折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

裏切りの朗読会

2021-01-18 01:33:00 | ナノノベル
「今回は夜食と若者をテーマに持って参りました。20時以降の議員以外の夜食は是非これを控えていただきたい。特にポテトスナック、カップ麺、たこ焼き、ピッツァ、チャーハン、半チャンセット、またそれに伴うデリバリー等は、是非これを控えていただきたい。このように考えております。専門家の方からもそこは急所であるとご指摘がありました。

 20時以降、議員大臣以外特に炭水化物、炭酸飲料、うすしお、コンソメ、のりしお、また過度の塩分を伴う夜食は是非これを控えていただきたい。そのように考えております。

 若者の皆さん、10代、20代、30代、40代、50代、60代。若者の定義については現段階では明確には決まっておらぬと聞いております。そうした意味であらゆる知見を集約したところ、私はまだ若者という結論が出て参りました。若さは時に暴走するものです。

 そこで夜食と若者に集中的に的を絞って、全国の記者さんとそこはフリーランスを含め密に連携を深めながら、その封じ込めを徹底的に考えて参りたい。人類が花の前に集まった象徴としての明細書が開かれるように、皆さんのご協力を、是非お願い申し上げたい。このように思います。そこで今回は夜食と若者にテーマを絞って、最善のタイミングで、これを適切に、20時以降……」
 抑揚をつけながら、若者はテレビの前の聴衆に語りかけた。原稿をめくると文体が少し変化した。

「僕はこんな夢をみたよ。憔悴しきった彼女の顔がすぐ近くにあった。彼女は弱音しか吐かなかった。もうすべて駄目になったのよ。好きなことだけを見るように、繰り返し当たるように、僕は説得した。大丈夫だから」
 原稿がすり替わっているに違いなかった。だけど、周りに誰も止める人はいなかった。むしろ聞き入っているようだ。(あるいは眠っているのだろうか)

「彼女は少しだけ表情を取り戻した。それから突然上を向いて動き始めた。僕は安心した。僕が考えるよりも彼女はずっと強いのだ。振り返らず彼女は上って行った。彼女が脱出し終えたところで扉が閉まった。もう開かない。扉はすぐに壁になったからだ。ここは侵入はできても出ることはできないの。外から彼女の声が聞こえた。僕の体は徐々にブロックに圧迫され始めていた。どこかにないのか? タオルやセーターの隙間から外の光が微かに見えていた。どうしてここに来たのか。記憶がなかった。彼女の絶望はすべて芝居だったのか。ならば僕は罠にかかったということなのか。もうどちらが月の方向かもわからなかった。本当に出口はないのだろうか。顔にまとわりつく古着。息が苦しい。誰かいるの? その時、別の声がした。先生? ここがわかるの」
 そう言ってまた若者は原稿をめくる。

「議員大臣以外の夜食は、是非これを控えていだたきたい。そうして万全の体制で当たって参りたい。このように考えています。より一層の辛抱を最大限にお願いしたい。20時以降は必ず実現したい。そのためにあらゆる手段を躊躇なく講じて参る……」

 あっ、戻ってきた!
 おかえり、先生。

「そうして、ドラマチックに展開したい。このように思います。以上で私のお話を終わりにさせていただきたい」


「以上もちまして本日の朗読会を終了とさせていただきます。なお、原稿の一部に想定外の差し替えがあったことを謹んでお詫び申し上げます」

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お忍びカラオケ

2021-01-15 14:12:00 | ナノノベル
プルルルル♪

 10分前だ。ちょうどサビの部分だった。いつもいいところで電話がかかってくるのだ。
「延長よろしいですか?」
「あっ、大丈夫です」
「いえ、その、そうではなくて」
 どうも店長の様子が変に思われた。

チャカチャンチャンチャン♪

 フロントまで行くとスタッフ一同が私を出迎えている。
(いや、どういうこと?)
「もうちょっと歌っていただけませんか?」
「えっ?」
「みなさん喜びますので」
(ギャラもこちらの方から……)

チャカチャンチャンチャン♪

 店の前に設けられた即席ステージで、私はマイクを持って歌った。どこで噂を聞いたのか、瞬く間に観衆が集まっていた。1曲歌い終えると大きな拍手。

チャカチャンチャンチャン♪

 約束の時間を超えて私はアンコールにも答えた。
 やっぱりみんなの前で歌うのは最高だ。

チャカチャンチャンチャン♪

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ログイン・アウト 

2021-01-14 20:56:00 | ナノノベル
 本家のパスワードは忘れてしまったが、心配は無用。あらゆる場所はチェーンでつながっていて、私の立場をサポートしてくれる。選択肢が多いほど、何かあった時に安心だ。今日はどこから入ろうかな。
「アカウントが行方不明です」
 ツイッターでのログインは失敗したが、まあどうってことはない。
 気持ちを切り替えてアクセスを試みる。

「パスワードがちがうようです」
「IDが見つかりません」
 グーグルも駄目、フェイスブックも駄目。
「最初に飼っていた犬の名前は?」
 わからない。これも違う。あれも違う。みんな違う。
「存在しないナンバーです」
 マイナンバーがなくなっている。
 私はこの世に存在しないのか!

「クリエイティビティが炸裂しました」
 ちくしょー! 炸裂しちまった。
 noteでのログインも失敗に終わるとついに私は取り乱してしまった。

チャカチャンチャンチャン♪

 どこからでも入れると思っていたのに、こうも締め出されるとは。
 最後の手段。私は力ずくでログインを図る。
「不正なアクセスが発見されました」
 PCから警報音が鳴っているが止められない。
 シャットダウンすることもできなかった。
 その時、家のチャイムが鳴って、私は玄関に行った。

「サイバー警察の者だが」
「えっ? 何もないですよ」
 
「仮の逮捕状が出ています」
 仮だって?

