折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

飛び入りランナー

2021-01-17 10:39:00 | 夢追い
 会館の隅を勝手に借りて着替えた。徹夜仕事の疲れが残っているせいか、ボタンを外すのにも苦労した。向こうの方に黒いスーツの影が見え、徐々に人の気配が増してきた。少し無理をしている気もしたが、正式なビブスをつけると誇りが立ち上がり始めた。さあ行くぞ。会館を出ると駐車場に長距離バスが到着していた。中から旗を持った人々があふれ出てくる。皆マラソンを応援する人々だ。交差点を越え、園児たちの集団(ワゴンに乗って運ばれる子もいる)を抜けて、正ルートに飛び出した。

(今から僕はマラソン・ランナーだ)

 少し先を行くランナーの背中が見えた。まだ決定的に遅れてはいないようだ。200メートルほど走ったところで足下に違和感を覚えた。革靴の踵が少し余っていて、足に余分な負荷がかかる。短距離ならまだしもマラソンを完走するのは難しい。1キロほど走ったところで完全に心が折れた。準備不足を悔いながら、僕はコースを引き返した。高速ですれ違うランナーの目が一瞬光る。(まだやれたのでは)走っていると時々そんな気がする。
 けれども、問題は他にもあった。マラソンはスタート・ラインから参加するものだろう。今日は朝からすべてが間違っていた。
 対向車線からバスが近づいてきた。窓からマシンガンを突き出して、僕のビブスを狙うのが見えた。
コメント

カテゴリ落選

2021-01-08 14:09:00 | 夢追い
 理由なき落選。またどこにもたどり着くことができなかった。失意の帰路。小さくなった肩から何度もジャケットが滑り落ちそうになる。本当にないのか。(自分だけが知らない鍵があるのかもしれない)交差点の真ん中に取り残された手袋をつつく獣の影を見た気がした。出遅れたワゴンを後ろのクラクションが押し出す。ヘッドライトが地を這って、僕の足跡を消す。

 エントランスのドアが破壊され中では枯れ葉が渦巻いていた。エレベーターの前にバリケードが築かれ、ランプも消えている。薄暗くなった蛍光灯が点滅している。足が冷たい。僕は裸足だった。ポストに靴が入っているはずだ。希望のポストは凍り付いていて手が出せなかった。闇の中からクロヒョウの鋭い瞳が光る。僕はエントランスの隅っこにうずくまった。足音が近づいてくる。中に入られてはまずい。(人間の存在を知らせるのだ)イノシシと同じかどうかわからないけど、僕はおじいさんの教えを思い出して大声で叫んだ。
「カテゴリー!」
 獣は去ったようだ。しかし、すぐに思い直して戻ってくるかもしれない。2度同じ手は通用しないだろう。

(非常階段で行け!)

 脳が指令を出しているが、自分のこととして受け止められない。戻ってきたら殺されるという恐怖と、どうなってもかまわないという思いが交錯して、体が動かない。
(速く、速く)遠くで誰かが言っている。大事なのはここを離れること。

 黒猫を胸に抱え管理人は階段にかけていた。
「メンテナンスがあるなんて書いてなかったでしょう」
「乗り物のカテゴリに書いてあるよ」
「そんなカテゴリはない!」
「あんたまた落ち込んでるの?」
「そんなことは……」
「どうしてそんなに入りたいのかね」
「みんな入ってるから」
「違うね!」
 管理人は食い気味に入り強く言い切った。

「あんたは入っている人を見ただけだよ。みんな苦しんでいる。知らないとこでみんな苦しんでいるんだ。あんたと一緒だよ」
「エレベーター、明日は直るの?」
「勿論。少し休ませてるだけだから」
「ドア、壊れてたよ。あと照明も」

「幻を追いかけないように」
「ああ」
「カテゴリなんてどこにも存在しない」

 ドアを開けると強く風が吹きつけた。カーテンが波打っている。電気もエアコンもつけっ放しだ。みかんの香りがする。少し前まで誰かがいたようだ。そこにある物は半分ほど見覚えがあるが、自分が出て行った時の記憶がなかった。全開の窓から長布団が地上まで伸びて滑り台のように見えた。

コメント

ペン・スタンド

2021-01-01 08:37:00 | 夢追い
 客席は今日も疎らだった。
 もう望まれていないのか。ファンは何処へ……。
「君の人気がなくなったんじゃない。音楽ファンが減ったんだよ」
「同じことじゃないか」
「違う! 人が減ったんだよ」
「もうやってられない」
「時代だよ。時代が人を疎らにしてしまった」

