眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

涙のチケット

2013-06-26 20:35:10 | 夢追い
 雨だからという予想に反して大勢の人が席を埋めていた。券売機があるはずの場所には、硝子ケースが置いてあり、皿に盛られた食品サンプルが並べられてあった。
「今はランチだけ?」
「今は何でもできます」 
 安心して財布の中を確かめると小さなお金がなかったので、両替してもらうことにした。
「両替ですか?」
 女はそう言って、後に早口で何かを付け加えたようだが、その時入り口の扉が開いて雨音が入り込んできたのだった。
「いいですよ」
 適当に返事をして待っていると、3千円分は食券となって戻ってきた。メニューは適当に振り分けられていて、その1枚1枚にははっきりとした文字で僕のフルネームが印字されていた。何だこりゃ。こんなことを頼んだ覚えはない。ここは人として怒らなければならないところだった。
「戻してくれ!」
 こんなことなら元の1万円に戻して欲しいと訴えた。
「平成24年度から当店で両替されますと」
 女は新しい制度だと主張して、さっきも言ったでしょうという態度だった。食い下がっても、そっぽを向いて仲間たちの下へ行ってしまう。しゃがみ込んで梱包作業を始めてしまった。ちょっと聞いてくださいよ。仲間たちにも聞こえるように訴えかけたが、女は作業の手を止めることはせず、黙って蹴りを入れてくるのだった。仕方なく、店の奥に行って別の従業員を捕まえた。

「マネージャーを!」
「呼んできます」
 すぐに2階からマネージャーが下りてきた。
 客席を使用して3者会談が行われることになった。マネージャーが何か言い始めるのを制して、僕は自分の主張を展開した。
「小さな声で言うから、札が細かくなるくらいのことだと思ったんです」
 女の説明を振り返って訴えた。ちゃんと伝わっていれば、こんなことにはなっていないのだ。
「どうせ使えば一緒ですし」
 店長が調子のいい口を挟んできた。すぐになくなりまよと言う。
「そんなヘビーユーザーじゃないんだ!」
 メニューまで勝手に決めやがって大きなお世話じゃないか。
「当店では平成24年度から……」
 マネージャーが女と同じ説明を始めた。
「そんなん知らん!」
 おかしなローカルルールを認めるわけにはいかない。
「****頑張れ!」
 見知らぬ客が僕の名前を呼んだ。
 声援にしては、心が感じられない。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポリス・ガバナンス

2013-06-19 20:09:53 | ショートピース
今年度に入ってから犯人を取り逃がすことが多くなった。2週にまたがっても捕まえられない、と国民からはクレームが殺到した。捜査体制に問題はないのか。「相棒が変わっていることは気づかなかった。最近は若い人の感覚についていけず、ひきこもりがちだ」あるベテラン刑事は述べた。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ともだちガバナンス

2013-06-19 07:49:49 | ショートピース
今年度に入ってからゲームが終わらなくなったと多くの不満が寄せられた。調べてみると曲の進行に合わせて椅子が増え、友達の輪が広がってゆくことに原因があるとわかった。「今後はガバナンスを強化することでゲームの進行をより早めたい」ストーリーテラーは眼鏡の奥の瞳を輝かせた。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大臣ホームラン

2013-06-18 16:05:53 | ショートピース
今年度に入ってから株価が乱高下するにつれて服装やマインドも乱れ、時には取り返しのつかない暴投によって乱闘騒ぎにまで発展した。「大臣が予想以上に飛ぶと思っていた。今後は党首と連携を密にし、ガバナンスをより強固にすることで国民の審判を仰ぎたい」とある大臣は襟を正した。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ネバーギブアップ

2013-06-18 15:11:27 | ショートピース
今年度に入ってからどうも戦いがねちねちしている、画面に粘り気が感じられるなどの声が寄せられた。調査の結果、いつの間にかすべての石が納豆に変わっていたことが判明。会長は本来なら蓋を開けた段階で気づくべきだが、今後はガバナンス強化により碁石の健全化に努めたいと述べた。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

チェアマンの背中

2013-06-18 00:59:56 | ショートピース
今年度に入ってから手を使ったゴールが認められたり、少し高く跳んだだけで即退場になったり、判定にブレがあるとの声が多く寄せられた。チェアマンは、調査の結果、審判のアンドロイドが旧タイプのものと入れ替わっており、不祥事の責任を取って直ちに自らの椅子を低くすると述べた。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スイートモーション

