眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

読み切り(やさしい断片、厄介な断片)

2020-08-31 13:56:00 | 【創作note】
 オレンジのファイルの中に無数の断片が眠っている。寝かせることが習慣になると、その場でつき合うよりもずっと寝かせることの方が多くなる。何年も寝かせたままの断片がある。時々、ファイルを読み返す。

 惹かれることは確かであるが、核心まではたどり着けない。1つめくればまた別の断片が待っている。わからないものを見つめているのは疲れる。よりやさしい方に流れて、そこから何か形にしようとする。癖の強い厄介な断片は、徐々に過去のファイルとして自分から遠ざかっていく。それでいいのか。時々、疑問に思う。

 時には少し手に負えないような断片の前に立ち止まり、睨みつけ、読み切ってしまうのもいい。間違っていてもいい。不完全なままでもいい。自分なりに消化して、ささやかでも形にしてみる。それはきっと何かにつながるのではないか……。
 寝かせたまま、みんな消え去ってしまうよりは。



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スピンオフ・テスト

2020-08-31 10:39:00 | ナノノベル
 戦国の世は速度勝負。情報戦に優位に立った者が、覇者になれるのだ。
「早馬を走らせよ!」
 北の城主に向けて緊急の伝令を送るのだ。
「申し上げます。早馬がおりませぬ」
「なんと!」
 アマゾンのセールとかで早馬がフル稼働していた。これでは速報が届けられない。

「殿。速亀ならいるとのこと」
「なに? それは真に速いのか?」
「報告によれば、他の亀など止まって見えるとか」
「それは止まっておるのではないか」
「それは何とも……」
「亀というものは多く止まっておるであろう」

「ははー」
 殿様はなかなか慎重な態度だった。
「テストをしてみよ! うさぎとな」
 うさぎと亀のレースが決まった。
 それはまた別のおはなしである。

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【短歌】断捨離フェスティバル

2020-08-31 09:30:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
ほろ酔いが決行させた断捨離や 寂れたタイムラインがいいね

目で追えぬタイムラインに逡巡の刀が切れる「えーいこれまで」

フォロワーにバッタバッタと切られ行く夜は眠れぬ断捨離祭り

風向きが人格さえも変えたからあなたを切れる「問答無用」

人生が一度切りなら思い切りタイムラインのプチやり直し

あなたにも現れましょう本当の理解を持って拾う神さま

手に負えぬタイムラインに衝動の大鉈振るう「もはやこれまで」

悪酔いが復活させた浪人が平和な君を断ち切る「ごめん」

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友達の捕獲

2020-08-31 09:10:00 | 夢追い
 昔の友達が遊びに来た。昔は仲がよかったが、それはまだ10代に差し掛かるくらいまでだった。面影はあるものの、親しかった頃の感覚は戻らなかった。遊びに来たのは一度ではなかった。だんだんと間が開けばいいと思っていたが、だんだんと近づいてきた。
(友達は泥棒になった)どこかで耳にした噂を思い出す。
 そう言えば最近家の中の物が、微妙に動いていたり減っていたりする。僕のいない間にもあいつが入り込んでいるのではないか。探偵に相談しようか、保険に加入しようか、僕はあれこれ思案した。
 その時、ドアが静かに開いて友達が入ってきた。

「もう帰ってくれ!」
 上がり込んでくる前に友達を追い返した。
 見送りに出る途中、玄関に友達のTシャツが干してあるのに気がついた。
「持って行け!」
「ハンガーは君のだぞ」
 そう言って去っていく友達に向けTシャツを投げた。
「受け取れ!」
 もう友達じゃないからな。
 友達は立ち止まってTシャツを受け取った。
 その瞬間、上から網が降ってきて友達は捕獲された。
(追われていたのか……)
 さよなら。
 僕は家のドアを閉めて鍵をかけた。

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【折句】人生ゲーム 和歌、短歌、いかがでしょうか

2020-08-30 23:33:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
かみさまが欠けたところで身代わりの
一機現るシューティングゲーム

(折句「鏡石」短歌)



汗握る10秒将棋振り切った
ライフゲージに一閃の竜

(折句「アジフライ」短歌)



腹を切り何度死んでも乱れない
スペアを抱いた気楽なゲーム

(折句「ハナミズキ」短歌)



