折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

ムーン

2020-12-31 20:36:00 | 忘れものがかり
右のブロックにいる
右の椅子に座っている
左に鞄を置いて
ハードカバーを開いている

いつもいる
彼女だ

火曜の夜
日曜の夜
寒い夜
気まぐれな夜
雨の降る夜
忘れた頃の夜
クリスマスの夜

いつもいる

彼女は月だ

コメント

ハッピー・モーニング

2020-12-31 05:10:00 | オレソン
忘れていた
誕生日ではない

おはようがおめでとうに変わった朝
誰も本当のわけを知らなかった

生ぬるいだけのおはようは
受け付けなかったのに
「おめでとう」は
俺の胸を貫いた

疑う必要はない
俺たちはやり遂げていたのだ

だから これから胸を張って行けるね

おめでとう!

忘れていた
クリスマスではない

おはようがおめでとうに変わった朝
街は桃色に包まれていた

ポーズだけのおはようは
何も覚まさなかったのに
「おめでとう」は
魂を揺さぶった

恐れることはない
俺たちは許されていた

だから これから顔を上げて行けるね

おめでとう!

おはようがおめでとうに変わった朝
俺たちは新しく生まれ変わった

ハッピー・モーニング

昨日までとは違う夜明け

これからどこへ向かおうか

コメント

くれない12月21時

2020-12-31 02:17:00 | 幻日記
「申し訳ございません。
 ホットコーヒーは売り切れました。
 (アイスコーヒーでしたら……)」
いいえだったら あっはっはっはっ……

バーガーも何も持ち帰らずに
すぐ隣のカフェに近づく

誰も気づかない

一人は夢中で床を磨いている
もう一人は熱心にグラスを拭いている

看板は裏返っていないけど
もう今夜はおしまいなのか

近づいても見つめていても
誰も目を合わせてくれない

そうだね 嫌だよね

振られてから すぐ来るなんて

コメント

知らない体

2020-12-30 20:38:00 | ナノノベル
~いつ知ったのか

 当時としては私の知る限りでお話をしていたわけですから、私の心にうそはなかったということはご理解いただきたい。私は何も知らなかったわけですし、知らない方がいいことを知っていたからこそ、知ろうとすることを知らなかったとも言えるわけであります。ことある毎に知らない知らないと言っているわけでありますから、これはもうどう考えてもそのまま突き進む以外はないのであります。
 一度知ってしまえばもう後に引くことはできません。そうした理屈を踏まえ、完全に知らなかったという体で話を進めているわけでありますから、いつ知ったのかと問われれば、当然それはごく最近ということになるわけであります。仮にもっと前に遡って知るタイミングがあったとすれば、私が全く知らなかったという前提が崩れかねないわけであります。あくまでも私は知らなかったということが頼みの綱になっているわけでありますから、それだけは何としても死守しなければならないという点をご理解していただきたい。
 結果として私はうそをついていたという話にはなるわけですが、好んでうそをついたという構図になってしまってはもう弁解の余地もなくなるわけでありますから、そうしたことは何があっても絶対に避けなければならないということは、これは誰が見ても明らかであろうと思うわけであります。



~明細書の行方

 明細書を明らかにするくらいのことは、これはもうやろうと思えばいつだって明日にでもできるわけであります。何か誤解を抱かれているかもわかりませんが、私が明細書を隠す理由もなければ出せないという理由もないわけであります。何か疚しいことがあるとか意地になって出さないなどということもないわけであります。あるいは仮に明細書を出したからと言って、私自身が何か不利益を被るといったような心配も全くない。ですから、今すぐ明細書を出せと言われましても、必ずしもそれに従って出すかと言うと、その必要性自体特に感じられないのであります。