「えっ? 私ですか?」
「お前はもう、アウトー!」

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エビデンスの迷宮

2021-01-13 01:40:00 | ナノノベル
「お前は何らかの動機を抱え込んでいた。人知れず胸のどこかにずっと隠していたんだ。お前は何らかの足でこの街にまんまと転がり込んだ。何食わぬ顔をして道を行くお前が街の防犯カメラに映っているぞ。お前はお前の顔から逃げることはできない。そしてお前は、何らかの発想を抱き密室のトリックを作り出した。内心では誰かに自慢したいのをぐっと堪えることによって、トリックが完全なものになるよう企んだんだ。しかし、それにも関わらず、その完全に見えるトリックを外側からあぶり出そうとする者もいた。包み隠そうとするほどに暴かねばならぬものもあるのだからね。言ってみればそれは、人類が大昔から持ち合わせている知的探究心のおかげだ。だが、お前はそれさえもお前自身のエゴによって何らかの手段を用いて密室の中に閉じ込めようとした。ここまではいいか」

「ああ」

「お前は物心ついた頃から、何があろうと何食わぬ顔ができる術を身につけた。きっと何らかの事情があったに違いない。それによって今までに何人もの人が欺かれてきたことだろう。普通ならば抱え切れないほどの疚しさを抱えて吐き出してしまいそうな状況に立ったとしても、お前はそれを何食わぬ顔によって乗り切ることができた。顔そのものがお前の逃走を助け、まるでタクシーのように走り去ることができた。お前はその若さで、実に様々な何らかの顔を持っていたらしい。しかし、ここで言うところの顔とは、お前が得意としている何食わぬ顔の顔とはまた違う意味を持つ顔と言える。顔については、これ以上いいだろう。刑事さん、いいね」

「そうだな」

「さて、本題はここからです。お前は何食わぬ顔をして罪を重ねた。顔が武器というわけじゃない。しかし、お前が走り去った後にだけ今まで見られなかった死体が転がっている。エビデンスが欠けていることを盾にしてお前は逃げ切るつもりだったのだろう。だが、そうは問屋が卸さない。問屋は歴史的な市場だからだ。お前が所持した顔以外の凶器によって葬られた幾つもの死体たちは目を見開き、執念の光でお前の顔をさしたのだ。その時、死体たちは怨念を共有しつつ問屋として連なりお前を許さないことにしたのだ。神さましか裁けない。お前はそう信じ込んだ。だが、お前の前に俺が現れるところまでは計算外だったんだ。ちょうどマークするカテゴリから外れていたんだな。恐らく何らかの理由だろう。観念しろ密室の魔術師、犯人はお前だ! さあ、刑事さん逮捕して!」

「よし」

「いや、俺じゃねえ! あいつが犯人だって」
「うるさい」
「刑事さん、話をちゃんと聞いてた?」
「いいからうるさい!」
「俺が何したってんだよ」
「しゃべりすぎだ!」
「違うよ。事件を解決したんだって!」
「弁解は署の方で聞かせてもらおう」

「おい、お前! 逃げるな、犯人!」
「大人しくしろ!」
「あいつ逃げるぞ。犯人はあいつだって!」
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【小説】先生のあいさつ(今日のこれから)

2021-01-11 10:29:00 | ナノノベル
・うまいもの食べて本音が出る

 議員というものは、必ず人と会わねばなりません。人と会う流れからして、当然それは食事ともセットにして考えねばなりません。ある意味で私たち議員というのは世間一般の人とは違うのだから、多くの人が出歩いたり会食したりするのを控えようとも、全くそれと同じというわけには参りません。会食は私たち議員にとっては、絶対に譲ることのできない領域であり伝統であります。いかに世間がテイクアウトを唱え、テレワークを浸透させようと動いていたとしても、それとは全く次元が異なる話という思いです。
 私たちは長きに渡り会食という文化、あるいは慣習の中で生きてきたのです。これは一朝一夕に変えられるようなものではありません。私たちは会食の場で腹を割って話します。それによって相手から本音を引き出すことができるのです。美味しいものを食べると人は幸せな気持ちになります。国民が幸福である前に、まず私たち議員が幸せの味を知り、十分に美味しい思いをしなければならないことは、改めて言うまでもないことであります。


・先手先手河童の話

 本音が出るなら明細書も出るだろうとのご指摘もありますが、これは全くの論理の飛躍であると言わなければなりません。誰が考えても無理がありますし、そもそも必要もない明細書をあえて出せと言うならば、そのエビデンスはどこにあるのでしょうか。相手に虎を出せと言うなら、その段取りくらいは自らがつけるべきであると考えられるわけであります。
 いざその気になれば、明細書を出すくらいのことは屁でもありません。言い換えるならば河童の屁、逆に言えば屁の河童であると強く申し上げねばなりません。しかしながら、いかに簡単であると言っても屁というものは、無闇やたらに出していいというものではありません。また、自由自在に出せるというものでもありません。殊更にそうしたことに拘っては、まかり間違ってより大きなものが出てしまうのではありませんか。
 指導者というものは、そうした仮定の話についても十分に考えておかなければなりません。それこそがまさに先手先手で動くという言葉の意味を実践することであるからです。河童についてもこれと全く同じであると考えられるわけであります。河童なんて知るわけがない、未来のことなんて誰にも想像できないというのは、言い訳でしかありません。


・うそのマニュアル

 言い訳することができない代わりに、私たちはありとあらゆるうそをついて参ります。同じつくならば、うそは大きくつかねばなりません。また、うそは細かくつかねばなりません。そうしてこそ、綻びがなく辻褄の合う話になるのではないでしょうか。自分の身は自分で守らなければなりません。
 何よりも大事なのは自分自身ではないでしょうか。私はまずは自分を愛します。それはエゴではないかと言って責め立てる人もいます。しかし何事もはじめはエゴからスタートするのではないでしょうか。自分を愛することができれば、その愛を自分以外に向けることもできるかもしれない。私ならそのように考えることができます。
 うそは私を助けます。誠に問題なくうそがつけたなと思われる時には、あたかもあったことをなかったことのようにでき、なかったことをあたかもあったことのようにすることができます。
 私たち議員の言葉には常に裏があるのだということを、皆さんは肝に銘じておく必要があります。考えていないと言っている時は、考えているのです。検討すると言っている時には、考えがないのです。少なくても、現時点ではと言えば……、もうおわかりでしょう。今日は少し先の話もしておきたいと思います。


・どうか真似しないで

 若者の皆さんへ。どうか相手の目を見て話してください。腹を割って話してみてください。そして真実を見る目を養ってください。先生たちが間違っていたら間違っていると言ってください。デタラメであればデタラメじゃないかと声を上げてください。決して悪い大人の真似をしないでください。お手本にすべきものは、きっと他にたくさんあります。どうか、だらしない大人の行いを利用して、安易な道に走らないでください。皆さんはしっかりと自分の頭で考えることができます。すべてを大人のせいにしないでください。誰だって年を取るのです。皆さんにしても既に十分大人なのではないですか。批判するばかりではなく、もっと自分たちで主張してください。すぐにあきらめるのではなく高く理想を描いてください。不条理の中で自分を消そうとしないでください。未来はきっと皆さんの力で変えることができます。
 私たちはある意味では反面教師に過ぎません。どうか負の側面をコピーしないでください。誤っているなら逆へ進むべきです。偏見と闘ってください。先入観を打ち壊してください。自分で考え自分がいいと思う行いをしてください。道は開けています。ここはまだスタートラインなのです。
 以上で私からのあいさつを終わらせていただきたいと思います。



・まだ何か?

