
おじいさんが本を閉じるとドーンと大きな音が鳴って、猫が反転した。母は小松菜を切っていた手を止めた。トラックの真ん中でアスリートは足を止めた。役者はお芝居を止めて台詞を呑み込んだ。芸人はボケを止めて固まった。陣が割れて戦は止まった。すべてが中断し、一貫性が失われる。
世の中の動きに構わず、おじいさんは本を読んでいた。しばらくすると気まぐれに本を閉じた。
(ドーン!)
おじいさんが集中しないから、世界が返る。
母はピアノを弾いている
陸上選手は水をかいて泳いでいる
役者は本格的に厨房に入った
芸人は小説を書いている
ある者は敵に寝返って戦争は終わった
1つの仕草で世界を変えてしまう、おじいさんの本ときたら、なんて重いの!
猫は反転した
今にこっちに向かってくる
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かみさまのカートがかけた三日月の
一夜にかかる書のギアチェンジ
(折句「鏡石」短歌)
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