折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

折句の作り方 例「クリスマス」

2019-02-14 21:37:00 | 折句の扉

まずはしりとりのように

クジラ

リクエスト

水族館

マダイ

スローバラード

するとだいたい単語が並びがち

調べには欠けたものができると思います

それではつまらない?

しりとりはつまらない?

そうとも言えない気がします

言葉遊びのはじまりは

だいたいしりとりのようなものでは?

そこから生まれる物語だってあるのです

最初はそのように

ただただしりとりをして遊んでいてもいい

人間は遊びながらはじまっていくのだから

クジラうえ

リクエストした

水族館

マダイが歌う

スローバラード

折句「クリスマス」

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セカンド・フロア

2018-05-21 20:04:15 | 折句の扉
1階はレジとカウンターだけの僅かなイートイン・スペースがある。階段を上がると入り口からは想像できないほどの広がりが待っていた。迷うほど存在するテーブルの中から君は1つを選んで落ち着く。唐突な孤独感。天井が高く、周りには誰もいない。世界が変わった感じがする。突然地球の外に追い出されてしまったような不安を抱く。咎められるべき理由は数え上げればいくらでもあるように思う。不安に打ち勝つために君は折句の扉を開く。不安、孤独、自由。探していたのはこのような場所だったのかもしれない。

感情の
キリマンジャロが
月を切る。

関心が
恐怖に変わる
ツイートを。

カタカナは
気分によって
土を掘る。

足音が階段をゆっくりと上がってくる。誰かが歌の中に入り込んでくる。コツコツコツ……。

「お待たせいたしました」

歌から少し離れたところにカップを置いて店員は帰っていった。天井のあちらこちらに見える巨大な風車が力なく回っている。風は届かない。90年代ロックが流れている。美容院に置いてあるようなおしゃれな雑誌が並べられている。手にする者は誰もいない。

感情に
切れ目を入れた
角を立て。

神様は
聞く耳持たぬ
ツナサンド。

回文に
季節にそった
罪を交ぜ。

「そっちはいけません!」

どこからともなく子供が駆けてきた。子供にいけない場所などないのだ。母親の制止を楽しむかのように広い店内を駆け回ったり、テーブルの上に乗ったりしている。
「そんなことをしたらいけません!」
広いところがうれしいのか歯止めが利かない。勢い余ってテーブルの脚にぶつかって泣き出してしまった。
歌が、かきつばたが、飛んでいってしまう。ただのカフェではない。託児所にもなっている。君は小さかった頃の自分を少し振り返る。母が奇妙な色のセーターを編んでいる。夜になり12月になりおやつになり春になり、いつになっても完成しないセーター。音楽が最初にかえった。90年代ロックは12曲入りのエンドレステープのようだ。

母さんが
きりんを描いた
慎ましい。

母さんが
きりんを描いて
つけ込んだ。

母さんが
気を病みながら
ついた餅。

魚が焼けるような匂いが階段を上がってきた。趣向を凝らしたケーキだろうか。甘くはない新しいケーキだろうか。食べたくない。そんなの食べたくないと君は思う。自分たちの夕食だろうか。この店に住んでいるのだろうか。何時までだろうか。

解散の
きっかけを知る
罪を得て。


「724番の札でお待ちの方。お待たせしました」
君は数字の書かれた紙切れを持って、カウンターに歩いていく。そこはもはやカフェでなくなっている。どこにいるのかはっきりとしない。

「今日はどういったご用件で?」
唐突な声が君を問いつめている。



Xday
恐れおののき
待つよりも
今を歌って
愛するがいい

折句「エオマイア」短歌

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リターン情(折句の扉)

2018-05-14 19:44:52 | 折句の扉
帰宅すると玄関先でゴキブリが整列して出迎えていた。
「以前あなたに見逃してもらった者です。
今はこれだけ家族が増えました」
わざわざよかったのに。人の情けを信じてしまったゴキブリのことを、君は哀れに思った。それはとても気まぐれなものなのだ。キッチンを抜けてリビングに入ると扉を閉めた。
今見たものは、もはや現実かどうかわからない。
あらゆる扉は世界を分断するのだ。

君は冷蔵庫の扉を開けた。開けることのできる一番近くにあった扉だったから。痩せた人参と目が合った。君は扉を閉めることができない。電力が無駄に放出されていく。無駄にこぼれた冷気に触れて折句の扉が開いた。かきつばた。野菜とタッパーとチーズの隙間を縫って言葉があふれ出てくる。

