折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

ギター返し

2013-09-30 18:50:57 | 夢追い
 いつもガレージには誰もいなかった。入り込んで壁のスイッチを押すとPVが再生される。イントロが流れて、階段から実物大の松本が下りてきてギターを弾く。3千円の値札がついたままだ。見ている人は僕だけだったとしても、松本は一切の手を抜かない。およそ5分の熱演が終わると松本はギターを高く掲げる。それから階段を上がって行く。無人のガレージに僕だけが取り残される。僕は自分だけのためにアンコールをする勇気を持っていなかった。僕は毎日のように、松本のギターを聴くために、ガレージに通った。時々、管理人がガレージの前を通りかかることがあったが、何も言わずただ少しの笑みを浮かべるだけだった。(また今日も来ているな)
 ある週の終わり、松本の表情は少し疲れているように見えた。それでも松本は一切の手を抜かない。演奏はいつものように冴え渡り、僕を陶酔の中に引きずり込んだ。演奏が終わると松本はいつものようにギターを掲げなかった。そっと地面に置いて、1人で階段を上っていったのだ。それは自分へのプレゼントかもしれない。盗むという意識はまるでなく、僕はごく自然にそこにあったギターを手に取って、ガレージを後にした。その日は、管理人も前を通らなかった。
 何も悪いことはないはずだ。PVの中だけのギターなのだし、それは僕にだけ大事であって、僕以外の誰にとっても何でもない物に違いないのだから。僕が持っていて、何が悪かろう。まだ熱の残ったギターを抱えて歩いていると不意に値札が目に入った。

(60,400円)

 確か3,000円であったはず。その時、僕は急に怖くなったのだ。大事だったの?
 本当は、自分以外にも広く価値のあるものなのかもしれない。早足で家に帰った。
 トイレットペーパーを1つとギターを手に、すぐ家を飛び出した。
 道行く人が、みんな僕のことを見ているようだった。どこかで誰かが通報したのだろうか……。
「こそこそあいつ、返すんだよ」
「一応、返すんだね」
「あいつ、ギター弾けるの?」
「ペーパーなんてつけるの?」
 いちいち行動を解説されるのが、耳障りで仕方がなかった。
「やっぱり、怖くなったんだね」
 振り向くな!
 強く自分に言い聞かせて、足を進めた。
 まっすぐ、ガレージへ進むのだ!


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カツカレーは食べられない

2013-09-26 07:28:41 | 気ままなキーボード
 おいしそうな写真を眺めている内に、気がつくとカツカレーを注文していた。席に置いている鞄のことが気になって、ちらちらと振り返る。女は驚いたように注文を聞く。メニューにカツカレーがあったということを初めて知ったというように。振り返って、おいしそうなカツカレーの写真を眺め、納得して、カツカレーですねと千円札を受け取る。カツカレーを作ることに全神経を使い始めた女は、まるでお釣りを返す気配がない。このまま時効まで持ち込むつもりかもしれない。置いている鞄のことが、また気になる。そういえば、さっきご飯を食べたばかりだと気がついた。でも、カツカレーがおいしそうに映っているから、食べられる気がする。と考え始めるとご飯を食べたのは本当は昨晩のことで、実際、自分がいるのは架空の場所に過ぎないと思われ始めた。今まで気になっていたもの、重要だったものの、1つ1つは、1つ1つどうでもよいことに成り下がっていく。
 鞄? あのぼろい鞄。それもどうせ夢なんだし……。
 お釣り? 200円? 300円? それもどうせ夢なんだし……。
 カツカレー? どうせ食べられないんだ。 (おいしそうだったけど……)

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起床

2013-09-25 07:44:35 | ショートピース
どうすれば上手く眠ることができるのか。若者はあらゆる獣を数え、あらゆる子守唄を聞き、あらゆる退屈な本を読むことを繰り返した。長年の努力が実を結び、ようやく眠りの核心に触れる頃、見えてきたのは安らかな永遠へと続くスロープだった。明け方、鶏の鳴き声で老人は目覚めた。#twnovel

