眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

惑星ランナー

2023-06-26 02:27:00 | グレート・ポメラーへの道
「私がいたところでは何もかもが落ち着いていて、緩急というものがなかった。こうして追い立てられたり、行き詰まってしまうのも悪くはない。元には戻れなくても、私はここに来たことを楽しみたい。力を失った自分にできることを今は探したい」

 ここは本当に地球なの。
 ポメラとの距離が100万キロほど開いていた。好きなものを前にして指が止まることが恐ろしかった。紙とペンを使って下書きを殴り書きしている。(きれいには書けない時もある)
「中途半端に飲みたくない」
 ランチには決まってコーラを飲んでいた。あの日のおじさんの言葉が理解できた気がした。一度ポメラが開いたらとことん打ち込みたいのだ。ポメラがいない間、自分が失われていく不安が募る。想像することができなかった世界。僕は僕だろうか。クリエイティブだろうか。誰が知るだろうか。夢かもしれない。地球にはまだ夢がある。

 スタート地点は山の頂上にあるというので、皆嫌がっていた。スタッフも、観客も、選手もだ。走り出す前に体力を吸い取られてしまうようで、馬鹿げている。きっとよい記録は出せないだろう。そう思うとなぜか気楽でもあった。

 もうすぐカテゴリ・バスがやってくる。バスを待つ人々の前で、僕はまな板小説のあらすじについて語っている。彼女はまな板の上で葱を切る。葱を蓄えることが彼女のサイクルであり生き甲斐にもなっていた。けれども、彼女が消えた瞬間、まな板は掲示板と誤認され心ない書き込みに彼女の聖域は荒らされてしまう。少年と彼女の交わることのない闘いが続く。彼女は強く葱を切る。葱を切ることは道を歩くことにつながっている。ある時、彼女は葱を切る仕草を責められる。男はまな板にされたことに憤っている。なぜなら、それは言葉の受け皿だったからだ。
 自作にいついてなら遠慮なく語ることができる。バスがやってきた。僕は乗ることができなかった。ここにいるのは選ばれた人々だった。

 マラソンのコースは電車の中を通っていた。逆行して走るため、観客はみんな逆を向いていた。すれ違うワゴン・ロボットが毎回コップをこぼすのを、僕は手助けしてしまう。ロボットは少しはにかみながら、申し訳ないという顔をする。
「いいんだよ」ほっとけないよ。
 タイムが削られて行く。けれども、その行いは観衆の信頼を集め、後に大きな成果を生むのではないかと囁かれている。
 改札を抜けるとカテゴリの神さまが横を走っていた。

「何が足りないのです?」
「数えきれるようなものではない」
「例えば何です」
「例えようもない。たどり着くゴールを探しているのか」
「それがみんなの物語でしょ」

「足りない何かを探すより欲しいものを1つ見つければいいだろうに」
「その何が違うと言うんですか」
「次元だよ」
「このルートは合っていますか」
「ここに来るのは早すぎたようだな」

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近況ノート

2023-06-11 03:22:00 | グレート・ポメラーへの道
 君に聴かせたいプレイリストがあるんだ。
 感想をききたいよ。
 共感を分け合いたいよ。
 爪が伸びたよ。どんぐりを見つけたよ。落ち葉を拾ったよ。空が青かったよ。空気が澄んでたよ。グラスが割れた音を聞いたよ。時計の針がおかしくなったよ。野菜が切れたよ。壁に当たったよ。ロッカーがあいたよ。鳥が鳴いたよ。プライドがあったよ。ワクチンを打ったよ。

大きな夢を抱いたことはありますか
最近大きな蠅を見ましたか
嫌いな海老はありますか
ほめられてかゆくなったことはありますか
家族や恋人の夢をみることはありますか
お初めてですか
根ほり葉ほりきかれたよ
 