 もし仮に私のところにお客さんが来て、お茶を出せと言われれば、私は迷うことなくお茶を出すのだと思われます。むしろ、そうした場合には出せと言わずとも己の判断に基づいて迅速かつ正確な順序でもって出すことができるわけであります。これはもう考えるまでもなく長年に渡り染み着いたおもてなしの精神、美しい伝統がそうさせるわけであります。そうした自然な振る舞いと、いきなり明細書を出せという話とを一緒にされては困るわけであります。これはもう全く次元の異なる話ですから、何でもかんでも相手の要求通りにですね、明細書だ裏帳簿だとか(まあそんなものは存在もしませんけども)、次から次へと出していたらあっという間に丸裸にされてしまうではありませんか。

 私は何も明細書を出さないとか出せないと言っているわけではありません。むしろ、私自身についてはいつでも問題がないと申し上げているのです。しかしながら、これは私だけの明細書ではございません。わざわざ足を運んでくれて美味しい思いをされた方々の気分を害するようなことがあってはまずいと考えられるわけであります。それではせっかく美味しかった思い出が、後味のわるい話に変わってしまうかもしれません。
 餃子が何円、茶碗蒸しが何円、ステーキ何グラムがいくらだ、カレーが数千円であると細かく刻んだ話になってきたとしたら、これは食材の秘密、シェフの秘密、企業の秘密に関わってきます。密は避けなければなりません。近づくべきでもありません。これは専門家の人たちも口を揃えて仰っていることです。



~うその定義

 うそだと言って決めつけることは簡単であって危険でもあると自らのことも含めて申し上げておかねばなりません。瞬間瞬間、部分部分においては、人は誰でもうそつきになる可能性があるのではないでしょうか。
 空は赤いと言えば、昼間だったらうそになるかもしれませんが、夕暮れであればそうではないかもしれません。私は空を飛べると言えば、鳥でもない限りうそつきなってしまうと思われがちですが、一旦飛行機に乗ってしまえば、結果的にはうそではないと明らかになるわけであります。前後の文脈まで見なければ一概にはわからないわけであります。
 冬は寒い。常識的にはそうかもしれません。しかし、暖かい冬もあるわけですし一旦炬燵に入ってしまえば、もう寒くなくなるわけであります。その上でエアコンもつけ厚着をし鍋でもつつこうものなら、これはもうむしろだんだんと暑く感じられてくるわけでもあります。おでんもあるしうどんもあるでしょう。場合によっては雑炊や茶碗蒸しといったものもあるかもしれません。そうした物を口にしてしまえば、冬でも寒くないと言えるわけであります。

 そして炬燵があるならば当然話としてはみかんも出てくるであろうと察しがつくわけであります。みかんの皮を剥いて1つつまんでみると何か酸っぱく感じます。その時にはみかんは酸っぱいと言えます。しかし1つもう1つと口にして行く内にはだんだん甘くも感じられてくる。その時にはみかんは甘いとも言えます。これは別にみかん自体が変化しているわけではなく、私の口の中が変化しているわけであります。酸っぱい、甘いが、一見矛盾するようでもその時々については少しもうそはないということは、ご理解していただけるのではないでしょうか。

 結果的にはうそだと言われてしまうことでも、当時の自分としてはできる限り真実を述べようと努力しているわけで、その姿勢についてだけは一点の曇りもなく本当であろうと思っていただけなければ、辻褄が合わなくなってしまうと申し上げねばなりません。仮に百歩譲って、私はうそつきなんだとこの場で言ってしまえば、その瞬間だけ私が正直者になったように見えるかもしれませんが、私はそのような変化を望んでここまで来た覚えは一切ないと言わせていただきます。



~責任論について

 信頼を寄せていた者が私にうそをつき、結果として私にうそをつかせることになってしまった。逆に言えばまずは私からうそをつき、彼にもうそをつかせることになったということにもなりますが、それは全くの逆であると改めてこの場で申し上げておかねばなりません。
 
