折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

知恵粉

2012-05-25 01:03:29 | ショートピース
もう駄目かもしれない。最後の願いを込めてぎゅっと力を入れると暗闇の中からそれは出てきた。幸運に感謝し口をつけると爽やかな気持ちになり蘇ったようだった。「最後かもしれない」けれども、知恵粉はなかなか尽きなかった。駄目、最後、終わりという幻想が、私から消えつつあった。#twnovel

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ピンクライオン

2012-05-24 21:47:50 | 夢追い
 楽しげな女の子たちの声が近づいてきたので、待合所を離れた。部屋の中にはもう使うことのないコルセット。女性的な形をしているのが嫌だった。捨ててしまいたい。けれども、それが病院の物だったとしたら返さなければならない。ベランダに飛び出しても鳥は逃げ出すこともなく、踊りの稽古をしている。屋上へ続く道は、多少危険ではあったけれど、誰かと顔を合わせるよりはいくらか優位で、そこに冒険をする価値があった。

「教えてくれ」
 何も持たないおばあさんが道をおりてきた。
「男たちはどこに行った?」
 少し怒っているようだった。誰もいないことが僕をいくらか親切にして、おばあさんが野球の続きを探しているのだと知った。おばあさんの代わりにあちらこちらを歩き回り、手がかりを探すがどこにも見つからなかった。もしかしたら55分だから、一時的に中断されているのかもしれないと思う頃、レンガ造りの一軒の家からユニホーム姿の男が出てきた。その顔には見覚えがあった。それらしい答えが近づいてくる、確信に似た気配があった。

「おばあさん。見つけたよ」
 ミルクと書かれていたので牧場だと思っていた。そこが野球場だったのだ。
 新しい座席はゆったりとしていて、照明がまぶしかった。華々しくDJが入ってくると、生まれつつある一体感に打ちのめされて下を向いた。目を閉じて頑なな昆虫のように存在を消していたのに、しばらくすると誰かが肩を揺すっていた。「お客様。眠るのだけはやめてください」いいえ違います。眠ってなんかいません。こうしていさせてください。空席を埋めるように自動的に座席が動き始め、臨場感が高まるように最適化されると、ゆったりとしていた座席がうそみたいに詰まった。興奮した子供たちの声に紛れることで、少し落ち着きを取り戻すことができた。始まる。いよいよ試合が、始まる。

「あのボタンは何?」
 柱についたボタンのことだ。
「病室が開くんだ」
 試合の興奮と高揚が残って、知らない人の質問にも答えてしまう。まぶしすぎた世界から離れれば、すぐに元の現実の中を歩き始めなければならない。薄暗い道を歩いて、トンネルに入ると途中工事中のため行き止まりになっていて、地下へと続く小さな穴の中を下りなければならない。透明なプラスチックシートの上には硝子の破片が散らばっていて、振動で落ちてしまわないように警備員が下から体を張って支えている。信じなければ先へと進むことはできなかった。地下通路を通り抜けて中庭にたどり着くと、一帯は金網に囲われていた。唯一の扉には鍵がかかっていた。

「中から開けてもらうしかない」
 彼は言った。警察に気づかれない方法があると言った。そして、僕たちは動物の鳴き真似を始めたのだ。きっと狐はこのように、鳴くのだろう。鳴いて、鳴いて、博士を呼ぶのだ。
 しばらく鳴き合っていると、出てきたのは博士ではなく野獣の方だった。ピンクライオンが牧場の中から飛び出してきて、金網に食いかかってきた。鋭い爪が先走る朝のように網の間から覗き、僕は後ずさった。
「大丈夫。金網を越えることはできない」
 彼らの言葉には耳を貸さず逃げ出した。地下通路へ戻る道は既に塞がっていて、できるだけ遠いところへ逃げる。

「どうして抜け出ることができたんだ」
 驚くような声がして、振り返ると確かにピンクライオンはこちら側の世界にいた。彼らが銃のようなものを構えているのが見えた。他に出口はないのか、必死で探して走り回った。
 どうしておばあさんの話を聞いてしまったのだろう……。力を貸したこと、答えを探し当てたことが迷い込むことの始まりだった。
 どこにもない。完全な囲い。金網をよじ登りながら、再び振り返った時、獣は放たれた網の中に捕らわれてもがいていた。けれども、それは時間の問題だ。
 もう一度、僕は狐になって鳴いてみた。

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いきなり文庫

2012-05-24 12:54:58 | ショートピース
長旅がつきものだった。途中、妖怪が出たり様々な邪魔が入ったりして、ようやく着いたと思ったらそれは幻だったりと、通常は三年かかるものだった。「今回、直通の空路ができましてな」雲の上から猿が言った。誰もが気軽に有難い本を手にすることができる世の中がようやくやってきた。#twnovel