2013-06-17 19:48:41 | ショートピース
今年度に入り盗塁の数が飛躍し、2塁へ届くはずの球が捕手の胃袋の中に消えているのではとささやかれ始めた。コミッショナーは公の場で、公式球がいつの間にか大福餅に変わっていたようだと述べ、甘党低迷の責任を認めつつも、ガバナンスを徹底することで球質を改善する意向を示した。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪人ガバナンス

2013-06-17 18:39:02 | ショートピース
今年度に入ってから急に死にすぎる。主人公の侍は悪事が発覚する前に切りつけ、悪人顔というだけで刀を抜く、どうも命が軽く扱われている。プロデューサーは、悪人が死ぬのは当然と前置きした上で「昨夜のテレビを見て初めて知った。局のガバナンスが最も悪い」と反省の弁を口にした。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

うどんガバナンス

2013-06-17 17:51:29 | ショートピース
今年度に入ってから急にうどんの腰が弱まったという声があちらこちらから持ち上がったため、ついに店長が表に顔を出した。内部調査の結果、職人の一部が本来はうどんを踏むべきところを誤って蛇を踏んでいたことがわかり、今後はガバナンスを徹底したい、と店長は深々と頭を下げた。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

教育ガバナンス

2013-06-17 11:06:59 | ショートピース
今年度に入って学校中の生徒の成績が急激に上がったのは一体どういうわけだと多数の声が寄せられたため、緊急の調査が行なわれることとなった。会見の席で校長は、教員の大部分がいつの間にかアンドロイドに変わっていたが、成績が伸びたというだけで何も問題はなかったと胸を張った。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

指運

2013-06-13 12:16:17 | 気ままなキーボード
遠回りすればいくらでも勝てた。勝つというだけなら、何通りも勝ち方はあった。でも、ただ勝つだけではなく、プロなのだから、できることなら少しでも鮮やかに、みせて勝ちたい。揺れる想いは着手となって、最果ての地の周辺に奇妙で危うい形を作り始めていた。それでも、どこかで、ただ勝つためならば、引き返せる場所はいくらかあった。それは全体として見ればフィールドを汚してしまうことかもしれない。最後の決着をつけるために猛然と飛び込んだ瞬間、皮肉なことに形勢は入れ替わってしまった。もう少しだけ勇気が足りなければ、何事も起こらずに済んだかもしれないのに。物語は、あるところからみれば悪夢のような結末を迎えた。とても信じられない。戦い終わって、勝者も敗者も何も言葉を発しなかった。すべては指先で語り尽くされていたから。2人はどちらも人間らしい。残されたのは1枚の譜面と、勝敗の銀河を越えた人間たちだった。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

観光地からの脱出

2013-06-12 08:11:09 | 夢追い
 来客用に風呂のお湯を入れた。温度は生温かったが、最後に熱湯を足すつもりで、その内風呂の存在そのものを忘れてしまっていた。気づいて駆けつけた時には、湯船に蓋がしてあった。母が気づいて手を回していた。ムカデが出たので、部屋を替ってもらうと言う。
「300,000欲しい」
 お湯の量から計算すると部屋代はそれくらいは欲しいと言う。
「銭? 銭なの? 切り捨てて単位を変えられない?」
 お金の話をしていると客人が部屋に入ってきた。続けて兄が帰ってきて、客人と話をしている。巧みな話術によって、兄は手にしたアンケートに答えさせられている。こちらにも回ってきそうなので、慌ててそっぽを向いた。テレビでは野球の日本シリーズが始まっていたが、興味が持てず、僕は自転車に乗って遠出することにした。

 県境まで行ったところで急に睡魔が襲ってきたので、自転車を止めて川辺に横になり一休みした。目が覚めると体がだるく、このまま帰ることも考えたが、それほど時間が経っておらず、どうも冴えないと思った。他県まで行くとなるとそれなりの覚悟が必要で、スニーカーを履き替えると、古い靴はトンネルの傍に置かれた木材の隅っこに置いていくことに決めた。連休で交通量は多く、激しい車の流れに交じってペダルをこいだ。前籠に入っている誰のかわからないCDが揺れて落ちそうだった。車で1時間の道は、自転車ではどれくらいで走れるだろうか。徐々に目が冴えて、体力が戻ってきた。
 目的地に近づくと突然道は進入禁止となり、自動車も自転車も下りて誰もが歩いて進まなければならなくなった。観光用に用意されたルートのようだった。突然、道は険しくなり、道に沿って用意されたロープを掴んでよじ登らなければならなくなった。それも旅の思い出と誰も文句も言わず、ロープを伝った。
 ついに頂上まで来ると入り口の扉が開いて、招かれるようにして人々が入っていった。薄暗い洞窟の中には、既に前からそこに来ている人たちの姿があったが、服が汚れていたり破れていたりした。更に奥の方を見れば裸同然の人もいたし、外国人らしき人たちの姿も多く見えた。新しくやってきた人の音楽プレイヤーがクイーンを奏でる。

