眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ワン・オペレーター

2022-06-30 08:30:00 | 短い話、短い歌
 女たちが煙草に火をつけて、煙を吐き出すのが見えたが、僕は全く煙たくはなかった。パーテーションは肘に接触してキーボードを打つ時の妨げになりそうだったが、むしろ身を預ける拠り所のような存在でもあった。盾でもあり拠り所でもある仕切りは2つの意味を持って、その場所の価値を高めていたのだ。(煙が)すぐ近くに見えていながら自分にまるで及ぶことがないというあり様は、テレビでホラー映画を見ている時のようだった。
 番号を呼ばれてカウンターに戻ると既に次の客が注文を通すところだった。トレイの上にカップを置いた後で彼女はいつも同じ角度で礼をする。その時、両手はいつも胸の前だ。何から何まで1人でやらなければならないのは大変だろう。
 コーヒーを混ぜていると天井から、ジャズが落ちてくる。

「カレーはここで作っているのか?」
 新たにやってきた男はストレートな疑問をぶつけていた。
「いいえ違います。レトルト」
 彼女は答える前に微かに笑ったようだった。直球に対して直球。実に清々しい勝負だ。商売は正直にやらねばならない。だまし合ったり、口先でごまかすようなことをしてはならない。

「レトルト」
 さらりと言った彼女の言葉を僕はしばらく忘れないだろう。
 レトルト。いいじゃないか。




ここでしか食べれぬ物はないけれどここにいるのはあなたがいいね
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おとり寿司

2022-06-30 01:01:00 | ナノノベル
 味のある暖簾に惹かれて私はがらがらとドアを開けた。

「へい、いらっしゃい!」
「イカ、タコ、エビください」
「ごめんなさい。売り切れです」
 出鼻をくじかれると萎えるが、気を取り直して。

「じゃあ、マグロを」
「ごめんなさい、寿司は……」
「ないの?」
「じゃあ……」

「うどんになります」
「じゃあ肉うどん」
「あいよっ!」

 私はうどんで胃袋を満たすことにした。
 可もなく不可もなし。そういううどんだ。

「ごちそうさん。また来ます」
「ごめんなさいね。さっき団体が来て」
「団体?」
「そうなんです。ダンサーの」
「へーっ、あるんですね。ではまた」


 また出直して来よう。そうだ来週にでも。

「へい、いらっしゃい!」
「イカ、ハマチ、マグロください」
「ごめんなさい。売り切れです」
「じゃあ、ホタテを」
「ごめんなさい」
「じゃあ、トリガイを」

「ごめんなさい、お客さん、寿司は……」
「えーっ、今日も全滅ですか?」
「さっき大食いの人が来てね」
「大食い?」
「バンドマンで」
「バンドですか」

 バンドと言えばせいぜい5人、6人のことじゃないか。それで全部なくなるとはいったい。しかし、私は深く追及することはしなかった。これから先の長いつきあいにならないとも限らないからだ。

「それじゃあ……」
「うどんになります」
「じゃあきつねうどん」
「あいよっ!」

 可もなく不可もなし。何より私の望むものではなかった。

「ごちそうさん」
「ありがとうございます! すんませんでした」


 1ヶ月後。私は少し間を開けて藍色の暖簾を潜った。

「へい、いらっしゃい!」
「イカ、ハマチ、ウナギ」
「売り切れです」
「じゃあウニを」

「ごめんなさい、お客さん、今日寿司はもう……」
「えーっ、じゃあもう」
「あとはうどんになりますね」

「でも今日は寿司の口で来たんですよね」
 私は素直に自分の気持ちを打ち明けた。

「ほんとそこは申し訳ない」
「うどんはわるくないけど、うどんにもわるい気がするんで」
「うどんならすぐできるんですが……」

(すぐ食べられるうどんなら他にいくらもあるんだ)

「団体ですか、大食いですか、今日は」
「いやそれがさっきウーバー法人が来て根こそぎ運んで行ったもので」
「ウーバー法人? 何ですかそれは。呪われてるんですかね」

「お客さん、一度みてもらった方が……」

「いえいえ、また来ます」

「申し訳ない。お待ちしております!」

 私は何も注文せずに店を出た。
 味のある暖簾なのだが、惜しい。
 呪われいるのは、私ではないのだ。

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おいおいこうしちゃいられねえぞ

2022-06-28 02:34:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
おい五右衛門梅干ばっか飽きねえか たまにはビッグマックでもどう?