 このようなことになってしまったことは誠に遺憾であり、彼自身も責任を痛感し職を辞するという形で幕を引くこととなりました。対照的に私の責任の取り方というのは、それとは全く違うのであります。言わば、やめて簡単に取れるような責任ではないわけであります。もしも仮にそのような責任であるとするならば、私は明日にでも職を辞して一切の後腐れもなく自由な身になって気ままな生活を送りたいと内心では思っているわけです。しかしながら実際のところは、簡単に辞めて終わるような話では決してない。なぜならば、私の背中には過去から現在に至るまで、応えなければならない支援者の方たちの期待が重くのし掛かっているからだと申し上げなければなりません。

 だからこそ、私はこの自らが招いたとも言える難局の中でより一層身を正し、皆様の信頼回復に努めるべく修行に当たり、道場に通ってあらゆる拳法をマスターしたいと考える所存です。カンフー、少林寺拳法、太極拳、あらゆる流派を越えて新しい拳法の改革を目指して行かねばなりません。そして隙あれば積極果敢に打って出て、手や足や体のあらゆる部分を使って疑惑を払いのけることができれば、やがては世の中の風向きも変わり、長い冬の時代もようやく終わりを迎えることができるであろう。そう考えているわけでございます。



~秘書は訴えない(おもてなしの心)

 改めて言うまでもなく秘書というのは私たちにとって特別な存在であります。信頼の置ける秘書というものは常に私自身に寄り添ってくれるものです。あたかももう一人の自分とも言える存在です。同時に、有能な秘書というものは、常に同じところにいて働くものではありません。今手の届く距離にいたかと思えば、次の瞬間にはもう遠く離れた現場にまで飛んで根回しもしてくれます。最も遠い場合には、別の惑星にいて宇宙人のような存在となり、あまたの星々と密につながっていることでしょう。

 長年の実績と信頼のある秘書というのは、事ある毎にいちいち私に対して相談も報告もしません。またそのような時間も義務も見当たりません。私ならばきっとこうするだろう、私のためにはこうした方がベストだろう。秘書は常にそのように考えて動くことができ、また過去にそのようにしていて実際大きな失敗もなかったわけですから、私の方としても何も問題はないであろうと考えていたわけであります。
 しかしながら、当時の件に関しては万が一にも間違いがあってはならないだろうという思いから、念のために確認もしたのであろうと記憶しております。

「熱くないかね? かゆいところはないかね? 
 本当に大丈夫なんだね」とたずねました。
 すると秘書の方も「はい。大丈夫です。問題ありません」と答えました。
 信頼を置く者の言葉を信じないわけにはいきません。では、どうしてそのような答えになってしまったのか。実は以前よりどうも問題はあったようなのですが、それを言えば私の期待を裏切ることになると考えられ、そうしたことを気にするあまり長年に渡りなかなか打ち明けることができかったというのが真実のようです。
 最近になってそれを知らされ私は非常に残念な気持ちになりました。同時に自身の道義的な責任を深く痛感しました。もっと早くに私の方が気づいてあげることができたならば、こうした結果にはならなかったであろうと思われるからです。

 それでは、間違いを犯した彼のことを訴えるかと言われれば、決してそのようなことにはなりません。勿論、私の中にも迷いはありました。しかし、たとえ大きな過ちがあったとは言え、長年に渡って私のために身を粉にして尽くしてくれた彼の仕事振りにうそはないのです。しばらくの間、私は捜査機関によって彼とコンタクトを取ることを禁じられていました。それは口裏を合わせたりすることができないようにという配慮からです。

 彼は今はもう私から離れ遠いところに行っています。それにも関わらず私が一時の感情に任せて彼を訴えるようなことをしたら、宇宙人の方から密になって攻めてくるかもしれません。彼らが高度な科学を保持していてそれが人類の脅威に当たることは容易に想像がつくことです。宇宙人とは敵対することなく平和と安全の精神、おもてなしの心で接することを忘れてはなりません。一度彼らの方から攻撃が始まってしまえば、それをくい止めるような手段は私たちにはありません。もしも私が秘書を訴えることによってその発端をつくるようなことになっては、まさに人類にとって最悪の事態を招くことになるのです。そうなってしまった場合、弁解の余地は2度と訪れないのではないでしょうか。私に取れる責任など、もはや地球上のどこにも存在しないのだろうと考えられるわけであります。