かび臭い、枯れ果てた、通い合う……。きりんに引かれ、北の国より、厳しい君の……。続かない、月の愛、通過する……。

かえせないきみのなさけにつぶされて……。
はためいわくな誕生日会。

まだ疑問はくすぶっている。彼らはどこであんな礼儀を学んだのだろう。謎は、悪意を持てば恐怖になり、好意があれば関心になる。
どちらだろうか。
君はまだ自分の態度を決めかねていた。



永遠と
隣り合わせの
寝室で
駆除と叫んで
さしたスプレー

折句「江戸仕草」

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青の時代

2018-05-07 06:01:20 | 折句の扉
交差点の真ん中で立ち止まると君は折句の扉を開いた。あらゆる言葉たちが一帯に満ちあふれている。見知らぬ人の横顔に言葉が貼りついている。身に余るサイズの若者の袖口から、言葉がはみ出している。コツコツと杖が打つ地面から素朴な言葉のキレハシが湧き上がってくる。青の時代が長く続いた。陽気な者が吹く音程を外した口笛の端から出来損ないの言葉が逃げ出そうとしている。君はうれしさにたまらなくなって折句の網を大きく広げてその場に佇んでいた。

この時代が永遠に続けば……。永遠に歌い続けることが約束されている。幻想は束の間のものだった。無限に広がっていたはずの期待がゆっくりと萎んでいくように感じられる。無数に存在しているように見えるのに、確かな言葉は一つとしてかかってはこない。言葉はあまりにもあふれすぎていた。

「とても触れることができない」

宝の運び手であった人の顔が人形のように映る。プログラムに制御されて各地へ向かう自動人形だ。あきらめに流されるように君は交差点の傍観者になっていた。徐々に自動人形は縮小されて軽くなって緑色に染まり始めた。君の周りを流れていくのは無数のバッタたちだった。どんなに大きな折句の網を持っていたとしても、そこにかかる言葉は存在しない。

途方に暮れている内にバッタは呼吸を止めて記号に変化した。記号はやがて集合して人の形に戻り始めた。メロディーが変わり、人々は一斉に歩調を速めた。
けたたましいサイレンを発し赤い光の冠をつけた車が何かを捕らえようと急発進した。「行け行け!」やましいものを抱え込んでいた人々が、応援するかのように声を上げた。



早送る
痛く愚かな
応酬は
まとめてみんな
過ぎ去るがいい

折句「バイオマス」短歌
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ダルマさんが来ないんだ(折句の扉)

2018-05-04 21:19:43 | 折句の扉
表に人通りが絶えることはなかった。背筋を伸ばして待っていると誰も中に入ってこない。君は本を開いて退屈を紛らわそうとする。3行読み進めると自動扉が開いた。久しぶりの来客だ。久しぶりに働いて、次の来客を待った。歩いている人は多い。こちらに顔を向ける人も見える。けれども、扉は開かない。君は袖に隠れてこっそりチョコレートに手を伸ばした。ひとかじりしたところで自動扉が開く音がした。君は慌てて口を拭って出て行く。チョコレートのかけらが床に落ちて散らばっている。美味しくない。存分に味わうことができない。甘い香りをまき散らしながら、君は丁寧に接客を終えた。続いて入ってくる人はいない。

君はまた本を開く。3行進むと約束したように客がやってきて君の手を止めた。どうやら忙しくなりそうだ。そうして何もせずに待ちかまえていると誰も訪れない。意を決して本を開くが、するとすぐにドアが開く。何度繰り返しても同じだ。3行毎に客は足を運んできて君の世界を断ち切った。集中できない。「物語に入り込めない!」

嫌気がして君は本を開くことをやめてしまった。じっとしていると徐々に体が冷えてきた。袖に入ってカーディガンを羽織りかけているとすかさず自動扉が開いた。途中で出て行く君は慌ててボタンをかけ違えていた。
「いらっしゃいませ。プランはどうしましょう?」
「どうもこうもないよ」
破れかぶれの紳士を君は冷たい口調で定番のプランの中に封じ込めた。それから君は小腹が空いてもチョコレートに手を出さなかった。本も開かず、表の人々を見ていた。必要なのは誰にも悟られない動作だ。
折句の扉が開かれるべき時が訪れた。