 ああそうか。君はいないんだな。
 いつからいないのか。
 弱冷で助かったよ。

「意欲が萎んでしょんぼりとした方はいらっしゃいませんか。お心当たりがある方は、至急カウンターにお越しの上マックナゲットをお求めください。燃える辛さでやる気に火がつきます」

「俺のナゲットだ! 俺によこせ」

「俺の方が先だ! 前から並んでただろう」

「お前の線は無効なんだよ。だから並んだことになってねえんだよ」

「つべこべ言うなや。お前らよりモバイルの俺が先だぞ!」

「この店そんなのやってねえよ! アナログなんだよ全部。見てみろあのモニター真っ黒だろうが」

「みなさんそんなパワーがあるなら大丈夫! ナゲットは無限に存在しますので」
 クルー・キングの一声で獣たちはクール・ダウンする。

「そこの少年! 萎んでる場合じゃない! すぐにナゲットをお受けなさい!」

 人気があるのもわかるよ。微炭酸の価値を知ったよ。充電が切れたよ。光が反射したよ。天井の音が大きかったよ。夕暮れが近づいたよ。
 顎にマスクして何になるの。頭に眼鏡して何になるの。やってますよ~って。いつでもやれますよーって。鞘に刀さしていつでも抜けますよーって。カウンターにパソコン開いてクリエイティブしてますけど何かーって。窓口だけ設けてコンプライアンス守りますよーって。みんなポーズばかりちゃんとして耳にペン額に汗して労働は美しいですよーって、本当に本当かよ。怪しい話だよ。
 素敵なリフが流れたよ。
 青が瞬いたよ。
 電車がきたよ。

「危険ですから駆け込み乗車はおやめください」
 危険ですから……。

 危険なのはそれだけじゃないのにそればかり聞くよ。お化け屋敷に入ったら出口がないかもしれない。得体の知れないお化けが出るかもしれない。一度見たら一生忘れられない顔かもしれない。悪いお化けに絡まれてお化けにならなければならなくなるかもしれない。バンジージャンプ、F1レース、ボクシングそれだってもっと危険だ。どんなジャブが飛んでくるかわかりはしない。横からくるフックは見えないかもしれない。忘れた頃にくるアッパーは最も危険だ。ここぞとばかりストレートを出されるのは危険だ。食べ歩きに行くことは楽しげにみえて大いに危険だ。見かけ倒しの看板かもしれない。得体の知れないものを出されるかもしれない。化け物の支配する店かもしれない。バックに魔物がついているかもしれない。完全なぼったくりかもしれない。客を獲物として待ちかまえているかもしれない。怖いよ。思えば恐怖はどんどん独り歩きを始めるよ。
「危険ですからおやめください……」
 そうしてすべてをやめにするのはやっぱり怖いんだよ。

 切れてしまったから離れてしまったのか
 離れてしまったから切れてしまったのか
 離れているから好きではないのか
 好きではないから離れていったのか
 書かなくなったら書けなくなったのか
 書けなくなったから書かなくなったのか
 わからなくなったよ

 夢をみたよ。親書が届いたよ。雨が降ったよ。カーテンが揺れたよ。
 思い出したよ。
 君がいないこと。

 君はいないよ。

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「生きる」仕草

2023-05-25 01:25:00 | グレート・ポメラーへの道
太陽に火を足す。完全に消えてしまう前に。ささやかな仕草だけど、それが僕の仕事だ。鉛筆がなくなっても、スニーカーがなくなっても、まだどうにかなるものだけど、太陽がなくなったらそうはいかない。他のものとは大きさが違う。その輝きに慣れすぎると、大きさを忘れてしまうけれど。「他はええ。ご飯と漬け物だけあったらええ」時々おじいちゃんの声を思い出すのはどうしてだろう……。絶やしてはならない、人類の希望の光を、僕はこっそり守っている。それは責任のある仕事だ。しっかりしなくちゃ。

