命じた。人間が木を切り倒すと、今度は、それを削るように命じた。人間は、その木からいったい何をつくるのかを知らされていなかった。人間は口々に、カヌーをつくるのだろうか、あるいは、板をつくるのだろうかと言い合った。ところがさにあらず。スガガンは、人間のところに近づいて、耳かき(set betuk)をつくるように命じたのである。人間たちは、そんなに大きな木を切り倒して、小さな小さな耳かきのようなものをつくらせるとはいかがなものかとささやき合った。その後、スガガンは、動物の王の位から転落することになった。そのようにして、スガガンは、近くに行くと、臭くてたまらないような屁をする動物となったのである。

この何気ない動物譚(sukut)は、プナン人たちの爆笑を誘った。
スガガンの臭い放屁の由来をめぐるお話ではあるが、同時に、この話には、プナンのリーダーシップに関して、じつに深遠な哲学が隠されているように思われる。

その他の動物譚として;
http://blog.goo.ne.jp/katsumiokuno/e/849200fc14da2754947a71676aec8a2d

「スガガンのように屁をする(tut segagang)」という言い回しは、ときに、強烈な匂いを放つ放屁に対してなされる場合がある。お互いに密に接近した社会空間を生きるプナン人たちにとって、屁をすること、とりわけ、臭い屁をすることは、その場の空気を乱し、人びとを混乱に陥れるだけでなく、その小さな社会空間をも混乱させることに等しいことを、爆笑の裏に、その話は伝えている。それは、王が大木を切り倒すように命じて、挙句の果てに、小さな小さな耳かきをつくらせたように、人びとを困惑させることに一脈つうじる。スガガンは、そのことをもって、王位から転落し、強烈な匂いを放つ屁をする動物になったのである。。

王(=リーダー)は、アドホックな地位であり、人びとは、そのリーダーが嫌になれば、別のリーダーのもとに集うという仕組みをもつプナン社会のリーダーシップ。そこでは、王(=リーダー)は、スガガンのように、人びとを困惑させるような指図をしてはならない。それは、臭い放屁のごとく、人びとを大きく惑わすことになるから。

(写真は、ジャングルの奥)



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