「懐かしいな……」
 破れた服を着て、顔に泥をつけた老人が、黒い壁を見つめながら言った。
 上の世界に行くにはエントリーが必要だった。つれもなく1人でエントリーするには気が引けたが、行くだけ行って帰ってきたという土産話を家族にしている自分の姿を想像すると、そのまま帰るということにも気が引けた。ここにいる人たちは、どうしてみんな疲れた顔をしているのだろう。まるで長い間、この場所で過ごし、この暗がりの中で歳を重ねてきたという顔だ。エントリーには3つの方法がある。
 弓競技では優勝者にメイドのお姫様から祝福のキスが贈られる。優勝者の達成感溢れる顔がモニターに映し出される。お姫様の横顔は美しく、正面から見ると可愛らしくもあった。浮かれた顔がテレビ放映されるかもしれないと考えると、弓競技にエントリーするのは気が引けた。
 カーレースは過酷で、運転技術を覚えられない競技者たちがあちこちで壁にぶつけたり、車同士を接触させて炎上事故を起こしていた。それとは逆に信じられない速度で使用済みの車を後退させて、元の場所に戻しているのはレースのスタッフだった。
「写真の掲載には別途2万円が必要となります。但し、スタッフが一緒に写っている場合は掲載できません」
 逆上した競技者が、教え方がわるいと言って教官から杖を奪い取って殴りつけている。
「そんなことをしても出られんぞ!」
 若者は、すぐに駆けつけた回収スタッフに回収されて消えてしまった。
 どの競技も、卒業できるのは優勝者1名だけだった。何1つ自信がない半面、その周辺には危険なことばかりが待ち受けているようだった。

 できることなら、上の世界には行かず、来た道を戻りたい。けれども、それが困難な選択に違いないということが、しばらくいる間にわかり始めてもいたのだ。入り口の傍には狭い部屋があり、そこにはこの土地の家族らしき人たちが暮らしていた。ただ暮らしているというより、常に注意深く様子を見守っているのだ。
「まあ1杯どうぞ」
 僕と一緒に入った男が、家族に酒を勧めている。家族と親密になって悪いようにはならないだろうという様子だ。入り口の前には、彼も家族の1人だろうか、こん棒を携えた男が番をしている。
「さあ、次の客が来るぞ!」
 そうして重い扉が開く瞬間には、どこからともなく他のスタッフが駆けつけて、厳重な囲いが作られた。
「まあ、見ての通りだ」
 酒を飲みながら、男は言った。こちらには酒をくれるつもりはないようだ。
「あんたもそろそろエントリーすることだな」
 選べる立場にはないのだった。男の言葉に従って覚悟を決めた。

ガイダンスに従ってエントリーを済ませてください
競技種目を選択してから送信ボタンを押してください
送信後7分経過しても反応がない場合は、エントリーは失敗しています
再度、ガイダンスに従ってエントリーを行ってください
本日の受付は日の入り2時間前までです
ガイダンスに従ってエントリーを実行してください

 僕は3つ目の種目を選びエントリーした。出場者は僕1人だった。
 上の世界に立つと、この日最後の競技者として注目を集めた。
「スコアレスドローは何対何?」
「0対0」
「おめでとうございます! 全問正解です!」
 外の世界へとつながるゲートが開く。後は無事通り抜けるだけだった。
 指令塔坂から放たれた44号鉄球が遠隔操作で追ってくる。
「集中して!」
 言われなくても集中している。この権利を逃したら次があるとは限らないのだから。ゴールへの道筋も、44号の球筋もはっきりと見えていた。鉄球は遠隔操作されていたが、球筋は常に揺らぎ、軌道に迷いのようなものが感じられた。とても、追いつかれるとは思わなかった。敵はもう後方にはない。ただ前だけに、集中して。あと僅かで、僕は勝利者となっているだろう。
 4つ目のゲートを抜けたところで、女の姿が目に入った。女は裸だった。一瞬、足が緩んだところに女の張り巡らせた透明な糸が僕の足を捕らえた。気づいた時には、遅かった。
 間もなくしてタイムアップのサイレンが鳴り、すべてのゲートが閉じられる。
「私がエントリーするのだ!」
 女は髪を振り乱しながら、歓喜の声を上げる。
 裸になった僕は、罠を仕掛けながら待つ身となった。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

