眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ダンス・ウィズ・ドリブル

2024-05-02 00:21:00 | ナノノベル
 仕掛けに備えて身構えているとドリブラーはふしぎなおどりを踊りはじめた。
「おちょくってるの?」
「踊っているとアイデアが湧くのさ」
「じゃあ、まだ今はないんだね」
 ならば今がチャンス。踊りの隙を突いてボールを奪える。

「飛び込むな!」
 ベンチからの指示が俺の足を止める。
「どうして?」
 行かなければ奪えないじゃないか。
「味方のフォーローを待て!」
 デュエルで奪えるのに。

「時を稼げ! 話しかけろ!」
 監督に逆らってベンチに下がりたくはない。

「いつもどこで踊っているの?」
「踊り出したらそこがステージさ」
「怖くはないの?」
「何をそんなに恐れる?」
「ボールが足から離れてる。俺取れそうなんだけど」
「はあ? それにしては距離があるじゃないか」
「わけあって今は詰めれないんだ」
「そうか。まあ俺には関係ないけどさ」

「踊りは楽しい?」
「決まってるだろ。アイデアがどんどん湧いてくる」
「俺を抜くつもりなのか?」
「ああ、時が来たらそうするよ。お前も踊ってみなよ」

「俺?」
「そんな風に突っ立ってたら、いざという時に対応できないぜ」
(だとしたらどういう優しさだ)
 話しながら見つめている内に、俺の体は徐々に揺れ始めていた。

「ほら、恥ずかしがってないで」
「いや別に」
 惑わされるな。俺はただ時間を稼げばいいのだ。

「俺と同じじゃなくていいんだぜ。好きに踊ればいい」
「俺はダンサーじゃない」
「俺だってそうさ」
「今はそうは見えないけどな」

「個を切り取って見れば何にだって見えるだろう」
「それはまあそうだろうが」
「俺たちは今デュエルの最中にいる」
「本当か」
 俺自身の意思だけで動けるならいつでも勝てるのにな。

「こうしている間にも無数の仕掛けが温められているのだ」
「無駄な時間ではないと俺も信じたい」
 援軍はまだか。ただ待つことは時を虚しくする。
 俺はもう待ち切れそうもない。

「本気で勝とうと思うなら新しい仕掛けが必要だ」
「そうか」
「だから踊っている!」
「楽しそうだな」

「デュエルはどこにある?」
「至る所にあるんじゃない?」
「そう。負けん気の中にあるのだ。
 そしてボールは踊りの中にあり、
 踊りは人生の中にある」
「そういうもんか」

「だから踊っている!」
「だったら俺も!」
 もう理由なんてどうでもいい。 
 互いの援軍がやってくると俺たちを取り囲むように踊り始めた。やっぱりみんなも踊りに来たみたいだな。

(ボールはどこだ?)
 いやもうそんなことはどうでもいいだろう。

「踊れ! 踊れ!」
 主審も駆けつけて、笛を鳴らしながら踊っている。
 そうだ。
 これが、
 俺たちのフリースタイル・フットボールだ!





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