 何か質問のある方はいらっしゃいますか?
 いくらでも聞いてください。
 今日は予定を全部空けてあります。

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【小説】小説をどうぞ

2021-01-10 18:09:00 | ナノノベル
「小説をどうぞ」

「ありがとう」

 小説をもらうのは初めてだった。しかも私が最も待ち望んでいた瞬間にやってきたのだ。私は小説がないと生きられない人間だ。もう思い出せないくらい、ずっとずっと昔からだ。ある時、私は小説によって生まれ変わったのだと思う。どんなに現実世界が上手くいかない時にも、一度小説の中に逃げ込めば、すべてが変わる。小説の中には光がある。夢があり理解者がいて温かい人の声が聞こえる。現実以上の不条理も異世界の不思議も小説の中には詰まっている。
 小説は人生の中にある。だから人生を捨てることはできない。あるいは、人生は小説の中にある。私個人の人生などなんてちっぽけなものだろうか。小説は時に語ることをやめる。そして、いつでも私に寄り添っていてくれる。私は小説と共に歩き、小説と共に眠るのだ。小説はいま私の手の中にある。

 彼から手渡された小説は一風変わった形をしていた。「ありがとう」から始まるお話、主人公は人間離れした存在。筋書きはこれと言ってなく、登場人物も現れない。主人公に与えられた能力がどれほどのものか。延々と説明が続く。感情が揺れることはなく、私は小説をただ頭で理解しなければならない。正しく理解することによって主人公と長く寄り添うことができるのだ。結末まで特に変わったことは起きず、最後はもしもの時の可能性、いくつかの心配事を広げて終わる。あとがきはなく、索引のようなものがついているではないか。

 余韻はない。小説の中から飛び出した主人公に、私は触れてみる。何度も何度も繰り返し触れる。わからないところが見つかれば、その度に小説を開く。そのために目次が存在する。極めて実践的な作品だ。私は主人公に触れながら徐々にスキルを高めていく。私は戸惑っている。私の知る小説とのギャップに苦しんでいる。何かが違う。小説を思う私の本能が訴えている。根本的に間違っているのだ。


「こりゃ取説やんか!」
「グビッ」
「だましたんかー」
「いやだますいうか元からあっしはキツネ」
「小説言うから期待したやんか!」
「いや普通わかりますやん」

「俺ずっと小説思って読んでたやんか!」
「キツネが持参した時点でわかりますやん」
「わかるかそんなもん。お前だましよったな」
「私キツネですやん。だますとかちゃいますやん」

「何がちゃうねん」
「性ですやん。サガ」
「あー、お前、人をだましといて開き直んのかい」
「それもちゃいますやん。もー」

「なんやー! 何が違うんじゃーコラーッ!」
「いや駄目ですやん。子供見てはりますよー」
「おっ、おー、そやなあ」
「ね、まともな小説なわけないですやん」

「でも俺はそんなん知らんかったんや」
「間違っても小説のカテゴリなんかに入らん奴ですから」
「なんやそれ。お前が最初に小説言うたんちゃうんけ」
「いや言いましたけどキツネの言うことですやん」
「こりゃお前ポメラのマニュアルやんか」
「グビッ」

「何かようわからん内に上達してもうてるやん」
「はあ」
「打って打って打って何やこれ何になんねん」
「そいつはユーザー次第で……」
「ああ? 俺は読者の立場で読んどったんやで」
「いやー」

「pomera? 何やこの偏屈なガジェットは」
「いや、かわいいとも言われてますよ」
「どこがかわいいねん!」
「ムグッ」

「こんなもん打っても打ってもきりないやん」
「そうっすか」
「打っても打っても意味ないやんけ。無駄ちゃうんか」
「いやいや人生に無駄なんてないですやん」
「誰が言うてんねん!」
「ごめんなさい。一般論で」
「はあ?」
「あくまでも一般論で」

「何が一般論じゃ。小説や言うから喜んでもうたやんけ」
「いやキツネが言うたら普通わかりますやん」
「俺は小説読みながら寝たかったんや」
「普通に寝たらええですやん」
「普通には寝られへんねん!」
「ほー」
「ああ? お前時間返せー! 金返せ!」
「金は取ってませんやん」

「くそー、ポメラなんか持たせやがってー」
「いや似合ってますやん。めっちゃ馴染んでますやん」
「ごまかされへんで」
「ごまかすとかちゃいますやん」
「はよ返せー! 金返せ!」
「金は取ってませんてもう……」
「時は金と一緒や!」
「いやそんなん知りませんやーん」

「俺小説読む顔で読んでたやんけ」
「ええですやんか顔なんか」
「恥ずいやんけ」
「誰も見てませんやん別に」

「小説ちゃうかったんかこれ……」

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天空の正座(IFの未来)

2021-01-09 16:09:00 | ナノノベル
 情報は突然私を呑み込んで、虚無へと突き落とそうとするようだ。私は不安の中を歩いている。「手を読む」ということは、ただ直線的に先を読むということではない。種々の可能性について枝を広げながら、時に疑い深く、内なる声に耳を傾け、道を歩いて行くことだ。
 どれだけ行っても、見えているのは私の周りのほんの一部のような気がする。いくら読んでも、私は私自身を見ることができない。対局というルールの中では、私は外の世界から遮断されている。

 頭の上には鳩がとまっているかもしれない。毛先をいたずらに引っ張りながら妖精が踊っているかもしれない。探偵が背後からマークしているかもしれない。後ろにゾンビの行列ができているかもしれない。肩に銀杏の葉がずっと載っているかもしれない。背中にオワコンと書いた貼り紙がくっついているかもしれない。窓の向こうは雨かもしれない。不安を駆けるIF。

IF、IF、IF、IF、IF、IF、IF、IF、IF、IF……
(IFの向こうに何を見つけられる?)