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屋根の上のライブ

2013-09-24 00:27:32 | 夢追い
 兄がライブを開催することに決まった。
「えっ、屋根の上で?」
 お客さんが屋根の上で見るのではなく、兄が屋根の上で歌うのだった。
「お金取るの?」
 1人300円取るのだという。
「有難いねえ」
 お金を払ってまで来てくれる人がいる。家族みんなで、有難いと言い合った。実際に兄が歌い始めると近所の人が誘い合って集まってきて、草の上に腰掛けて兄の歌を聞き始めたのだった。3曲を歌い終えて、兄の喉の調子も順調に上がってきた。機材を抱えた父も、音量レベルを調節したり、カメラの方向を変えたりと大忙しだ。
 すべてが順調に回っていると思えた頃、突然、兄の歌声が聞こえなくなった。それは父のせいだった。

(チャンネル変えたら駄目じゃないか)
「お父さん!」
 機材の方を向いていた父がようやく異変に気がついて、リモコンを手にした。すぐには復旧しない。
「入力切替!」
 父に向けて叫んだが、なかなか父に指令が届かない。ついに父からリモコンを奪い取って、入力切替ボタンを押した。画面が切り替わる。それでも兄の歌声は復活しなかった。最初の設定とどこか違っている。早く元に戻さなければ、わざわざ兄の歌なんかを聴きに足を運んでくれた近所の人たちに申し訳がなかった。
「チャンネルなんて変えるからよ」
 姉(や母や誰か)がそう言って過去のことを責め出すことを恐れて、理論を超越したボタンの連打が始まった。そうすることで得体の知れない問題が解決するということも、稀にある。動揺は広がっているはずだが、客はまだ帰らない。
「兄ちゃん、シャウト!」
 困った時は、シャウトだよ。

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インスタント店長

2013-09-20 11:12:14 | ショートピース
入店して3分も経つと私は店長になった。「私が店長の綿鍋です」という他にも店長は現れて、我も我もと店長は名乗り合い、競い合って働いた。「店長を出せ!」と誰かが叫ぶと皆一斉に集合し、深く頭を下げた。私たちは皆で協力して店長の責任を背負いながら、休む間もなく働いている。#twnovel

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いとをかし

2013-09-19 12:57:01 | ショートピース
もう赤くはない。運命を帯びていたはずの縁からはどこかですっかり外れ、私はどこにもつながらず、どこにも編み込まれることなく、ただ空気を読んで漂うばかり、今は見知らぬ紳士の肩を借りて一休みしているところだ。「糸くずがついていますよ」親切な人が私の存在をあえて口にした。#twnovel

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キャップ    

2013-09-18 21:48:06 | 夢追い
 町の外れに長々と作られた休憩所。それはどこにも行くことのない列車だった。何をするというわけでもなく、見知らぬ人同士が身を寄せ合って座っている。入り口付近は外から風が吹き込んで寒いというわけか、比較的空いている場所が多かった。ギタリストは誰も座っていない座席の中央に腰掛けて、早速胸にギターを構えた。隣の小柄な男はマンドリンを持っている。ギタリストは勢いよく玄を弾いた。人前で演奏する自信があるのだろう。見ているとすぐに影響を受けて、これからギターの練習を始める自分、猛特訓を重ねる自分を想像してみた。こっそりと上達して、ある日、突然に兄の前で披露するのだ。驚く兄を想像する。悪くない。
(あっ、ギターの先生がやってきた)
 同じ車両で鉢合わせて、玄を弾く勢いが弱まった。いつの間にか前の座席中がギター仲間で占められていた。よく見ると道の向こう側にも列車が止まっている。
(動いた!)
 動いたのは前の列車ではなく、僕たちの乗った列車だ。23時。どこかに行くと、もう戻れなくなってしまう。
「次は駅。次は駅。各鉄道が乗り換えです」
 長いトンネルを抜けるとまた見慣れた町のネオンが目に入ってきた。どこかに行くようで、結局どこにも行かず元の場所に戻ってくるだけなのだ。端に一箇所だけある門が開くと、皆が一斉に福男を目指してスタートするのだ。
(狭い!)
 どうして降りていいかわからない狭き門だった。皆はどうして降りていくかと思うと皆は宙返りしながら勢いよく降りていくのだった。一歩も助走が取れず僕は上手く宙返りができなかった。そうしている間に踏み台にされ、次々と後ろの車両からやってくる者たちにまで抜かされてしまう。最初のポジションはよかったのだが、ここまで出遅れてしまうともはや今年のレースにチャンスはない。犬の鳴き声が聞こえる。
(散歩はまだ行かないの?)