おい五右衛門梅雨だってのにこの空は一体全体どうなってんだ

おい五右衛門がーがーうるせぇ車だな自己紹介にも限度があらぁ

おい五右衛門また梅干かむははははおめえ好きだなばっかじゃねえの

おい五右衛門ちょっくらこいつ切ってくれまあそうかたいことを言うなよ

おい五右衛門なんだこいつはうゎーすっぺぇ酸っぺぇだけだ食えたもんじゃねぇ

おい五右衛門おいでなすったみたいだぜ ウーバーイーツ 寿司だよスッシ!
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サンキュー馬鹿

2022-06-26 06:04:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
忘れえぬ馬鹿のジャッジを噛みしめてリベンジは夢かなえる日まで

かつてないゾーンに行けた証明と思える「馬鹿」をもっとください

こんにちはから滑り出す漫才が清々しくて馬鹿にまぶしい

遠足が中止になった朝空が馬鹿に青くて焦げたトースト

今日は馬鹿明日も馬鹿でいたいほどピュアをみつけた人がしあわせ

馬鹿にする人の言葉をスルーして賢い人が馬鹿に徹する

愛情の裏であったと気づけずにあなたの「馬鹿」と消えた初恋

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明日が来ない

2022-06-25 02:54:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
今日こそは早く眠ろう 25時 まだ大丈夫、手遅れじゃない

今日こそはちゃんと食べろよキッチンに青く突き出た玉葱の角

今日はジャズ昨日はロック店長の手から飛び立つ気まぐれポップ

今日やってきた新人と打ち解けるあなたがずっと遠くにみえる

今日明日の話ではない 未来とはみんなが消えて澄んだ世界だ

今日だけのスーパーマンの活躍が明日はきっと恨めしくなる

今日はもう行ってしまった最終のバスは20時45分

名物のかた焼きそばはお客さん今日はあの子の分で終わりや

胸張って歩いて行こう今日だって天から注ぐあなたの視線

anymore 強炭酸を流し込み沈め昨日と汚れた kiss

「今日はもうやめておこうよ」あきらめの友に縛られ明日が来ない

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人間の出番

2022-06-24 01:55:00 | 将棋ウォーズ自戦記
 わるい局面では一手も勝ちがない。(相手を楽にさせないことが望まれる)ぎりぎりの局面では一手しか勝ちがない。
 よい局面では、勝ち方が何通りも存在することがある。その意味では最善手は1つではない。勝ち方を選ぶ自由が許されるのだ。(また、将棋の局面には絶対地点と分岐地点が存在するようである。例えば、駒が当たっている時にはこの一手であるという傾向が顕著だが、割と手が広くどれを選んでもそうわるくならないという局面がある)
 どこからどのようにして勝つか。よい局面では考えることができる。
 その時にこそ人間が出る。(個性を出せる)
 AIにとっての最短ルートをなぞる必要はない。
 人間には「この一手」として見逃さない一手と、全く発想の外に出てしまう手が存在する。自分にない手で将棋を作ることはできない。人間にとっての強さとは、自分を知ることだろう。
 自分にとって明るい道を行くことだ。

「最善手はお前が決めろ!」
 そう言って棋神が僕を突き放す。


~AIの寄せを真似することはない

 ソフトの推奨する最善手を人間が引き継ぐことはない。人間には人間同士の戦いがあり、人間なりにやった方がいい。ソフトは1秒で億の手を読めるが、人間は一瞬にして何も読むことなく悟れるし、感じることができる。人間には人間の領域があって、人間と人間の戦いの中では、人間力を頼るべきなのだ。

 AIの寄せをみていると持ち駒をため込んで一気に詰まし切るような傾向を多く感じる。(そこで駒を取ってるのか。何か温いな。でもよくみるとこれでちゃんと詰んでいますよみたいなことがある)詰む詰まないがはっきりわかるから何の問題もないのだろうが、人間的にみていると少し「危なっかしい」とも思える。最終的に将棋は詰む詰まないのゲームだから、そこの読みの精度の差はどうしようもないが、短い時間の将棋の中で詰みを読み切るというのはとても大変だ。(そればかりか慌てている状況では、初歩的な詰みさえ見逃してしまうのだし)だけど、詰ますことが絶対じゃない。状況が許す限り、別に詰まさなくてもいいではないか。

