折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

風のタッチ

2019-11-18 16:50:30 | ワンゴール

「いつまでもたもたしているんだ?」

「もたもたなんてしてません。僕の気持ちは、いつだってゴールに向かっています」

「そうは見えないがな。ほとんどちんたらちんたらしているように見える」

「それはどういう意味なんです?」

「そのままの意味だ」

「今は辞書を引くような暇はありませんが」

「向かうべき場所はわかっているだろうな」

「ファーサイドにスペースがあります。そこが僕の向かうべき場所です」

「確信があるのか?」

「わかりません。だけど、そういう決め事です」

「決め事の先に、決定力があるといいんだが」

「見ていればわかりますよ」

「そうだ。私はずっと見ている。それが監督の仕事だからな」

「僕の働く場所は、相手ゴールの前にあります」

「そこが好きか?」

「僕らは戦術に沿って動かなければなりません」

「勿論だ。わがまま放題では戦術は成り立たない」

「でしょうね」

「だが、本当にそれだけか?」

「他に何か必要ですか?」

「君は戦術だけに従って動いているのか?」

「元を辿れば、疑わしいところもあります」

「どこまで辿るつもりかね?」

「例えば、最初のゴールを決めた日まで」

「例えば、最初にボールに触れた日まで」

「まだ戦術なんて言葉も知らなかった日まで」

「好きだからでは?」

「嫌いだったらここにはいません」

「君は左足で打ちたいのだろう?」

「どちらかと言うなら、その方が理想ですが」

「戦術なんてなくても、君は同じように同じ場所へと動くのではないだろうか?」

「戦術のないピッチに立つことがあるんでしょうか?」

「そりゃあ、あるだろうさ」

「僕はまだまだ引退するつもりはありません」

「譜面よりも先に、音楽はあると言っているんだ」

「そりゃあ、あるでしょうよ。鳥だって知っていますよ」

「そうだ。鳥は、あらゆるアーティストの先を飛んでいるのだ!」

「お互いライバル意識なんてないでしょう」

「勿論そうだ。そんな主張を展開する気はない」

「そうあってほしいです。ここは人と人が戦う場です」

「勿論そうだ。だが、戦場にも歌があるのだ」

「僕たちを応援するための歌ですね」

「そうだ。我々を奮い立たせるための歌だ」

「とても勇気が出ます」

「その歌がどこから来たと思う?」

「あのスタンドです。ほら、あそこですよ」

「よそ見をするな! 歌はもっと遠いところから来たのだ」

「スタジアムの外でも歌ってくれるサポーターがいますね」

「いいや。もっと遠く。もっと遠くだ」

「僕たちのファンは海の向こうにもたくさんいます」

「もっと遠く。歌は愛より来ているのだ」

「僕たちへの愛だと言うんですね」

「もっと大きな愛だ」

「はい」

「今、君が立っているのもそんな場所だ」

「僕はピッチの上に立っています」

「愛のある場所に立っている」

「はい」

「君がシュートを打ちたいという場所に」

「そこが左に寄っていたのか」

「好きが、君を君の行くべき場所へ運んだのだ」

「そうかもしれません」

「ある日、猫は犬を枕にして眠っていた」

「どこの猫です?」

「自分の心地良い場所を知っていたからだ」

「でも、犬の方はどうなんですか?」

「犬は、目を覚ますと飼い主に訴えたのだ。散歩につれて行け! さあ、早くつれて行けよ!」

「うずうずしていたんですね」

「そうだ。とてもうずうずしていたのだ。だから滑り出しは快調だった」

「キックオフから五分のようにですね」

「いや、開始十秒だ」

「スタート・ダッシュですね」

「犬は道が好きだった」

「はい」

「犬は駆けることが好きだった」

「でしょうね」

「好きと好きが合わさるとどうなると思う?」

「それはハッピーな気分になるでしょうね」

「もっともっと好きになるのだ」

「はい」

「だから、犬の散歩道はいつでも輝きに満ちている」

「黄金の道ですね」

「時にはずっと眺めていたいほどだ」

「暇なんですか?」

「こちらまで楽しくなってくるからだ」

「なるほど」

「私にもそのような道がある」

「監督にも?」

「私も歩くのが好きだった」

「犬と似てるんですね」

「歩いていると、両サイドの景色が変わる」

「はい」

「いくつもの歯科医、いくつものセブンイレブンを見るだろう」

「ずっと歩いているんですね」

「好きなところまで歩くことができる」

「本当に好きなんですね」

「歩くことは元の場所から離れることだ」

「でしょうね」

「そのためには一歩一歩を積み重ねなければならない」

「どんな旅路でも一歩がなければ始まらないんですね」

「その通りだ。どんな勝利も、どんな美しいゴールも、すべてはワンタッチ、ワンタッチの積み重ねなのかもしれない」

「タッチを積み重ねて結果を実らせることができるんですね」