絵の中の
オズの使いを
待ちながら
インコは独り
愛をさえずる

折句「エオマイア」短歌



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デュエル歌合戦

2018-04-27 21:19:56 | 折句の扉
サイド攻撃を仕掛けようと君は左サイドを駆け上がった。けれども、ゲームは右サイドを中心に組み立てられていた。10番と7番がテンポよくパスを回し幾度となくチャンスを生み出していた。敵もそれに応じて右サイドに守備の重点を置き始めた。そうなると攻撃は目に見えて渋滞を起こした。「よこせ!」君は大きく手を上げてアピールした。ピッチの中にサイドチェンジという言葉は存在しないようだった。向こうが陸ならば、こちらは海だ。君の前には敵のアタッカーが立っていた。

「どうしてマークする?」
「危険だからだ」
ゲームは逆サイドに傾いているのに何が危険だ。左サイドには攻めもなければ守りもない。忘れ去られた左サイド。もしかしたら誰も見ていないのかもしれないと君は思い始める。ただ無意味な上り下りを繰り返して、地味に消耗していく肉体。退屈と少しの寂しさの中で折句の扉が開かれた。

「監督が希望の星をつかむ手に」
「ハミングをする炊き込みご飯」
何だって。
「駆け上がる希望の消えた土を蹴り」
「ハムを拾って食べてもいいの」
腹減ってるのか。
「過大なる期待の裏でつぶされた」
「バームクーヘン食べてもいいの」
「どうして返すんだ?」
「お前の動きに合わせるのが俺の仕事だ」
「そうか。だったらもっと真面目に返せ!」
「お前もな」

「回想の汽車が運んだ月の夜に」
「はくしょん!メシの種をまきたい」
何だって。
「軽やかに着こなしていたつかの間の」
「ハーフタイムに食べる焼きそば」
腹減ってるのか。
「形なきキッスがうそをつく頃に」
「ハンバーガーを食べ尽くす君」
「お前、腹減ってるな」
「それがどうした」
「歌に私情を挟むんじゃない」
「他に何があると言うんだ」
「もっと大きな世界を歌うべきだろう」
「お前がちゃんとビジョンを出せよ」
「お前とは合わないな」
「当たり前だろう」

「カシミアの胡瓜に苦い罪を着せ」
「はさみ将棋を楽しむがいい」
「快楽と恐怖が交じるつむじ風」
「判定はアンタッチャブルだぜ」
「癇癪のキックが語り継ぐものは」
「墓石ほどに他愛ないもの」
「どういう意味だ?」
「俺にわかるはずがないだろう」
「俺のかきつばたをよくも壊してくれたな」
「お前のかきつばただと?」
「俺のじゃない。だがお前のものでもない」
「だったら何だ」
「歌うならちゃんと魂を込めて歌え!」
「半分はお前のせいだろう」

「神さまが君を描いた翼ある……」
「……」
割れるような大歓声が歌を断ち切った。ついに右サイドの攻撃が実を結んだのだ。下の句を聞かず恐る恐る君は喜びの輪の方に近づいていく。ようやくチームの一員になる瞬間が訪れた。君は抱きしめるべき対象を探してチームメイトの顔を見回した。ゴール前で跳ねているのは、ウサギ、リス、キリン……。折句サイドでくすぶっている間に、急速な世代交代が起こっていたようだ。絡めそうな相手を見つけることはついにできなかった。10番はカモシカ。7番は今はユニコーンのものだった。



気まぐれに
世界をかける
キッカーは
例に背いて
生きるのが好き

折句「キセキレイ」短歌

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青果売場(折句の扉)

2018-04-25 15:35:11 | 折句の扉
野菜売場の前に女が覆い被さっていた。
「ここの野菜よくないわ」
手に取っていた野菜をそう言って元に戻す。
「わるくもないわ」
そう言ってまた野菜を棚から取った。買い物客でありながらしていることは野菜を選別する従業員のようでもあった。よくないわるくないと言いながら、野菜の出し入れを繰り返しているのだ。絶え間なく動いているのに、作業は何も進展していない。

君は突入の機会をうかがっている。食と折句へつながる野菜を探しにやってきたのだ。葱やニラは折句には短すぎるが、まな板の上で切るにしても値段が気になった。もやしはマリネになるか。あるいはナムルになるか、折句になるか。同時に複数の可能性について考えねばならなかった。

