眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

どうしようもない行き止まり

2024-05-30 22:37:00 | リトル・メルヘン
 昔々、あるところにどうしようもない行き止まりがありました。そこから先へ進むことはどうしよもなく不可能に近く、何人もそこを越えていくことができませんでした。

「ここを突破できた者にはぱりんこ200年分を与えよう!」

 王様は言いました。ぱりんこ200年分。それは途方もない贈り物。
 詩人は言葉を持って王様の前に現れました。美しい単語、キャッチーな比喩、心地よい修辞、謎めいた暗喩を駆使して突破を試みました。けれども、そこにあるのはどうしようもない行き止まり。言葉やなんかで突き抜けることはかないません。
 替わって子供が現れて、無邪気な心だけで突破を図りました。大人にとっては多く見える壁も、手に負えない理屈も、変え難い慣習だって、子供の心にかかればなきも同然。澄んだ瞳を持った子供なら行けるかもしれない。人々の期待が一瞬大きく膨らみました。けれども、そこにあるのはどうしようもない行き止まり。子供なんかに突き抜けることはかないません。
 次には大統領が軍隊を動かして王様の前にやってきました。「撃て!撃て!」一番上からの命令によって、次々と銃弾が撃ち込まれます。びくともしないと思えれば、もっと強力なミサイルが飛び出しました。それでもその先に開ける風景は何も変わりませんでした。そうです。そこにあるのはどうしようもない行き止まり。軍隊なんかに突き抜けることはかないません。

 その時、煙を吐く戦車の下から一匹の猫が抜け出してきて、王様の前に立ちました。
「ちょっと通ります」
 王様の前でも物怖じ一つしない猫でした。
「今は大会の最中だ」
 王様の威厳に満ちた声が猫の前に立ちふさがります。

「ただ抜けていくだけです」
 猫は一向に態度を曲げる様子がありません。

「ならばよかろう!」

 王様の許しを得ると猫はあっさりと抜けていきました。
「さあ、次の挑戦者は誰だ?」
 その時、おかしなことに誰も気がつきませんでした。
 どうしようもない行き止まりを、簡単に突き抜けていった小さな勇者がいたということを……。

「さあ、いったい次は誰なのだ?」
 次のチャレンジャーはどうやら宮大工のようでした。
 けれども、ぱりんこたちの一部が(ちょうど3年分くらい)、猫の足跡を追ってかけ出したのでした。
「もう、勝ち抜けたよね」
「そう。あの猫のものだよね!」








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