バッターはスイングを
ジョーンズは探検を
芸人はフリップを

繰り返す繰り返す

ピッチャーはモーションを
ギタリストはリフを
落語家は座布団を

好きを繰り返せ
そいつを繰り返せ

それぞれの仕草の中に
「生きる」がある

アスリートはジャンプを
ディレクターはカットを
武道家は我が道を

好きを繰り返せ
そいつを繰り返せ

繰り返す仕草の中に
「生きる」がある

どうせ同じだと
寝ぼけたことを言う前に

仕草を見つけ出せ
見つけたら繰り返せ
考えなくてもわかるように
繰り返せ繰り返せ

考え始めれば進めない
乗り越えるべき壁の前
自分を見失ってしまったら
理由も理屈も捨てて
仕草にすがりつけ

仕草の中に好きが戻ってくる
仕草の中に「生きる」がみえる

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スマート押しボタン式信号機

2023-05-23 03:58:00 | グレート・ポメラーへの道
「ここで何をしてるの?」

「信号を待っている」

「どうして待ってるの?」

「赤だから」

「だからどうして?」

「決まってるから」

「誰が決めたの?」

「昔の人だよ」

「いつまで待つの?」

「青になるまでさ」

「ただ待つだけ?」

「待つしかないからね」

「ふーん、暇なんだ」

「そうじゃない」

「あの人はもう行ってるよ」

「あの人は……」

 信号が変わると男は消えている。けれども、信号を待っていると再び男は現れる。疎ましい奴だ。

「ねえ何してるの?」

「信号を待っている」

「どうして待つの?」

「赤だからね」

「だからどうして?」

「みんなそうする決まりなんだよ」

「みんな?」

「みんなだ」

「本当にみんな?」

「そう。みんなだ」

「損してるんじゃない?」

「そんなことないよ」

「あの人たちはもう行ってるよ」

「そうかい」

「楽しく歌ったり陽気に乾杯したり」

「そうかい」

「わいわい騒いだりしてるよ」

「人は人だよ」

「あなたは?」

「信号を待ってる」

「決まりだから?」

「決まりだから」

「遅れてるんじゃない?」

「遅れても生きてるんだよ」

「守る価値があるの?」

「生きていればチャンスは残せるからね」

「ただ待つの?」

「そうだ」

「ふーん、暇なんだ」

「そう思うならそれでいいよ」

「ふふ、やっぱりそうだ」

 信号が変わると男はもういない。長い信号は苦手だ。問い詰められる時間まで長くなってしまうから。点滅が終わろうとする頃に飛び込んでいく人の気持ちも少しはわかる。待たされて苦しむ時間がみんな嫌いなのだ。
 松虫通の端っこに、押しボタン式の信号機がある。ボタンを押すとおよそ2秒で歩行者信号は青に変わる。なんて話の早い信号だ! 渡り切ってから5秒もすればもう車が流れ始めている。問い詰め男が現れる余裕も与えない。この信号をどこへでも持ち運ぶことができたなら、人間の時間はもっと豊かなものになるのではないだろうか。
 横断歩道を渡った道をそのまま真っ直ぐ進むと迷わずモスバーガーへ行くことができる。

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その限りではない

2023-05-21 03:27:00 | グレート・ポメラーへの道
長時間ぼーっとする方大歓迎!
短時間集中して学ぶ方お断り!

 がむしゃらに打ち込む時代は終わっていた。人々は与えられた1つのドリンクの前で大人しくするように丸め込まれている。少しでも長居したい。そう考えるなら、掟に反抗するのは愚かなことだ。積極的に何かを始める仕草をみせる者は誰もいない。広々としたテーブル、格調高い椅子、和菓子のようなソファー、どこを見回しても熱情の切れ端は見当たらない。越してきた幽霊のような顔をした人がくつろいだポーズを取っているだけだった。
 大人しくしているから不満がないと?
 僕はまだ騙されているだけかもしれないぞ。

笑っているから楽しいと?

悪いことをした人が捕まるの?

水槽にいるのは金魚なの?

ピストルが鳴ったら走り出す?

怖がらせるのがお化けなの?

布団に入ったら眠るのか?