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イエス

2012-05-23 18:53:10 | ショートピース
「その手を離さないでください」今までがうそであったように、胸の真ん中にそっと触れるだけで痛みは消えているのでした。「私の手ではない」彼は言いました。「手が触れることを信頼し触れていることで安心する、あなたの脳なのです」私は彼の手に、手を重ね、「はい」と答えました。#twnovel

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ご飯ですよ

2012-05-22 21:59:46 | ショートピース
地道に積み上げた城は順調に大きくなって、あと少しで天まで届きそうだった。神様に会えるだろうか……。「ご飯ですよ」最良のところでどこからか呼び戻す声が聞こえる。翌朝には城は跡形もなく、最初からやり直しとなった。ついに神様には会えず、そのせいで大人になることができた。#twnovel

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自由な女神

2012-05-21 15:35:22 | ショートピース
輪郭をようやく捉えたところで置物のようだった女神が突然動き出し席を立った。「先生。まだ描けていません!」抗議の声を上げたけれど、女神はとても忙しく少しも留まれないという。「あなた達は一瞬ですべてを捉えなければならないのです」そんな、無理だ。神様でもあるまいし……。#twnovel

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フェイスブック

2012-05-18 15:11:04 | ショートピース
父を起動しフェイスブックを教えた。「ほーっ」昔の友達が見つかると聞くと感嘆し固まった。翌日、父を起動しフェイスブックを教える。「好きなものをアップしてつながれるよ」父は深く感動した様子で、「ほーっ」と言って固まった。感動から行動へつながる道は、断たれたままだった。#twnovel

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試合前

2012-05-17 23:42:36 | 夢追い
 赤ちゃんができたから、僕の名前はみんなに忘れられてしまった。今はそれも仕方がなかった。どんな世界でも新しく小さいものは優先されなければならないのだから。少し落ち着いてから、改めて自己紹介しよう。そして、もう一度最初からやり直すのだ。
「そんなに甘くないわよ」
 現実的な姉が言い放った。
「何にする?」
 僕はビトゥイーンと答えた。

「雨の中大変ね」
 だんだんと激しくなる空を見て言った。けれども、もっとひどい雨の日もあったのだ。
 角に車が止まり、姉と別れた。
「俺は昔、駅員だったんだ」
 駅を通過する時、ドライバーは言った。
「そうですか」
「冗談だよ」
 いったいどういう冗談なのだろう。駅員が、警官であっても、教員であっても、弁護士であっても、操縦士であっても、およそ人間のなれるものなら、僕は言葉通りにそれを信じただろう。彼に対する、予備知識など何もないのだから、それが普通ではないか。
(本当は魔法使いか何かですか?)

 3時が4時に移ってもみんなはまだウォーミングアップをするばかりだった。そして、自分はまだ服を着替えてもいないことに気がついて、慌てて鞄を開けるとそれは他人の鞄で、よく似ているけれど色が違うことで間違いに気がついたのだ。小銭を少し取ってしまったし、ゴミを少し入れてしまったけれど、もうそれはそのままにしておこう。もう触れない方がよいのだ。何かごちゃごちゃしているところに、持ち主が来たらおかしなことになるのだから。まだそこら中に穴が開いている土の上を歩いた。
「戻ってもいいですか?」
 事務所に入って確認した。急いで家に戻り、着替えを取ってこなければならない。

 車道の上を全力で走った。前から猛スピードでバイクがやってきたところでジャンプした。飛翔モードに入ればもう二次元の道は無視して最短ルートを選ぶことができる。郵便局を越えて、映画館を越えて、金網を越えた。公園で一輪車の練習をしている子供が指さして僕を撃った。走っている時よりも、実感としては遅かったけれど、すべては僕の後ろに向かって流れてゆく。ガラス張りの百貨店の中から僕を見つめる老夫婦。巨大なスクリーンの中の海を越えて、山を越えるともうすぐ僕の家だった。

 母は急に子供が帰ってきたというように驚いた。
 着替えを済ませると脱いだ服は全部置いていくことに決めた。鞄にはドリンクを存分に入れることに決め、僕はもう一度飛び立った。

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言葉の翼

2012-05-17 23:08:20 | ショートピース
「迷った時は旅に出なさい」あの言葉を思い出して翼を背負った。どこまでも真っ直ぐに伸びた白い雲に導かれてひとり飛んでいるとやがて今まで行ったことのない星が見えて、私はより一層ひとりになれた。そうだ、私をここまでつれて来た白い雲は、あなたの描いたたった一行の詩だった。#twnovel