 ガソリンスタンドでスーツを買った。緑色のスーツだ。同じような色のスーツが既にあった気がするが、質感が異なる。シャツもネクタイもみんな緑でかためる。どんな芝にでも溶け込みやすいように。試着をしている間に、父も母もみんないなくなってしまった。
 テーブルの上に文具が散乱しているが、どれかは家の物であるらしかった。ハサミはどうも違う。ボールペンの1つに仮名の書かれたシールが貼ってあり、それは母の旧姓の頭文字と一致した。
「これは家のです!」
 断じたものの根拠が薄く、逃げ出したい気持ちになった。

「もう少し続けることにしたよ」
「そう言うと思ってたよ」
 テーマが尽きるまでは、続けてみよう。
 未来にでも届けばいい。
 歌うとは、みえないものを信じることかもな。
「共に進んでくれる?」

コメント

私たちこれから

2020-12-15 23:17:00 | 夢追い
 何かあって4階から7階に引っ越したあとだった。目覚めた時、布団は少し人の形をしていたが、姉はもういなかった。
「……さん」外から大家さんが呼ぶ声がした。
 ドアを開けると両親が立っていた。父と母が突然たずねてきたのだ。しばらく会っていなかったが、あまり歳を取っているようには見えなかった。母の手を取って、中に招き入れた。父は手にペットボトルの水を持っていた。何もないと思って買ってきたのだろうか。僕は慌てて余計な物を寄せてスペースを作った。カーテンを開け窓を開けた。父はグラスがほしいのだろうか。僕は冷蔵庫を開けてみた。

「私たちはこれから食べに行くところだから」
私たち……
(いい言葉だ)
 2人は何をしに来たのだろう……。
 積もる話もあるだろうに。
 はっとして、僕は目を覚ましてしまった。

コメント

ねー(ミスタッチ)

2020-12-03 03:43:00 | 夢追い
 倉庫へ続く道が壁になっている。ボタンは2つ、右か左か、どちらかが正解だ。少し迷って右にかけてみた。開かない。嫌な予感がして、その場を離れた。

「地下1階で火災が発生!」
 周囲がざわついていた。
「うそです! 僕が押しました」
 皆がいたい者を見るような目で僕を見た。
「電話をお借りします」
 司令部に連絡したかった。教えられた通り2番を押すとすぐにつながった。
「ささやま商事です」
「失礼しました」
 司令部にはつながらなかった。どうもおかしい。近くの人にもう一度教えてもらう。
「任意の2文字です」
 か、な、と押して待った。しばらくしても呼び出し音に切り替わらない。ずっと無音の状態が続く。待つことが苦しくなって、僕は周囲の人に説明を始めた。

「ボタンが2つあったんですよ。正解はソフトな方じゃないんです。カチッと押す方。カチッと押す方が正解なんですよ。書いといてほしいですよね。ねー……」

コメント

棋書とカール

2020-11-29 20:06:00 | 夢追い
「お菓子を買っておいて」
 レジに並ぶ列の中から姉が言った。
 洋書とワインをかごに入れたカップルが、姉の後ろに並びながら、冷たい目を僕の方に向けた気がした。負けるな。与えられた任務は、秋の課題図書を見つけるのと同じくらいに尊いもの。うまい棒、もろこし輪太郎、キャベツ太郎、カール。どれも家にない。これは大変不安だ。いや緊急事態だ!

「任せて!」
 歩いても歩いてもお菓子コーナーが行方不明だ。前はこんなことはなかった。スポーツ書の前に広大なスペースがあり、無駄に歩かされる。ここでジョギングでもするのか。レイアウトが変だ! 店長を見つけたら文句を言ってやろう。
 今月の目玉コーナーに表紙を向けて棋書が置かれている。

「こんな本が店頭に並ぶようになったんですね」
 話しかけてすぐに後悔した。隣に立っているのは、まさにこの本の著者ではないか。(こんな本)と言うのは相応しくない。先生は無言で少しだけ笑っているように見える。子供の頃、先生の本を読んだことがあった。
「今はいいですよね。ソフトを使って、何が最善か確かめられて……」
「自分で考えないと!」
 先生の答えは厳しかった。自分の頭で考えることが、何よりも大切なことなのだ。
「先に答えを見ては駄目です」

コメント

まどろみ皇帝~ここでつかめ(縁は旬)

2020-11-28 12:49:00 | 夢追い
 推敲に次ぐ推敲は破壊に近づいていく。宿題をとき終えてからでなければ、悪夢はより濃いものとなるだろう。グリップがおぼつかない。微動する指先から、引かれ始めている。海月道、猫落ち葉、バナナ竜。歪んだ風景が、罫線の縁から介入してくる。恐ろしくもあり心地よくもある。誰の使いだ?