コメント

あるヨーグルトの夜(がんばったところでがっかりする話)

2020-12-30 19:32:00 | 幻日記
 数あるヨーグルトの前に立つ時には迷いがある。どれでもいいように見えてもそれぞれにこだわりがある。正解のない棚には躊躇いを広げる時間がある。その時々にある気分と理想がある。選択の余地と悩める自由は幸せの内にある。ありふれて見える物の中に目立って高い物を見つけることもある。他とは違う何か、特別に強いパワーみたいなものがあるのだろう。(これにしてみるか)最初は高くつくけれど、頑張ればよいこともあるだろう。ちょっとずつ食べていこう。そして私はある1つのヨーグルトを手に取る。

 家に帰ってヨーグルトの外蓋を開ける。上に張りついた紙をめくる。
「こ、これは……」
 箱に対して7割も入っていないのではないか。
 高いのはいい。それは最初からわかっていたこと。
 しかし、その内容量は?
 私たちはそれをグラム表示で確認したり、手に取った重さで感じなければならないのだろうか。
 腹立たしいのは、頑張ったところでがっかりさせることだ。
 箱を開けてから(がっかりする人)がいないように、ヨーグルトの箱は駅構内のゴミ箱のように可視化してほしい。

 そんな願いを強く抱く夜もある。

コメント

【短歌】先生の別腹(ひきしめよう)

2020-12-30 01:40:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
人よりも高いところに立っている我々のノーマスク会食

気をつけて暮らすがよいぞ皆の衆 用心こそが最後の砦

下々に徹底させる決め事も我ら大先生には無用

飯を食うのみにはあらず会食は密に欠かせぬ根回しの場

世の中を牛耳っている我々はルールをつくる側の人間

うそという定義を握りつぶしたら我が手に残る権力が善

コメント

【小説】ノベル・トレイン&サイエンス・カテゴリ

2020-12-29 20:37:00 | ナノノベル
 自信を胸に朝のホームに立った。
 この街での新しい生活が始まる。
 ホームは大勢の人でごった返していた。メロディーが流れ列車が入り込んでくる。私が乗るのはカルチャー線のノベル・トレインだ。胸にそれぞれの物語を抱え、人々が車内に呑み込まれていく。その中に今日は私もいる。
 私が好むのは左側の座席だ。ささやかな願いを満たし、私はA6の座席に着いた。すぐに列車は動き始めた。うとうととする暇はなかった。
 しばらくすると前のドアが開き、順に車掌が回ってくる。

「失礼します。作品を拝見いたします」
 書き出しを少し見ただけで、車掌にはすべてがわかる。ほんの10秒、早い時には3秒ほどで原稿が返される。
 大丈夫。胸に抱えた小説に私は言い聞かせる。半分儀礼のようなものなのだ。通らない者はいないのだ。
「失礼します」
 ささやくように車掌が言った。私は素早く原稿を手渡す。10秒ほど目を通して、車掌は私の方をちらりと見た。原稿はまだ返らない。もう10秒経ち、車掌はまだ原稿を読んでいる。こんなところで夢中になってもらっては困るじゃないか。ちゃんと仕事をしなきゃ駄目じゃないか。私は少しおかしくなりかけていたが、平静を装っていた。30秒も過ぎて、ようやく車掌は原稿を返してくれた。

「お客様、流石にこれは……」
「何か?」
 感想の1つでも伝えて行くのだろう。私はそう思った。
「流石にこれは困りますよ」
 車掌の顔が急に険しくなったように見えた。
「えっ?」
「小説じゃないでしょう」
 3号車ではじめての負のジャッジが下された。

