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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

旅人の道

2025-03-29 21:14:00 | 短い話、短い歌
 本当のゴールはどこかわからない。目的地は小刻みに設定されていた。「おいで」ここまでおいで。曲がり角が旅人を吸い寄せる。もう少し行ってみようか。数時間歩いて体力は限界に近づいていた。疲れに打ち勝つのは強い好奇心だった。歩いているという自覚もなく旅人は歩いた。天から伸びた糸に操られているようでもあった。角まで来ると視界がパッと開けた。似ているような今までとはすべて違うような……。「おいで」ずっと先の見えないところから、また新しいささやきが聞こえる。(未知が好きだった)旅人はまだ歩みを止められない。


改行が彼方へ送るミステリー
一行先は白鷺の国

(折句「鏡石」短歌)

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気まぐれ全集のち猫のターン

2025-03-19 19:31:00 | 短い話、短い歌
 おじいさんが本を閉じるとドーンと大きな音が鳴って、猫が反転した。母は小松菜を切っていた手を止めた。トラックの真ん中でアスリートは足を止めた。役者はお芝居を止めて台詞を呑み込んだ。芸人はボケを止めて固まった。陣が割れて戦は止まった。すべてが中断し、一貫性が失われる。
 世の中の動きに構わず、おじいさんは本を読んでいた。しばらくすると気まぐれに本を閉じた。

(ドーン!)

 おじいさんが集中しないから、世界が返る。
 母はピアノを弾いている
 陸上選手は水をかいて泳いでいる
 役者は本格的に厨房に入った
 芸人は小説を書いている
 ある者は敵に寝返って戦争は終わった 
 1つの仕草で世界を変えてしまう、おじいさんの本ときたら、なんて重いの!

 猫は反転した
 今にこっちに向かってくる


かみさまのカートがかけた三日月の
一夜にかかる書のギアチェンジ

(折句「鏡石」短歌)

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小さな裏切り

2025-02-13 23:35:00 | 短い話、短い歌
海苔としては最高級
君の旨さはよく知っている
随分高値になったけれど
たまにはいいさ

ああ なんてことだ!
君って前より縮んでるじゃないか!
流石に気づくよ
(きっと5、6ミリ小さくなってる)

値上がりしたのは
わかった上で手に取ったの

だけどこっちは……
どういうこと?



安定と権利の上を床にして
裏金を得るふしだら先生
(折句/短歌 揚げ豆腐)

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惑星観察

2025-02-10 22:55:00 | 短い話、短い歌
 我々は宇宙の片隅で一つの惑星を発見した。求めていたのは水と光があること。そして、知的生命が存在することだ。幸いそこは水の惑星と呼べるほどに青かったし、光るものも認められた。残る一つは……。
 我々は彼らに気づかれないように細心の注意を払いつつ、近くのテーブルに着いた。彼らの食事を観察するためだ。

「あれは何?」
「曲がっているぞ」
「頭か?」
「尾か?」
「脱いだ」
「引き裂くぞ!」

「生死不明…生死不明」

「動いたぞ!」
「口に入れた!」
「エイリアンの食事だ!」
 我々は身震いしながら恐ろしく奇怪な光景を見つめていた。
 向き合っているが、食べる以外はとても静かだった。
 どうやら彼らの間に言葉は存在しないようだ。

「恐ろしい惑星よ!」
「友好診断…ダーク、友好診断…ダーク」
「推奨…回避、緊急、緊急、緊急……」
「隊長! この星は危険です」


海老を剥く各々が悪魔のように
一心不乱赤いテーブル

(折句「エオマイア」短歌)
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ミルクの重さ

2025-02-04 00:26:00 | 短い話、短い歌
軽い気持ちで

手にできたわけではなく

大事に大事にと

取ってあった


あれからどれほど経ったのか

ハッとして我にかえる

もうそんなに……


真夜中にみつけた

期限切れのミルクを

ココアの上に注ぎ入れる



暗黒の計算式に特化して
裏金を得る不断の努め
(折句/短歌 揚げ豆腐)