「よくないわ」女は緑の野菜を押し戻した。
「わるくもないわ」また別の野菜を引き抜いている。はっきりとよければ(わるければ)決断することができるだろうに。グレーに留まった野菜が女を独りの綱引きの中に閉じ込めているようだった。いつまで待っても同じことだ。

君は女の背後に隠れながらミニトマトについて、小松菜について、ブロッコリーについて思案を巡らせていた。マリネよし、ナムルなし、折句よし。マリネなし、ナムルよし、折句なし。マリネよし、ナムルよし、折句よし。様々な可能性が考えられた。
弱くなった心が可能性にロックをかけることもあった。マリネなし、ナムルなし、折句なし。その時には道は行き止まり、すべての野菜が世界の外へと追い出されてしまう。
心が最大に開かれた瞬間、その時にならどんな野菜でも、マリネになり、ナムルになり、折句にもなることができるのだ。心はゼロと無限が手を結ぶ場所だった。

「よくもないわ」
女は腐りかけた野菜を押し戻した。
「わるくもないわ」
女は腐りきっていない野菜を取り戻した。

いつまでも待ち続けているわけにはいかない。飛び込んでいかなければ手に入らない宝物があるのだ。価値を見極めるのは他人ではない。
君は君の力で見つけなければならない。



渦巻いた
太鼓判なら
いらないと
日の出を見ずに
飛び立つキャベツ

折句「うたいびと」短歌

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猫か人か(折句の扉)

2018-04-10 00:41:31 | 折句の扉
窓の外で子供がなき続けていた。感情を素直に爆発させることができるのが子供の特徴だ。しばらくして、それは猫かもしれないと君は思う。猫が野生の感情を爆発させるようにしてないているのだ。なきに子供の甘えが入り交じる。猫が子供の声を上手に真似ているのだ。世界に訴えかけるようにないている。

完全な子供になった。ならば大変なことだ。君の感情が騒ぎ始める。子供がなき続ける時は大人の助けが必要だ。硝子の向こうの遠いところから助けを求めている。こんなに響くのに周りに誰もいないのだろうか。念を入れて君は子供のなき声を聴いている。猫のあどけなさが入り交じる。野生の荒さが濃くなっていく。また猫が戻ってきた。木の上から人を見下ろしながら猫がないている。どこで覚えたのか、憎たらしいほどの上手さで子供の幼稚さを真似て猫はないている。巧みに抑揚をつけながら、どこか歌うように声を操り始めた。

いつまで聴かされるのだろう。君ははじめて自分の身になって疎ましさを覚え始めた。寂しいのだろうか、苦しいのだろうか……。野生の声が狂おしく渇望するもの。それは子供かもしれない。猫の一節が徐々に長く、また力強さを増していく。

その向こう側からまた子供が戻ってくるようで恐ろしくなった。
君は折句の扉を開いた。猫を越えてまだ何でもないカナが部屋の中に押し寄せくる。動物的なテーマを片隅に置きながら、君は手を広げて新しい言葉を受け止めようとする。感情を上手く制御することができなければ、言葉は指の先にさえもかからない。ないている声が、まだ君の心の多くを占めたままだった。君は指で言葉の枝を1つ折った。節はつながることなく、どこにも刺さるところを見つけることができなかった。何かを新しく組み立てるには、自分の声が必要だ。とりとめもなく宙を漂うカナの間から、また野生の歌声が入り込んでくる。

それは新しい猫だった。高い木の上で猫と猫の合唱が始まった。あるいは戦いだ。けれども、その内にどちらかは子供にかえりまた猫にかえり、どちらもが子供にかえったり、猫になったりしながらおかしな天気のように落ち着くことがなかった。




追い炊きの
文字を信じて
手を合わす
長く冷たい
詩のワンルーム

折句「おもてなし」短歌
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猫パート(折句の扉)

2018-04-06 00:51:47 | 折句の扉
君がやってくると空気が変わった
途端に静かになって
休止パートのように会話が止んだ
つかの間の静寂
君の存在感が穏やかに消えて
賑やかな声が戻ってきた

君は口を開かない
理由も糸口もどこにも見当たらない
透明な存在を保ちながら
こっそりと折句の扉を開く
その場に飛び交う言葉たち
どんなリアルな言葉にも屈しない
君は君だけの宝物に触れることができる

