自分にとってきっと大切であったはずの白い紙の上の生物をずっと眺めている。一晩眠った間に、それはお化けになってしまった。もはや漢字でも平仮名でもない、かつて文字の連なりであったはずの化け物を退治し、意味を復元させることから今日一日は始まるのだ。私は私を再生する。 #twnovel
うどんと野菜とキノコの周辺から、まだ沸々と泡が立ち上っていた。「火が落ちたのにどうして?」おじいさんはうどんを掬い取りながら、私の疑問について熱の伝わり方について丁寧に話し聞かせてくれた。「形あるものには終わりがある」空っぽになってもまだ土鍋はあたたかだった。 #twnovel
「とてもしあわせです。見ているだけで」女は羨むように笑みを浮かべて、強く握られた両手の中の横顔を覗き込んだ。「とても素敵ですね。結婚するのですか?」もうこの世にはいないと説明すると彼女は軽率すぎた発言を詫びた。「いいえ。ずっと、昔の話です。二次元の世界の……」 #twnovel
先細って行く銀の先の向こう側、その広がり方は闇に隠れて見えなかったが、そのどちらかを選ぶ決断に迫られて指先が震えた。「尖った先端を引き当てれば、スパゲッティ。だが、丸まった方を選んだ時は、直火チャーハンを食べることになるぞ!」運命の分れ道、鬼の目が燃えていた。 #twnovel
最初は風はとても冷たいかもしれないけれど、それは徐々に暖かい風へと変わり始める。だから、そこであきらめて切ってしまわないこと。物事には準備が必要なのだから。「いらっしゃいませ」ワニが口からよだれを垂らしながら入店してきた。「ほら、あれも食べるための準備ですよ」 #twnovel
「ほんとの戦いはこれからですね」しかし答えは意外なものだった。「我々は戦うつもりはない」我々を分かつもの、それはほんの些細なものに過ぎないのだからと言って、ガラパゴス将軍は三万の軍勢を従えて私の手の中に収まった。「しかし」と再び顔を出す。「いつでもよんでくれ」 #twnovel
開いた扉に誘われて入った4℃の世界から、ひそひそ話がする。「腐りかけているのなら、まだよかったが、俺たちはすっかり腐ってるのさ」足音に気づいてスズナが振り返った。「ここはあんたの来るとこじゃない。出て行ってくれ。扉を閉めてな」ペンギンはまだ呑み込めない様子だ。 #twnovel
2階は全席禁煙になります。いつから? 男は言葉尻を掴むようにして店員に振った。「今だってそうですが何か?」だったら1階だってそうじゃないか! みんな禁煙じゃないか! 店自体が禁煙じゃないか! と叫んで店を出るなり火をつけた。3分後、男の手は鉄の輪の中にあった。 #twnovel
何度収めようとしても空に溶け込んでしまってできないのだった。きっと空が淡い背景色だからいけないのだ。初めて見た雪をお気に入りに登録したくなって、彼女は久しぶりに外の世界に飛び出した。夢中で出てきたため上着も着ていなかった。「誰か、黒壁になってくれませんか?」 #twnovel
充分に暖かくしてから寝床に入る。徐々に熱が体を縛りつけて異世界へ持ち運ぼうとする頃、いよいよ熱を放出したくなるけれど、勿論手などを使うことはできない。私は身をよじることで体についた余分な衣を剥ぎ取る。朝、行方不明の分身を探す。そして、私はカブトムシになるのだ。 #twnovel
「できちゃった」だからよかったら俺につき合ってくれと言って彼は歩き始める。「おろそうか」開かれた通帳には見たこともないような桁の数字が並んでいた。「君に、財産を分配したい」君にという声で銀行中の人々が振り返ってしまう。「結婚しよう!」彼の言葉に、私は即答する。 #twnovel
男は順番に地域を回っていて不要なものがあれば何でも買い取りますと言った。処分ができてお金までくれるという良いお話で、私の狭い部屋の中には幾つかの不要な物があったが、反射的に「ないです」と言うと無言になった。電話が切れたのだ。さよならの言葉は不要というわけです。 #twnovel
無数にあった変換候補の中から正解を探して下りていくと流れが変わり候補はマイナスに転じてしまう。問題が発生したといって背後霊が立ち上がって動き出す。少し目を離した隙にカーソルが飛躍した過去の上に止まり勝手に落書きを始めてしまう。「解決策は見つかりませんでした。」 #twnovel