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メイド・イン・ヒューマン

2025-02-01 00:17:00 | 短い話、短い歌
 私の前でうそは通用しない。すべては可視化されているということだ。何も語らなくていい。私はあなたの脳波を直接読みとることができる。あなたの望みを聞くのに言葉なんかは必要ない。そう。ただ見つめてくれれば、私はすべてを理解できる。
「おかえりなさい」
 会話モードは一応オンのままになっている。(それはまだ昔の名残と言えるだろう)
「ただいま」
 わかってる。人間はまだ言葉が恋しいのだ。


AIが
おかえりなさい
待ってたの
今からお風呂?
熱いのが好き?

(折句「エオマイア」短歌)

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オートマチック(引き裂かれる前に)

2025-01-30 23:49:00 | 短い話、短い歌
「3人になれ!」
 リーダーの声が響く。遠くにあったものが歩み寄ってくる。離れたところにいたものがつながる。もしも策もなく突き進めばすぐに壁にぶち当たって、意図せぬところでバラバラになってしまうだろう。(誰だって独りにはなりたくない)
「5人でまとまれ!」
 数がどうであれ集合する力は変わらない。衝突と交錯の過程を潜り抜けて共感性が融合を始める。見えないところにあったものが打ち解け合って縁を構築する。リーダーはどこからともなく発生して、その声の基にミッションは完遂される。彼らはずっとそのような訓練を積んできたのだ。


改行を
重ね伸び行く
見せ物に
意味はないのと
主張する歌

(折句「鏡石」短歌)

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アンチエイジング・スクール

2025-01-24 23:33:00 | 短い話、短い歌
 お年玉を使うのは今ではない。それは頭上高く持ち上げて膨らませていくものだ。いざという瞬間がきたら、その時に一気に爆発させてみせるのだ。(何かを成すためには壮大な準備が必要だろう)賢さ、野心、向上心。そういったものは微塵も感じさせてはならない。大切なのは、秘めたまま生き延びること。
 合い言葉は「大丈夫です」。
 失敗しても、あやまちを犯しても、責任を持つことはずっと先だ。
 世間は未熟なものにはやさしい。
「仕方ないね」若い人だから……


お年玉2千万円貯め込んで
生き抜く知恵は少年のまま

(折句「鬼退治」短歌)

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助演オーディション

2024-10-27 21:26:00 | 短い話、短い歌
「何か特技はありますか」
 求めに応じて歌い出す者、踊る者、楽器を弾く者、空手の形をみせる者、剣玉をする者、物まねをしてみせる者。みんな周到に準備してきたようだ。今回のオーディションにかける意気込みが感じられる。

「何か特技をみせてもらえますか」
 いよいよ僕の番がやってきた。
「何もありません!」
 わからないことはわからない。できないことはできない。無理せず、背伸びせず。それが我が道というもの。

「高いところから飛び降りたりできます?」
「できません」
 猫ならみんなができると思うなよ。
「おでんとか上手に食べれます?」
 はあ? 誰に言ってんだい!
「できませーん」
 それから似たようなリクエストが続き、正直僕は答えるのもうんざりだった。何か違うね。全然違うね。

「できませーん」
 できません、できません、できませーん!

「ああ、そうですか……」
 長い机の向こうから冷たい目を向けていた。
 監督はまだ僕の力をわかっていないな。
(僕の本当の力はまだここではみせられないんだよ)
「じゃあ、次の人」




「ほんのワンシーンに出してくださいな」飛び込む猫の気まぐれ志願







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空も飛べるはず(マイカーライフ)