折句の扉の向こうから
言葉たちはやってきて
君の横を素通りしていく
ほんの少しだけ触れて
そのまま戻っていくものもいる

裏切っているのは言葉たちか
内に潜む弱いものだろうか

彼らは君の存在を消せたのに
君は彼らを消し切ることができない

猫がやってきた

休止パートは訪れない
彼らは猫に触れる
かわいいと言って持ち上げる
場は猫を中心に置いて盛り上がっていく

(かわいそうにね)

猫はじっとして君をみつめている

これは「猫パート」なのだ



愛情は
言語ではない
ともにいた
宇宙で密に
触れ合ったこと

折句「揚げ豆腐」短歌
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壁と扉(折句の扉)

2018-04-02 00:45:52 | 折句の扉
壁を見て
世界を知った
退屈と
沈黙は
縫いかけのセーター

折句「風立ちぬ」短歌



 古い仕事が尽きて新しい仕事が与えられた。汚れた壁を塗れたタオルで拭き取ると、すぐにタオルは真っ黒になった。動いただけの結果が目に見えて反映される仕事らしい仕事だ。手の中にある汚れたタオルは手にしたばかりの達成感に他ならない。タオルを洗い絞り再び壁に向かう。同じ作業を繰り返す内に、タオルにつく汚れは徐々に目立たなくなっていった。与えられた壁の隅から隅まで手の届く限りの場所を、タオルは何度も行き来した。一通り十分な作業は行われた。どこを回ってもタオルはほとんど白いままだった。それでも仕事は終わらない。成果によってすぐに終わる種類の仕事ではなかった。「その時」が来るまで勝手に終わることは許されない。

 もう一度原点に返る。どこかにまだ見落としている汚れがある。手を触れていない場所がある。あるいは、もっと力を込めればもっともっと落とせる汚れが残されている。終わった壁を前にして、まだ終わっていないと強く言い聞かせた。気を入れてタオルを走らせてみるが、最初のような劇的な成果はどこからも返ってこない。それでも少しずつ落ちているのかもしれない。自分が気づかないほどの何かが落ち続けている。そうして目に見えない成果を出し続けているのだ。
 それにしてもこれはいったい何だ。突然、自分のいる場所に疑問が湧いてくる。この壁は何なのだ。

(この壁は誰も見ていない!)

 誰からも見られない壁を美しくすることに、いったい何の意味があるというのか。ここに来て急に絶望的な壁にぶち当たった。それでも休みなく手が動き続けているのは単なる惰性なのだろうか。ここはどこなのか……。「その時」はいつになったら訪れるのか。「その時」とはそもそもあるのだろうか。自分は……。壁は何も返さない。けれども、手は壁をすり抜けて、その向こう側で言葉を探し始めていた。必要なのは、答えではなく、言葉なのかもしれなかった。

 水を吸ったタオルよりも遙かに冷たい言葉の切れ端に触れる。触れては離れ、手に入れたと思えば滑り落ちた。壁に向かうタオルと共にある手とは別の、もう一つの手。もっと強い飢えを持った手が、折句の扉の向こう側で、次に触れるべき言葉の尾鰭を求めて泳いでいた。かきつばた。
 歌は生まれそうで生まれない。生まれかけては逃げていく。あと五音、あと七音というところまできて、跡形もなく消えていった。時の感覚がねじ曲がって、狂い始めた。もはや「その時」というのは、別のところを指しているようだった。誰も見ていない壁は自身を試す壁かもしれない。それは見つめ続ける内に扉にもなる。



感情の
起伏にのって
培った
歯がゆさは
旅立ちの呼び水

折句「かきつばた」短歌
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最先端に触れない(折句の扉)

2018-03-27 01:47:58 | 折句の扉
雨は上がったらしい
どこにもセロテープの切れ目が見つからず
君は目を凝らして全体を一周する
一周しても見つからないので
そのままずるずる進んで
目先の非力を感じている

だったら指だ
研ぎ澄まされた指先を
セロテープの周辺に当てた
どこまでたどっても切れ目はない
ツルツルとした表面が延々と続いた
目では駄目 指でも駄目
だったらこの足と体で
走り出した 君はネズミだ
セロテープの輪の上を君は走り回った

何も見つからない内に
徐々に速度が上がり折句の扉が開く
おなじみの言葉たちが風を切って遊び始める
終わらない 永遠 ぐるぐる
くるくる 歩く 
歩き出す 明日へ 未来へ
どこまで行っても
君の探すものは見つからない