かくことはかかせぬ今日アミューズメント
一日かけて七五少年

(折句「鏡石」短歌)




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万引きGメン

2020-08-30 09:37:00 | ナノノベル
「駄目だよお父さん。万引きは立派な犯罪だよ」
「ああ知ってるよ。わざとやねん」
「まだあるんじゃない。あるなら全部出して」
「あるで。ポケットに酒もあんねん」
「自慢じゃないんだから。あったらよくないんだからね」
「わかってるで。わかった上でやってんねんから」
「駄目だよ。やったら駄目だからお父さん」
「そうや。駄目や。知ってんねん俺」
「わかってるならやめないと。そうでしょ」
「そうやで。それをあえてやってんねん」

「何なの? 開き直ってんの。初めてじゃないね」
「そうや。いつものことやで。ライフワークや」
「いつもやってるの?」
「いつもやってる」
「駄目だよ。いい歳なんだから」
「朝のルーティーンやねん」
「ルーティーンってそういうのじゃないでしょ」
「それをあえてやってんねん」
「あえてつけても駄目なものは駄目だよ」
「そうや。駄目やで」
「お父さん。全く反省の色がないね」
「そうや。あえてせーへんねん」

「じゃあもう警察呼ぶよ。だいぶ悪質だからね」
「警察か。呼べ呼べ!」
「本当に呼ぶからね」
「おー呼べ! そのためにやってんねん」
「どういうこと? 噛み合わないね」
「どういうことやねん」
「初めてだよ。こういうのは」
「いつもやってんねん」
「すぐ来るからね。その態度まずいよ」
「来たらええねん」
「反省しないと駄目だから」
「あえて駄目やねん」

「はい。もう来たよ」
「おー、そうか」

「この人、常習みたいで……」
「来たか、お前たち」
「課長。お疲れさまです」
「課長?」
「店長。おつかれさん。見事な取り調べやで」
「では、これは……」

「おとり捜査やねん」
「はあ?」
「ご協力感謝します!」



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スイッチがない

2020-08-29 07:37:00 | 忘れものがかり
天井の明かりが消えない
リモコンが利かない
強く押しても近づけてみても駄目
電池を交換して結果が変わらなかった時
大いなる不安に襲われた

リモコンの他にスイッチはないのだ
(このままずっと明るいままか)
どうしてこんなことに!
リモコンを叩くと部屋が暗くなった

しばらくすると
また忘れた頃に同じ事態になる

今度は叩いても駄目で
iPhoneから少し離すと上手くいった

色んなものが部屋の中に飛び交っていて
干渉し合い混乱が始まったのかもしれない

みえないものでつながっていることが
急に恐ろしく感じられた
気がついたら
何もコントロールできなくなっているのでは……

カチッ♪

天井から垂れ下がった紐を引いて
明かりを消せれば安心なのに
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わかり始めた昔話

2020-08-28 14:58:00 | 忘れものがかり
「消さないでくれ」
父の背中がドラマを消すなと言った
みてもいないくせに……

あの時 
父はおばあさんの朗読を聴いていたのだ
昔々 いました ありました そして
こんなことがあり 言いました それから
おばあさんの声に包まれながら いたいのだ
夢の国へいきたいのだ

ごめんよ お父さん
何も知らないで テレビを消そうとして

(いつになっても物語は必要だった)
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夏の占い天気予報

2020-08-28 11:53:00 | ナノノベル
 今日は午前中からところにより雨が降るでしょう。また、一日を通して夏らしい気の抜けない展開になるでしょう。
 午前中からの雨はすぐに上がり雲一つない青空が広がるでしょう。この機会に洗濯をと考える人が多くいることでしょう。しかし、しあわせは長くは続きません。南から湿った空気が夏前線に乗って流れてくると、急速に発達した雨雲がTシャツ上空に集合して、まとまった雨を降らせるでしょう。それを見て通りを歩いていた猫たちも一斉に足を早め、車の下や近所の軒下に駆け込むでしょう。しばらくトタン屋根を叩いた雨は後腐れなく上がり、街のあちらこちらで鳥のうれしげな鳴き声が聞こえるでしょう。

