「いよいよ両者秒読みとなりましたね。あれほど時間があったのに、もっと大事にできなかったのでしょうか?」
「何をおっしゃいます。大事にした結果として、今こうして秒を読まれておるわけです」
「50秒から、1、2、と読まれてますけど、もしもそのまま10まで行ってしまった場合、先生その時は、対局者は打ち上げられてそのまま宇宙へと飛び立ってしまうというようなことがございますでしょうか?」
「何をおっしゃいます。そんなことあるわけないじゃないですか、田辺さん」
「そうでしょうか。大丈夫でしょうか」
「ドリフのコントじゃないんですから。そんなことは起こり得ません」
「では、もしも10まで読まれたとしたらその時は……」
「その時はほぼ訪れないと言っても過言ではありません」
「ほー、どうしてでしょうか?」
「9まで読まれた段階で、指が自動的に動きますから。1秒というのは、案外長いものなんです。59.9でも間に合ってますからね」
「棋士の指というのはすごいのですね」
「盤上は宇宙ですから」
「宇宙は身近なところにあるのですね」
「そういうことです」
「はい。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」