 私は次の駅で降ろされることになった。エスカレーターを上り8番ホームへ渡る。大勢の人が列を作っている。何がよくなかったのだろう……。(人物が出てこないことか。会話が少ないことか。猫がしゃべり出すことか。筋書きがないことか。テーマがないことか。辻褄が合わないことか。何が小説に足りなかったのだろう)私はまだ車掌の声を信じることができずにいた。足が重い。今度乗るのはくらし線のコラム・トレインだ。メロディーが流れ列車が入ってくる。次はどうだろう。また降ろされるかもしれない。確信を持った顔の老若男女が、順に歩を進めて行く。それに私も続いてみる。


「みたいな記事があがってきてましてね」
「で?」
「これ旅行・おでかけさんの方で拾ってもらえないかな」
 旅行担当は少し困った顔になった。

「お宅の方では?」
「いやー、小説の方はもういっぱいいっぱいでね」
 小説担当は両手を大げさに広げて見せた。

「えっ、そーなの?」
「そうなんだよ。もう満員密密でさ」
「そっかー」
「でなんだよ」
「ああ」

「まあ、あんまり小説でもないんだよ」
「そうなの? よくわからないけど」
 旅行担当は小説担当のモニターをのぞき込んだ。

「鉄道だな。だからどちらかと言うと旅行・おでかけかな」
「うん? 朝から始まって。おでかけ? おでかけしてるか?」
「おでかけの途中だろ。駄目か?」
「途中で降りて目的地まで着いてないね」
「そうなんだ。それじゃやっぱり駄目か」
「ごめん。実はうちのカテゴリも今日はいっぱいでね」
 旅行担当は首を伸ばして天を仰いだ。

「そうか。無理言ってすまない」
「サイエンスの方に振ってみれば?」
「あいつか」
「困った時のサイエンスだよ」
「困った時のサイエンスか」
「そう。困った時はサイエンスなんだよ」
「困ったらサイエンスか」
「そうだよ。何度も言わせるなよ。困ったらサイエンス」

「サイエンスか」
「困ってるんだから。でしょ?」
「まあそうだな」
「でもまあ今日はもうあいつ帰ったみたいだけどな」
「えっ、サイエンスなのに?」
「よくあるみたいだよ」
「そうなんだ。じゃあ明日の朝一で持って行ってみるよ」

「おっ、新着来てるんじゃない?」
「よーし、チェックチェック!」
コメント

偉業セットアップ

2020-12-29 10:41:00 | 【創作note】
「すごいです!」
キラキラと星をつけて
ほめたたえてくれる

いつか気づいてしまった

「すごいすごい」と言ってくれるのは
本当はすごくないんでしょ

5歳になって
少しずつ周りがみえ始めた頃
ぼくは現実を知ったんだ

合わせなければならないこと
捨てなければならないこと
いつまでも同じではいられないこと

あげていくのは下書き保存の奴
かつてのぼく
みんないつかのぼくの記憶
1つ1つみつけなおして
表にあげていくだけ
毎日毎日あげていく
単純な運動の繰り返しなんだ

「すごいです!」(なかなかいませんよ)

あなたは誰?

ぼくにまだ 期待をくれるの
コメント

良心的きつねうどん

2020-12-28 14:04:00 | ナノノベル
 いくら味がよくても高すぎては駄目だ。それでは日常的に通うことはできない。商売とは、良心的でなければならないと思う。私は常にそのような店を探している。なかなかないね。この街を知るにはもう少し時間がかかりそうだ。

「お待たせしました。きつねうどんです」
 運ばれてきた丼からは白い湯気が立ち上がっている。
 おお! なんと心地のよい湯気だろう。いっそこのままおじいさんになったとしても構わない。器までもしっかりと温まっている。
 麺は手打ちを思わせる。腰があり少し透明で所により美しくしなっている。ちょうどいい長さだ。
 葱はよい香りがする。鮮度に全く問題がない。名のある葱を使っているに違いない。
 油揚げの旨みは特別なものでそれ自身が味わい深いことは勿論、出汁を吸収して絶品のものとなる。
 出汁は少し濃いめでどこか懐かしい味がする。一口飲めば後を引き、さらにもう一口欲しくなる。そして、それは最後まで飽きることなく続く。雷が鳴っても急用ができたとしても、決して残すことはできないだろう。

 ふぁーあーー♪
 打ちのめされた至上のため息……。
 これが50円で? 50円から?
 ありありありあり!

