折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

深夜ランナー

2019-10-09 04:54:58 | 短い話、短い歌
 突然の足音に身が竦む。まさか、自分に向かう刺客では? 特別わるいことをしてきた覚えはないけれど。他人の恨みは根深いものだから、どこに隠れ、どこに眠っているか、わかりはしない。恐れを抱いたのは、スパイ映画を見た後だった。裏切りの応酬、斬新なアイテム、機敏な身のこなし……。まだ興奮が強く残っていた。足音が加速して大きくなっていく。迫る影。
 
タッタッタッタッタッタッ
規則正しいリズム!
美しく整ったフォーム!
 男は自分の敵ではなかった。
 彼は彼のコースを突き進む「ランナー」だ。
 
 
Aメロで
土砂降りになる
新曲を
口ずさむボクサーのジョギング
 
(折句「江戸仕草」短歌)
 
 
コメント

おあずけ

2019-09-27 17:40:24 | 短い話、短い歌
 ライオンをまいたらゆっくと皿をとる。それが午後に描いていた構想だった。ライオンは思っていたようなライオンではなかった。12月のライオンとも4月のライオンとも似ていない。強情で、執念深く雨を恐れない。スタミナのあるライオン。羽を伸ばすライオン。風に乗るライオン。あの曲がり角まで行ったら。何度もイメージした孤独を、ライオンは許してはくれない。「いったいどんなライオンなんだ」歩みを止めぬライオン。胡坐をかいたライオン。竜を切るライオン。鬣の先のおやつを読みながら、君は走り続けなければならない。ライオンを振り切るまでは、おやつはおあずけだ。
 
 
優勢を
築いた後の
膝上で
洋梨をさし
受ける名人
 
(折句「ユキヒョウ」短歌)
コメント

最後の飛び道具

2019-09-10 03:57:50 | 短い話、短い歌
 両翼にあった大きな力はAIによって奪われたあとだった。そればかりでなく主役を務めた金銀も、下から力を発揮するであろう香さえも敵の手に渡ってしまったのだ。投了もやむなし。鴉たちは上から見下ろしながら、嘴を揃えて飛び去っていった。だが、まだ歩が残っていた。おじさんは駒台にあるものを指先でシャッフルしながら読みに耽った。何度シャッフルしても攻撃力は不足していた。そこに載るのは歩ばかりなのだから。最後の武器に触れながらおじさんは闘志を燃やしていた。この歩が勝負を決めるのだ。本能がささやく。できたばかりのAIを恐れることがあるものか。「死にもしないくせに」
 
 
AIに
駒を取られた
街角に
歩しかなくても
タフなおじさん
 
(折句「エゴマ豚」短歌)
コメント

AI新手

2019-08-28 02:24:40 | 短い話、短い歌
 どんなに考えても、どんなに考えを無にしても、勝ち目がない。こちらの微かな動き出しを見透かして、容赦ない応手が飛んでくる。負けて覚えるものは痛みしかなかった。普通の手は通用しない。グーでもチョキでもパーでもない新しい手をひねり出すのだ。AIが驚く顔はどんなものだろう。ついにとっておきの手を繰り出す時がきた。「これならどうだ!」敵は動揺する様子もなくすぐさま見たこともない新手を返してきた。それはグーでもチョキでもパーでもない、こちらの想像を超えていく奇妙な手だった。「光速流の対応だ!」やはり僕は負かされてしまうのか。
 