 人間的にわかりやすい順であることが何より大切だろう。玉を包むように寄せるとか、下段に落とすとか、基本に沿った方がいいと思う。
 人間にとってわかりやすい寄せは、自玉を瞬間的にゼット(絶対に詰まない形)の状態にして、敵玉に必至をかけることだ。 



明け方の将棋ウォーズで振り合った
ライバルは香一枚強い
(折句「アジフライ」短歌)

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熟成パトロール

2022-06-22 04:37:00 | 気ままなキーボード
 元総理が信号を待っていた。すぐに青に変わるべきだ。元総理がくそボールを投げてきた。判定はストライクだ。元総理が道を歩いてきた。脇によけて土下座で出迎えます。ふん、ひっかけ問題か。数々のトラップを含むドリルをクリアして、試験に合格した。現場に出ると仕事は想像していた以上に厳しかった。日々の訓練の中で経験を積んで、僕も早く先輩に近づかなければ。この街の治安はかなり悪い。
 先輩の鷹のような目が路上の偽ブランドを見つけ接近する。

「前の者、止まりなさい」
 女ははっとして足を止めた。

「ちょっとよろしいですか?」
 そこから巧みな職質が始まった。

「今日はお一人で? こんな晴れた日に?」
「昨日の昼は何を食べられました?」
「いつから歩いてらっしゃるの? こんな広い歩道を」

「犬派ですか? 猫派ですか?」
「明日の夕食に何を食べられます?」

「今年は何年ですか?」
 畳みかけるような厳しい追及に、女はついに音を上げる。

「もうわかりまた!」
 女は偽ブランドに関する悪事を自供する。

「ご協力ありがとうございました!」
 先輩は満面の笑みで容疑者を解放した。

「しばらく泳がせるぞ」
(この事件は闇が深そうだ)


~雨降り

五年振り
本みりんなら
冷蔵庫

雨上がり
工事現場の
フォルテシモ

元気です
どん兵衛濃くて
ウーロン茶

雨脚や
五輪にかける
テレビマン

「ちょっと涼しかったから遠回りして郵便局まで歩こう思いまして。そしたら遠回りして歩くことがメインになって、途中で反対方向に行ってしまいましたの。ウォーキングしなさいって先生も言うてはったでしょ」

「まあ、悪くはないです」

「そしたら予報では上がる言うてた雨がどんどんどんどん激しくなってきましたのよ」

「それは大変でしたね」

「いや大変なのはこれからよ。ちょっと歩き疲れた頃に、水たまりの中にドボンよ! もう先生どないしてくれる?」

「ほほ、どうないしましょ」

「ほんと水たまり多すぎへん?」


~定番の一着を持っていた

 公開直後にはそれなりの人に見られるようだが、徐々に少なくなっていき、その内に人っ子一人いなくなる。寂しいようだが、それが自然な流れなのだろうか。
 1日過ぎる毎に限りなく0に近づいていく記事の中にあって、最も読まれているのは『Abema将棋トーナメント』のコラムである。数年前に勢い任せで書いたものだが、#Abema将棋トーナメント の定番に入っている。
 Abema将棋トーナメントは現在第4回が放送中で……


~師匠介入

「またさぼっておるのか」

「師匠。今念入りに読んでいるところです」

「だから怠けておらぬとでも? ふん。それは表向きのことよ。お前が汗を流して働いている時、休むことを怠けておるのだ。花に水を遣ること、鳥に話しかけること、山に登ることを怠けておるのだ」

「そうは言っても身は一つですから。仕事だってそうですよ」

「誰が決めたのかの。ふん。人はみんな怠け者よ。お前が指を動かす時、眠ることを怠けておるのだ」

「師匠。眠っていては負けてしまいます。厳しい時代なんです」

「三途の川を渡るつもりが、ポン酢の世話に捕まったか。まあ錯覚に気をつけることだ。もっとよく読むがいい」

 棋士の読みの中に師匠の声が介入する。
 かわす、取る、取る、取る、握る、遠見の角を放つ、しびれる、鍛える、蹴る、取る、取る、叩き切る、そっと置く、取る、取る、取る、遊ばせる、取る、取る、逃げる、追う、取る、取る、取る、そこでじっと風呂に入る。