缶を開けたらすぐ飲むの?

角道を止めたら振り飛車か?

テレビを壊すとロックなの?

上着を着たからすぐに帰る?

雨が降ったら悲しいの?

離れていたら忘れるの?

玉葱を炒めたらカレーなの?

笑っていれば平気なの?

チョコをくれたから好きなの?

チョコをくれないから好きじゃないの?

 そんなことない!
 世の中そんなに甘くも単純でもない。

「全くなんて限りない世界だ!」
(手に負えない世界だ)

「早くここを出して!」

 鞄の底から魂の叫びを聞いた。
 次の瞬間、テーブルの上にはpomeraが乗っていて僕の指は吸い着くようにその上を這っていた。そして間もなく店の人が駆けつけてきた。

「お客様、お勉強の方は……」

「はあ?」

「他のお客様のくつろぎマインドの妨げになりますので」

「えーっ?」
 そんなことで僕らの運動が止められるはずないだろう。

「お客様! 退店していただきます!」

 ふっ。笑わせるな。
 お勉強だって?
 そこまでしていったい何を守りたいのだ。
 こんなところこっちから願い下げだ。

「チッ!」

 最後にpomeraが捨て台詞を吐いた。
 ミサイルの飛び交うメインストリートを抜けて、僕らは寛容なテーブルが残された街をたずねて歩き出した。

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あなたを

2023-05-17 05:01:00 | グレート・ポメラーへの道
 松虫通を少し越えたところでバイクは溝にはまっていた。動けなくなった? 忘れられている? 目の前に信号があるかのよう僕は足を止めて残されたバイクのことを考えていた。
 タイムスリップしてたまたまこの溝にはまってしまったの。緑の男たちから逃れるために、主人を思い自らの判断で身を隠したの。主人と喧嘩して拗ねてはまっていたけれど、草たちに囲まれて「いつも風を切ってるんだって?」意外とよくされて、居心地がよくなってずっとそのままいるの。空を飛んでいたけれど燃料切れになって落ち着いたところがここなの。道を走っていたけれど突然大地が歪んで挟まれてしまったの。主人が新しい車に乗り換えてから駐車場にいる時間が長くなったことに耐えかねて、家を出てきたけれど行くところもなくて溝にはまってしまったの。あるいは……。

「さあ、乗ってください」

 ポニーは突然、口を開いた。
 バイクについて考えていたけれど、いま目の前に存在しているのはバイクなどではなく、生きたポニーだった。どうして気づかなかったのだろう。

「新しいポメラがあなたを待っています!」

「僕を知っているの?」

「さあ、早く乗って!」

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ピュア・ボール

2023-05-10 04:56:00 | グレート・ポメラーへの道
 ネズミが箸を転がして人々を大いに笑わせていた。
 羨ましい。
 どちらが?
 尊敬交じりの視線を浴びるネズミの方か、純粋に口を開き手を叩ける人の方か。どちらでもあり、どちらでもないような、複雑な感情。羨ましくて仕方がないのに、なりたいかと言えば、全力で今の自分にしがみつきたくなってしまうのだ。彼らのシンプルな仕草の中に、決して交わることなどできない。

「そろそろ僕たちの出番だ」

 モップを持って主役のネズミを追い立てる。

「もう今夜はお開きですぞ!」

 ネズミは喜ばしい運動を中断させないように逃げた。一心同体。熟練の作業を打ち負かすために、こちらもギアを上げる。怒りに憎しみを加えてモップを伸ばす。ネズミは逃げきれないとみるやウサギに転身して夜を越えた。箸はなおも自力で運動を続け、しばらくすると立ち上がって名のある牛丼屋のドアを潜った。余興を断ち切った僕の背中を、民衆の敵意が突き刺す。痛い! 敵意以上の武器が迫っている。メインストリートから離れ、僕は公園沿いの道にまで逃げた。
 歩道を転がっているのは箸ではなく、もっと純粋な形をしていた。
 独りだ。いつかの少年の足から離れたボールだろうか。