 仮定の話から逃げていては、未来を読むことはできない。

 色々と読みを掘り下げていると少し疲れてしまった。
 もしも椅子だったなら……。
 直線的に集中して読む時には前傾姿勢。
 今のような時には、背中を後ろに預けてしまえるのだが。天を仰ぎ、大局を俯瞰し、目を瞑り、頭の中に絵を描くことができる。
 私はまだ正座を崩さなかった。
 正座のまま不安の中に独り浮いていた。

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ハッピー・ニュー・イヤー(高速カレンダー)

2021-01-07 07:36:00 | ナノノベル
 新年というのは慌ただしく過ぎ去るもんでござんす。餅を食べたり年賀状を読んだりしている内に、気がつくとお正月は終わり、それどころかもう月が変わっていて驚かされたりするもんでございます。3月は去ると申しましょうか、新春が過ぎ、春がきたと思っているとあっという間に桜が散っていたりして、まさに時の流れの速さというのは手に負えないもんでござんす。わるいことに、これはどうも年々加速していっているようなんでございますな。

「もう5月か。年が明けたと思ったらあっという間に5月じゃねえか」
「お前がぼーっとしてるからだよ」
「鬼退治の豆がまだ残ってるのに」
「早いとこ片づけやがれ」

「色々と忙しいんだよ」
「何も忙しいことねえだろうがよ」
「顔を洗ったり服を洗ったり皿を洗ったり……」
「たいして忙しくねえじゃねえかよ」

「疲れたら寝っ転がったり」
「忙しくねえんだよ」
「たまにはぼーっとすることもあるしな」
「ぼーっとしてんじゃねえかよ」

「5月になったと思ったらもう折り返しだ」
「お前がぼーっとしてるからだよ」
「折り返したらと思ったら月末だ。いったいどうなってんだ?」
「お前がぼーっとしてるからだろうが」
「そんなことはねえよ」

 春は別れの季節と言われておりまして、別れがくれば出会いもあるとしたもんでござんす。新しい生活も始まりそろそろ慣れてきたというくらいに、厄介なのが5月の病でございます。何かよくわからないが気分が冴えない。何か調子が上がらない。何かあいつは気に入らねえな。なんであいつはあんな偉そうなんだい。これ皆5月の病というもんでござんす。困ったことに、こいつにはまだ特効薬が見つかっておりません。どうしたもんかと頭をひねったところで、こればっかりはどうしようもない。待つしかねえ。まあごちゃごちゃ言ってる間に5月なんかは終わっちまうんでござんすよ。よーっ!

チャカチャンチャンチャン♪

「気がついたら6月だ。何か雨が多いじゃねえか」
「梅雨入りしたんじゃねえか」
「昔から梅雨が苦手だったんだよ」
「雨が嫌なのかよ」
「雨はいいけどじめじめが駄目なんだよ」
「まあ梅雨はじめじめするもんだからな」

「でも最近はそれほどでもなくなったな」
「どうした?」
「気がついたら梅雨が明けてるんだよな」
「お前がぼーっとしてるからだよ」
「お前よりは忙しいぞ」
「何がそんなに忙しいんだよ」

「コンビニ行って公園行って郵便局行ってスーパーに寄って」
「たいして忙しくねえだろうが」
「疲れたら寝っ転がってマンガくらい読まないとな」
「忙しくねえじゃねえか」
「アイスくらい食ってアニメでも見ないと世の中ついて行けないぜ」
「全然ついて行けてねえんだよ」

 昔から6月ともなれば雨が続いたもんでござんす。また雨かよー、そうぼやいたところで、そういう季節なんだから仕方がない。人間は自然の下にいるもんでござんす。雨がなければ農作物も育ちません。降りすぎても困るけども、全く降らないというのも困る。ちょうどいい雨があればいいが、どうも近頃は空模様が不穏でござんす。非常に偏った降らせ方をなされる。夕べなんかは店を出た途端に降り始めてずぶ濡れでござんす。周りを見渡せば、誰も傘なんか差してないし濡れてもない。なんだこの雨は、あっしの頭上にだけ降ってやがる。いったいあっしに何の恨みがあるんで? えーっ、どうなんですかーい!

チャカチャンチャンチャン♪

「夏は苦手だったんだよ」
「苦手が多いな」
「昔は7月になると憂鬱だったな」
「大変だな」
「いよいよ夏かと思うと重圧がすごかったのよ」
「気の弱い奴だな」

「それが最近の夏はそうでもないな」
「昔より暑いだろうが。大変じゃねえか」
「何か早いんだよな」
「何が早いんだよ」

「蝉の歌が短くなったな。温暖化のせいかな」
「お前が聴いてないだけだろうよ」
「祭りなんかすぐに終わるのよ」
「お前がぼーっとしてるからじゃねえか」
「気がついたら盆がすぎて花火も終わって墓参りも行けてない」
「お墓くらいちゃんと行けよ」

「時間が早すぎて行く暇が見つからないんだよ」
「いくらでも暇はあるだろうよ」
「アイス食って素麺食ってかき氷食って横になるんだよ」
「だらだらしてんじゃねえか」
「横になったらマンガくらい読まないとな」
「マンガ置いてお墓行けるだろうがよ」
「たまにはぼーっとする時間もいるしな」
「いつもぼーっとしてるじゃねえかよ」

 昔から夏休みというのは思い出を作りやすいもんでござんす。海に行ったら海の絵日記を描き、スイカを割ればスイカの絵日記を描く。そうして地道に描いている間はいいんですが、それがだんだん面倒になってくるとあとでまとめて描けばいいか、なんて考えるようになるんでござんす。記憶ってのは曖昧なもんで、その日あったことなら平気だが、十日も前のこととなったら、何だか自分でもよくわからなくなる。海行ったかな? 山行ったかな? お墓行ったかな? 何かよくわからねえ、もうみんな行ったことにしとけってなもんで、まとめて描く絵日記なんてのはもうフィクションの塊みたいなもんでござんす。月の上を歩いてたり、UFOやエイリアンが出てきて一緒にバーベキューをしてたりともう無茶苦茶でございます。しかし楽しいことというのは速く過ぎていくもんでござんす。長いと思っていた夏休みがもう明日で終わりか。その頃になると過去を振り返って「明日から夏休みか」なんて楽しみにしていたくらいが一番よかったな、なんて思うんでござんすな。楽しみが先にあるくらいが、しあわせかも。そんな風に思わされるなんて、夏の終わりは切ないもんじゃあござんせんか。えーっ、どうなんだーい!