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詰んでいるのに負けてしまう

2022-06-22 03:58:00 | 将棋ウォーズ自戦記
 集中力を持続させることは難しい。今日はそんなことを学んだ。

 相振り飛車は囲い方に迷う。金無双はバランスが良さげだがつぶれる時のあまりの脆さは悲しいほどだ。美濃に組んだら組んだでいきなり端攻めを覚悟しなければならない。できれば自分から攻めたいものだが、相手がいることでそう上手くはいかない。

 相手は端に力を集めて攻めてきた。少し無理だったので受けが成功した。玉が先頭に立つ受けで相手の攻めを受け止めて、中段玉の陣を築いた。相手の攻撃陣にプレスをかけて押し返した。攻守逆転、とうとう相手の飛車を11の地点にまで追いつめた。そして完全に飛車が詰んだ。必勝だ。潔い相手なら投了も考えることだろう。とは言え、まだ相手の玉は王手もかかってない。時間勝負の要素も残っている。相手は投げる気配もなく、詰んだ飛車を放置したままかゆい攻撃を繰り出してきた。

「はいはい、何ですか?」
(いつでも飛車は取れる)
 なぜなら詰んでいるのだから。そして急ぐ必要は何もない。
 同歩同歩。ささやきでも何でもすべて聞いておこう。雨が完全に上がって大人しくなってから、ゆっくりと飛車を取ればいいのだ。(細かなことを気にして時間がなくなったら大変だ)僕の方針はシンプルなものだった。

「はいはい、みんな取りますよ」
 突っかけられるかゆい歩はみんな取った。
 続いて相手は馬に働きかけてきた。勿論、大事な馬をやるわけがない。詰んでいる飛車との交換など論外だ。(まあ要の金と差し違えるならありだな)僕は馬を逃げながら敵陣の一段目に潜り込ませた。すると相手は自陣にいた香を走らせた。

「まだ何か?」
(そろそろ雨は上がらないかな)
 僕は当然のように香の相手をした。
 その時だった。
 相手の飛車がさっと動いた。

「えっ?」どこへ行く?
 何と詰んでいた飛車が動いて一段目の馬を取った。
 飛車が生き返った!
 馬を取られた!
 まるで魂を素抜かれたみたいだ。

(投了もやむなし)

 頭を下げるのは今や僕の方になってしまった。
 ああ、将棋とはなんと恐ろしいゲームだろう!
 その後、目標を相手の玉に切り替えて何とか食いつこうとしたものの、戦力不足は否めない。最期は復活した飛車が活躍して見事に詰まされてしまった。


 ~巧妙なトリック(種明かし)

 仕掛けは単純だ。相手の自陣にいた香が走ることで飛車の進路が開けた。同時にそれがこちらの馬にも直射していた。勿論これらは偶然なんかではない。こちらの油断を利用した巧妙な罠だった。

(詰んでいるのは絶対じゃない!)

 将棋において唯一絶対と言えるのは、王様が詰んだ時だ。将棋ウォーズでは、即ゲームオーバーとなる。優勢や勝勢、必勝なんていうものは、それに比べれば全く危うい状態でしかない。「飛車が詰んだ」などという状況はまだ何も手にしていないのだ。逆転は心の隙に潜んでいる。
 飛車が詰んだという一瞬の状況を、僕は楽観してもう飛車を手にしたような気になった。相手のかゆい手に応接する内にもう勝ったかのように楽観した。「かゆい」部分こそが相手の罠の中のカムフラージュなのだった。あえて緩い手、どうでもいい手を交えることにより、こちらを油断させ視野を狭くさせ従順にさせていた。そして、頃合いを見計らって馬に狙いをつけ、香をおとりにした飛車復活&馬ただ取りの大技を成功させた。本当なら詰んでいた飛車だし、取られることない馬だった。(自陣に打った香が動いて大駒の利きが通るというのは視野が狭くなっていると見落としやすいので特に注意したい)

 いくら楽観しているとは言え、すぐに香を走ったりすれば、相手の狙いに気づけたと思う。そこの間の取り方が上手い。しばらく死んだ振りをして、弱い手、意味不明の手、どうでもいい手を、色々と挟んでいる。そういう逆転術もあるのだ。
 どうでもいいような話を長々とする人がいる。しかし、どうでもよさげな話の中に、重要な秘密が隠されていたりすることがある。あまり決めつけてはいけない。
 飛車が取れそうなだけで勝ったように決めつけては、勝てる将棋も勝てなくなる。玉が詰むか相手が投了するまでは勝ちではない。極めた人ほど、そこに至るまで感情の揺れは少なく、楽観もしない。
 けれども、ほとんどの人は飛車が取れればやはりうれしいのではないか。


 ~将棋の喜びはどこにあるのか?