 あまりに自然で理にかなっていたから、ただ地面を転がっていくだけの運動に癒されていた。
 球体に光が射して癒しは突然かなしみを含んだ敵意に変わってしまう。これが自分なの? 誤らぬ人も変わらぬ人もいない。だけど、どうしても受け入れ難い面ばかりだった。くたびれた自分、膨らんだ自分、失われた自分、誤解された自分、歪められた自分、ねじ曲がった自分……。軌道修正。そんな言葉もあっただろうか。立ち向かうための武器は1つではとても足りない。自分を消すには素材が必要だ。正確なタッチ、物語、疾走、誤字脱字、未知との遭遇、ラジオ局、コーヒーの香り、書き殴る仕草……。いつからかお腹が痛い。いつからか愛せない。もっともっと。満たされながらすべての自分が消えていくことを願っている。もっともっと。

「他に必要なものはありますか?」

 あるに決まっているだろう。いくらでも。不満はいくらでもある。望まないことはいくらでもある。
 一度は自分を消して、昨日を消して、それから変わるのだろう。

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ポメラニスト・コンプレックス

2023-05-08 18:37:00 | グレート・ポメラーへの道
名刺代わりのホームラン
「どうしたら打てますか?」

 ミルクが落ちてコーヒーの中に溶け込んでいく。テーブルの中央に置かれたコーヒーは主役だ。コーヒーは僕の中に取り込まれて僕の一部となる。それからコーヒーを少し遠ざけるとポメラをテーブルに置いて開く。そこからしばらくコーヒーの存在は希薄になる。今度はポメラが主役だ。少しずつポメラに触れて、僕の一部はポメラの中に取り込まれていく。

「何をされているのですか?」

 正解がわからない。どうにも困った問題だ。打ち出した文字群がどのような結果に結びついたのか、そこが問題だ。将棋世界の1ページ、日経新聞の片隅、どこにも確かな座標が存在していない。浮きながら消えていくようなものばかりではないか。

「指の運動をしています」

 それが最も正確な答えだとして、他人にどのような理解を得られるというのか。
 得体の知れないポメラではなく、純粋な犬をつれていたら、もっと素直に信頼されることだろう。わかりやすい役割を帯びているほど、信頼に値するというものだ。

 ポメラを閉じてコーヒーを引き寄せる。温かい主役のおかえりだ。遠ざけて引き寄せて、閉じて開いて、主役は何度も入れ替わる。コーヒーは僕の中へ、魂はポメラの中に、僕は温まったり真っ白になったりする。営みは単純で取るに足りず、信頼を築く方法は未だ見つかっていない。息苦しい。(生きにくいな)

 ポメラは猫ほどに認知されていない。テレビで猫を見ない日があるだろうか。猫に職質をする警官がいるだろうか。(何をしていても何もしていなくても)猫は一目で猫と認めてもらうこができる。そして、猫であるということだけで、既に十分に素晴らしすぎるのだ!
 人が人に認めてもらうことは、それほど簡単ではない。(人が真っ先に疑わなければならないのも人だ)年齢は、性別は、会社は、連絡先は……。オフィス・ビルに入るというだけで、どれだけのラベルが必要なのか。

 気がついたらコーヒーカップが空っぽになっている。魂はポメラに吸い取られて、僕もすっかり無になった。あるいは、元からそうだったのかもしれない。ポメラはどこへ行くのだろう。

「ねえ、君はどこへ行きたいの?」
 ポメラのささやきに、僕の指は固まったままだった。

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魔法のお茶

2022-12-29 07:32:00 | グレート・ポメラーへの道
素敵な note ですね!