「その通りだ! ワンタッチを笑う者、疎かにする者は、いずれはワンタッチに泣くことになるだろう」

「一つのタッチを大事にすることが大事なんですね」

「勿論だ。大事にすべきことは大事にしなければならない」

「ワンタッチに無限の可能性が詰まっているんですね」

「ちょっとした触れ方の質によって、結果はまるで違ってくるだろう」

「一見して同じようなタッチでも、紙一重の差で勝負がつくんですね」

「誰かに言われた大事な言葉を覚えているかね?」

「監督とは別の誰かですか?」

「私であっても私でなくてもいい。大事なのは言葉の方だ」

「引出のずっと奥に、それは仕舞ってあります」

「なら、あるんだな」

「はい。本当に必要な時に取り出せるようになっています」

「それでいい。本当に必要なものは、本当に必要な時にだけあればいいのだ」

「はい。監督」

「信頼は一つ一つの言葉によって築かれるものだ」

「きっとそうかもしれませんね」

「だが、それは一日にしてできることではないんだ」

「そうでしょうね」

「もっと長い時間が必要だ」

「少し気が遠くなりますね。眠たくなるくらいです」

「それこそが日々というものだ」

「やっぱり、行き着くところは日々になるんですね」

「その通り! わかりかけてきたようだな」

「日々が僕らをここまで運んできたんですね」

「さあ、これより我々の壮大なカウンターが始まる」

「はい」

「人々の夢と共にゴールへ運べ!」

「監督、見てください。これが僕の、日々の先に伸びた足先です」

「ああ。君のファーストタッチを見せてくれ」

「風です! 監督。今日は風が強いけど、こんな時に大変強い風が吹いています」

「思わぬ風だ」

「僕らのカウンターの先に、思わぬ風が吹いています」

「落ち着け! ピッチの上は思わぬことの連続ではないか。荒れた芝生。突然の雨降り。ぬかるんだ地面。横殴りの雨。空を横切る鷹。絵に描いたような鱗雲。怒り狂った主審。寝ぼけた線審。禁句を並べた横断幕。豪雪。迷い込んだ子犬。迷いを知らぬ少年……」

「思うよりも、ずっと強い風です」

「何でも思い通りにはいかないさ」

「ああ、トラップが……」

「落ち着け! 風を味方につけろ!」

「上手くできませんでした」

「よく見てみろ。ボールは君の先にあるじゃないか」

「ああ、風が最初に運んでくれました!」

「そうだ。君のファーストタッチは風だ」

「今度は上手くいきそうです」

「そうだ。風と共にゴールに迫れ!」

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鑑賞コーナー

2019-11-17 23:19:00 | 忘れものがかり
スナック菓子の前に
おじいさんは立っていた

「いい香りだなあ」
えっ
「玩具屋さんを思い出す」
ええっ
「お1ついかがですか」
(早く床掃除したい)

おじいさんは
キャベツ太郎と生茶を買った

イートインコーナーに座り
しばらくの間
駐車場を眺めていた
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ニュー・シングル

2019-11-16 20:28:00 | 忘れものがかり
新しい曲はわからない

上がるのか下がるのか
ささやくのか叫ぶのか
はねるのか沈むのか

耳を澄まして聴かなければ

どこでどうして生まれたのか
誰をどれだけ思ったのか
繰り返すのか
あと何度


ドキドキしながら聴かなければ

新しい曲はわからない

好きかどうか まだわからない
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大河ドラマの憂鬱

2019-11-15 18:09:22 | 忘れものがかり
そこに生きているのだ
と信じられていた
顔が
役者の顔に見えてきた
 
主人公に近い人物が
バタバタと死んでいく
12月の大掃除みたいに
急に慌ただしくなって
 
いなくなってしまっても
みんな帰る場所があるんだ
 
いいな
 
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あなたでなく、作品でなく

2019-11-14 23:33:00 | 【創作note】
漫才を見るのが怖くて
タブレットに向いている

映画を見るのが怖くて
うさぎの絵を描いている

下手だな
うさぎに見えないな
戸惑いながら
パレットをつついている


少しも
笑えなかったら…
感動できなかったら……

理由はこっちにあるのではないか

(何をみても心がふれないなんて)
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イージー日記

2019-11-13 20:18:00 | 【創作note】
いつから僕らは
日記を書きながら
読者の存在を
思い浮かべるようになったのだろう

上手に書こうとか
自分をよく見せようとか
よい人に思われたいとか
笑わせたいとか驚かせたいとか
(共感を誘おうとか……)