 一番うれしいのは玉を詰ませた時か?
 形勢優位を実感して勝つためのビジョンを頭の中で組み立ている時間。そこにも将棋を指していて幸福な時間がある。
 天王山に角が躍り出た時、相手の飛車を取った時、要の金をはがした時、と金を作った時、馬を引きつけた時、一間竜で迫った時、底歩を打った時、穴熊を再生させた時、よい手を指せた時、形勢に手応えを感じた時、その時々で喜んだり楽しんだりすることは、決して悪いことではないと思う。
 楽しむのはよい。(但し、浮かれないこと)


「悪くなかった。勝負には負けたけど」

「ふん、つまるところは言い訳よ」

「内容は光るものもあったのでは?」

「手拍子が出てしまうのも、3手詰めを逃してしまうのも、みんな実力よ」

「でも時間がなかったし」

「ちゃんと考えたら指せる?」

「少なくとももう少しは」

「そとは限らぬ! 直感が指すところにこそ実力は表れるものじゃ」

「時間に追われれば人間はおかしくもなるんです。神さまにはわからないかもしれないけど」

「わしは今忙しい! お前と違って引っ張りだこじゃ!」

「また教えてください」

「好きに楽しむがよい」

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曖昧な共感

2022-06-21 01:50:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
今日ジョリー明日はゼリヤ明後日は 雨かほんだらウーバー・イーツ

今日誰も足を止めない路上より君は明日を歌い続ける

健康を害する恐れなんかない今日が最後の晩餐だから

「昨日みた?」「はーあなんねサッカーか?」「ちゃうわコナンよ」「なんや知らんわ」

「明日行く?」「はーあどこねてんしばか?」「ちゃうわマクドよ」「なんや知らんわ」

「今日なんか蒸し暑いなあ思わへん?」「お前パーカー着とるからやで」

今日pomera明日も何ら変わりなく僕らさよならまでを歌うの

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最後の最後に惜しくなる ~一手で風景は変わる

2022-06-21 01:30:00 | 将棋ウォーズ自戦記
「決め手を逃すと勝ちは逃げて行くもの」

 特に切れ負け将棋では、決め手/明快な順を逃さないことが大事になってくるかと思う。どんなに形勢がよくても、勝ち切るということは大変である。直前まで筋よく指せていたのに(子供のようにのびのびと指せてたのに)、勝利が近づいた瞬間、足が止まってしまうことがある。

 勝ち切ろうとすると負けがちらつく。安全に勝ちたい。リスクを冒したくない。損したくない。王手されたくない。頓死したくない。何もさせたくない……。様々な邪念に突然支配されはじめると指し手が止まり、直感を曇らせ判断を狂わせてしまう。

 詰みまである局面で必至もかけられず、重い手を指して駒得に走り玉を逃がしてしまう。急に10級以前に戻ってしまったような指し回しになる。

 最後の最後になって惜しくなるのだ。
(いったい何が?)

 将棋というのは怖いゲームで、たった一手緩んだだけでガラリと風景が変わってしまうということがある。大きく形勢をリードしているようにみえる時でさえ、「どうやっても勝ち」とか、そういうことはまあないと考えておいた方がいい。
「最後は何も置いていくな」
 全部捨てて(使い切って)勝つという心がけが大事になる。


