折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

冬のバンズ・コーヒー

2021-01-21 01:14:00 | 幻日記
 カウンターに着き注文をする。
 店員の顔が強ばっているように見えた。
「申し訳ございません。ただいまホットコーヒー単品での提供はマシーンが壊れているためご注文いただけません」
「あー、そうなんですね」
 店員の顔に笑顔はなかった。きっと笑うところではないのだろう。
 冬はどうしても温かいものが飲みたくなる。そのためだけに出かけたくなることもある。温かさを感じてこその冬だとも思う。いつも簡単に手に入るからといって、それを当たり前のように思ってはならない。理屈ではわかってはいても、失うまでは気づかない私は愚かな人間だ。

「……セットで。お飲物は?」
「ホットコーヒーで」
「かしこまりました」
 隣のカウンターから、かしこまった声が聞こえた。

?   ?   ?   ? ホットコーヒー……

「もしかして、マシーン直りました?」
「セットですと大丈夫なんですが、単品の場合はマシーンが……」
 やはり、そう簡単に直るわけないか。
 一瞬浮かんだ希望はすぐに泡になった。
「もしかして、バンズから抽出されるんですか?」
「そうなんです」
「へー。そうなんですね」
「はい」
 店員は両手を合わせ待ちの姿勢を保っていた。

「美味しいんでしょうね」
「セットにされますか」
 私の欲しいのはコーヒーだけだった。

「直るまで待ってもいいですか」
「いつになるか約束できません」
 彼女の言う通りだった。
 きっと、待ってはならない冬もあるのだ。
 私は笑いながらカウンターを離れた。 

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横丁の異世界

2021-01-20 01:14:00 | 幻日記
 あふれるほどの人混みは突然昔話のようになってしまった。一帯に自粛の要請がかかり、下りたシャッターに無念の言葉が貼り付いていた。廃れた通りは、すっかり過疎化した故郷を思い出させた。みんな家でおとなしく過ごしているのだろうか。
 1人のクライアントに拘るな。チーフの言葉が頭の中を回っていた。1人のクライアントを大事にしろ。いったいどっちなんだ。矛盾の中で爆発しそうな頭を、アルコールにつけて冷やしたい。だけど、提灯の明かり1つ今夜は見えそうもない。雨。予期せぬ事態に傘もない。踏んだり蹴ったりの木曜日。
 ふらふらと逃げるように横丁に入った。いつもは通らない道だった。少し時間を無駄にしてもいい。どうせどこかで道はつながることになっているのだから。雨は上がり、そればかりか月が白く輝いていた。壁の間から現れた黒猫が、音もなく歩いて行くそのあとに私はゆっくりとついて行った。猫は一度も振り返らなかった。美味しそうな匂い。暖簾が風になびいている。こんなところにも秘密の隠れ家は存在するようだ。

「いらっしゃい」
「開いてるんですね」
 大将は怪訝な顔をしてみせた。
「向こうはみんな閉まってたから」
「まだ9時だよ。夜の魔物でも出るのかい」
 ゲラゲラと常連風の客たちが笑った。
「はははっ」
 誰もマスクもしていない。
「何しましょう?」
「ギムレット」
 スピーカーから乗りのいいジャズが流れていた。壁に貼られた夏祭りのポスターは随分前のもので、隣のカレンダーもすっかりぼろぼろになっていた。2月29日。
 そうだ。あいつの誕生日。
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記録するサル

2021-01-09 10:35:00 | 幻日記
 ライオンが歩いてきた。ライオンが歩いてくるとはこのことだ。狐に毛が生えていた。狐に毛が生えるとはこのことだ。まさにこのことよの。のーサルよ。サルよ、おるかー。虫が飛んで日が暮れてきた。虫が飛んで日が暮れるとはこのことよ。まさにこのことよのー、サルよ。サルよ書いておけ。

 もうすぐ雨が降りそうだ。雲行きが妖しいとはこのことよ。俺たちは横断歩道を渡る。横断歩道を歩いて渡るとはこのことよ。疑うまでもないことよの。のー、サルよ。まるで見たままのことよ。疑ってかかるのは愚か者よ。
 まったくよのー。
 そこも誰かが歩いて渡ったところだろう。俺たちはたどったところをなぞっているだけかもしれん。のー、サルよ。面白いのー。みんな書かねばならんぞ。