ああ なんだか疲れたな

「日記」くらいは
もっと楽に書けないものか
他人から映る自分などまるで気にせず
思うままに肩の力を抜いて
広告の裏にでもする落書きみたいに
書けないものかな

明日は きっと明日は
もっと楽に「日記を書くよ」
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評価値よりの飛翔

2019-11-12 05:07:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
あわよくば桂馬をぴょんと跳んでいく兎の棋士は振り飛車使い
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pomeraはpomera

2019-11-12 02:03:00 | 【創作note】
もしもpomeraでピアノが弾けたら
秋の虫たちと競演しなくちゃ

もしもpomeraでラグビーができたら
強いスクラムができるかな
何度トライを決められるかな

もしもpomeraで眠れたら
もうぐっすり眠りたい
工事が始まっても目覚めない
夏の分まで取り戻すんだ

もしもpomeraで海を渡れたら
カルチョの国へ行こう
向こうでのんびり暮らすのもいい

もしもpomeraでギターを弾けたら
あいつのエアギターを上書きしよう
オリジナル曲を作るんだ

もしもpomeraで猫を描けたら
猫を描きに遊びに行こう
何匹も何匹も猫を描こう
夜通し猫を描こうかな

もしもpomeraで踊れたら
猫もミイラも踊るだろう

もしもpomeraで魚を焼けたら
旬の秋刀魚が焼けるかな
一緒にご飯を食べようかな
残ったら猫にあげようかな


いつまで空想に耽っている?
pomeraが疑問を投げかけている

まだまだ続くよ

だって
pomeraはpomeraでしかないんだから

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ケミカル・ミルフィーユ

2019-11-11 03:20:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
ホエールの
目玉が踊る
恋しさは
ロンTからの
シンギュラリティ

「ほめ殺し」


縫いかけの
タペストリーに
奪われた
涙はラスト
キッスの海辺

「ヌタウナギ」


カルガモの
カルボナーラと
ミルフィーユ 
いまにときめく
シェリーを添えて 

「鏡石」


長編の
恋を封じて
春めいた
月夜に独り
解く詰将棋

「チョコバット」



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両替タヌキ

2019-11-11 02:50:00 | 夢追い
「5千円お預かりします」
 ん?
 何か妙な間があった。
 見つめれば1万円札だ。
 失礼しました。
「1万円お預かりします」
 客はいえいえという笑顔だった。
 1、2、3……。そして10枚の千円札を手渡した。
 それは見慣れないタイプ。少し前に出てあまり世間に流通しなかった1万円札に違いない。よく見ると札の端が5ミリばかり破れていた。念のためにそれを手にして事務所に持ち込んだ。支配人がいた。

「これ。少し破れてますけど……」
 ん?
 何か妙だった。
 見つめるとそれは玩具のようだった。
 しまった! やられた!
 あっ。あれだ。出てきます。

「ちょっと、これ!」
 客は偽物であると素直に認めた。
 返して!
「返す返す」
 男は小さな声で言った。(あとで返す)
 今すぐに!
「返す返す」
 ささやきながら、男は徐々に縮小していった。
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コーヒー&フリスビー

2019-11-10 10:26:00 | 【創作note】
フリスビーをくわえて戻ってきた犬
一跳ねしながらドッグフードを口に入れ
またすぐに駆けだしていく
犬にとってどちらが本編なのだろう
ずっと笑っているように見えるけれど



一編書き終えて
一口二口コーヒーを飲む
瞬間がとても好きだ
そのペースでいくと
一杯のコーヒーに
90分くらいかかってしまうから
だんだん冷たくなっていく
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オー!pomera