チャカチャンチャンチャン♪

「7月8月は2つで1つになったのかな」
「そんなことはないよ」
「何か肌寒いと思ったら9月の折り返しなんだよ」
「折り返しで気づいたのかよ」
「そうなんだよ。忙しくて月の入りを見逃しちゃうんだよ」
「いや忙しいからじゃねえよ」
「あーよかった、長袖仕舞ってなくてよかったー」
「何で仕舞わないんだよ」

「秋が帰ってくるのもだんだん早くなってるからよ」
「変わってないけどな」
「雨が降ったなと思ったら10月になってるんだよ」
「お前の時間はどうなってんだよ」

「昔から10月が好きでね」
「まあ暑くも寒くもないからな」
「芸術の秋だからな」
「お前は関係ねえだろうが」
「急に芸術家になれる気がするんだよ」
「急にはなれないんだよ。不断の努力がいるんだよ」
「でも忙しいせいかな」
「忙しくねえだろうよ」

「好きな10月が一番早く過ぎるな」
「残念だな」
「チョコ食って、ラーメン食って、横になって」
「普段通りじゃねえかよ」
「好きなことしてると時間経つの早いな」
「たいしたことしてねえんだよ」
「風呂入って、アイス食って、横になってマンガ読んで」
「結局ぼーっとしてるんじゃねえかよ」

 春夏秋冬と申しましょうか。夏が終われば順番に秋がくるんでございますな。真っ先にくるのが虫でござんす。少し耳障りでもあった蝉の声から、何とも風情豊かな秋の虫たちの声に変わります。それからしばらくしてから、人間たちが朝晩の気温の変化に気づくんでござんす。いつまでも半袖なんて着てられるもんじゃあござんせん。ちょうどこの頃になると夏の疲れがどっと出たりするもんですから、体調管理には十分に気をつけるべきでござんすよ。熱帯夜時代の寝不足を解消し、しっかりと栄養をつけておくんなせえ。何てったって秋は食い物が旨いんだい。ちくわ、たまご、大根、こんにゃく、ゴボウ天、牛すじ、何でもあらあ。うどんもござんす。さーっ、何食うんだーい!

チャカチャンチャンチャン♪

「気づけば11月か。早いよな」
「お前がぼーっとしてるからだよ」
「あれ、もう12月か。超早いな」
「ぼーっとしすぎなんだよ」
「急に寒くなるな。コート置いといてよかった」
「春になったら片づけとけよ」
「どうせすぐ冬がくると思ってたんだよ」
「すぐじゃねえよ。1年経ってるんだよ」

「昔から12月って結構好きなんだよな」
「クリスマスもあるしな」
「何か切羽詰まった感じが好きなんだよ」
「年の締めくくりだからな」
「特別に何かできそうな気がするんだよ」
「大掃除くらいした方がいいぞ」

「あれもしたいこれもしたい」
「欲張っても駄目だぞ。普段怠けてる奴が」
「限られた時間に思いっ切り詰め込めたい」
「無理するなって」
「でもやっぱりできないんだよな。忙しくてさ」
「忙しくないだろうよ」

「芋食って、おでん食って、横になって」
「最後まで同じじゃねえか」
「寝っ転がったらマンガくらい読むよな」
「マンガ置いて掃除しろってのよ」
「たまにはぼーっとする日もあるしよ」
「いつもいつもぼーっとしてんじゃねえかよ」
「また冬将軍来たか。よかった炬燵置いといて」
「いや1年中出しっ放しかよ」

 12月になると急に忙しなくなるもんでござんす。師走という言葉がまた妙に慌ただしく響くものでございます。歳末セールだ、クリスマスだ、大掃除だ、お正月の準備だ。あれもこれも人間まとめてできるもんではございません。月のはじめが気づいた時には折り返し、繰り返し歌を聞かされている内に、クリスマスだ、鶏を食え、雑巾かけろ、年賀書け、餅をつけ、鐘をつけ。何だかんだやろうと思っている内に、何1つろくにできてないということになったりします。最後の最後になってから、突然やろうとするところに無理があるんでございますな。やはり、人間大事なのは普段の行いでございましょう。コツコツコツコツ、コツコツコツコツ、毎日、よい行いを溜めていくことが、ハッピーエンドをつくるのでございます。コツコツコツコツ、オリジナルチキン、よろしいですな。

チャカチャンチャンチャン♪

「おめでとうございますってどうかね」
「最初の挨拶は大事だろうよ」
「この前言っただろ」
「あれから1年経ってるんだよ」
「忙しすぎると1年も早いもんだな」
「お前がぼーっとしてるからだよ」
「いやお前ほどじゃねえよ」
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カテゴリー・バス

2021-01-06 22:25:00 | ナノノベル
 あの人を嫌いになったのはあの人があの人を好きだったからだ。あの人はあの人であの人とはまるで別人のようだったけれど、あの人にもあの人に似た一面もあって、あの人もあの人もあの人も交じり合ってあの人を思わせているのかもしれない。小説を嫌いだったのもそうだ。みかんも、バームクーヘンも、ボール遊びも、海辺も、煙草も、銀杏も、雪だるまも、みんなあの人の影響を受けながら、接近したり逃げ回ったりした。あの人が好きだった。嫌いだった。(すべてを愛することはできない)人の愛に添い、人の愛に背いた。重ねたり削ったり、そのようなことを繰り返しながら、いつの間にか自分らしく落ち着いてしまう。何が最初だったか、どうしてここにたどり着いたのか、わからない。きっと、だんだんと忘れているのだろう。

 ボールの上を舐めている。コントロール時々気まぐれ。そうしていると不思議と落ち着く。(いつまでも遊んでいたい)行き先は不明だ。回転する度に光が反射する。光ばかりではない。自分の影が、過去や未来が反射する。時に強烈に、子供の頃の玩具屋さんで見た天国のような輝きが射す。ワンタッチ、ワンタッチ、ボールを意識しながら、僕は遠くにあるものに目を向ける。ここにいる。ここにいない。僕はずっとはじめの方から純粋ではない。

 ボールと戯れているように見えて、サッカーをしているわけではない。味方も敵も存在しない。パスもシュートもない。テーマのないドリブルを続けている。(いつまでも遊んでいられない)僕は突然ゴールが恋しくなる。それは遙か昔にたどった道であるのかもしれない。舐め続ける内に徐々にボールは小さく萎んでいき、やがて取るに足りないような存在に変わる。手の中に丸め込んだらそれをインクの入ったペン先にセットする。
(カチッ♪)
 何を思ったか、世界が高い壁を作って警戒する。
 ファースト・タッチでこれからの行き先が決まる。

 バス停に駆け込むとちょうど詩バスが発ったところだった。
 次に到着した旅行・おでかけバスは、各シートに石が載せてあり、誰であれ乗車することはできなかった。
 15分ほどして小説バスがやってきた。中は半分以上は空席があるようだった。このバスこそはずっと待ち望んだバスに違いない。僕は作品という名の乗車券を持ち、一歩前に出た。バスは落ち葉のようにぬっと近づいて止まった。ドアは開かなかった。知らせなければ駄目か。僕はトントンとドアをノックした。「乗ります」今すぐに。バスは僅かに揺れているようだった。ドアは開かぬままバスは動き出した。
 小説バスは僕を拒んだまま行ってしまった。誰もいないバス停に風が吹きつけた。僕はnoteを開き、子供じみた自分の作品を読み始めた。夜になると自然と明かりがついて、上手く埋めることがかなわなかった行間を淡く照らした。