 無益な投入を繰り返しても、その度に百円玉は落ちてくるだけだった。
「おかえり。また戻ってきたんだね」
「ごめんよ。正しいルートを見つけることができなかったよ」
「もう1度行ってらっしゃい」
「行ってきます。今度が最後になるといいね」
 頑なな機械は、すべての別れの儀式を無駄に終わらせてしまった。ちょうどその頃、古びた車がたくさんのお菓子や飲料を積み込んで道を下りてきて止まったのだった。扉が開くと、冷蔵庫に中にはよく冷えたファンタグレープがあった。
「瓶?」
「4リットルの瓶だからちょうど400円だね」
「1つください」
 ずっしりと重い。

 怪我に強いとされるピッチに足を踏み入れると足は深く沈んだ。しっかりと練習をして慣れなければならない。流れたパスを必死で追いかけて、蹴り返した。
「中から蹴って!」
「今、外だった?」
 ぎりぎり追いついたと思ったが、追いついていなかったか。今度は僕の蹴ったボールが大きく逸れて逆サイドまで飛んでしまった。
「蹴ってくれ!」
 敵チームの奴が、蹴り返したが届かない。ボールは長い芝に呑まれて、勢いを失ってしまった。止まるんだ。この感じ、この感触。ずっと昔、僕はここに来たことがあるのでは……。10年前、代表に呼ばれた時に。そうか。なあヒデ……。
 みんなはゴールマウスを取りに倉庫へ向かったところだった。今がチャンスだ。家に上がり込んでキッチンの冷蔵庫を開けた。ファンタはしっかりと蓋がしてある。誰も開けることはできまい。そこでファンタはキープしておいて、別のオレンジを持っていくことに決めた。
 倉庫から子供たちが帰ってきた。錆びのついた柵や、茶色がかったロープを持っている。
「今使わないでどうするんだ!」
 リーダー格の少年が叫ぶ。
 女の子は犬を抱えていた。
「この子かわいそうなの」
 犬は、胸の中で小さくくしゃみをした。
「普通の犬は、周りの犬に向かって吼えるけど、この子はひとりなの。保険がないなら私の保険を半分分けてあげるからね」
 深い芝をまったく苦にすることもなく、ピッチのいたるところで犬はボールに絡んだ。そして、間もなくキャプテンマークを巻くことになった。

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エヴァードッグ

2013-09-17 12:57:53 | ショートピース
同期が完了すると一緒に散歩を始めた。巧みな犬コントロールを見せるおばあさんの足元から、犬は一定の距離を保って動く。角を曲がった時だった。「パスワードの再設定を。」メッセージと共に、犬は消えてしまった。「サイバー攻撃だ!」おばあさんは慌てて町の動物病院に駆け込んだ。#twnovel

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四面楚歌

2013-09-12 21:14:32 | 夢追い
 敵も味方もわけがわからない。せっかくのコーナーキックだというのに分厚い壁に覆い尽くされ、ゴール前どころか敵陣にさえ入れない。チャンスは一部の人たちのためにあって、自分には何の関係もない。参加資格を持ちながら、傍観者でしかないなんて、おかしなゲームの中に取り込まれてしまった。
「やめた、やめたー!」
 もうやめだ。どいてくれ。僕は先に帰るぞ。1人この狂った渋滞の中から抜け出すことに決めた。金網を抜け出して、見物の人垣をかき分けて、ようやく脱出に成功した。
 道には浴衣を着た人々があふれていて、遠くから太鼓や笛の音が聞こえる。今日は祭りだ。
 抜け出す時に服が破れてしまったので、スポーツ店に駆け込むと招き猫がおじぎをした。
「ここにはジャージは置いてないんですよ」
 と店長が申し訳なさそうに言うので、仕方なく猫と遊ぶことにした。体を撫でていると猫は伸び上がってあくびをし、立ち上がって更に大きなあくびをした。大きく開いた猫の口から、子供の声が聞こえる。
「それは隣からだよ」
 猫は言った。ランドセルを背負った女の子が入り口から入ってくると猫の表情が崩れ、人懐っこいものになった。
「おかえり。今日はどうだった?」
 猫はたくさん笑い、たくさんの質問を投げかけた。
「コミュニケーションがいいね」
 と女の子が感想を述べた。