セロテープはくるくると回る
ゴールに向いて君はぐるぐると回る
言葉はあふれても答えはない
永遠 どこまでも めくるめく
不確かな 明日へ 絶え間なく 未来へ
燃えるような運動が続く
見つからない 
見つからない 見つからない

「くっつけたいものなんてない!」

君は自分の意志を一つだけ見つけてしまう
先へ進みたいだけなんだ
先へ先へ先へ……
あれっ 進んでいないの
動いても動いても
景色は何も変わっていない
ゼンマイが切れたように運動が落ちてきた
はぁ はぁ はぁ 君は空を見ている

空腹が虹をさした



永遠の
押し問答を
まき散らし
行くあてのない
明日に捧げる

折句「エオマイア」短歌
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きみはくま(折句の扉)

2018-03-20 20:53:50 | 折句の扉

 その時、男は急いでいた。スキャンする僕のスピードが気に入らない様子で、威圧的な言葉で急かしてきた。僕は心を動かさないように努めた。スキャンする動作はむしろ遅くなった。男は更に怒った様子で、荒っぽい言葉の矢を放ってきた。それで僕の動作は更に鈍くなってしまった。
「少々お待ちください」
「さっさとしないか!」
「少々お待ちください」
「お前なめてんのか!」
「少々お待ちください」
 僕はマニュアルのように繰り返した。
「こいつ!」
 大男の腕が伸びて僕の肩を強く押した。
 僕は緊急ボタンを押した。1番レジが止まった。後に並ぶ客は隣のレジへと流れた。警備会社につながりすぐに警官が3人寄ってきた。どうした、どうした。バックヤードに入り映像が再生されると大男の手が伸びて店員の肩を突いている。あるとすると暴行罪だ。被害届を出すか出さないかさあどうするね。話はややこしくだんだんとどうでもよくなっていく。迷子の犬を保護して交番に行ってあれやこれや書かされて時間がかかった過去の記憶がよみがえってくる。あの男さえどこかへいなくなってしまえばいいんだけれど……。警官の前で大男はすっかり大人しくなった様子だ。他のスタッフに負担をかけてしまうことも気になる。
「もういいです」
 それではお疲れさまと警官たちは帰って行った。これで平和で多忙な時間が戻ってくる。そのはずだった。
 大男はまだレジ前に残っていた。
「おい、お前!」
 何も反省などしていない様子だ。
「警察呼んで済むと思ったら大間違いだ!」
 警官が帰り状況は元に戻っただけだった。
「どうなってんだ、お前の態度は!」
 男は店員としての態度をたずねている。反省すべきなのは、どうも僕の方らしかった。
「はあ……」
 他にすることもなく僕は謝罪の言葉を並べて時がすぎることを願った。
「心から謝っていないな!」
 見透かしたように熊は言った。確かに心はもうそこにはなかった。ただ死んだ振りを作る肉体をその場に置いていただけだった。熊は死人に鞭を上げるように勢いづいている。
「何だその目は。どこを見ているんだ?」
 熊が何かを熱心にたずねている。
 僕は折句の扉を開けて新しい世界で自分の言葉を追いかけていた。その扉を開く鍵は自分のポケットの中にだけある。僕はいつでも好きな時にそれを使うことができるのだ。言葉のわからない相手と向き合っているなら、心は体から切り離してしまえばいい。恐怖や退屈に対しながらも自分を保つために、折句は大きな武器であり宝物だった。
「何だこいつ」
 あきれる熊の前で、僕は指を折りながら歌っていた。


疎ましい
他人野郎の
意地悪の
標的になる
「友よ頑張れ」

折句「うたいびと」
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鬼会議(折句の扉)