(やっぱり無理か)

 noteを閉じようとした時、バス停に強い光が射し込んだ。派手なペイントを施したサッカーバスだった。彼方からのヘッドライトをあびて乗客の横顔が光る。皆ユニフォームに身を包み、今にも試合が始まりそうだ。バスは僕の足下にピタリと停止した。
 ドアが開き中からボールが1つ転がり落ちてきた。無意識の内に胸でトラップした次の瞬間、僕の体はバスの中に吸い込まれていた。

「サイドの席が空いているよ」

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悪者はいない(最高の聞き手)

2021-01-04 01:00:00 | ナノノベル
「いいんですか。出歩いても」
「出歩くことは悪くないと聞いております」
「集まって食べたりしてもいいんですか」
「食事自体は悪くないと聞いております」

「それで大丈夫なんですか」
「食は命の基本と聞いております」
「いやそういう話じゃないでしょう」
「腹を割って話すのはよいと聞いています」
「本音で話すってことですか」
「悪い物は出していないと聞いています」
「お店だったら普通そうでしょう」
「大変な高級店だと聞いています」

「どこなんですか」
「そこは差し控えさせていただきます」
「自由ですね」
「ありがとうございます」
「いや誉めてないから」
「ふっ」
「何がおかしいの」
「笑う門には福きたると聞いています」
「笑ってる場合ですか」
「笑いはいいと聞いています」

「会議でうそをつくのはいいんですか」
「素敵なうそもあると聞いています」
「言い逃れじゃないですか」
「逃げるのは恥ではないと聞いています」
「誰に聞いてるんですか」
「そこは差し控えたい」
「何か勝手だな」
「ありがとうございます」
「いや誉めてないから」
「ふっ」 
「笑うとこですか」
「笑いは悪くないと聞いています」

「悪いものは何なんですか」
「何も悪くないと聞いています」
「平和だな」
「ありがとうございます」

「みんな死んでしまいますよ」
「死んでも生まれ変わると聞いています」
「現実みえてるんですか」
「怖いものなしと聞いています」
「また人間とは限らないでしょ」
「好きな時代に行けると聞いています」

「楽観的だな。根拠はあるんですか」
「エビデンスはないと聞いています」
「そんなんで大丈夫ですか」
「苦労知らずと聞いています」

「本当にちゃんと聞いてるんですか」
「そこは差し控えさせていただく」
「いやあなたのことでしょ」
「まあね」

「これからどうするんですか」
「よくよく聞いてから考えます」
「いやまだ聞くんかーい!」

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炬燵にみかん(神さまの許し)

2021-01-03 10:54:00 | ナノノベル
 炬燵の上にみかんを置いたままリーダーは神さまをたずねて出て行った。

 意味、意義、使命。そんなものたちに取り巻かれて疲れてしまった。そんな時、炬燵の上に置かれたみかんを見た。
 その時、私たちは突然に恐ろしく謙虚な気持ちになったのだ。そこにみかんがある。手を伸ばしてもいい。だけど、あえてそうすることもない。むしろずっと眺めていてもいい。いつか食べる瞬間のことを想像してみるのもいい。手を伸ばさないでいるほどに、想像にかける時間をふくらませることもできる。
 よくぞここまできたもんだ。それはみかんだろうか。それとも私たちがきたのか。何もしない。静かな自由というのもあるのかもしれない。

 みかんを透かしみる内に日溜まりの猫が立ち上がってみえた。
(しあわせは時間を消してしまう)

「ねえ、まだ?」
 ゆうちゃんは不満を口にした。

「もうすぐよ」



 日が落ちてリーダーが帰ってきた。
「何もしなくていいって」
 それは良い知らせだった。
「神さまがそう言ったんだね」

(何もしなくていい)
 その言葉によって私たちは許しを得た。
 好きに生きられる自由を手に入れた。
 
 私たちの前でみかんがきらきらと輝きを放ち始めた。

「ねえ、もう食べてもいい?」
「はい、どうぞ!」



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テレフォン(師匠の力) 

2021-01-02 10:39:00 | ナノノベル
 名人の手は重厚でとろみがかっていた。密かにあたためてあった新手に違いなかった。これはちょっとやそっとじゃ指せないぞ……。

「テレフォンお願いします」
 私は記録係に(テレフォン)の権利を使うことを宣言した。10秒ほどで師匠につながった。
「師匠。あけましておめでとうございます」
 挨拶もそこそこに早速本題に入る。これこれこうでこういう局面なんですけど、ちょっと難しくて……。

「1時間で答えてもらえますか」
 そして、師匠は長考に入った。時折微かなため息が聞こえる。うーん……。やはりここは中盤の難所に違いない。
 私は師匠を信じて目を閉じた。
 残る権利は、(助っ人)のみである。
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時滑りの季節

2021-01-01 09:59:00 | ナノノベル
犬の糞警戒中


 しばらくの間、犬の糞一つない道が続いた。
 ゆとりを持って歩ける歩道が好きだ。人が前から歩いてきても慌てることもない。傘を差し両手に買い物袋を下げていたとしても、すれ違うことに何の問題もない。そんな歩道ならいつまでだって歩きたい。さわやかな風が吹いた。いい季節がやってきたことを知らせる風。それに巡り会えるのは、運がよくて年に数回のことだ。犬の糞ではと疑われる場面も多々あった。それは落ち葉だったり、木片だったりした。
 平和な道の上で時に歪みを踏んだ。時間の歪みを踏むと一瞬5歳若返ったが、すぐに回復した。しかし一度踏んでしまったことで、踏み癖がついてしまった。何でもない道でもバランスを崩し、引き込まれるように時間の歪みを踏んでしまう。
 ああ、つれていかれる