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JAZZ

2012-05-16 21:29:18 | ショートピース
期待を裏切れぬのは蛇の性だろうか。呼ばれる度に誰かが出かけねばならない。それにしても「忙しい夜だこと」息を切らしながら姉蛇が戻ってくるとまたどこかで口笛が鳴った。「今度はおまえが出ていくかい?」婆蛇が言うより早く孫蛇は這い出ている。ジャズフェスティバルの夜だった。#twnovel

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NO WAY

2012-05-16 00:02:47 | 夢追い
 光ある方を目指して歩くと徐々に陰が濃くなってゆくようだった。集合住宅のような形をしているが、一つも明かりが漏れるところもなく、古い遺跡かよくできた模型のようだった。歩くほどに道は狭まり、真っ直ぐ前を向いて歩くこともできないほどだった。狭く仕切られた場所を壁伝いに歩いていく。けれども、これ以上行っても大きな道にたどり着ける見込みはなくなった。いつの間にか、学校のベランダの中に迷い込んでいたのだった。倒れ込んだ植木鉢を飛び越えて、最も可能性が大きく残っている分岐点まで戻り、次の選択に賭けた。
 お茶の店から一瞬だけ夜の中に緑色の気配が流れ込んで、その前を一台のトラックが走り去っていった。それが最大の明かりで、徐々に道は夜の深さにはまり込んでゆくのだった。
 人の気配が遠のくにつれて空には星の姿が目に付き始めた。あそこに見えるのは、名のある星座……。そうだあれは、確かに。

 ノックの音がして意識がよみがえった。
「眠っていたの?」
「眠っていた」
「だったら音は聞こえないはず」
「でもちゃんと聞こえた」
「だったら眠っていなかった?」
「確かに眠っていた」
「だったら音はうそだった」
「確かな音を聞いた」
「眠っていたのはうそだった?」
「何がうそなの?」

 どこにもドアはなく、頭上には枝々に括り付けられた無数のおみくじが覆い被さっていた。そこは神社で歩いていくとすぐに行き止まりになった。来た道を戻り始めるとどこかから人が仕事をするような音がして、近づいていくと竹箒を手にした袴姿の男が立っていた。男は風を支配して、その足元に無数の落ち葉を寄せ集め、引き寄せていた。近づいていくと男は背中を向ける。

「一つ教えてください」
 男は落ち葉を引き連れながら振り返った。
「僕は走り抜けたいのです」立ち止まることなく。
「虹の橋を渡らないとどこにも行けない」
そうか。そういうことだったのだ。橋を渡らない限り、道は内側の世界だけで完結しており、結局どこに行っても必ず行き止まりになってしまうのだった。きいてよかった。話は終わったが、何となく話を続けた。「今日の試合は延長でも決着がつかなくてね」話していると、なんだかずっと昔から知っている人のように思え、もしかしたら父の友達だったかもしれない。ありがとうございます。
「明日から、前に進めそうです」

 家に着いてテレビをつけるとPK戦は続いていた。けれども、すぐに画面は真っ暗になり、ノイズに交じった気配だけが、遠い国から伝わってきた。

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無縁世界

2012-05-15 23:34:14 | ショートピース
「固定電話もないんだね」線らしいものはどこにも見当たらなかった。全ての物はそれぞれに独立しており、つなぐことも、つまずくことも、断ち切ることもなく、そのため悩み事なんて何もないすっきりとした部屋。「電話を固定? 大丈夫ですか?」未来人は不思議そうに顔を回転させた。#twnovel
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手の中の星

2012-05-14 15:10:21 | ショートピース
手の平にある球体をもう一方の手で撫でながら、どこかにある切れ目を探していた。「切れ目がないと引き出せないからね」もう何周もしていたが、その確信からか手は回転を止めない。「見つからなければまるで包めない」サラン星人が手を休めない間、星は夜になったり春になったりした。#twnovel

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触れ合い

2012-05-11 15:03:09 | ショートピース
その子は指先で触れて雲の行方を探る。あの子は指先で触れてみんなの声を拾う。どの子も指先で触れるだけで何かを始めた。「みんな魔法使いになってしまったの?」遅れてきた子は指をくわえている。「時代が魔法を創り出すのよ」先を行く子が模範的なことを言ってピースサインをした。#twnovel

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自動引き落し

2012-05-10 20:42:28 | ショートピース
1泊2万円の部屋から外出の途中、男はふと缶コーヒーが飲みたくなった。立て続けに投入したお金は機械を少しも明るくしなかった。「ちっ」返却口にあるのはいずれも10円玉で、男は100円玉が呑まれてしまったことに憤りを覚えた。新自動募金システムが正しく作動した結果だった。#twnovel

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