2018-03-14 01:23:53 | 折句の扉
遅いねと
14時をさしては
他の者が
いちいち述べて
時間を止める

折句「鬼退治」短歌


「出会ったり結ばれたり、祝ったり離れたり、色々と大変ですよ」
「そりゃ人の話だろう」
「関係のないことだぜ」
「準備に追われ、人を招いて人をさばいて、けんかしたり仲直りしたり。結局一つ屋根の下に暮らすものなんだからと言って、和解の道にたどり着く。春が来たと言って喜んで、クローゼットを開いたと思ったら、また閉じて、開いて閉じて開いて閉じて、また季節は巡ると歌ったり……」
「それは人の話だろう」
「そうや」
「問題は鬼としてどう生きるかだろう」
「そうだ、そうだ」
「そうや。それを言うとんねん」
「そうか」
「湯を沸かし、菓子を持ち寄って、茶を入れて、みんなでテーブルを囲んで、これがいいとか、これはよくないとか、評価をつけて、浮き上がり、楽しんで、沈み込み、励まし合って。みんな仲間が大事だと歌って。自分だけの一番を見つけて。高いところに上ったら祝って、傷ついては、お大事に」
「それは人の話でしょ」
若い鬼は退屈そうにつぶやいた。
猫は鬼の間を縫ってパトロールをしていた。みんな小さな存在には目が留まらない。


お前さん
人間賛歌
絶やさない
いいえ上句が
下を呼ぶから

折句「鬼退治」短歌


「みんな人の話じゃないか!」
「鬼としてはどうするか」
「そうだ、そうだ」
「そうや。それを言うてんねん」
「そうだろうか」
「ずっとそれを言うとんやないか」
「それが指すものを100年以内に述べよ」
「勝手に課題を出すな」
「自由じゃないか」
「自由を履き違えるな」
「履き違えているのはお前らの方だ!」
「誰に言ってるんだ?」
「選別して、手にとって、カートに入れて、精算して、持ち帰って、洗って、切って、炒めて、味付けて、盛って、食べたら、また洗って、洗って洗って洗って、まだ洗うのか、いつまで洗うのか、いつまでも洗うのか、洗い続けなければならないのか」
「そんなのは人の話だろうが」
「なりたいのか?」
「対比じゃないの」
「俺たちは他でもない鬼だろうが!」
「そうだ、そうだ」
「ガッテン、ガッテン」
「チャンネルを変えろ!」
「いや視点を変えろ」
「鬼としてどう生きるかじゃないのか」
「それを言うてんねん」
「それを言えってば」
「それを言うてんねん」
「繰り返しになりますが」
「お詣りをして小銭を投げて、ハンカチを拾って、星をみつけて、手をあわせて、けんかして、仲直りして、ボールを蹴って、蹴飛ばして、ネットを揺らして、飛び上がって、叫んで、裸になって、怒られて、また真ん中に戻って。また戻るのか、また始めるのか、何度でも始めるのか、何度も何度も、始めなければならないのか。男だとか女だとか、丸首とかスキニーだとか、髪型とか煙を好むとか好まないとか、若いとか若くないとか、変わったな、あんた変わったよとか、変わるのか、今日も明日も延々と変わるのか、変わり続けるのか、変わり続けることばかりなのか……」
「人の話じゃないか」
「もううんざりだな」
「なりたいんじゃないのか。染まってんのか」
「鬼の話に戻れ」
「戻る場所なんてない!」
「知らないだけだろう」
「知った風なことを言うな」
「自由じゃないか」
「それしか知らないのか」
「それが指すものを100年以内に述べよ」
「そんなに待てるか!」
「待ってもいいと言う者はいるかね?」
「人じゃない。鬼としてどう生きるかの方が大事だ」
「それだけだよ」
「そうだよね」
「そうや。それをずっと言うてんねん」
「だったら間違ってない」
「そのまま行け」
「現状維持で」
「ここには何もない!」
「俺たちは何も求めていない」
「求めぬ者は去れ!」
「求める者こそそうすればいい」
「よくわからないぞ」
「わかるように聞かないからだ」
「俺がわるいのか?」
「いや、そうは言ってないでしょ」
「じゃあ何が言いたいんだ」
「鬼としての生き方の話でしょ」
「そうだよね」
「あけてびっくり、くれてもハロー、種まき水やり、声かけて、がんばって、しっかりね、すくすくね、強くなれ、美しくなれ、美味しくなれ、なれ、なれ、なれ、大丈夫、きみはきっと大丈夫。挨拶が大事、挨拶だけしっかりね。咲いたら咲いたとよって、よって、よって、みんなどこまでもよってくる、よっていく。散ったら散ったよ、さようなら、また、ここでいつかきっと会いましょう。ええ、それじゃあ。解散。さようなら、お元気で、また会いましょう。ええ、本当に。それじゃあ本当にこれで。はい、気をつけて。道に気をつけて。ええ、あなたも。虫に気をつけて。じゃあ、本当にこれで。じゃあ、さようなら。ところで、あなた最近少し……」
「何の話だ」
「ちゃんと向き合ってよ」
「みなさん静粛に」