「まどろみ皇帝だ」
 邪悪な奴め。金魚、キャラメル、ちりとり、バームクーヘン、くさりかたびら、岩石、毛虫、消し屑。横殴りのノイズが、覚醒の邪魔をする。皇帝は、余計なものばかりをよこすもの。

「あなたが呼んだのでしょう」
「うるさい!」
 幻聴に抗って僕はまだ留まれる。夢の浅瀬こそは現の絶頂期なのだ。ここにいたい。先へ進みたい。この決戦は、引き裂かれそうなほどの高揚の中にある。反逆者の残党がペン先を奮い立たせる。掌編の構図が歪み、世界観が荒れている。グリップは現の淵に生の執着をみせてしがみついていた。

 まどろみ皇帝の押すブランコが揺れている。土埃を上げながら少年はボールを蹴っていた。木が少年を止める。猫が少年から奪おうとする。どこでどこに触れてもいい。それを全面幸福と少年は呼んだ。
「ここにあったの」
 少年の足下に素晴らしいタッチはあった。
「何を探すことがある?」
 既に見つけてしまったあとで。

 ブランコは夢と現を行き来している。
 この風だ。空間だ。重力だ。
 ここでつかめ!と本能が叫んでいる。
 ここにあるものはここにしかない。ここで手にしたものが次の夢を決めるだろう。僕の宿題は、何にもならないことを取っておくことだ。(それは未来の下敷きとなる)死を忘れながら生きられる人間にならできること。
 強まるまどろみ皇帝の攻勢。僕は風に手を伸ばす。
 ここでつかめなければ、この先ではもっとつかめないだろう。

 ここでつかめ!

 ここで最後の仕事(わるあがき)をするのだ。
 日曜、ペンギン、幸福、ロールケーキ、革靴、エルモ……。
 ブランコの軋む音が消えた。

 僕は泡の中にいる。海? 雨か。
 飛んだのかな。(負けたのか)
 落ち葉をつれた猫が、楽しげに泳いでいる。

コメント

心象パスタ・タウン

2020-11-20 02:54:00 | 夢追い
 一握りのパスタと侮って茹でると鍋の中で急激に成長した。絡めようとしたフォークを弾き飛ばして、パスタは腕に絡みつく。既にその時には他の勢力が部屋中のあらゆる物に絡み始めていた。食べられるのはこっちの方だ。家を追われて路上に出た。タクシー! 

「出してください」
「それは大変だね。もしも私がイタリアン・シェフだったらどうします?」
 運転手はおしゃれな髭を動かしながらジョークを飛ばした。
 交差点を直進した後で突然ハンドルから手を放した。
「何を?」
「驚かせたね。みんな飾りなんだよ」
 運転手はフライパンを握りオムレツを返していた。
「飾り?」
「ハンドルは不要なんだよ。道もないんだよ。目的地もない。そうさ。私はただのイメージ画像だよ」
「じゃあ僕もなのか?」
「安心しな。君はいるよ。君のために作られた世界だからね」

 家に帰ってもすべきことがみえないので駅前にいる。先の事が決まらないと歩を進めないモードに陥ってしまった。鎖で囲われた一角に入ると、踵の下で砂利が永遠的な癒しを与えてくれた。きっとここは立ち入り禁止区域だろう。左手にはまった鉄のパスタが意味するものは何だろう。僕は捕まっているのだろうか。

 パン屋の前はシャッターが下りている。警備員の前説に人が集まっていた。
「暗証番号を捨てなはれ。ふるー。はい。今まではただ風景を流れて行ったんでしょう。はい。1つは描けました。はい。心象風景ね。あなたが暗号化することやで」
 シャッターが震え、警備員がフェードアウトして行く。