「900円になります」
(えーーーーっ)
「あっ、50円と申しますのは、
※以下をご覧いただくと改めてわかりますように、
条件が3つほどございます。

まず3つ目ですが、
12月生まれの方とさせていただいております。
身分証はお持ちですか。恐れ入ります。
はい。確かに、今月生まれということで。

続いて2つ目ですが、
ご来店10回以上の方とさせていただいております。
レシートをご持参になってますでしょうか。
はい、お持ちで。お預かりいたします。
確かに。いつもありがとうございます。

最初の条件ですが、
これがですね、恐れ入りますが、
5名様、
5名様以上でのご来店とさせていただいております。
はい。そうなんです」

「お前たち食べたか?」
「へい兄貴!」
「私の弟たちです」
「あー、ご一緒でしたか。失礼いたしました」
「いえいえ。美味しかったよ」
「50円になります」
「あいよ」
「それでは100円からお預かりさせていただきます」
「お釣りはいいよ」

「ありがとうございます!」
「ごちそうさん!」

 私は満足して店を出た。本当は奴らは弟でも何でもなかった。もしもの時のことを見越して、あいつらのファッションを少しほめておいたのだ。まやかしだらけのこの街で生きていくためには、多少のトリックも必要だ。仕掛けられたら仕掛け返せるようにしておく。仕込みだ。
 私にとってのしあわせとは、一刻みの葱なのかもしれないと思う。それは他者には無であり、時には悪になるだろう。しあわせは、ある瞬間の感情に似て気まぐれだ。定義しようとすればえらく抽象的なものになるだろう。例えば、それは一編の詩だ。あらゆるところに詩は存在するが、気づかず通り過ぎることの方が多い。私は今夜、きつねの浮かぶ丼の中に、それを見つけることができたのだ。

コメント

【短歌】私のためのゴールデン・タイム(ひきしめよう)

2020-12-28 08:04:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
秘書はもう一人の私いつだって自分の中のうそは許そう

聞かれてもない事柄に答えつつ文脈に得る私の誠

質問を多くもらえば何となく答えながらに忘れて行こう

明細を明かそうとするリソースは私のための歴史の時間

世に知れた名前であれば招きたい闇も密なる金の運び手

うそをつきうそをつかせて生き延びる私の陰に滅んだ真

コメント

フリースいいね

2020-12-28 01:51:00 | オレソン
フリースはいい

Gジャンより軽く
セーターよりも暖か
ダウンよりも気楽だ

帽子よりも下
靴下よりも上
腕から肩、胸、腹、腰まで
包み込んでくれる

先週買った時は2000円
今日は1500円くらいだった

サンキュー・フリース
メリークリスマス!

コメント

宮大工の子守歌

2020-12-27 22:55:00 | ナノノベル
 何もしないのにビー玉が転がっていくということは家が傾いていた。不動産屋さんにかけるとすぐにつながった。
「そちらは途中物件になります」
 契約書を確認せよとのことだ。
 クローゼットを開けると宮大工が潜んでいた。
 あくびを一つして「もうきたの」という顔で起き上がった。ポケットから取り出した鉢巻きをきゅっと頭に締めると突然気合いの入った顔つきになった。

「途中やねん」
 やはり不動産屋の言葉に間違いはなかった。
「続きをお願いします」
 宮大工が釘を一本打ち付ける度に傾きが改善されていく。
 私は安心して眠りに落ちた。
 トントントン。
 宮大工の釘音は心地よい子守歌のようである。