「みんな人の話でしょ」
若い鬼は退屈そうに足下をみた。
「扉を開けなよ」
猫は身体を伸ばしてそっと耳打ちした。
「この場所で本を開かずに自分を保つ方法を知りたいんでしょ」


おそろいの
煮物を捨てて
旅色を
一途に追った
12チャンネル

折句「鬼退治」短歌

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ダイブ(折句の扉)

2018-03-13 01:02:29 | 折句の扉
眠るというのは海に潜ることだ
と僕は言った
そういうものかねと君は言った

床に伏せて準備はO.K.
今から泳ぐよ 何月の海かな
何月でもいいよ
ここより広い海ならいいな
海はこの街より広いよ
魚はいるかな
海だからね
どんな魚かな
君の知らない魚じゃない
動物はいるかな
海だからね
しまうまはいるかな キリンはいるかな
海だからね魚がいるだろうね
猫はいるかな
くじらはいるよ 海だからね
海の猫だよ
海の猫か
どれだけ遠くへ泳ごうかな
君は泳げるの?
どれだけ深く潜ろうかな
君は泳げるようになったの

本当は泳げるの
誰だって本当は泳げるんだ
遡ればみんなずっと遠いところからやってきた
思い出せないけど骨の痛いところは知っている

片腕を上げて いつだって僕は行けるぞ
君は自分の可能性を信じるんだね
準備体操はしっかりしたぞ
今までの遊びがそうだったの
仰向けになって一回転
大丈夫どうしたの
寝返りを打って打って打って
大丈夫怖くなったの
不測の事態への備えだよ
海は広いものね あの空みたいに
だからしっかりしなくちゃいけないんだ
君はしっかりね
準備を整えることが大切なんだ

もう行ってしまうの
もう行かなくちゃならないよ
君ともお別れだね
君と僕は同じ一つの人間だよ
そうなの 僕らは一つの自分なんだね
さよなら君
さよなら僕

眠るいうことは
自分が自分にさよならを言うことさ
さよなら僕

さよなら僕

向こうに着いたら歌うからね
いよいよ君は潜るんだね
折句の扉をみつけてね
鍵は持っているの?
向こうで探すよ
あてもないのにみつかるの
扉がみつかれば鍵くらいみつけられるよ

祈っているよ色々と 君のために
僕のために?
僕のために
君のためなの?
僕のために
君のために
同じことだね
同じことだね

それじゃあ バイバイ



ワトソンが
たしなめている
しあわせは
「不安をといて
眠ることだよ」

折句「渡し舟」短歌
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愛せない(折句の扉)

2018-03-12 00:31:03 | 折句の扉

「あなたのためのものです」
 どこを開いてもためになり、どこに触れても刺激的で、始めれば途中で抜け出すなんてできないと言った。強い言葉に押し切られて君は本を開いた。一度ページをめくったところで最初の挫折を経験した。
「どこを開いても夢中になれます」
「どんな本です」
「そんな本です」
 君はもう一度、最初からやり直した。二度三度ページをめくっても止めなかった。心にひっかかるものがなくても、自分をだまして先へと飛んだ。辛抱強く書に向かい中盤に差し掛かる頃には、言葉は既に意味を失っていた。蟻の行進を眺めている時間に似ていた。

 ソムリエは哀れむような視線を君へ送った。
「かわいそうな人。愛すべきところは満ちているのに、あなたの冷め切った心がそれを受けつけないんだ。でも遅くない。見つけましょう。一番素敵なものをみつけて、愛しましょう。みんなにできてあなたにできないことはないんだから」

 操られた指が頼りなくページをめくった。文脈をつなぐ蟻たちが歩調を緩めて、君へ微笑みかける。一つ一つに目をとめて見るとそこに個体があり、節があった。音楽的な響きに打たれて折句の扉が開く。言葉は歌に化け、新しい生命のように跳ねた。与えられたものを読み解くことはできなくても、歌うことはできる。君はそこから紡ぎ始めた。意味は見えない。ただ歌い続けることが君の希望だ。
「大丈夫。あなたも愛せます。あなただけが特別ということはないんだから」


見つめ合う
創意の消えた
坂道で
醒め行く過去は
愛おしい人

折句「ミソサザイ」短歌
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