眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

先生わかりました

2010-02-23 16:29:37 | 猫の瞳で雨は踊る
引退していく西日をいつまでも見下ろして浸っていた。
帰り道。僕らは、ようやく歩き始めた。
公園通りは、来た時と同じように人が多かったけど、その足並みは当たり前のようにバラバラなのは、みんな帰る方向が違うからだった。
明るい方向に行くことを願って、適当な人の流れについていく。散歩中の犬がいっぱい。
風が落葉に気を注ぐと、彼らはより気まぐれになって街を乱舞する。もう冬が近づいているのだ。
明るい展開が顔を出すかと思うと、道は不意にどん底のように沈んでしまう。僕らの勘はまるで頼りにならない。

僕らはゴールがみたい 僕らはゴールがみたい

血を吐いた朝はほんの少しだけ12月のような味がした。
しゅわっとする。
うちの冷蔵庫には飲みかけの炭酸飲料がいつもあった。
それはいつも母が捨てることができなかったからだ。

思い切って、右に進路を変えてみた。せめて信号機があるから救いだ。
角にある店を逃したら、もう何もない場所に行ってしまうかもしれないが、僕らは行ってしまうことにした。
前を行く家族連れを道しるべにして、歩く。彼らは駅に向かって歩いている。あるいは、自分たちの家に向かって歩いている。僕らはただ、多数意見に向かって歩いてゆくのだ。遥か向こうに大きな建物。ローマ字の電飾がちかちかとする。あれは何? きっといいものだよ。

僕らはゴールがみたい 僕らはゴールがみたい

夕暮れの中、黒山の人だかりが日の出にたかるカナブンのように湧いている。
それは診療を待つ町の人々だ。
おじいさんが、来年の話を寄せ付けなかったのは、自分が鬼に似ていると気づいていたからだ。食事前には手を合わせ、坊主頭だから、必ずあの人は坊さんですね、とみんなが言った時だって、おじいさん一人はお地蔵さんのように笑わなかった。
だから、おじいさんは一握りの昔話を築くことができた。

道しるべは、どこけともなく消えていく。それに似た構成をしたまとまりを、新しい道しるべにして僕らは歩みを続けていく。明るい場所が確かに近づいてくる気配がする。明滅の正体は、巨大な遊戯施設だった。それはどこにでもある。とりわけ駅の近くには、旅人の哀れな零れ玉を拾い集める磁石のようにくっついているのだ。煙がどこからともなく、半額という文字を引き連れて漂ってくる。ただそれに吸い寄せられる、僕らは柔順な生き物だ。

僕らはゴールがみたい 僕らのゴールがみたい
みたい みたい

迷ってしまうのは、何でもいいからだった。
長い旅路のことを忘れて、生菓子を買ってしまう。
それはとてもとてもおいしそうだったからだ。
少し物足りない気がして、別のケーキも買ったが、なぜか人数分足りていなかった。
僕が失敗したのは欲張ったからだ。ほんの少しだけ欲張ったからだ。

肉が焼ける音がする。何の肉かわからない肉が網の上で無残に散らばっている。
お兄さん、何かやっていますか? 肩の勲章を見つけてアキが店の者に訊ねた。
いずれどこかで会うかもしれませんね。きっと、どこかの格闘場で……。
燃えさかる炎を、僕らは僕らの手で弱めることは許されない。手を触れることを禁じられているからだ。僕らは、炎が弱まることを願った。すると、遠くから王様が飛んできて、つまみを少しだけひねった。炎が弱まった。

僕らはゴールがみたい 僕らのゴールがみたい
みたい みたい

ゆすぐと黒い破片が飛び散るのは、おにぎりを食べたからだ。
ごま塩に妙な親近感を覚えるのは、いつか恵まれた関係にあった人の面影を感じ取ったからだ。
その瞬間を、僕はノートに書きとめる。
それはいつも小さなノート。大きなノートはプレッシャーになるからだ。

商店街の隣に鋼鉄の駅があった。そこに僕らは入れなかった。寄せ付けない冷たさがあったから。
うら寂しい細道に入って、真実の駅を目指して歩いた。うら寂しい道の途中には、うら寂しい店々がぽつぽつと隠れていて、中を覗きこむとほとんどうら寂しい店の中は、無人が占領して風を吹かせていたのだった。カタカタと窓が鳴った。やはりうら寂しい音がした。足音までがそうだった。突然、うら寂しい店から黄金色に輝く老婆が現れて、冬枯れた声で歌を歌った。絹のような劇的な旋律がか細く僕らを後押しした。

僕らはゴールがみたい 僕らはゴールがみたい   僕らはゴールがみたい 僕らはゴールがみたい

みたい みたい

コンセントを抜いた時、もしもその点滅が消えなければ僕は間違った方を抜いたことになる。
ペットボトルを傾けたのに、満たされるものが何もないのは、まだキャップがついたままだから。
外さなければならなかったのを、飛び越えて先に行ってしまったから。
自転車には、まだカバーがかかったままだ。
それは、汚れてほしくないからだった。
走り出すために手に入れた玩具は、いつまでも見つめられて戸惑いの中にとどまっている。
大事にされすぎて、もったいない。
もったいない。