2024-09-19 22:58:00 | 短い話、短い歌
 青いドットが空を輝かせる。青はいつまでも青のままだ。車社会はどこへ行ってしまったのだろう。おじいさんは懐かしい歌を思い出すように、あの頃のことを頭に浮かべてみる。空想を遮るような奇声はいつもの侵入者だ。
「しっ!」
 邪魔者のない駐車場を心行くまで駆け回る猫たち。時には敵と、時には友と、時には風のつくり出す魔物たちを追って。愛情をみせるでもなく、おじいさんはただ追い払うのみだ。
「遊び場じゃないぞ!」
 猫はおじいさんの威嚇をいつも甘くみている。慌てて逃げ出すようなことはせず、駆けっこが一段落してからゆっくりと散っていくのだ。


「これはどういうことだ!」

 ある朝、おじいさんの駐車場が高級車いっぱいに満たされていたのだった。それは奇跡のような光景にみえた。
「おばあさん……。これは?」
「あら、忘れたの? 夕べおじいさんが描いた絵じゃないの」
「そっかー」
 空いたスペースをキャンバスにして自分の理想を描いてみたのだ。描いている時には夢中だったが、一晩寝るとすっかり忘れていた。一台一台が光ってみえる。だが、銭にならない。1円にもならないじゃないか……。
 相変わらず猫たちはやってきた。高級車の上をお構いなしで駆け回って、自分の庭のように振る舞った。
「こらーっ!」
 猫への愛情が芽生える様子はみられなかった。

「すごい値がついたわよ!」
「何だって、おばあさん」
 おばあさんがネットにあげると高値がついた。
「おじいさんのポルシェ、2万円よ!」
「本当かね、おばあさん」
「すごい! すごい! 売れるわよおじいさん!」
「だけど、おばあさん……」
 突然、おじいさんは顔を曇らせた。
「売れたところで絵の車じゃ動かせないじゃないか」
「大丈夫よ!」
 心配無用とおばあさんは笑っている。
「おじいさんの車なら、空だって飛べるわよ!」


春めいた涙の上がる店先に
スケートボードキャットの帰還

(折句「ハナミズキ」短歌)








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雑談マスター

2024-09-02 18:05:00 | 短い話、短い歌
 縄跳びに入っていくのは難しい。いつどのような顔をして入るのか。自分が入ってもいいのか。それさえも謎だ。(生きている間は謎だろう)そう言えばあれだね。あの時はそうでした。あの人はまたそうではないようでした……。方向はどこにも定まっていない。テーマはパッと湧いてすぐに消える。引っ張りすぎると煙たがられる。変えすぎても疑われる。間に適度な共感と笑いが生まれることが望ましい。生まれながらの才能か、生きている内に培われるテクニックか。何もないようなところから、あまりにナチュラルな調子で、あなたは言葉を操り始めた。


鰓多きトークを捨てて詩にかけた
クジラは青のサンゴマスター

(折句「江戸しぐさ」短歌)







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カー・ナンセンス

2024-08-29 18:37:00 | 短い話、短い歌
危険! 危険!

「3分後に装甲車と衝突します」
「止まって!」
「停止した場合、隕石の直撃を受けます」
「右折だ!」
「右折禁止区域です。右折できません」
「いいから曲がれ!」
「右折できません」
「それならバックだ!」
「もどれません」

もどれません、もどれません、もどれません……

「脱出だ!」
「確認中……」
「俺を脱出させろ!」
「脱出のためのスペックが不足しています」

危険! 危険!

「誰かー! 誰か助けてくれー!」


AIが飛ばす倫理の焦点に
車がみせる左折信号

(折句「江戸しぐさ」短歌)








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ミステリー・エゴ

2024-08-15 22:34:00 | 短い話、短い歌
 エゴの実が世界を救うと強く信じられた。最初の愛を問えば、どんな生き物でも自分自身へかえるものさ。我を愛し、我の友を愛し、我の手を愛し、我の家を愛し、我の町を愛し、我の飯を愛し、我の書を愛し、我の歌を愛し、我の子を愛し、我よ我よと……。我から我へ平和への拡散がどこまでも続くように思われたが。
 どこかで育て方はまちがわれた。