3月下旬は寒かった
元に戻るまで僕は震えながら歩いた
ああ、ここだ
戻ったのも束の間
ああ、まただ
9月中旬だ
「暑い!暑い!」
ネルシャツ暑い
その後も月の旅が繰り返された
5月中旬だ
「暑い!」
さほど前の時と変わらなかった
そういう時もある
10月上旬だ
昼は暑いが夜に入って
「まあまあ寒いぞ!」
月を巡りながら
僕はショップに立ち寄った
勝手のよいシャツとパーカーを手に入れた
8月中旬だ
「暑い!暑い!」
7月上旬だ
「暑い!暑い!」
4月中旬なのに7月中旬並だ
「暑い!暑い!」
9月下旬だ
「暑い!暑い!」
7月上旬だ
「暑い!暑い!」
5月中旬なのに8月上旬並だ
「くそー! 何したってんだ!」
8月中旬だ
「暑い!暑い!」
6月中旬なのに雨が降ってない
「蒸し暑い!蒸し暑い!」
9月上旬なのに8月下旬並だ
「暑い!暑い!」
8月下旬だ
「暑い!暑い!」
変な踏み癖がついてしまった
7月中旬だ
「くそー! おかしくなりそうだ!」
10月中旬なのに9月上旬並だ
「暑い!暑い!」
8月上旬だ
「暑い!暑い!」
8月下旬だ
「暑い!暑い!」
8月中旬だ
「暑い!暑い!」
7月中旬なのに8月上旬だ
「いつまで暑いんだ!」
8月下旬だ
「暑い!暑い!」
4月下旬なのに7月上旬並だ
「暑い!暑い!」
12月下旬だ
「暑い!暑い!」

 クリスマスが終わり、町は年明けムード一色に染まっていた。着膨れしている人はいるが、下を向いて歩く者はいない。みんなすぐそこに明るい未来を見ているからだ。僕はパーカーを手に持ったまま並木通りを歩いた。ようやく悪い流れから抜け出せた。元の場所とは少し違うところに来てしまったけど、抜け出せただけで幸せだった。どこまで歩いても時間の歪みを踏むことはなかった。鼓笛隊の演奏が熱を増していた。クライマックスは24時だ。何かの玩具のようにパーカーの袖に食いついた。それは散歩途中のニットを着た犬だった。

「ねえねえ、寒くないの?」
 これから新しい世紀が始まるのだ。
 そういう時は、何も寒くない。

「もうすぐ始まるぞ」

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笑いのツボ

2021-01-01 04:20:00 | ナノノベル
「笑いが止まらないんです」
「しあわせじゃないですか」
「いや苦しいんですよ」
ワッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「突然はじまって止まらなくなるんです」
アッハッハッハッ
「笑いは健康には欠かせません」
「いやそれどころじゃない」
アッハッハッハッ
「はい。お口開けてみて」
「いや閉じさせてください」
アッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「先生。もうずっと苦しくて」
ワッハッハッハッ
「笑えている内は大丈夫」
「いや大丈夫じゃないわー」
ワッハッハッハッ
「健康ですね」
「どこが」
ワッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

アッハッハッハッ
「疑われるんだ」
ワッハッハッハッ
「どこ行っても」
アッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「漫才にも行けません」
ワッハッハッハッ
「行かなくても笑えてるじゃないですか」
「笑いたいとこで笑いたいんですよ」
アッハッハッハッ
「十分笑えてますけどね」
「今じゃないわー」
ワッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「でもね、世の中には笑えない人だっているんだよ」
「だから何だってんですか」
アッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「ちゃんとした式にも出れない」
ワッハッハッハッ
「わかりました。治しましょう」
「お願いします」
ワッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「ここを押すと笑いが止まる」

チャカチャンチャンチャン♪

ワッハッハッハッ
ワッハッハッハッ
ワッハッハッハッ
ワッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

アッハッハッハッ
アッハッハッハッ
アッハッハッハッ
アッハッハッハッ

チャカチャンチャンチャン♪

「普通の人はね」

アッハッハッハッ

ワッハッハッハッ……

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知らない体

2020-12-30 20:38:00 | ナノノベル
~いつ知ったのか

 当時としては私の知る限りでお話をしていたわけですから、私の心にうそはなかったということはご理解いただきたい。私は何も知らなかったわけですし、知らない方がいいことを知っていたからこそ、知ろうとすることを知らなかったとも言えるわけであります。ことある毎に知らない知らないと言っているわけでありますから、これはもうどう考えてもそのまま突き進む以外はないのであります。
 一度知ってしまえばもう後に引くことはできません。そうした理屈を踏まえ、完全に知らなかったという体で話を進めているわけでありますから、いつ知ったのかと問われれば、当然それはごく最近ということになるわけであります。仮にもっと前に遡って知るタイミングがあったとすれば、私が全く知らなかったという前提が崩れかねないわけであります。あくまでも私は知らなかったということが頼みの綱になっているわけでありますから、それだけは何としても死守しなければならないという点をご理解していただきたい。
 結果として私はうそをついていたという話にはなるわけですが、好んでうそをついたという構図になってしまってはもう弁解の余地もなくなるわけでありますから、そうしたことは何があっても絶対に避けなければならないということは、これは誰が見ても明らかであろうと思うわけであります。



~明細書の行方

 明細書を明らかにするくらいのことは、これはもうやろうと思えばいつだって明日にでもできるわけであります。何か誤解を抱かれているかもわかりませんが、私が明細書を隠す理由もなければ出せないという理由もないわけであります。何か疚しいことがあるとか意地になって出さないなどということもないわけであります。あるいは仮に明細書を出したからと言って、私自身が何か不利益を被るといったような心配も全くない。ですから、今すぐ明細書を出せと言われましても、必ずしもそれに従って出すかと言うと、その必要性自体特に感じられないのであります。

 もし仮に私のところにお客さんが来て、お茶を出せと言われれば、私は迷うことなくお茶を出すのだと思われます。むしろ、そうした場合には出せと言わずとも己の判断に基づいて迅速かつ正確な順序でもって出すことができるわけであります。これはもう考えるまでもなく長年に渡り染み着いたおもてなしの精神、美しい伝統がそうさせるわけであります。そうした自然な振る舞いと、いきなり明細書を出せという話とを一緒にされては困るわけであります。これはもう全く次元の異なる話ですから、何でもかんでも相手の要求通りにですね、明細書だ裏帳簿だとか(まあそんなものは存在もしませんけども)、次から次へと出していたらあっという間に丸裸にされてしまうではありませんか。

 私は何も明細書を出さないとか出せないと言っているわけではありません。むしろ、私自身についてはいつでも問題がないと申し上げているのです。しかしながら、これは私だけの明細書ではございません。わざわざ足を運んでくれて美味しい思いをされた方々の気分を害するようなことがあってはまずいと考えられるわけであります。それではせっかく美味しかった思い出が、後味のわるい話に変わってしまうかもしれません。
 餃子が何円、茶碗蒸しが何円、ステーキ何グラムがいくらだ、カレーが数千円であると細かく刻んだ話になってきたとしたら、これは食材の秘密、シェフの秘密、企業の秘密に関わってきます。密は避けなければなりません。近づくべきでもありません。これは専門家の人たちも口を揃えて仰っていることです。



