さあここへどうぞ。おばあさんの広げてくれた新聞の切抜きの上に座った。慎重に座ったつもりだったが、殺人事件の記事の上に座って間もなく、びりびりとそれは破れてしまった。ああ、大事にされていたのではないですか? いえいえ、もう済んだことです。10年も前のことでした。 #twnovel
その帽子が欲しいのだがと言うと帽子の男は拒んだ。からあげを100個買うけど、それならどうだと言うと帽子の男はそれでもやはり譲れないと言った。それでとうとう客は「おのれ、からあげ仮面め!」と切れたが、帽子の男は「違う。仮面じゃない。素顔じゃん」と言ったのである。 #twnovel
命を回復させるランプが携帯電話から真っ白いノートに映ってセロファンのように光っている、赤、懐中電灯を手の平で覆う時、小さな手を突き破る澄んだ光、これが血の色だよと教えてくれた、お父さん、私、一瞬早まった考えに囚われてしまったけれど、もう大丈夫、断ち切りました。 #twnovel
スピード、力強さ、技術、知性、記憶力、持久力、どれをとってもあなた方人間に勝ち目はありません。ほら、あの姿勢、背筋を伸ばして迷うことなくペンを走らせて行く彼はロボット小説家。「今はまだコピーを書いていますがその内に…」鉄の瞳の下には『人間失格』が置かれていた。 #twnovel
できちゃうことが怖いんだよ。確信を持って作ったというのではなく、ふらふらとつながってちょうど一致して気がついたらできてましたというのが、僕は……。確信?「確信を持って作るってそんなに大事なことなの? 確信って何? なくても命は生まれるし、私は好きに歌うだけよ」 #twnovel
それで曲が変わるから今度はボリュームを上げ調節するの、わかった? うん、わかったよ。前の曲が終わって植村さんになると私はボリュームを少し下げて調節した。ステレオに張りついていた。ジャニスに変わると今度は少し上げて調節した。「忙しいわねえ」とおばちゃんが言った。 #twnovel
意識はあってもキミの意思をもう確かめる手立てはないのだと知った時、キミの手は僕の手を強く握って放さなかった。唇が動く。あまりに微かな動きは、微かな音にさえもならなかったけれど、今、予測変換装置によって再現される。最後に言いたかったのは何?「しょうゆラーメン」 #twnovel
突然顎に浦島さんのように長い髭が生えるということは、4年間髭を剃らなかった別世界に僕は来てしまったらしくて、死んだはずの友達は生きているし、すべての借金はチャラになっているのだった。「号外です」と初めて聞いた言葉。サッカーのワールドカップで日本が勝ったという。 #twnovel
あったでしょ? なかったよ。あったのよ。大名行列に気を取られている間に彗星が天空を通り過ぎてしまった夏のように、あなたは歌に夢中で喉を通過するほんの一粒に気がつかなかったのよ。違う!なかった。「私の元気の粒だったのに」それから三日間、なっちゃんは口を利かない。 #twnovel
いつも愛するものはすべて私の元を離れて行ったけれど、あきらめてしまう頃になるとそれらはみなひょろひょろと戻ってくるのだった。姿形を変えて、より大きくなって帰ってきたポチにもう昔の家は小さすぎて、私は私の家を譲ることに決めたのだった。今度は私が家を出て行く番だ。 #twnovel
カリスマは右を切り左を切りしながら長さを整えていたけれど、ちょうど同じ長さにはなかなかならなくて、また右を切り左を切りしている内にとうとう僕のもみあげは元からなくなってしまったので、もみあげがあった頃の記憶を頼りに元をたどって行くとあの店は消えているのだった。 #twnovel