コメント

浮遊コーラ

2020-11-19 03:02:00 | 夢追い
 ゴミを拾い自転車を道端に寄せた。地味な作業が一段落を迎えた頃、落ち葉に触れると浮遊の感覚が戻ってきた。
 古民家の壁をよじ登って軽く浮遊実験に入った。人気ないところから始める手もあったが、気が逸っていた。偉大な実験がこそ泥騒ぎに変わるかも知れない、危ないところでもあった。路地裏に着地した時、一服する料理人と顔が合った。「おつかれさま」と男は頭を下げた。同業者だと思われたのかもしれない。

 浮遊コントロールに自信を得て一気に高度を上げた。高いビルをクリアする途中、浮遊して行く以外に垂直に壁を駆け上がる動作を取り入れてみた。これは映え増しだ。
 最上階に近いところまで浮遊した時、室内で窓掃除をしている男と目が合った。男は驚いて雑巾を落とした。それから見えなくなって、戻ってきた時には手に缶コーラがあった。

「おつかれでしょう」
 開いた窓から差し出してくれた。
 体を傾けながらコーラを流し込んだ。この動作は映えるぞ。
「おー!」
 地上からの歓声だろうか。 

 専門家の提案によって精密なスキャンを受けると、浮遊細胞の活発な拡散が認められた。翌月には『ムー』への掲載も決まった。
「重力コントロールに成功した唯一の存在」
 唯一の……
 わるくない響き!

コメント

集合写真(先生ありがとう)

2020-11-14 21:24:00 | 夢追い
 緩いタッチが好きだった。筆を立てているような、寝かせているような。撫でているような、いないような。ありありとしていながら、どこかかすれている。確かなようなふたしかなような。そのようにして描きたいものと憧れていたあの人を、懐かしむほどに見かけなくなった。一説では転職したとか。


 順に職業を訊かれる。
「会社員です」
「パンをつくっています」
「派遣社員です」
「製造業です」
「旅人です」
「将棋を指しています」
 青年はあえて棋士とは口にしなかった。こちらにくる。徐々に質問がこちらに近づいてくる。ああ、何と答えようか。何と答えても反応が怖い。偽ればうそつきの顔をしなければならない。雷が落ちないか。少し停電すればいいのに。


 集合写真が嫌だった。僕は横を向いたまま地べたに座り込みスマホをのぞき込んでいた。(一緒は嫌なのだ)最前列からも突き出して通行人のように、参加していた。普通ならば許されまい。
「ま、まいっか」
 そう言って先生はカメラをのぞき込んだ。みんながくすくすと笑う。僕だけは笑ってはならない。通行人としての大事な務めだった。
「チーズ!」
 シャッターを切ると夏が終わった。
 先生はもういない。
 いつになってもそれは信じられない事実だった。
 ただあなただけを「先生」と呼べるのに。



 
コメント

鉛筆削り

2020-11-04 09:50:00 | 夢追い
「おとなしくしていれば安心なのにどうして身を削るような真似ばかりするの」
 人は誰だって鉛筆だ。
「どこで育て方を間違えたかな」
 玉葱かじゃが芋とでも話しているのか。
(僕が勝手に間違えたんだ!)
 通用しない正論を呑み込んで、僕はポケットに手を入れる。

「戻る時は小舟を漕いで戻ってね」
 喫煙スペースは船外にあった。
「突き当たりに出口があります。そこが入り口です」
 口は一方通行で簡単には戻れなかった。
「役者はこちらだ」
 外の世界では囚人か役者かどちらかしかなく、僕はうそでも役者を自称する他はなかった。それが正解だったかはわからない。毎日毎日、素人には厳しすぎる演技指導が続いた。
「人間を捨てろ!」
 石の上では猫に、横断歩道ではバッタに、設定に応じてあらゆるものになりきらなければならない。猫はともかく虫はきつい。
「それくらいできないと意味ないぞ」
「はい!」
 何よりも自身の従順さに腹が立つ。
 豊かなイメージを持たねばならぬが、持ったらすぐに手放さねばならない。アドリブから次のアドリブが生まれるのを待たねばならないが、一瞬も演技を止めてはならない。もはや発狂寸前。

「10年前の火星戦争でな」
 クラブハウスは破壊されたと老人は言った。
「今は将棋クラブじゃ」
 駒音一つ聞こえてはこない。
「と言っても誰もいないがね」
 不要となった盤や駒を片づけて、そこを執筆室として使うことに決めた。復帰のための論文を書くのだ。
 演技はこうだ、睡眠はこうだ、人間はこうだ。みんな一定の結論を求めている。嘘か誠かは問題ではない。結論に寄り添って生きていくことが、人間には安心なのだ。
(わかったぞ!)
 明日、明後日には結論は覆るかもしれない。ずっとあとになってみれば、みんなデタラメだったと知れるかもしれない。でも、今は今で精一杯の断言をしよう。