good day

2013-06-10 18:33:13 | 気ままなキーボード
どういうつもりで言っているのかな……。アホだ、アホだって。きっとどういうつもりでもないのかもしれない。こちらが深く疑うほどには何も考えてはなくて、ただ、挨拶の類のように。やあ、暑いね、夏だね、元気、おー、猫か、おはよう、またね、雪か、はじめまして、ははは、hola、肩の力を抜いて、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホだ、アホだ。念仏のように繰り返されて。僕は隣に立って名前もない馬として振る舞いながら、いななきもしないのだけど、その内だんだんと自分が鞭打たれているような気持ちになってきて。ただ掛け声みたいなものなのにどうしてこんなことになってしまうのだろう。猫とおはようの数はいつも数えないのに、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ。あなたの聡明な口から無数のアホがまたしても生み出されて、僕の目の前を行進していく。アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ、アホ……。

「いってらっしゃい」

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

全米ホームラン

2013-06-06 19:40:12 | ショートピース
高々と舞い上がった打球は、かつてない放物線を描いてバックスクリーンにたどり着く。その時のためだけに用意された7秒間だけの超短編映画が上映される。ちゃんと届いただろうか……。監督は人々の反応が気になる。男たちはベンチから飛び出して、賞賛の拍手で主演の帰還を出迎えた。#twnovel

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベッド・イン  

2013-06-05 09:10:42 | 夢追い
「ちゃんと見たのか?」
 チーフが言って、みんなが床の隅々を見渡している。
「見ました。見たけど、掃除はまだです」
「見ただけか!」
 みんなが仕事を始める中で、早速掃除に取り掛かった。ちょっと足元を失礼します。他人の邪魔になろうが、こちらはこちらでこれが仕事なのだから遠慮はいらない。必要とあらば一時的に椅子ごと移動してもらい、作業の手を止めてもらった。それに不満そうな顔をする人もいたが、反対にうれしそうに一休みする人、一緒になってゴミを拾ってくれる人までいた。埃が舞うので窓を開けた。空気の入れ替えも大切だ。風強し。重しをしなければ、机の上の大事な書類や秘密の文書が飛ばされてしまう。風入ります。各自注意してください。
 2階まで上がると更に風は強く、観光客らしき人たちの悲鳴のようなものが聞こえてきた。端っこまで行くと飛ばされて落ちてしまうという。僕はほうきを支えにしてやり切るつもりだったが、すぐにその悲鳴の意味を感じ取って、姿勢を低くした。とても真っ直ぐ立っていることも歩くこともできないのだった。端っこに行かなくても、うかうかしていると流されて端っこまで飛ばされて、落ちてしまう。近くにある凹みを見つけてその中に逃れるとしばらくの間、風が弱まるのを待った。

「上には行かない方がいいよ」
 下の人にも教えてあげた。チーフの傍は軽く済ませて、更に奥の部屋を掃除した。見えにくいところにも埃が溜まっており、それらを拭き取るとすぐに雑巾は真っ黒になったが、見えにくいだけその成果が人に伝わらないことが寂しかった。
 銃声がした。暴発ではない。怒号や悲鳴に続いて、更にまた銃声。一箇所ではなく、方々でそれは鳴っている。対立はこのところ穏やかになっていたようだが、何かのきっかけによってそれが最熱し、爆発したのだ。「逃げろ」という声も、最後まで言い切ることができない。従業員はみんな消されてしまった。裏口から風の危険を冒して再び2階へと上がり、昔使っていた仮眠室に逃げ込んだ。遠くで銃声が聞こえる。

 ベッドの中は空洞になっていてその中に身を隠すことができた。万一のために戦闘用の傘を脇に抱えて、身を隠すことに決めた。布を敷いた上に身を置いて、板を被せると板が少し浮いてしまう。布を敷かなければ下が固くて、長時間身を置くことが困難だ。布を敷いた上に身を置き、上から毛布を被ってみた。居心地は悪くなかったが、上から見た時に人間の形が浮いていて、いかにも人が隠れているように見えることが心配だった。まだ迷っている内に、ガチョウが鳴き出した。こいつも敵に寝返ったのだ。傘の先端を見せて威嚇すると一層激しく鳴き始める。敵に知らせようとしているのだった。傘を広げ大きな鳥の類のように見せて宥めようとするが、まるで効果はなく、口先で窓を叩き始めた。
「やめろ!」
 硝子が割れて、強い風が入り込んできた。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする