睡魔へ接続される道を歩いている内に迷ってしまった。道は激しく渦巻きながら、知恵をたずねているようだった。鍵は街の風の中にありげだった。手を貸してくれたのは行くあてのない猫、猫が猫を呼んでまた猫を呼んだ。雪だるま式に厄介なことになって、20グラムだった知恵の輪は、1キロを超えた。彼らは助ける振りをしながら、適当な輪を足していったのだ。鍵のレスキューに頼ると特急料は2万にもなるという。その時、僕が惹かれていたのは、むしろ石焼き芋の節の方だった。猫のおせっかいを振り切ると、繰り返されるしゃがれ声の方に近づいていった。
「熱いよ」
鍋づかみはあるかとおじいさんは言いながら、石の中に潜ったきり見えなくなった。運転席の電話が鳴る。どういうわけか僕の家族からだった。皆で一人暮らしの心配をしている様子だ。
「風呂はあるか」
あると言うと父は大層感心したみたいだ。そして次の話し手へ渡る。
「心配事はないか」
何もないと母にうそをついた。
「ケトルはある?」
姉のどうでもいい問いには答える気もしない。
「危ない物は持ってないか?」
容疑者を匿ってはいないかと立て続けに聞くのは警官のようだった。勿論、答える義務なんてない。
「煙草はあるか? 火はあるか? 金はあるか?」
兄が根ほり葉ほりと聞いた。僕が黙り込むと兄はバトンを投げた。
「夢はあるか?」
「えっ?」
僕は聞こえない振りをした。やっぱりばあちゃんが一番まともで手強い。
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