 
敗着の
一手を悔いて
お茶をみる
まぶたの下は
スイート・コーン
 
(折句「バイオマス」短歌)
コメント

きみと海

2019-08-16 17:28:42 | 短い話、短い歌
 何も言わずにきみは海をみていた。大きく青く果てしない海だった。きみは僕をみずに海をみていた。僕は何も言わずに海をみていた。海を通してきみの声が聞こえてこないか耳を澄ましながら。言いたいことはあるはずだった。つれ出したのはきみの方だったのだから。きみと僕の前には壮大な海だけが広がっている。聞こえてくるのは海の声ばかりだった。ずっと遠くに船がみえた。小さいのか大きいのかわからない。本当は船かどうかさえもわからないのだ。去るのか戻るのか遠すぎてまるでわからない。どうでもいいと思えるほど、ずっと遠くの風景にすぎなかった。だんだんと自分自身もとてもちっぽけな存在に思えてきた。いつからここにいるのだろう……。何も言わずにきみは海をみていた。
 
 
約束の
昨日は遠い
遠い過去
海辺のきみを
振り切った過去
 
(折句「焼き豆腐」短歌)
コメント

指先の未来

2019-08-02 04:42:00 | 短い話、短い歌
 ささやかな楽しみを集めれば希望はある。ほんの小さなコンビニのアイスだっていい。朝の犬の散歩でもいい。週末のリーグの試合でもいい。月曜日の新曲のリリースでもいい。希望が大きく膨らむために、今が少し萎んでいてもいい。気が遠くなるほど遠い景色でもいい。君なら想像できるはず。想像の中で好きを育むことだってできる。ささやかでいい、遠くてもいい。希望があると思えるだけで。少しは笑って生きられる。今は問題じゃない。希望は少し離れたところにあるのだ。


指先が
棋理を払って
飛翔した
4手向こうは
鰻の高み

(折句「ユキヒョウ」短歌)
コメント

生きた教え

2019-07-09 00:00:07 | 短い話、短い歌
 コントロールされることに疲れてしまった。いつの間にか立場が逆転していた。気づいた時には遅かった。遅かったとあきらめるようにコントロールされていたのだ。自分がリモコンを手にしていた頃に、本当は気がつくべきだった。けれども、私たちにはそれができなかった。心地よかった。心地よいと思う方へ流されてしまった。ずっと以前から、心地よいと思う方に向かうようにコントロールされていたのかもしれない。私たちはそういう生き物だった。もう新しいことは何も思いつかない。その必要もなくなったのだ。ただ疲れを感じた。私はインターネットからログアウトした。土を手にしたくなった。
 
 
AIの渡世を降りた親しみは熊が説く盆栽の切り口
 
(折句「江戸仕草」短歌)
コメント

バタフライ

2019-07-01 23:53:28 | 短い話、短い歌
 高く飛んだ。
 軽く越えられるというのは過信だったのか。早くも自分の体が引力に負けてしまうのがわかる。着地地点に見えるのは煮えたぎる大鍋だ!
 やばいぞ! 僕は必死になって足をバタバタとさせる。
「かみさま見ていてください!」
 僕の最強の抵抗を。すべては漫画の世界で習った通り。
 どんな時でも、困難を乗り越えるのは意志を貫き通した者だけだ。
 バタバタバタ! 風を蹴れ!
 強くもがけば真理だって、空気だって変えられる。
 街を越えろ! 虹を越えろ!
 ちゃんこの向こうは、きっとシントトロイデン。
 
 
大鋸屑を
ダイヤで磨く
一品に
軸を移した
虹の横綱
 
(折句「お大事に」短歌)
コメント

フリップ・ロケット

2019-06-21 02:29:21 | 短い話、短い歌
 荒れ果てた大地を耕している内にロケットの準備が整った。いつでも捨てていくつもりで始めたのに、今では土のことが気になっていた。まだ途中だ。ここまでやってきた。もう少しのとこなんだけどな……。待つ間が、続ける期間が長すぎたのだ。ロケットに鍬を立てかけて君は星を見上げた。まだその足は大地の上にあった。完成させることに意味が? それは自己満足ではないのか……。星が自分に向いて瞬いているように見える。「どうせいつかは捨てていくものだ」
 
荒れ果てた
芸人街を
飛び出して
宇宙へ向かう
フリップ男子
 
(折句「揚げ豆腐」短歌)
コメント