 友達は親子で来るし、タイラー氏も来るし、来る時はみんな来るのだ。あのタイラー氏がやってきた時は、周りもさぞ驚くだろうと思われたが、適度に抑えられたスタイルとごく自然な振る舞いで場に溶け込んでしまった。
「私の席は?」
 とタイラー氏が訊くので僕が案内した。
「乾杯!」
 みんなとタイラー氏と乾杯して、肉を焼き始めると瞬時に肉は燃え上がった。勢いよく燃え上がる炎を抑えるために、上から肉を被せると一瞬それは静まったようで、すぐにまた復活してしまう。復活の炎を封じるために、次なる肉を投入しなければならず、一息つく暇もない。これでは肉がいくらあっても足りないようだぞ。
「見ていないで手伝ってくれ!」
 テーブルの外の通行人に向かって、助けを求めた。

「暑いね!」
 シェアハウスの住人との会話はまず温度のことから始まった。女は暑いと言い、もう1人の女も暑いと言うので、僕もそれに合わせて暑いということにした。
 着替えるため下の階に下りると窓が全開になっていて、人の目があるから本当は全部閉めたかったのだけれど、暑いという声をたくさん聞いてしまった後ではそれもためらわれ、羞恥心を完全に消し去ることも難しかったので、間を取ってレースのカーテンを閉めることにした。
「もう5時間も回しているのに」
 いくら待っても洗濯が終わらないと言って女は嘆いた。欠陥住宅かもしれないと言って、もう1人の女も訝った。もう少し待ってみるべきか、すぐに管理人に電話してみるべきか、2つの結論の間を意見が行き来する。
 後から来た僕は大きなことは言えず、シャワーを浴びることにした。レバーをシャワーの方に切り替えると、カチッと音がして洗濯機が止まった! 言わなければ……。誤って止まったのか、ようやく止めることができたのか、たまたまタイミングが重なっただけなのか、よくわからなかったけれど、5時間もして動きがあったのだから伝えてあげなければならなかった。
 クワガタムシの抜け殻が浴槽の傍に落ちている。
「おまえのせいか!」
 すぐに手に取って殻を剥いた。中にいたのは鬼クワガタムシだ。けれども、突然、下半分が高速回転を始めた。
「下は蜻蛉じゃないか!」
 種々の間違いを責めているとすっかり髪も伸びてしまった。

 どこを向いても壁にはスクリーンが架かっていた。小さな枠では、ミニドラマが、大きな枠の中では大河ドラマが映し出され、順番待ちの人々は主に正面を向いて、メインスクリーンに見入っている。もはや待たされているということを忘れ、それを見るためにこの場所に足を運んできた群衆であるようにさえ思われた。
「次の方どうぞ」
 ついに僕の番が来たのだと思って歩き出したが、ほぼ同じ瞬間に席を立った男がいたのだ。男は一歩先に僕の前を歩き、その結果一足早くたどり着くことに成功した。呼ばれたのが本当に彼だったように、彼は順調に席に着くと美容師も同席して4者会談が始まった。どこにも入り込む隙はない。
(やってられるか)
 短編サイドのドアを開けて、僕は逃げ出した。

 長い時間、硝子を見ていた。意を決して手に取ると慎重にレジまで持ち運んだ。歩いている間に、重さがずっしりと手の中で実感されて、徐々に不安が増していった。
「送れますか?」
「送れません」
 老人は即答し、あきらめの道に導いた。
 元あった場所に、硝子を押し込んだ。
「はい!」
 語気の強い老人の声が、その時、背中を打ちつけた。
「鞄の中を見せて!」
 有無を言わせない自信に満ちた態度が、抗う余地を消していた。
 鞄の中から取り出した文庫本を手に取って、老人はその隅々を見つめていた。それから目を離すと、突然時効が成立したというように文庫本を鞄の中に戻してチャックを閉めた。何も言わず、老人は鞄を返した。
「もういいんですか?」
 老人は頑なに顔色を変えない。叫びたい。
 店を出るなり本当に叫びたかったけれど、叫び方もわからなかったので、声を出さずに叫んだ後で、1人の部屋に戻った。

 勢いをつけてカーテンを閉めようとした拍子、レールの上で何かが弾け飛んでしまった。閉め切れなくなった硝子の隙間から、クリスマスの飾りつけで覆われた地上の家が強く輝きを放った。
(もう終わったのに)