~終盤とモラトリアム なぜかぼんやりとした手を……

 何かを惜しみ、何かを恐れて
 まるで手番なんか欲しくないというように
 攻防の一手/価値の高い手とは反対の方へ
 局面が忙しくなることを避けているのか

 起点をつくり 
 それが消えていく間に次の起点をつくる
 そうしてどんどん手をつくっていく
 本来、寄せとはそういうものだろう

 戦力が整えば
 機が熟したならば
 道を狭めていく
 蓄えたものは捨てていくもの

 ためらうものではない



♪♪ 時間切れ負け ♪♪

「お前には極められぬかもしれんの~」

「途中はよかった。指が遅かっただけだよ」

「指が遅いんじゃない。指し手が緩いんじゃ」

「何だって?」

「相手は考える必要もないくらい余裕なんじゃ」

「余裕……」

「やっぱりお前には極められぬかもしれんの~」

「手が緩いのか」

「手を厳しく鍛えることができねばとてもとても無理じゃ」

「弾丸はスピードだけじゃ駄目なんだね」

「スピードにおいてもお前は並以下じゃ。遙かに以下じゃ」

「厳しいな」

「お前には何年かかっても極められぬかもしれぬ」

「……」

「お前じゃない誰かが極めることになるやも」
 

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ウェイク・アップ

2022-06-21 00:44:00 | 新・小説指導
また書きあぐねてるの
寝かせてるの
寝かせすぎてもええことないで
何でもそうや
すぎてええもんあるか

通り雨?
そういう話ちゃうねん
何? 悪夢?
悪い夢なら早くすぎてほしい
いやそういう問題やない

すぎたら何でもあかんっちゅう話や
書きあぐねるのは悪いことじゃないよ
それはある意味では熱の表れです
ロケットが打ち上がる前みたいなもんや
熱持ってるでしょ
熱ないと何でも上がらへんよ
ミサイルでも花火でもみんな一緒や
戦争ちゃうで

「小説家の戦場はフィクションの中ですよ」

地球の土地は限られてる
小説はどないですか?
スペースあんねん
フィクションの中やったら
いくらでもスペースあるよ
スペース・オペラや

フランス人でもスペイン人でも
鳥人でも宇宙人でも
なんぼでも歩けますよ
ただそれは

「書いてこそのお話です」

いいですか?
いつまでもあぐねてたら
そこから何も始まらないよ
小説はどっちかしかないの
寝かすか起こすかやねん
小説家になるたった一つの方法を
教えますよ
一回しか言いませんよ
時間ないねんから

小説家になるには
なりたいですか?
どないや
なりたいからここにおるんや
はい
もう答えはあるやん

ええですか
小説家になるには
あぐねてないで

「書いてみることです」

まずは書いてみるのよ
簡単や思うでしょ
そうやねん
簡単やねん
簡単なようで難しい
難しいようで簡単
どっちやねん
どっちもどっちやで
でもそこがスタートラインです

そこを踏み出せなかったら
永遠に踏み出せない
そこから先の風景は何もあらへん
書き出してみたら
案外楽になりますよ
だってずっと書きたかったんだから

書きたいように書いて
楽しくないわけないやん
当たり前やん
何やこのロケット飛ぶやないの
大気圏越えたら案外楽やん
壁を一枚越えたら世界変わってくるよ

新しいスペースを見つけます
元々あんねんから
見つけて当然なのよ
何これ
何やこんなとこあったんかいな
今まで何してたんかな……
早く来たらよかったやんけ

でもそこで迷う

知らんスペースで自分を見失ったりもする

何や違ったのかな?
来るとこ間違えたのかな?
場違いなスペースに出てしまった?
やっぱり才能なんてないの?
楽しいことばかりやない
スペース開けた分だけ
苦しい面も見つかってくる
何でもそうでしょう?

5歳から6歳になった頃どうやった?
覚えてない?
12から13歳になった時はどうやった?
そうやろ
思い出してごらんよ

色々見つかってしまうのよ
自分を見たり他人を見たり
友達や先輩や先生や
子供やないか大人ちゃうんか
ごちゃごちゃごちゃごちゃ
失敗もついてくる
急に上手くはいかないのよ

でもそれでええねん
そういうもんやねん

「失敗は踏み台やと思いなさい」

何も悲観すべきことやない
失敗してそれで終わりちゃう
終わりは始まりなんや
違ったら違った
誤ったら誤ったで
そこからつかめることは必ずある
ヒントにはなる

書きながらもがいていくしかないのよ
駄目や思ったらやり直す
違う思ったら反対に行く

「小説家は終わりと始まりを繰り返す」

自分で学び、自分で成長できる
みんな自分次第や
どう?

小説家ええやないか!

あぐねてるなと思ったら
あぐねてることを自分で意識しなさい
あぐねてることを認めて
肯定して否定しなさい
破壊して創造しなさい
そして書いてみる
小説家なろう思ったら
あぐねてないで書いてみる
それがはじめのはじめなのよ

書いてみる
何か違う
書いてみる
何かあかん
書いてみる
やっぱあかん
書いてみる

「小説家はエンドレスです」

だからみんなやめられへんのよ
一度はまったら抜け出せない
でもそこまで行くのは簡単じゃない
そんで一番大事やねん

わかる?