「それで火星まで?」
 街の人は少し驚いたような顔だった。
 近くには何もないと聞き、火星までやってきたのだ。本当は月にも色々あったのだが、案内所の人間が無知だったのだろう。(火星まで行かないと)そう強く言われたのだ。無知が無に替わって旅が長くなった。
「ここは有名だからね」
「なるほど」
「まあ、ゆっくりラーメン巡りでもしていくといい」

 麺が硬かったので自分も棒のようになり、立ったままうとうとしていると鉛筆になってしまった。やたら尖っているということで槍玉に挙げられたのが僕だった。
「どう使うかが問題だ」
 作家の組合が擁護してくれるので百人力と言えた。
 それはまさに正論。鉛筆または僕は、オレンジジュースと同じだ。チョコレートとも同じだし、ナイフ、スリッパ、ミサイル、機関銃とも同じだった。密になっても全く問題ない。言葉と言葉、密になってこそダイナミックな運動が始まるのかもしれない。火星麺を経由して論文は一応の完成をみた。もう演技はしなくていい。デタラメでも書き切ったという自信が僕を再構築し始めた。

 小舟を漕いで約束の通りに戻る。戻るところはいつだって新しい街だ。悪夢のあと、僕の外にみえる、新しい街がみんな解放してくれるだろう。過去も経歴もまるで関係ない。足を踏み入れた街は完成間もない絵のようだ。澄み切った空気に包まれて僕は新しく生まれ変わる。一歩一歩、自分を前に押し進めることによって、絵の中に溶け込んでいける。
「ここならやれる」
 美しい世界が、僕を一緒に引き上げてくれる気がする。
コメント

三味線テスト

2020-10-30 21:27:00 | 夢追い
 三味線テストが順に回ってくる。これは全員参加型のテストなのだ。それにしてもぶっつけ本番だ。前の人がそこそこ上手に音を出していて緊張が増す。いよいよ僕の番だ。カラオケにお手本の映像が流れている。

「えっ、歌うの?」
 最初に鼻歌を添えるらしい。意を決して鼻歌スタート。弦を弾いても音が上手く出なかった。鼻歌も小さくなって、無の演奏がしばらく続く。聴いている者もいるが、聴く振りをしながら漫画を読んでいる者もいるのだろう。しかし、あるタッチをきっかけにして僕は覚醒した。
(出せるじゃないか)
 高い音が出ることに興奮して弾きまくった。

「はい、それまで」
 うるせー! これからじゃ。先生の制止を無視して僕は奏でた。課題曲に飽きて、即興で作った曲を演奏しながら歌った。みんな聴いている。手拍子をする者もいる。窓の向こうに影が見える。もう誰にもとめられない。
(こんなにも自分の中にメッセージが眠っていたなんて)
 これさえあれば、ヒーローにだってなれる。

「あなたのコーヒーカップは?」
 家に帰るとおばさんが来ていた。
「知らない」
 キッチンに出たままの包丁を洗った。流しの下に片づけようとすると刃が2段構えになっているように見え、目を疑った。
 これは……。
 尖った部分が徐々に丸みを帯びて縮んで行く。
 なんだ、お好み焼きを返す奴か。

コメント

5Gトレイン

2020-10-29 06:23:00 | 夢追い
 減速してホームに停止する。その時、電車は現在にGをかけるが、体はまだ後ろに引っ張られて過去にしがみつこうとしていた。僅かな乗客を入れ替えて電車は動き出す。迷いのない電車は未来にGをかけようとするが、僕はもう少し現在に執着しシートに腰を沈めていた。抵抗は儚い。生身の肉体はGに吸収され同化し電車と一体となる。短く逆らい、多くを委ねて、運ばれて行く。

 僕はGと関わり夢をみる。そこが最も時空を超えやすいスペースだったから。ドコロッシャン♪ 雷は一雨の予感。今夜は出かけなくちゃな。400ポイントが0になってしまう。ポイントはスキルと交換できるとか。同時に複数の鬼を持てるし、感情を薄めそれぞれの鬼に割り当てることができる。それにより演技の幅が広がるのだ。
 躍動する電車がロックなGをかけて、乗客を煽る。僕はポイントに執着しながら縦乗りで踊る。ミラーボールに化けた吊革が羞恥心を溶かす。(何度でもここにいるよ)車窓から刺さるネオン。小部屋の中のバンジージャンプ。