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初秋

2013-09-11 08:13:43 | ショートピース
毎日毎日、寺に通い詰めて1つ1つ自分の中の弱い心を追い出していきました。日々は過ぎ、私の中に千のあきが流れ込んで、ついに生まれ変われる時が訪れました。「新しいあなたにバージョンアップする準備が整いました」私はあきと過ごした月日にさよならを告げ新しい明日に踏み出す。#twnovel

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マイコックピット (やまとなでしこ)

2013-09-09 13:38:41 | アクロスティック・メルヘン
やってくる
魔物たちの襲撃に備えて
特に重要だと思われたのは
何はなくても
「手に職をつけることです」
しっかりとしたプランを持って
コツコツと身につけなければなりません。

「厄介なことだが」
町の長老の話によるとそれは
戸締りと同じことだと言います。
「何もないのはまずいのだよ」
手が空いていると中に不条理な
仕事を放り込んでくる
個性的な魔物もいるのでした。

やさしいことではなかったけれど、
学ぶことに夢中になっていると
時はどんどん過ぎていって、
夏の終わりのある日、
哲夫くんはようやく
職へとつながる道筋をみつけ、
根気強く励み続けたのでした。

やかましく言う師匠も、
まやかしにあふれた教祖も、
特別に集められた講師陣も、
仲間の1人だって、
哲夫くんにはいなかったけれど、
修練を繰り返しながら、自分という名の
コックピットの中で夢見ているのでした。

闇の中で耳を澄まし、
まどろみながら光を集め、
遠く離れた街まで、
名前を探す旅に出ます。
天使を折って
新年になって
子馬に乗って

山に登って
マナティを折って
トビウオを折って
長い時間が経って
天狗の鼻をへし折って
しゅんとなって
恋に落ちて

やつれ果てて
待ちわび待ちくたびれて
時計を折って
長袖の先を
適当に折って
シュガーを折って
腰を折って

薬局によって
待たされて待ちくたびれて
トレイを持って
ナッツをのせて
天秤にかけて
シンメトリーで
これ幸いと

休みをとって
マストを折って
トスを受けて
奈落の底で
手相を読んで
芯から冷えて
小熊を追って

ヤマトを折って
まな板を折って
問いかけを折って
ナナフシを折って
テーブルを折って
シロイルカを折って
小春を折って

焼き芋を折って
魔術師を折って
といったところで、
「何を折ってもうまくいかないな」
哲夫くんは折々を振り返って
萎れてしまったのでした。
これはいったいどうしてだろう……。

「やめてしまおうか」
「まだまだじゃないか」
と言ったところで
「何を折ってもうまくいかないばかりに」
手に取るものすべてが空しく思えて
「しっかりするんだ!」
コックピットの中から声が聞こえます。

やがては突き抜けていく雲を夢見ながら、
まだそれよりも遥かに深い冬の中に、
留まり続ける夜の向こうから、
涙が滲むのを感じた哲夫くんは、
手の中にある2番目の指を、
しっかりと内側に折り曲げると、
コの字を作ってまぶたに押し当てたのでした。

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終末の乾電池

2013-09-05 21:51:02 | 夢追い
 明日が世界の終わりだというのにみんな普段通りに、平然とした様子で眠っている。どうしてそんなに普通にしていられるのか、どうも腑に落ちないのだ。普通だったら、もっと騒ぎ立てるとか、残念がったり、残り少ない時間でできることを精一杯頑張るとか、何か特別な行動を取るのではないのか。それなのに、そうした様子は一切見せず、今までと同じように布団を並べてただ一緒に眠るなんて。しかも誰も何も言うべきことがないなんて。本当は誰も眠っていないのだろう。
「今まで、みんなありがとう」
 せめて自分だけは何か特別なことを言うべきだという気がして、言った。今までそんなことを言う機会もなかったし、言いたくもなかったけれど、今となってみれば、突然そんなことを言いたくなったのだ。本当はもっと、1人1人について、感謝の気持ちを表したかったけれど、いくら世界が終わるといってもそこにはまだ気恥ずかしさが少しは残っていて、みんなという言葉に乗せることが精一杯だった。