 ライオンが我が物顔で歩いておる。我が物顔で歩くライオンとはこのことよ。のー、サルよ。税が上がり雨が降り雷さえも鳴り響く。そんな時にライオンは我が物顔で街を歩く。流石のライオンとはこのことよ。のー、サルよ。流石にここは漏らさず書かねばならんのー。忙しいのー。
 サルは誠に忙しいのー。

 なんだなんだ、背中に羽が生えてきた。背中に羽が生えるとはこのことよ。のー、サルよ。
 サルよ、おるかー。
 ちゃんと書いておけ。

 俺たちの記憶はデタラメよのー。
 だから記録して残すべきよの。

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未来予報士の知らせ

2021-01-04 17:31:00 | 幻日記
 今をどのように生きるべきか。過去の経験から学ぶことは大切だが、それでは十分ではない。時代は高速で変化していく。過去の教えが通用しなくなることもある。自分の意志、感情、それもきっと大切だ。他人のこと、世界のことを考える必要はあるが、最終的に人生とはいったい誰のためにあるのか。原点を見失うことは愚かだろう。そして、最も重要なのは、未来を正確に予測することだ。未来を想定することができれば、正しい導きが得られるはず。策を誤ったり、おかしな方向に暴走しないためには、未来をみる目が何より重要なのだ。


心斎橋の明日の天気 晴れ

埼玉県の明日の天気 曇り

吹田市の明日の天気 晴れ

ニューヨークの明日の天気 曇り時々雨

四丁目の明日の夕日 きれい

本町の明日の雨の心配 なし

谷町の明日の夜 くる

香川県の明日の天気 晴れ

二丁目の明日の治安 よし

山口県の明日の景気 良好


「早く早く、この辺の天気は?」

名張市の明日の風 強し

マドリードの明日の風 やや強し

日本の明日の景気 概ねよし

心斎橋筋の明日の風 なし

鶴橋の明日の人出 疎ら時々混雑

西九条の明日の風 心地よし


「この辺、この辺!」

東海地方の明日の天気 晴れ

岡山県の明日の天気 晴れ

この辺の明日の天気 憂いなし


「明日はお出かけだ!」
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くれない12月21時

2020-12-31 02:17:00 | 幻日記
「申し訳ございません。
 ホットコーヒーは売り切れました。
 (アイスコーヒーでしたら……)」
いいえだったら あっはっはっはっ……

バーガーも何も持ち帰らずに
すぐ隣のカフェに近づく

誰も気づかない

一人は夢中で床を磨いている
もう一人は熱心にグラスを拭いている

看板は裏返っていないけど
もう今夜はおしまいなのか

近づいても見つめていても
誰も目を合わせてくれない

そうだね 嫌だよね

振られてから すぐ来るなんて

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あるヨーグルトの夜(がんばったところでがっかりする話)

2020-12-30 19:32:00 | 幻日記
 数あるヨーグルトの前に立つ時には迷いがある。どれでもいいように見えてもそれぞれにこだわりがある。正解のない棚には躊躇いを広げる時間がある。その時々にある気分と理想がある。選択の余地と悩める自由は幸せの内にある。ありふれて見える物の中に目立って高い物を見つけることもある。他とは違う何か、特別に強いパワーみたいなものがあるのだろう。(これにしてみるか)最初は高くつくけれど、頑張ればよいこともあるだろう。ちょっとずつ食べていこう。そして私はある1つのヨーグルトを手に取る。

 家に帰ってヨーグルトの外蓋を開ける。上に張りついた紙をめくる。
「こ、これは……」
 箱に対して7割も入っていないのではないか。
 高いのはいい。それは最初からわかっていたこと。
 しかし、その内容量は?
 私たちはそれをグラム表示で確認したり、手に取った重さで感じなければならないのだろうか。
 腹立たしいのは、頑張ったところでがっかりさせることだ。
 箱を開けてから(がっかりする人)がいないように、ヨーグルトの箱は駅構内のゴミ箱のように可視化してほしい。

 そんな願いを強く抱く夜もある。

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ソーシャルディスタンスの崩壊

2020-12-04 02:26:00 | 幻日記
 1番目の客と適切な距離を取りながら並んでいた。

「どうぞ!」
 2人体制のレジなので流れがスムーズだ。店員に呼ばれてかごを置いた。中身が少ないのですぐにすべてのスキャンが終わった。
「……円になります。少々お待ちください」
 1番目の客はまだ会計が終わらない。ポイントを使うのか、ギフト券か、チャージするのか、ややこしいのか。なかなか済まない。

「どうぞ!」
 だけど、3番目の客が呼ばれスキャンが始まっている。前は渋滞しているのに。僕は終わったけれど、終わってない。そして始まっている。戻れない。進めない。挟まれた。
 詰んだ。
(負けました)
 レジ前の牢獄に捕まってしまったのは何の罰か。
 狭いよ。近いよ。息苦しいよ。

おい!
ソーシャルディスタンスは?-い????
ソーシャルディスタンスどこ行ったー?