 街の交差点では青信号を待つ人々がソーシャルディスタンスのルールに従って一定の間隔を開けて、長い列ができるでしょう。おなじみのメロディーとともに信号が青になると人々は一斉に渡り始めるけれど、交差点の真ん中では雨が降ったり止んだりでしょう。「よくわからない天気だ」と人々は当惑しながら先を急ぐ模様です。

 ランチタイムになると大勢の人々がビルや会社から飛び出してきて、人気のお弁当屋さんの前では一定の間隔を開けながら長い行列ができそうです。特に和牛を使った人気のお弁当は肉目当てに集まった人々の熱気が、肉だ肉だと高まって早々に売り切れとなる見込みです。また、人気のフードコートでは、人々が5人以上の集まりを避けながらも思い思いのランチに舌鼓を打つ光景が予想されます。

 午後になると雲一つない青空が広がり、街のプールには多くの人たちが冷たい水を目当てに集まることでしょう。人々はソーシャルディスタンスのルールに従って水に浸かり、大きな声で騒いだり、風船を使った遊びは慎まれる模様です。また、人のいないスペースでは犬や猿といった水を恐れない生き物たちがここぞとばかりに集まり、人間たちにあやかって水浴をする光景が目撃される見込みです。
 プールサイドのある一角では小腹を空かせた人々がイチゴやレモン、メロン味のシロップをかけたかき氷を思い思いに楽しむことでしょう。また、ところによりビールや缶チューハイなどのアルコール類も口にされるでしょう。

 人々がちょうどくつろいでいる頃、南からの童心に乗って新しい雲が運ばれてきます。新しい雲は羊、つばめ、竜、鷲、巨人、虎など、個性豊かな形に化けながらも一定の間隔を保ち、ひと時の間、空一面に夏のフォーメーションを形成する模様です。

 夕暮れが近づくに従って南から湿った空気が前線に乗って流れ込み、ところどころで雨を降らせるでしょう。街の商店街では、人々が不要不急の外出を控えることもあって、人通りは疎らでしょう。
 しかし、名物のたこ焼き屋さんの前では、暑い盛りにも関わらず人々が一定の間隔を開けながら列を作り、局所的に混雑する見込みです。小舟のような器に盛られたたこ焼きは大変熱く、人々はふーふーと息を吹きながら、たこ焼きが冷めない内にありがたくいただくことが予想されます。
 また、外出時には喉が渇く前に早め早めの水分補給をするとよいでしょう。

 夜の早い時間にはところどころで夕立やゲリラ豪雨に警戒が必要です。

 続いてナイトゲームの予報です。
 穏やかな立ち上がりが予想されます。夕方に降った雨の影響でピッチ全体に渡ってボールがよく滑るでしょう。ホームのガンバが中盤を支配して前半は流れるように進み、ボールホルダーが切り替わる度に、フリーの選手はディフェンスの合間合間に顔を出してパスを受けようとするでしょう。前半の終わりには左サイド深いところから折り返しが入り、前線に駆け込んできた者の一足によって点が入るでしょう。
 後半に入るとまとまって入ってくる新しい選手によってアウェーチーム全体の攻撃が活性化され、一時的にガンバが浮き足立つ光景が見られます。しかし、劣勢は長くは続かない見込みです。徐々に目が慣れてくるとボランチを中心として落ち着きを取り戻し、東に傾きかけていた流れを引き戻します。
 後半の30分をまわった辺りで、ストライカーが強烈なミドルを放つと、守護神の手をかすめてネットに突き刺さる模様です。得点が認められるとストライカーは観客も疎らな観客席に向けて拳を突き上げるものの、全体的にゴールパフォーマンスは控えめでしょう。その後も尻上がりに攻勢を強めるガンバが怒濤の攻撃を見せ、シュートの雨を降らせるでしょう。
 
 まとまった雨を降らせた雲も夜遅くには解散し、空にはところどころで星が見られるでしょう。

 明日の天気です。
 明日は晴れるでしょう。


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もやしおばば

2020-08-28 08:12:00 | 夢追い
 初めて行く食堂は緊張する。どこからどんなものが出てくるか、その時になってみないとわからないからだ。
 その客はもやしの皿に手を着けなかったとみえる。
 食器を下げにきたおばあさんが立ち止まり、もやしを見ていた。そして、突然、顔をもやしの皿に近づけた。周りが少しざわついた。おばあさんは、もやしに埋もれてしばらく息をしていたようだった。
 それから何事もなかったように、お盆を両手で抱えて帰って行く。
 その時、おばあさんは急に足を止めて、こちらを振り返った。何か視線を感じたのかもしれない。