「終わるといってもそんな急に終わるわけない」
 父はそう言ってから、乾電池を寄せ集めた。特別な装置を使って、1つずつ電池の残量を測っている。街中の電池が、急激に失われているという噂になっているのだった。
「雑巾を持って来い」
 雑巾は使い捨てずに、1枚ずつ充電して使うようにと言う。テレビの上には、長年の埃が降り積もっているようだったが、今更それを拭って何になるだろう。本当に、父は正気なのだろうか。世界の終わり記者会見の一座が会見を始める。
「我々は悪い知らせを持って地球を回っています」
 ちょんまげ頭の座長が一座を代表して言った。
 各国の報道陣から、質問が投げかけられる。中には少し、的を外した質問も見受けられた。それに対しても座長の受け答えは冷静そのものだ。
「ピッチャーだけが注目されすぎている現状は、少し問題でしょう。それでピッチャーだけが引退しても役者になって活躍することになる」
 もう少し、各ポジションに視線を分配することが重要と座長は述べた。
「勿論、テレビのない国々も回らなければなりません」

 試合前のテーブルについたタクは、通帳を並べて振込先のチェックをしている。僕のいないチームなんて火達磨になって負ければいい。そう決めて新しいチームを作ったのだ。昔の友達も戻ってきたし、新しい仲間も加わって、今から僕を切った奴らを倒すのが楽しみでならなかった。ついつい昔の習慣で、古いチームのベンチに入ったりして恥をかかないように注意しなければならない。顔を合わせても、愛想笑いなんてしないように決めておこう。色々と決めておかなければ、曖昧なことをして自分に負けてしまいそうだ。右から行こう。右へ右へ抜いて、シュートを打ち切ってしまおう。それも決めておこう。僕にはもう全部イメージができ上がっている。
 誰かが猫の湯船にお湯を継ぎ足した。
「熱いんじゃない?」
 やはり熱かったのか、すぐに猫は湯船から抜け出してこちらに歩いてきた。
 熱い! 熱い! と言って僕の胸を力強く押してきた。
「この子、力が強くなっている!」
 しばらく見ない間に、猫は随分と大人になったのだ。
「怒ってるからじゃない?」

 試合はレースとなり、ついには鬼ごっこと化していた。温めていた走法が炸裂すると誰も僕の走りを止めることはできなかった。肩の高速回転と強い遠心力が、触れようとする者たちを弾き飛ばすため、追いついたとしても、手を触れることもできないのだった。
「一説にはカンガルーからヒントを得たとも言われています」
 何よりも心強かったのは相棒タクの存在で、普通ならグランドを走り切っただけでくたくたになるところだが、衰えることのない勢いはその後の階段レースでも、坂道レースでも続き、各国の強豪を前にしても、その強さは群を抜いていたのだった。
「まだ余裕?」
 そう問いかけた時、彼はいつも笑って頷くだけだった。
 勝利の余韻が残る橋の上で、彼は祝福の携帯電話を握り締めている。
「えっ、9人? 全部で9人?」
 予定よりもメンバーが増えたようだった。
「君は帰れ」
 そういうことで僕は家に帰ることになった。

 家の中は妙にひっそりとしていた。
「鉄人リレーで優勝したよ」
「まあ、それはよかったね」
 よかったと言う母の笑顔は、どこか残念そうだった。
 風呂はもう船になってしまったから、入れないと言う。
 テレビの上に無造作に置かれている、開くとそれは町内会名簿だった。ページをめくっていくと、そこに僕の名前があった。どうして僕が……。
 僕はどこかに行くのだろうか。
 空っぽの湯飲みの横で、直立した乾電池が僕を見つめていた。

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一夜のガバナンス

2013-09-04 08:41:06 | ショートピース
犬の鳴き声で目覚めてカーテンを開けると外の大臣がすっかり変わっている。「僕ちょっと見てくる!」突然訪れた政治への目覚めを止めることはできない。「すぐ帰るのよ」冷たい風の中を、駆け出していく。「不祥事ではないがガバナンスが悪い」朝のコメンテイターが真剣な顔で述べる。#twnovel

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エンディング

2013-09-02 07:20:14 | ショートピース
「あの子だけはどうしても守りたかった」崖っぷちに立ってヒロインはあらましを述べる。「あの時は他にどうすることもできなくて」目はナイフのように潤んでいる。「まあ立ち話もなんですし」共感を示しながら腰を折ると脇役は身を投げた。続いてペンギンたちも次々と海へ飛び込んだ。#twnovel

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