2019-11-09 13:46:00 | 【創作note】
もしもpomeraが水族館だったら
どこかに連れて行くこともできない

もしもpomeraが百貨店だったら
あちらこちらに行って迷子になってしまう

もしもpomeraが1万円だったら
両替機の中に吸い込まれてしまう

もしもpomeraが冷蔵庫だったら
自分一人では抱えきることができない

もしもpomeraが缶詰だったら
いつ開けたらいいのかわからない

もしもpomeraが傘だったら
僕よりも雨に打たれてしまう

もしもpomeraがアイスクリームだったら
僕を通って甘く消えてしまう

もしもpomeraが猫だったら
懐から滑り抜けて消えてしまう

もしもpomeraが重要文化財だったら
乱暴にタッチすることができない

オー! pomera
君はどうしてpomeraなの

君が君でいなければ

僕はどこにも行けないよ
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指さし数え歌

2019-11-08 15:47:00 | 短い話、短い歌
 王は最大の防御であったはずの攻撃をついに断念したようだ。城を明け渡し、小さな犠牲を甘受しながら、中盤を越えて、赤い国境を目指して逃亡の旅を続けている。欲を出して敵に捕まっては元も子もない。秩序ある陣形も、連携を重んじたスクラムももはや遠い過去の話。
「向こうに行ったら何もいらないよ」
「みんな変わってしまう。好きなもの、大事なもの、みんなみんな」
「あとは置いて行こう。行ける内に行かなければね」
「守るべきもの、教え込まれたもの、みんな意味がなくなってしまう」
「だけど、もう行かなくちゃ。これはゲームなんだから」
 馬が先に道を切り開く。金も銀も乱れながら、王の後に従って、未開の地へと流れていく。何層にも垂れた歩が境界を越えて、新しい金となって厚い防御網を築いていく。
「もう負けはない」
 王は確信の中で世界を見渡した。
 その時、遥か上空でナイトの数え歌が聞こえてきた。



最大の防御を歌う拳銃をゴミ箱に投げ目指す入玉
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パラパラマンガ

2019-11-07 22:56:00 | 忘れものがかり
窓の外に目を向けたまま
動かない
ミルクを何度か口にする

あくび
またたき
ためいき

条件次第で道を渡る人
立ち止まる人
振り返る人

目を閉じてもっと先をみる

私たちの一日は
ほとんど何も変わらないまま
ゆっくり前に時に後ろへ
よく忘れごく希に成長する

大きな時が流れ去ったあとで
何もなかった一日は
遠い人がパラパラとめくる
指の中で日々となって
筋書きになる

その時になって
私たちは物語の中に定められる
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家出飛行機

2019-11-06 16:42:49 | 自分探しの迷子
 狭苦しい自分の部屋には無数の逃げ場所がある。
 ノートを開いても何ページ進めるかわからない。罫線の先を追っている内に僕は気がついてしまう。そこにリモコンがある。扉がある。スイッチがある。スナックがある。シャワーがある。何よりもあたたかい布団がすぐそこにある。もしも一瞬でも誘惑に負けてそこに手を触れてしまったら、もう永遠の夢に向けて一直線さようなら。自分の弱さがわかっているから、僕はここを出なくちゃならない。逃げ場のないところへ逃げ出さなくちゃならない。
 逃亡の計画を練りながら部屋の中に縮こまっている私は震えが止まりません。リモコンが、コミックが、扉が、スイッチが、何よりもあたたかい布団が……。無数に存在する逃げ場所を置いて、私はどこにも逃げ場所のない世界へと逃げ出さなければなりません。一歩踏み込めば届いたようなバスルームが、今では遙か宇宙の彼方のように遠いのです。
 エアコンが息を吐き切った後で静かになった。リモコンの背中を開けて新しい乾電池を入れる。それでも駄目。換えても換えても換えても換えても、吹き返さなくなったエアコン。家中の乾電池はみんな古いガラクタで、それは室温を突き抜けて人生の評価値までも急激に降下させてしまうのでした。
 キッチンの片隅に積み上げられた無数の缶詰の中に含まれているのが、私という存在です。この先誰が、私を見つけることがあるでしょう。私を私と証明する手立ても持てず、開かれた瞬間の世界を受け止められるよう、心の準備だけはしておこうか。なんてことを想像しながら、私は逃げ場のない世界へ逃げ出すことにさえ恐れを抱き、言い訳ばかりを探しているようです。
 
 恐れが狭い室内で飽和に達した時、俺はドアを蹴り破って自分の中から飛び出した。広さはさほど変わらない。
 小さなコックピットの中が、今は俺の居場所になっている。
 世の中に出て行くということは、社会という翼を背負うことだ。
 俺はもう戻れなくなっていた。
 命が欲しければ飛び続けなければならない。
 未来が欲しければ飛び抜けなければならない。
 そんな空の中に俺は浮いていた。
 
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