「おっと、挑戦者が座布団を一段高く積み上げました。先生これはいったいどういう動きになるのでしょうか?」
「解説しますと、角度を変えて読み直そうという狙いになりますね」
「座布団1枚2枚でそんなに変わってくるものなのでしょうか?」
「全く異なりますね。高段者の視点というのは、非常に繊細なものですから。今、直前に名人の指した手が新手でして、今までの常識からはない手なのですね。そういった手に対しては、同じ角度からの読みでは超えていけない部分もありますから」
「しかし、少し心配なことが。あまり高く積み過ぎると、うっかりバランスを崩して転倒したりという恐れはないのでしょうか?」
「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」
「そうでしょうか」
「現代将棋に精通している棋士が、座布団の1枚や2枚のことでおかしくなるはずがないんですよ。仮に7枚や8枚であったとしても、ここにいるご両人なら大丈夫かもわかりません」
「それは恐れ入りました。バランス感覚あっての現代将棋というわけなのですね」
「そういうわけです」
「一段と高いところから挑戦者は新機軸を打ち出すことができるのでしょうか」
「次の一手が、今後の展開を左右することになりそうです」
「この後も、名人戦生中継をお楽しみください」