~うその定義

 うそだと言って決めつけることは簡単であって危険でもあると自らのことも含めて申し上げておかねばなりません。瞬間瞬間、部分部分においては、人は誰でもうそつきになる可能性があるのではないでしょうか。
 空は赤いと言えば、昼間だったらうそになるかもしれませんが、夕暮れであればそうではないかもしれません。私は空を飛べると言えば、鳥でもない限りうそつきなってしまうと思われがちですが、一旦飛行機に乗ってしまえば、結果的にはうそではないと明らかになるわけであります。前後の文脈まで見なければ一概にはわからないわけであります。
 冬は寒い。常識的にはそうかもしれません。しかし、暖かい冬もあるわけですし一旦炬燵に入ってしまえば、もう寒くなくなるわけであります。その上でエアコンもつけ厚着をし鍋でもつつこうものなら、これはもうむしろだんだんと暑く感じられてくるわけでもあります。おでんもあるしうどんもあるでしょう。場合によっては雑炊や茶碗蒸しといったものもあるかもしれません。そうした物を口にしてしまえば、冬でも寒くないと言えるわけであります。

 そして炬燵があるならば当然話としてはみかんも出てくるであろうと察しがつくわけであります。みかんの皮を剥いて1つつまんでみると何か酸っぱく感じます。その時にはみかんは酸っぱいと言えます。しかし1つもう1つと口にして行く内にはだんだん甘くも感じられてくる。その時にはみかんは甘いとも言えます。これは別にみかん自体が変化しているわけではなく、私の口の中が変化しているわけであります。酸っぱい、甘いが、一見矛盾するようでもその時々については少しもうそはないということは、ご理解していただけるのではないでしょうか。

 結果的にはうそだと言われてしまうことでも、当時の自分としてはできる限り真実を述べようと努力しているわけで、その姿勢についてだけは一点の曇りもなく本当であろうと思っていただけなければ、辻褄が合わなくなってしまうと申し上げねばなりません。仮に百歩譲って、私はうそつきなんだとこの場で言ってしまえば、その瞬間だけ私が正直者になったように見えるかもしれませんが、私はそのような変化を望んでここまで来た覚えは一切ないと言わせていただきます。



~責任論について

 信頼を寄せていた者が私にうそをつき、結果として私にうそをつかせることになってしまった。逆に言えばまずは私からうそをつき、彼にもうそをつかせることになったということにもなりますが、それは全くの逆であると改めてこの場で申し上げておかねばなりません。
 
 このようなことになってしまったことは誠に遺憾であり、彼自身も責任を痛感し職を辞するという形で幕を引くこととなりました。対照的に私の責任の取り方というのは、それとは全く違うのであります。言わば、やめて簡単に取れるような責任ではないわけであります。もしも仮にそのような責任であるとするならば、私は明日にでも職を辞して一切の後腐れもなく自由な身になって気ままな生活を送りたいと内心では思っているわけです。しかしながら実際のところは、簡単に辞めて終わるような話では決してない。なぜならば、私の背中には過去から現在に至るまで、応えなければならない支援者の方たちの期待が重くのし掛かっているからだと申し上げなければなりません。

 だからこそ、私はこの自らが招いたとも言える難局の中でより一層身を正し、皆様の信頼回復に努めるべく修行に当たり、道場に通ってあらゆる拳法をマスターしたいと考える所存です。カンフー、少林寺拳法、太極拳、あらゆる流派を越えて新しい拳法の改革を目指して行かねばなりません。そして隙あれば積極果敢に打って出て、手や足や体のあらゆる部分を使って疑惑を払いのけることができれば、やがては世の中の風向きも変わり、長い冬の時代もようやく終わりを迎えることができるであろう。そう考えているわけでございます。



~秘書は訴えない(おもてなしの心)

 改めて言うまでもなく秘書というのは私たちにとって特別な存在であります。信頼の置ける秘書というものは常に私自身に寄り添ってくれるものです。あたかももう一人の自分とも言える存在です。同時に、有能な秘書というものは、常に同じところにいて働くものではありません。今手の届く距離にいたかと思えば、次の瞬間にはもう遠く離れた現場にまで飛んで根回しもしてくれます。最も遠い場合には、別の惑星にいて宇宙人のような存在となり、あまたの星々と密につながっていることでしょう。

 長年の実績と信頼のある秘書というのは、事ある毎にいちいち私に対して相談も報告もしません。またそのような時間も義務も見当たりません。私ならばきっとこうするだろう、私のためにはこうした方がベストだろう。秘書は常にそのように考えて動くことができ、また過去にそのようにしていて実際大きな失敗もなかったわけですから、私の方としても何も問題はないであろうと考えていたわけであります。
 しかしながら、当時の件に関しては万が一にも間違いがあってはならないだろうという思いから、念のために確認もしたのであろうと記憶しております。

「熱くないかね? かゆいところはないかね? 
 本当に大丈夫なんだね」とたずねました。
 すると秘書の方も「はい。大丈夫です。問題ありません」と答えました。
 信頼を置く者の言葉を信じないわけにはいきません。では、どうしてそのような答えになってしまったのか。実は以前よりどうも問題はあったようなのですが、それを言えば私の期待を裏切ることになると考えられ、そうしたことを気にするあまり長年に渡りなかなか打ち明けることができかったというのが真実のようです。
 最近になってそれを知らされ私は非常に残念な気持ちになりました。同時に自身の道義的な責任を深く痛感しました。もっと早くに私の方が気づいてあげることができたならば、こうした結果にはならなかったであろうと思われるからです。

 それでは、間違いを犯した彼のことを訴えるかと言われれば、決してそのようなことにはなりません。勿論、私の中にも迷いはありました。しかし、たとえ大きな過ちがあったとは言え、長年に渡って私のために身を粉にして尽くしてくれた彼の仕事振りにうそはないのです。しばらくの間、私は捜査機関によって彼とコンタクトを取ることを禁じられていました。それは口裏を合わせたりすることができないようにという配慮からです。

 彼は今はもう私から離れ遠いところに行っています。それにも関わらず私が一時の感情に任せて彼を訴えるようなことをしたら、宇宙人の方から密になって攻めてくるかもしれません。彼らが高度な科学を保持していてそれが人類の脅威に当たることは容易に想像がつくことです。宇宙人とは敵対することなく平和と安全の精神、おもてなしの心で接することを忘れてはなりません。一度彼らの方から攻撃が始まってしまえば、それをくい止めるような手段は私たちにはありません。もしも私が秘書を訴えることによってその発端をつくるようなことになっては、まさに人類にとって最悪の事態を招くことになるのです。そうなってしまった場合、弁解の余地は2度と訪れないのではないでしょうか。私に取れる責任など、もはや地球上のどこにも存在しないのだろうと考えられるわけであります。

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