「広げるなよ」
 眉間にしわを寄せながら、おばあさんの唇が動いた。
 ここで見たことは誰にも話してはならないのだ。
 あのもやしの行方を決して追ってはならない。

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【短歌】かすれ字のレター

2020-08-28 07:57:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
達筆とほめたところでとけ出さぬ 暗号化した今朝のモチーフ

ペン先を右手に任せ左手は自由だ今日はpomeraを閉じて

滲み行くインクのようにぼんやりと自我が浮かんだアイスコーヒー

崩し字の大人によってゆらゆらと乱れていった暗号日記

3本の指でつまんだペン先を寝かせ書きたいアナログ・モード

覗き見をケアする崩し字によって自ら落ちた暗号地獄

かすれつつ消えて行くまで曖昧な調べとなって共に生きよう

指先がペンを選んでかけて行く鞄の中に熟睡pomera

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ノンフィクション・ファンタジー

2020-08-28 05:17:00 | 夢追い
「ノンフィクションしか読まないから」
 男は真面目な顔で言った。意外だなと思って聞いていると、最近読んだものでは主に魔法使いが活躍するらしい。どうもおかしいと思いながら聞き流していた。フィクションとノンフィクションの解釈が逆転しているようだ。彼をよく知る人にとっては別段どうということはない。そういう人なのだ。
 彼の話には悪気なくうそが交じる。(僕はそういう人によく影響を受ける)時にだまされるが、どこか憎み切れないようなとこがある。広く色々なことを知りすぎていて、そのため底が浅い。その上で堂々と主張することができる。そういう人なのだ。

「夢はフィクションだろうか」
 時折、そんなことを考えている。結論は出ていない。だから、忘れた頃に何度でもまた考えることができる。中で起きていることは概ねデタラメだけど、自分が体験したというのは本当だ。魔法使いが活躍するノンフィクションだって、あるのかもしれない。
(どこまでが本当かわからない話)を書きたい。僕はそういう人だ。
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真夜中の不届き者

2020-08-28 00:45:00 | 自分探しの迷子
 客足が止まらないのは土曜の夜のことだった。次々と訪れる客に声を張り笑顔を保ち続ける内にのどが渇いた。時々思い出したように水分を補給した。そのチャンスは数少なかった。平日の夜は、随分と違った。僕は自分の好きな時に水を飲むことができた。訪れる客は限られていた。それも徐々に少なくなっていき、間が開き始めた。接客の合間に、私はnoteを開き、マンガを読み、マガジンを読むことができました。

 時々客がみえると読むことを中断することになったけれど、徐々に客はみえなくなって、その分集中して読むことができるようになりました。現実とは違う方の世界に没入していくほどに、現実が戻ってくると腹が立つようになり、私はその頃には既に本文を見失っているのかもしませんでした。「ちっ!」こんな時間に何様だ。

 俺は苛立ちを覚えながらマンガを閉じた。俺の人生はマンガを読むために存在する。そいつを邪魔する奴は人生の敵だ。俺は適当に挨拶をし、適当に札を受け取り、適当な小銭を返した。一段落して俺は漫画界に帰ってきた。時給1200円。それが俺が眠らずにマンガを読むことの対価だ。ふーっ。骨が折れるぜ。マガジンの真ん中に没入しながら、その核心に触れる頃に扉が開く。僕はその時、我に返らなければならない。

「誰だろう?」こんな時間に。僕は本文を止める不届きな者の顔を見る。猫だったなら。心配は無用。ウインク一つで本文に戻れるのだけれど。そいつは人間の面を下げた紳士のようだ。酒臭い息を吐きながら紳士は私のそばに近づいてきて、しわしわの札を投げつけるのでした。私はそれを適切に処理するために計算機を弾かなければなりませんでした。柄にもない礼を言って、本文に戻ります。