イルカ

カエル

ルール

ルーミック

クジラ

ランドセル

ルージュ

ユートピア

アジア

アンサンブル

涙腺が緩む

難しい顔

オットセイ

インコ

コウモリ

リクエスト

逃亡者

約束の橋

しかえし

失敗

いとしい

一切合財

銀杏並木

着物

のけもの

のり

リンゴ

ゴリラ

ラッパ

パセリ

リンダリンダ

ダルマ

迷子

ゴジラ

ラット

トム

無駄話


しりとりがつながるのは、つなげていくからだ。そういう遊びだからだ。
シュートが入ったのは、先生がシュートを打ったからだ。
ようやく僕は、わかり始めた。わかり始めた気がし始めた。
「やっと気がついたか」と兄ちゃんが言ったのは、兄ちゃんはもうとっくにそれを知っていたからだ。

せまほそい道を抜けると、突然大きな道に出た。
少しだけ間違えて歩いた後、振り返ったところに駅を見つけた。
高く明るく輝き、まだ名前もない大きな駅だった。
あそこだ! と僕らは叫んだ。
あの場所へ行く着く方法は、ただ一つ。目の前の大きな道を渡っていくしかない。
横断歩道は、邪悪な風によってかき消されている。
行こう!
白いガードレールを乗り越えて、僕らは行く。


僕らはゴールがみたい 僕らはゴールがみたい

僕らはゴールがみたい 僕らはゴールがみたい



僕らはゴールがみたい 僕らのゴールがみたい
みたい みたい


僕らはゴールがみたい 僕らのゴールがみたい
みたい みたい


みたい  みたい



みたい  みたい





先生、「生きる」とは何ですか?
黙っていたのは、あの時先生だって揺れていたからですね。
先生わかりました。
僕は、それを探すことに「生きる」をあててみます。


*


目を伏せた猫から、ケータイを奪い返してマキは開いた。
とりとめもなく続く散文に、適当に視線を走らせて見る。
「ノヴェルさん。問題は、ラッパの次よね。
私だったら、パイナップルと続けるよ」

パイナップル

けれども、猫は眠ったふりをしている。
きっと、猫だからだ、とマキは思った。

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椅子とりゲーム

2010-02-09 17:04:09 | 何でもええやん
バス停の不思議な椅子を持ち帰る


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お仕事

2010-02-05 16:53:17 | 猫の瞳で雨は踊る
「僕はもうやめることに、決めたよ。
 ここに来る人たちは、みんなどうかしてるんじゃないか?
 自分までそうなってしまうのが、怖いんだ」
「わかるけど……」
けれども、その後の言葉は何も出てこなかった。
未完成の言葉は、いつまでも胸の奥につかえたままで、どこまでいってもそれは気がかりとして自分の中に残り続ける。
それ以来、ロックマンはいなくなってしまったし、もう必要のない答えかもしれないが、過去に遡って埋めることのできない言葉の穴は、ずっと遠くから僕を密やかに見つめているのだ。

座席の下に、黒い染みがいつか見た形でそのまま残っている。
僕は同じ車両に乗ったのだとわかる。きれいなままなら、わからなかった。落ちてしまうような汚れなら気づかなかっただろうに、その黒い染みは洗っても落とすことができないほど強い執念で付着しており、その床の一角を他者と分かち特別な空間に変えていた。その前に僕は座った。
それは本当に、洗っても落ちないのだろうか? あるいは、それは誰かがそれを思い出すように、例えば僕がそれと気づくために、あえて手を加えることなく汚れたままの形で保存されているのかもしれない。意図しないものか、意図したものかわからないまま、現在のところ、それは確かに保存されている。そして、それが保存されている間、僕が再びここに戻ってきた時に、その再会に気づくことができるだろう。黒い染みは、今、僕の足元に落ちていた。

「仕事、してるか?」
「うん。一応しています」

ねえ、ロックマン。
馬鹿野郎は、100人に1人だとしても、それが2人、3人と続くことはあるんだよ。
その時、キミは、どう思った?
自分が、もっと馬鹿野郎になったらどうだろう……。
負けずと馬鹿野郎になったら。

「仕事、してるか?」
「会社員です」

車掌が、車両を回りながら、一人一人仕事の確認をしている。
それは挨拶のようなものなのだ。夕べの雨を話すように、夜の冷え込みを話すように、師走の足音を話すように、それは適当に合わせることもできるし、掘り下げて話すこともできるし、ただ笑って返すこともできる。旅の途中の列車の中では、ただ天候の話は不似合いで、それで車掌は仕方なく、それに変わる何か無難な話を選ばなければならなかった。野球の話では少し普遍性に欠けるし、地球環境の話では規模が大きすぎて狭い車内では耐え切れない。そこで最も無難なところで、車掌は仕事を選んだ。