エゴの実をおっとっとっとまき散らし
一面に極悪新世界

(折句「エオマイア」短歌)








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クラウド・リュック

2024-08-09 00:36:00 | 短い話、短い歌
 生きることは背筋を鍛えることだ。物心ついた時から歩き始めた。思い出いっぱいをリュックに詰めて。いいことばかりじゃない。中にはあってはならないこと、死にたくなるようなこともあった。だけど、みんな捨てられなかった。(苦みも古傷も私の一部だから)傷心も、裏切りもみんな詰め込んで歩く内にだんだん重くなっていく。ロングコートの上にリュックを背負って歩いたある冬の夕暮れ、強く背中を引っ張られたようだった。まるで過去という名の魔物がそうしているように。駄目だ! もう歩けない! 僕はそのまま道端にひっくり返りそうになった。
「そんなあなたにクラウド・リュック!」
「誰だ、あなたは?」
「エア・コーディネーターの風です。これを」
 誘いにのって荷物を新しいリュックに詰め込んだ。今までのとはまるで感じが違う。ああ、軽い!
「小学生に戻ったみたい!」


アラクレが竜を背負ったくつろぎの
和室にみえるずんの絵手紙

(折句「アリクワズ」短歌)








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しあわせバター(スナック・ライフ)

2023-11-04 09:18:00 | 短い話、短い歌
 もう10年も前になる。あの頃の俺はまだ駆け出しの転売ヤーだった。人様の畑という畑を渡って気になるものを見つけては、狸のように引っこ抜いて回った。一言で言えば、俺は愚か者の名を欲しいままにした。いったい誰が……。

「すみません。うすしおくださーい!」
「はーい!」

チャカチャンチャンチャン♪

 うすっぺらい愚か者。それが10年前の俺だった。狸のように人様の畑を回っては、気になる野菜を引っこ抜いた。茄子、大根、トマト、人参、じゃが芋、南瓜。畑という畑を越えて、貪欲だった俺は更に手を広げていった。メガネ、宝石、鞄、パソコン、洗濯機、プレイステーション。あの頃の俺ときたら、目に映る物すべてが俺の売り物であるかのように思い違いをしていた。一度引っこ抜いた物は、まるで桁違いの値段で店先に並べてみたものだ。大馬鹿者め。我ながら大馬鹿者以外の何者と呼ぶこともできない。いったい誰が……。

「すみません。コンソメパンチくださーい!」
「はーい!」

チャカチャンチャンチャン♪

 もう10年前のことだ。しかし時が経ったからすべて許されるわけではない。あの頃の俺はまるで手に負えない荒々しい転売野郎だった。畑という畑を渡り歩いた。気になった物が高い囲いの中にあって、厚く守られ届かないとわかれば、無性に腹が立った。覚え立てのバーボンの中によろめきながら、必殺の左を持つと信じた。俺は風の中でパンチを繰り出した。すぐに反撃を食って逃げた。俺は弱かった。今度は壁に向かって拳を突き上げた。傷つくのは俺の方だった。この大馬鹿者めが。いったい何やってんだ。俺はいったい……。

「しあわせバターくださーい!」
「はーい!」

チャカチャンチャンチャン♪

 それから俺は見事に立ち直った。最初から自然に立っている人に比べれば、俺の手の中のしあわせは少し増しているようだ。他の人よりもずっと愚かだったが故に、ひどく遠回りしてしまったが、俺は今ようやく理解することができる。しあわせとは与えることだろう。
 さよなら、過去の愚か者よ。

「すみません。うすしおくださーい!」
「はーい!」
 何だかんだ言っても、うすしおが今日も飛ぶように売れる。
 冒険はそこそこ。慣れ親しんだ味ほどみんなに喜ばれるのだろう。
 この小さな売店が、俺の見つけた居場所だ。

「ありがとうございまーす!」


馬鈴薯のイノベーションがおかしみを
まるく広げるスナック・ライフ

(折句「バイオマス」短歌)

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