 私は社会の中にとらわれていました。まとまった休息はなく、限られた合間合間に楽しみを見い出さねばなりませんでした。お気に入りのマガジンの中に、深く深く潜入していく。クラゲ、マナティ、君は誰……。そこは深夜の俺の職場だ。知らない奴がいる。馴染んでも馴染めない奴らがいる。俺の空想を遮る外来種がいる。息が苦しい。先が見えない。もう腕が重い。顔を上げなくちゃ。水の合わない世界の中で、僕は一瞬顔を上げて息を吸う。その時に限って、僕は自分を取り戻すことができる。

「いらっしゃいませ」好まざる訪問者が、私のお気に入りのnoteを閉じてしまうのです。その時になって思うのは、私の人生の中にまとまった自分の時間は存在しないということでした。許された広場が見えないために、自分なりの獣道を行く以外にない。君にしても、お前にしても、それは同じかもしれない。

 到達点のない旅を続けているのはそのせいで、私にはまとまった金も、眠りも、パワーもないのでした。抜け出せないループの中にとらわれて、厚い雲が長く世界を覆っている。途切れることのないファイターが道に顔を出す。僕はその合間合間にマガジンを見つけなければならない。主人公は俺に似て頼りない。共感の谷間に自動ドアが開く。かかり始めたエンジンを止める不届き者め。

「ちっ!」俺はマンガを置いて汚れたピッチの中に入っていく。お決まりのルールが俺を雁字搦めに縛り付ける。俺は仕掛ける。ディフェンスが足を出す。ボールが辛うじてラインを割る。俺はコーナーに向かう。そよぐフラッグに触れて、ボトルを口にする。その一瞬だけ、俺はアウトサイダーになれる。
「うまいぜ」俺はウイスキーソーダをあびるように飲む。

「もうすぐまとまったゴールが入るよ」


おわり
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アプリの庭(アンチ・バイオレンス)

2020-08-27 23:07:00 | ナノノベル
「よーし並べ!」
 先生は深刻な顔をしていた。
「今から全員一人ずつビンタしていくぞ!」
 ただならぬ怒りを溜め込んでいる様子だ。それは僕らの日頃の態度に対してかはわからない。僕らは誰一人口を開かなかった。
「本当はな。一軒一軒親御さんに許しを得てからにするのが本筋だ」
 言い訳から入るのが先生の文体だ。それで保険をかけているつもりかもしれない。

「だけど、先生は忙しいんだ!
 だから、もうまとめてやるしかないんだ!
 時間がない! さあ行くぞ! お前からだ!」
 最初に僕が吹っ飛んだ。
 宣言通りに先生は順に従って鉄拳を振るっていった。
「痛いか? 俺はその何倍も痛いんだぞ!」
 その間、僕らは無抵抗のまま立っていた。それが先生と僕らの立場を何よりも鮮明に映すからだ。

「この痛みを忘れんな!」
 その時、上空からドローンが急降下して校庭に着陸した。中から武装した警官が降りてきて先生を取り押さえた。
「緊急逮捕!」
「無事に暴漢を確保しました」
 アプリで発信した映像がすぐに事件解決の決め手になった。
 もはや言い逃れはできない。

「私は教師だ。指導の邪魔をするな!」
「教師?」
 僕らは全員でそれを否定した。
「ふん。話は署で聞こう。よし、乗れ!」
 校庭に静寂が戻った。
 すべては信頼できるアプリのおかげだ。

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熟成下書き

2020-08-26 22:59:00 | ナノノベル
 書くには書いたものの、どうもタイトルが決まらない。
 本文は勢いに任せて書いたものの何かしっくりとくるタイトルが思い浮かばないのである。そのままではアップすることもできず、適当につけてみようとするが、どうにも相応しくない。途方に暮れて本文を眺めている。隅々まで見渡しても何も導かれるものがない。
 次第にネガティブな可能性が浮かぶ。もしかして、自分の書いたものは何でもないのでは? 何か少し良さげなことを書いたつもりだったのに、できあがってみれば、空っぽだったのか……。(いやそんなはずはない)それは一つの捉え方にすぎない。目の前に世界は確かにあるが、自分にその本質が見えていないだけかもしれない。

(少し寝かせるか)

 そうして、タイトルの定まらない本文がその辺に放置されたままになる。1年、3年、5年、10年、20年、30年、50年、80年、100年、200年、500年、1000年、2000年、3000年……。
 私も随分と歳をとったな。

「おー、これは。いつかの人間の言葉」




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