「まもなく終点……」
 アンコールを待たず終点へ向かう。すべてのGの終わり。
 足音が動き出す。ドアが開く。同調が加速する。息を吹きながら、電車はすべての乗客を吐き出す。
 終着のGに逆らって僕は夢にしがみついていた。(ここで降りたら再び戻れることはないだろう)たどり着いたとしても、終わらない旅に惹かれるのだ。雷、ポイント、鬼、スキル、演技……。課題はたくさんあるぞ。

「お客さん終点ですよ」床を叩くような足音。
「お客さんが終点ですよ」
「そんなことあるか!」
 はっとして目を開けた。
 そこに想像していた制服はなかった。
 劇場の観客はみんな猫だった。
 ということは僕もか……。
 そうか。生まれ変わったのか。
 

コメント

燃えるクーポン

2020-10-24 10:38:00 | 夢追い
 悪夢にもからっとしたものと、ねっとりとしたものがある。見ている時には恐ろしくても覚めた瞬間、「あー夢でよかった」と思えれば、悪夢も清々しい。しかし、覚めてもまだ夢世界から抜け切れないで、恨みや気がかりが半分向こうに残っている。(夢というのに納得がいかない)そういう悪夢は精神的に疲れるし、後に引きずってしまう。

 少し前は船内だった。ちょうど船の外でUFOショーが始まって、カメラを持って近づくが、ガラスに反射して上手く撮れない。外に出ようということになり、ワイングラスを持った芸能人がいて……。

 次の場面では酔っぱらいに責められている。クーポンの扱いを巡る手違いで、2人の料金に200円の差が出てしまった。半分は僕のミス、半分は仲間との連携ミスだった。動揺する中で僕は「クーポンどこいった?」みたいなことを言ってしまった。それが爆発のスイッチになった。
「出したじゃないかー!」
 酔っぱらいは怒鳴った。そうだ。クーポンはすべて僕の手元にあるのだった。
「申し訳ありません」
 酔っぱらいが爆発してから、スタッフ一同が頭を下げ始めた。ミスに関与した男は無言を貫いている。

「どうなってるんだ!」
「申し訳ありません」
 皆が詫びるために図式が定着してしまった。
 勿論、主犯格の悪者は僕だ。
「申し訳ありません」
 誰が何度頭を下げようと酔っぱらいの怒りは、最終的には僕の前に帰ってくるではないか。申し訳ないにしても、そこまでか?

 いったいいつまで頭を下げているつもりだ。
 他にないのか。もっと前向きな提案をしないのか。
「目を見て謝って」
「申し訳ありません」
 謝罪の一方通行に追い込まれて視野が狭くなっていた。
 酔っぱらいの体がまとう怒りの炎だけが世界を照らしている。
 いつまでも、いつまでも、消えない炎。

コメント

吊り橋交差点

2020-10-23 10:50:00 | 夢追い
 信号機よりもまだ高いところに細い吊り橋がかかっていて、僕らはそこに跨がって交差点を見下ろしていた。交通調査の仕事だ。
 最初は見ているだけだったが、誰かがハンカチを落としたりしたら叫んでしまう。しつこい勧誘につきまとわれている人を見ると口を出してしまう。おかげで僕らは目立つ存在だった。たすきを巻いたおかしな政治家みたいなのがやってきて、文句を言い出した。

「下りなさい! 危ないじゃないか!」
「うるせーな!」そういう仕事なんだよ。
 ずっと平気だったのに、地上のある一点を見た途端に恐怖心があふれてきた。
(高いところはだめだったんだ)
 震えている。それが伝わって吊り橋も揺れ出した。

「真ん中から下りられるかな?」
 吊り橋を端まで渡りきる自信がなかった。徐々に震えが大きくなり、もう一歩も動けそうにない。
「落ち着いて! まずは深呼吸しよう」
 隣の先輩が前向きな言葉をかけて励ましてくれる。
 その時、交差点にあおり族がやってきた。

「何やってんだ!」
 からかうような目がいくつもこちらを見上げている。
「仕事だー!」
 先輩が叫んだ。
「お前も言ってやれ」
 そうだ。恐怖に打ち勝つには怒りの熱が必要だ。
「こういう仕事なんだよ!」

コメント