コメント

パートタイム・ストーリー

2020-12-27 11:24:00 | ナノノベル
 仮の母が朗読を止めた。
 オフタイマーが働いたのだ。
 静寂に目を閉じているのは耐え難かった。復活した秒針がチクチクと空気を伝わって突き刺してくるのだ。
 やっぱり無理だ。
 もう一度、仮の母を起動してオフタイマーをセットする。(これで何度目だろう……)
…… 45分 ……
 前より長くセットしておく。
 もしも、僕が先に眠ったら、消えてもいいよ。


 それというにもそれにはそれなりのそれがあったからでした。
「それってつまり、おじいさん」
 おばあさんは言いました。
「それってことよ」
 おじいさんがそれとなく答えてからそれはそれとなりました。それもこれもみんなそれのせいに違いありませんでした。豊かな森はどこにもありません。森も海も青も緑もなかったのです。
「そーれー」
 それは置いてそれがそれらしい気合いを入れた時、それに比べておじいさんはそれについて考えを巡らしていたのです。それってつまり。そう、それに尽きるというものでした。
「それはそれさ」
「それはそれね」
 おばあさんは言いました。

(それから、それから)

 それはさておきおじいさんは、それに勝るとも劣らないそれをそれしてそれにかけてそれをくわえて、突如としてそれをそれっきりにしたのでした。
「それみたことかー」
 おじいさんはそれとばかりに叫びました。
「それはどうかね」
 それしきのことで納得するおばあさんではありません。
「それに勝るとも劣らない」
 それの使いがはじめて口を開きました。
 宝石でなくていい。ボールペンの端っこが妙に光ってる。

「それが輝きに変わるから」
 それでいい。それでいい。
「それがいいね」


コメント

職質のアマチュア

2020-12-26 21:20:00 | ナノノベル
「あなたは俳優?」
「そんなんじゃねえ」
「あなたは絵描き?」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたは、
ピアニスト? ゲーマー? アスリート?」
「そんなんじゃねえ」
「あなたは、
空? 夏? 金魚?」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたは、ユーチューバーだ!」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたは、本業が映画監督。
撮影の合間にコンビニでバイトしたり、
体を動かしたい時には自転車で出前もする。
年に2回は漫才コンビを結成してレースに出る。
だけど、裏の顔は二重スパイなんだ」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたは、
旅人? 教師? 陶芸家?
詩人? コンシェルジュ? 寿司職人?
作家? パティシエ?
占い師? 書店員? キーボード奏者?」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたいったい何なのさ」
「そんなんじゃねえ」
「それしか言えないの?」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「もしかして、それがあなたの、名前?」
「そんなんじゃねえ」

チャカチャンチャンチャン♪

「まあ、どっちでもいいや。
僕の知らないことさ」

「そうなんじゃね」
コメント

ささやかな夜  

2020-12-26 10:54:00 | オレソン
今夜記念すべき夜に
扉はまだ開かない

沈んだ気持ちを紛らわすのは
いつだってロックミュージックだけ

あの頃の夢は
何だった
もう他人の話みたいだな

思い出はいつかつけた
天ぷらの塩みたいなものだ

遠くに見えるタイムライン
君が詩をあげている

今夜記念すべき夜に
誰もここにやってこない

チャンピオンリーグの試合
もうテレビでは見られないってね

あの人の口癖は
何だった
もう前世の話みたいだな

引出の奥のギフト券
いつか使うつもりだった

遠くに見えるタイムライン
君が詩をあげている

今夜記念すべき夜に
誰も声をきかせない

俺はずっとここにいる
ただそれだけのことだろう

名前があれば
求心力となって
花も言葉を引きつける

いつだって
決めつけるのは自分自身さ

見つける方に回りたかったけど
もう何の記念だったか
忘れかけている

遠い街に住んでいる
君が詩をあげている

ささやかな夜だ

コメント