 適切な距離を守り並んでいた自分。
 あれはずっと昔のことだったろうか……。

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フェイク・ダウン

2020-12-01 10:42:00 | 幻日記
 夕日があげた天ぷらのように見えたので、落ち葉を拾い集めて小腹を満たした。錯覚は長く続くことはなく、小一時間もするともうお腹が鳴った。今度はもっと本格的な空腹だった。本物の天ぷらはどうやったら口に入れることができるのだろう。
「小銭に変えればいいじゃないか」
 木の裏から飛び出してきた仔狸が助言をくれた。それには落ち葉を侮らず真剣に向き合うことだという。

落ち葉を厳選すること
遠くの落ち葉に目をやること
躊躇わずに拾うこと
迷ったら拾うこと
拾わない時間を持つこと
落ち葉を愛すること

 仔狸は様々な方法を教えてくれた。それから私は小まめに落ち葉を拾い集めた。ため込んだ落ち葉をプラスチック・バッグに詰め込んで、オリジナルのジャケットを作った。羽織ってみればその辺のダウンに負けない暖かみがある。都会の冬くらいなら越せるだろう。
特価……1万4千円!
「一度だけ着ました」
 写真にコメントを添えれば一人前だ。
 流行のネット・サイトに出品して結果を楽しみにする。土曜の夜、ちょうどいい感じで寒くなってきたところだ。
(さあ、早い者勝ちだよ)
 元が道で拾ったものだとは、大きな声で言えないけれど。
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狐のへりくだり

2020-11-25 22:09:00 | 幻日記
「いつもつままれさせていただいております」
 どうぞどうぞと紳士は腰が低く無防備に見えた。
 どうもパワーが出ない。苦手なタイプだ。
 化かしが発動しないと狐は思った。
 ドアのない金庫は破ることもできないのだ。
 どこかにもっと見下してくれる者はいないのか……。
 それならどれだけ自分の力を出せることだろう。

「ちょっと休まさせていただいております」
 人間みたいな言い回しをしている自分を狐は恥じた。
 獣度が日に日に薄まって行く。
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ラーメンを食べよう(日曜クッキング)

2020-11-22 23:44:40 | 幻日記
用意するもの
 ①電子レンジ
 ②器
 ③水
 ④チキンラーメン

1 ②に③を入れ①に入れ1分ほどレンチン
2 ②に④を入れ①に入れ1分ほどレンチン
3 日曜の21時みたいにコショーを注いで完成
4 よくまぜていただきます

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証文の出し遅れ

2020-11-13 01:07:00 | 幻日記
 後ろに待つ者がいないから、それほど落ち着いていられるのではないか。男は金を払う折になって、ポイントカードをさがしている。
「お持ちでしょうか」
 膨らんだ財布に顔を埋めるようにして、幾層に連なるポケットを探っている。ございますでしょうか……。こちらとしては、待つ以外に何もすることがない。純粋な待機。人生にはそのような時間もある。お客様、プロポーズしながら指輪をおさがしですか。よっ、泥縄名人!
「なかったです」
「かしこまりました」
(で、ないんかーい! なんや、ないんかーい!)
 純粋な待機から純粋タイムロス。人生の時間の半分以上は、他人のために消費しなければならない。

 客が去った後に人生の時間を哀しんでいると床を走る物が目についた。中型のゴキブリだった。すぐに隣の部屋の戸棚に行き緑色のスプレーをさがす。ラッカー、ネズミ、556、アリ。違うな。形はみんな似ているけどどれも違う。目当ての物が見つからず、赤白のスプレーを取って現場に戻った。

(ほいっ!)

 既に奴は逃亡した後だった。
(おらんのかーい! 待ってないんかーい!)