書きあぐねてるあんたは
もうわかってるやろ

「あんたなりたい者は何?」

そやね
スペースあんねん
待ってますよ

まだ見ぬ読者が先に待ってます

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おやすいご用

2022-06-20 22:46:00 | マナティ
「ねえ、マナティ、何かつくって」
「レシピを出しておきました」

「マナティ、お腹空いたよ」
「レンジの準備が整っています」

「お腹空いた」
「タジン鍋に野菜を放り込んでください」
「ああ、面倒臭いな」

「それが人生のようです」

「うん。マナティ、テレビつけて」
「ラ」
「チャンネル変えて」
「ラ」
「やっぱりテレビ消して」

「ねえ、マナティ、元気出させて」
「おやすいご用です」
「ねえ、マナティ」

「元気を出してください」

「ねえ、マナティ」

「元気は出ましたか」

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玄関先で/キャップをあけておく

2022-06-18 02:34:00 | デリバリー・ストーリー
 5キロほど背負うと少しふらつくのでバランスに注意が必要。詳細欄には「キャップをあけておく」とあったが、よくわからないのでとりあえず無視する。コンビニでのピックはいずれにしろ近所だ。ほどなく川沿いにある小さなマンションに着くとインターホンを鳴らした。
 女性の声で返事はあったがオートロックは解除されない。しばらくして1階の部屋からおばあさんが出てきた。おばあさんがゆっくりと歩いてきて、自動ドアが開いた。

「何か注文していますか?」
 心当たりがないようなので、僕は不安になった。
 名前を確認すると間違いはないようだ。

「息子が頼んだのだろうか?」
 家族がいればそういうケースも考えられた。

「今家にいらっしゃいますか?」

「あれは今は東京に行っとる」
 そうか。そういうことか。
 僕は飲料の入った袋をおばあさんに見せた。

「キャップあけてくれた? 私手がわるいから」

「まだ何もしてません」

 袋の中には大小あわせて7本の飲料が入っていた。すべてのペットボトルのキャップをあけてから、軽くしめておいた。

「ありがとうございます!」


(ケチャップを2つもらってきてください)

 僕は昨日完全にスルーした詳細欄のことを思い出した。
 そうだ。
 メッセージは、誰かのために送ることもできるのだ。

 配達完了!

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居飛穴の強襲とと金攻め

2022-06-18 01:01:00 | 将棋ウォーズ自戦記
 3分切れ負けはスリリングなゲームである。高い集中力を持ち決断よく指していかなければとても勝てない。けれども、どういうわけか自分の時間ばかりが減っていく。割とぽんぽんと指しているつもりなのに、気づくと1分以上も離されている。攻めつぶされて負けることもあるし、せっかく勝ちになったと思ってもしぶとく受けられて詰みまでたどり着く前に時間切れ負けになってしまう。何とも言えぬあっけない感じから逃れて、10分切れ負けで挑むことにした。それなら少しはちゃんとした将棋になるかもしれない。

 三間に振ると相手は居飛車穴熊に組んできた。石田に組もうとすると相手は早速仕掛けてきた。角道をこじ開けようとする手に桂を跳ねずに角を上がったので角交換になった。一歩得でそう悪いようには思えなかった。角を打ち込まれて香は拾われるが、さて。そう思っていると相手は直接飛車取りに角を打ってきた。桂取りを受けて馬に当てると相手は1秒で馬を切って飛車を走ってきた。3分のゲームなら慌てふためく間に負けてしまうかもしれないが……。これは10分、これくらいの強襲は(相手の穴熊も完全体ではないし)何とかなると思った。

 僕は6筋の銀を前に進めて単純に飛車をさばいた。しかし、これには居飛車の金銀をさばかせる意味もあって、もう少し厚く攻める方が勝ったようだ。相手は美濃崩しの金を打ってきた。僕は自陣に歩を打って竜の利きを遮った。すると相手は自陣に金を打ち竜に当てた。竜を追い払うと強引に歩を払い竜を活用した。銀取りだ。