「仕事、してるか?」
「うるさい! あっち行け!」

後姿を追っていた。親しい関係でもないのに、後姿であの人だとわかる。延々と続く地下道で、僕の前をあの人は歩き続けている。どこまで行ってもあの人はあの人だ。後姿だけでも変わることはなく、あの人は間違いなくあの人だった。どうして顔を見てもいないのに、あの人はあの人であり続けるのだろう? もしもそうでなかったら、その方が喜ばしいことだけれど、その可能性は後姿に明白に表れているのだった。あの人をあの人と識別するのは、顔であるというのは間違いだった。別に強くそれを信じていたわけでもなかったが、今あの人の後ろを歩き続けて、それは強く覆されていくのがわかる。顔などというのは、人の一部に過ぎなかった。人の形は、その周辺のすべてなのだ。人にまとわりついた空気さえもそうだ。僕の後ろを誰かが歩いているとしたら、その人は、僕を見ているのだ。あの人は、延々と僕の前を歩き続けている。僕は追いついて、その顔を見たくはなかった。あの人のことが嫌いだからだ。

ねえ、ロックマン。
人を人と思わない奴らのことだね。
「卵の上にテレビブロスを置くな」
といって憤慨する連中さ。
奴らは鬼さ。顔が鬼であるようにね。
鬼にしてはよく馴染んでいるし、鬼の中ではまだましな方だよ。

「仕事、してるか?」
「……」

自分だけが、忙しかったり、絶対的に正しかったりする奴ら。
それは宇宙人さ。
彼らにしても、まだ慣れていないんだ。
人と違うのは、当たり前だよ。
育ってきた環境が、まるで違うんだから。

「仕事、してるか?」
「人を笑わせるのが私の仕事です」

ねえ、ロックマン。サラダひとつを取ってごらん。
彼らは好き勝手なことを始めるよ。
レタスを入れるもの、トマトを入れるもの、ハムを入れるもの、コーンを入れるもの、ポテトを入れるもの。放っておくもの、日付を書くもの、たくさん作るもの、その都度作るもの、作らないもの、作りすぎるもの、一つずつラップをするもの、大雑把なラップをするもの。ドレッシングをかけるもの、かけないもの、かけすぎるもの、かけ忘れるもの、2度もかけるもの。ルーツはみんな同じはずなのに、その後はみんなバラバラだ。慣れてくるに従って、みな勝手なアレンジを加え始める。人間って凄いよね。
彼らに、ボールを与えてごらん。世界中で、異なる遊びが始まるだろう。

「仕事、してるか?」
「あるいは、させられているかだね。
 ちょうど今のあんたが、列車という冬の中を巡回しているようにね。
 好きでそうしている奴は稀だ。
 けれども、好きでもないものの中からでも、自分らしい何かを見つけることは可能なのだ。
 その質問は、あんたが自分で考えたのかい?」

「仕事、してるか?」
「今は隠居の身でね、細々とやっておりますわ」

「仕事、してるか?」
「将来は、お金持ちになるの。困った人たちを助けてあげるの」

「仕事、してるか?」
「人知れず、芸能人をしております」

「仕事、してるか?」
「私に勤まる仕事があるでしょうか?」

「仕事、してるか?」
「もう、身が粉になりました」

「仕事、してるか?」
「海賊が物を盗んで何が悪い?」

「仕事、してるか?」
「仕事を作るのが、わしらの仕事よ」

「仕事、してるか?」
「忙しくて、仕事どころじゃないよ」

「仕事、してるか?」
「魔法使いから、賢者になったんだよ」

ねえ、ロックマン。僕はわからなくなったよ。
人間に見えるのは人間なのだろうか?
人間に見えないものは人間ではないのだろうか?
鬼が人間に化けているのを、見たよ。
人間がカエルにされていたことも、あったね。
車掌が、形式的な質問を抱えて、僕の方にも回ってくるよ。
だから、そろそろ目を閉じないと。
じっとそうして、危機が通り過ぎるまで、僕は、じっとそうしているんだよ。


*


散文の遊戯に戯れ果てた猫から、マキはようやくケータイを取り戻した。
無秩序に並んだ断片の中に、見覚えのある風景を見つけて手を止めた。

「その車掌さん。私も知ってるよ。
 あんたの仕事は、どうせ眠ることでしょ。
 私は、どうすればいい?
 これから先は……」

羨むように、マキは猫の寝姿を眺めた。
ノヴェルは、規則正しい寝息を立てながら夢中で働いていた。


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鬼殺し

2010-02-03 13:46:20 | 何でもええやん
ポケットに詩集を入れた宇宙人


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寒ぶり宮殿

2010-02-02 14:36:21 | 何でもええやん
トング持つ天狗のロングストーリー

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