 シューーーーーーーーーーーーーーーーーーー♪

 何もいないカーペットに向けて惜別の噴射。
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観光旅行

2020-11-12 01:22:00 | 幻日記
 総合的、俯瞰的な観点から考えて、私は言葉をより遠くへ運んでいく必要に迫られていると言うことができる。より多くの人へと届けられるように、言葉には何よりも多様性が必要であると認めざるを得ない。ある時、言葉は好奇心あふれる犬のようにボールを追って駆け、また別のある時には、猫のように果敢に木に登って星を見上げる。待ちわびる者と一緒になって遊び、時には人を置き去りにして、不安の中に引きずり込むこともあるだろう。言葉は私の中でコントロールされるように見せかけて、いつでも隙を見つけては故郷にかえろうとする。
 思うようには進まない。突然起こる大渋滞に心を折られそうになったことは何度もある。どうすれば言葉を強く前へ運んでいくことができるか。その方法を私は日夜探究しながら、歩いているのは未だ深い霧の中のようでもある。言葉の多様性を、多くの人に届けようとする時に用いる一方で、どこか狭いところになお深く届けようとした場合、言葉はどうあることが望ましいと言えるのだろうか。私は私なりに言葉の運び手であろうとするが、客観的に見て今現在のところ、多くのところまで届いたという手応えは感じられない。

「これが仕事だ」
 本当は胸を張ってそう言いたいが、「素敵な趣味ですね」と言われ苦笑いするのが今の私であるようだ。
 ならばこれは(観光旅行)に違いない。

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日記を取り戻せ

2020-11-06 05:19:00 | 幻日記
「ただの映画じゃないか」
 友人に指摘されてハッとした。
 ずっと日記を書いているつもりだったのだ。
 俯瞰的に総合的に考察して現代的なガバナンスと国際的な秩序に追随するという観点に重点を置きながら、広く包括的な行動理念に基づく解釈を適正に実践していたが、自覚は友人の率直な指摘に崩壊した。日記を書いているはずが、映画を作っていたとは我ながら驚いた。

「解散!」
 監督をはじめとして、スタッフや大勢の役者を帰らせた。そうして自分を見つめてこそ、正しく日記を書けるだろう。
「すみませんけど……」
 大物俳優のMだけはまだ残っていた。
「君の日記に出させてくれないか」
 奇妙な役者魂がそこにあった。
「ギャラはいいから」
 そう言って白い歯を見せた。

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リア充不思議体験日記

2020-10-25 11:19:00 | 幻日記
 今日は朝から口を開けて朝食を食べました。また、朝が終わってからも1日を通して色々なものを口にしました。野菜を食べたりトマトを食べたりしました。チョコを食べたりアポロを食べたり、お菓子を食べたりポテコを食べたり、おやつを食べたりパイの実を食べたり、アイスを食べたりピノを食べたりしました。
 それから寝転がったり横になったりしました。ロックを聴いたりアジカンを聴いたりしました。
 それから歩いたり前に進んだりぶらぶらしたり、散歩したり街の中を移動したりしました。少しずつ景色が変わったのが不思議でした。


よくできました!
あなたの不思議体験に先生ははんこをあげます!
明日も頑張りましょう!

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業務日誌「ヤモリ」

2020-10-23 00:38:00 | 幻日記
「さっき食堂の隅にヤモリが出ましてね」
「ヤモリ? それでどう対処しました?」
「……」
「まさかそのまま放置したのでは」
「ヤモリと言っても本当にヤモリかどうか。まるで動かなかったし、影のようでもあったし」
「いやいやいや」

チャカチャンチャンチャン♪

「いやずるいよ。ヤモリが出たのでしょう?」
「ヤモリに似ていたかも」
「言いましたよね、ヤモリが出たって。事実をねじ曲げるのはなしでしょう」
「事実というか主観ですから」

チャカチャンチャンチャン♪

「主観といういうのは信用が置けません。特に私の業務上のは」
「それで撃退もしなかった。見逃したのですね」

チャカチャンチャンチャン♪

「そうです。確信がなかったからです」
「確信ね」
「撃退するかわりと言っては何ですが」
「ん?」

チャカチャンチャンチャン♪

「ヤモリの似顔絵を描いてきました」
「暇か」
「これが私の見たヤモリです」
「これはわしじゃないか!」

チャカチャンチャンチャン♪

「まさかそんなことが」
「そろそろ森へ帰る時がきたようじゃ」
「店長、おつかれさまでした!」
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