さて本題に入らせていただきます。
私は九州の方で美味しいお茶を作っております。
読ませてもらったお礼と言っては何ですが、今なら通常価格不明のところを特別限定価格初回に限り最大で0円にてご提供させていただけることになりましたので、いますぐご注文してください!
なお、翌月からは前金で最小で2万、他に別途サービス料(時価)、翌々月からは更新料として総額最小で1000円(時勢によって変動の可能性あり)をお支払いいただくものとする。(なお、これには一切の例外は認められない)


 素晴らしい提案に乗って僕は迷いなくお茶を注文した。お茶は美味しいことは言うまでもなく、飲むだけで体が軽くなるようだった。一日の始まりから食事の友から、お茶のない日常は考えられなくなった。辛いことがあって落ち込んでしまいそうな時でも、お茶を飲むことによって乗り越えられる。本当に素晴らしい出会いだった。最初はただでよかったものの、翌月からは馬鹿にならないほどの代金が必要となった。通常の食費にも匹敵するようなお金だし、それでなくても物価はとめどなく上昇し日々の生活を圧迫しつつあった。僕は働き方を変えなければならなかった。


 路上に出て自転車を漕いでは食事や酒や医薬品や雑貨を見知らぬ家に届けてまわった。その報酬は1件あたりがだいたい300円であり、1キロでも3キロでも5キロでも6キロでも10キロでも、どこまで行っても、雨降りでも、暴風でも雷でも真冬でも深夜でも、揺るぎなく300円だったが、希に調整されて301円になることもあった。(自転車でなくバイクの場合はこれが基本400円あるいは500円だったりし、これはバイクが自転車よりも優れた乗り物としてリスペクトされているためだろうか)
 路上に出てみれば様々なハプニングがあって、ただAIの導き出したルートに従ってバーガーやベーグルを運んでいればよいというのは、大きな間違いだった。逃げたマルチーズを追いかけて捕まえたり、眼鏡を落として困っているおじいさんを助けたり、沼にはまって身動きできないおばあさんを助けたり、モンスターをたずねて迷っている小学生を助けたり、人のためにやるべきことはいくらでもあるのだった。

「スカイオはどこですか?」

「この道をずっとまっすぐです」

 50キロの道を走り疲れ切っていた僕は時として小さなうそもついてしまった。道に落ちていた釘を踏むとパンと弾けてアカウントを見失った。気がつくと僕は自転車を降りて、危ない道を歩いていた。


「息子さんがYouTubeに上げた論文が問題になってましてね。事もあろうに宇宙の起源を握りつぶしてしまわれた。それで先方の方がかなりお怒りでして、今広報の方に代わります。どうも宇宙広報の者ですが、このままでは収拾困難な事態なのです。そこを私どもの必死の交渉でですね、少し話をさせていただきまして、解決策としてある程度の餅を用意していただきたいと思います。よろしいですか。これよりドローンに乗ったおじいさんが、受け取りに参りますので、迅速な受け渡しの方よろしくお願いします。息子さんは元より人類の命運に関わってきますのでくれぐれも他言はせぬように……」
 と、まあこんな調子でテレホン・アシストの仕事をしているとエイリアンがきて僕の首根っこを捕まえたので目を覚ました。


 まもなく僕はキッチン・スタッフの仕事についた。運ぶ人から作る側になったというわけだ。
「15番、ラッキーストライクですね。780円ちょうどいただきます。ありがたーす!」
 意外と僕は接客も上手くできた。
「君! レジに入らなくていいから!
それは他の人がいるから」
 調子に乗っていると店長に怒られてしまった。
 そうだ。僕はキッチン・スタッフ。レジ係ではないのだ。

「すみませーん!」
 すみませーん!
 すみませーん!

 誰かが誰かを呼んでいる。
 僕はここで地に足を着けながらお茶のためのお金を稼ぐのだ。ああ、早く家に帰ってお茶を飲みたいぞ。お茶だお茶だお茶だお茶だお茶だお茶だお茶だお茶だ。お茶があるから僕は元気です。
 す・み・ま・せーーーーーん!
 他の人はどこから現れるというのだろう。

「すみませーーーん!」

「はーい!」

 駄目だ。やっぱり知らんぷりは苦しいよ。

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