 僕はあまり考えずに銀の横に金を打った。受けの形だ。但し、それはと金攻めがない場合で、ある場合は遠くから角で受ける方が勝る。(と金攻めに対しては、遠くから受けた方が受けやすい意味がある)相手は竜の力を頼りに歩を垂らしてと金攻めを狙ってきた。竜とと金。これはなかなかうるさいコンビネーションだ。堅陣をバックにと金だけで負かされることもあり得る。しかし、と金攻めを完全に受け切ろうとすることも危険である。(受け切ることは大変)ある程度は面倒をみながらも、機をとらえて寄せ合いに持ち込む方がよい。(相手の玉が鉄壁でなければ可能)

 しつこいと金攻めは受からないという反面、攻撃が重くなる意味がある。攻めの厚いと金が壁となって竜の直射を邪魔することで、玉にたどり着く前にはゼット(絶対に詰まない形)になりやすい。その形を狙って、一気に反撃するのだ。完全に「受け止めよう」とすると受けに主眼がいってしまい、攻め合うという発想そのものに蓋をしてしまう。

 僕はもう一枚の金を投入してと金づくりを防いだ。すると相手は銀を打ち、銀を成り返って数的優位を築きあくまでもと金づくりを狙ってきた。僕は自陣角を打って竜を追った。ここだ! と思って狙いの桂を跳ねた。(天使の跳躍)銀取りになっているが真の狙いは別にあった。相手はと金をつくった。

 僕は予定通り盤の中心に角を打った。次に竜で穴熊の要の金を食う手があり、間接的な王手飛車ほど厳しい一手のはずだった。飛車が消えれば受け切れる。それが僕の(甘い)読み筋だった。相手は竜を切ってきた。同じく玉の一手にと金でもう一枚の金を取る。またもや同じく玉の一手に、一転して自陣で当たりになっている銀を上がって角に当てた。その瞬間、天使の跳躍が完全に空を切った。王手王手で玉を囲いから引き出されたことが痛すぎ、角を渡すとこちらが詰めろになってしまう。そうでなければ角を切って攻めたいところを、後手を引いて逃げるようでは明らかに変調だった。こういう筋は、と金が重くなっている間に決行すべきだが、竜が直射している時に技をかけにいっているところが感覚的に甘かった。

 後手を引いてもまだ耐えられるかと思っていたが、玉のいたスペースに金を打ち込まれると簡単な寄り筋になっていた。6筋に成り返った銀と金との迎撃から逃れるには、受ける駒がなさすぎる。仕方なく銀の上の歩を突いて逃げ道を開けたが、銀の下に金を重ね打たれていよいよ受けがない。角取りに繰り出された中段の銀が、抜群の存在感を持って輝いている。僕は力なく銀を引いた。(取られて駄目だ)すると相手は右辺に香を打って更に力を溜めてきた。そうか、それでも駄目なのか。

「何とかあの成銀にアタックできないかな……」

 引いた銀が負担になっているのが痛く、そんな筋はどこにもなさげだった。自陣に眠る角が泣いている。銀が……。
 残り1分。あきらめかけたその時、盤上この一手とも言える一着に気がついた。そうだ。銀を動かせばいいのだ。相手の香はやはり逸機だったのだ。取りそびれた銀を左に上がりあの成銀に当てる。僕は力を込めて銀をタップした。一瞬の大逆転だった。驚くほどに寄りがない。(やはり終盤は怖い)以下は、二枚飛車を使って寄せていけばいい。

 僕は玉を一つ上がり絶対に寄らないようにした。相手は自陣に駒を埋め、何とか時間を削り逃げ切ろうとする。王手がかかる。少し逃げ場所に迷う。輝いていた銀を角で切る。自陣に眠っていた角が、とうとう寄せに参加する。また王手をかけられる。中段にまで飛び出していく。あと少し。要の金を竜で切る。これで受けはない。最後はすべての大駒が大活躍して居飛穴玉を詰ますことができた。残りは4秒だった。10分だから、少しよい将棋が指せたと思う。

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納豆の法則

2022-06-17 22:00:00 | 短い話、短い歌
 おばあさんは納豆を混ぜていた。一定のリズムで箸を動かすスピードは少しも老いを感じさせない。納豆は少しずつ艶を増し十分な粘りを放ち始めた。それでもまだおばあさんの勢いは止まらない。始まった頃と変わらぬペースで運動が続いていく。
 おばあさんが当たっているのは納豆という組織だ。けれども、その愛情は一粒一粒に対して注がれている。
「こうしている間がいちばん幸せかもね」
 そう言って笑う時も、手を止めることはなかった。




揺るぎない仕草につれて満ちて行く幸福は個の運動の中

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