折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

世界に驚かれよう

2010-03-24 15:09:04 | 何でもええやん
球界の垣根を越えるセパタクロー

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小さいもの

2010-03-12 16:52:02 | 猫の瞳で雨は踊る
親指ほどの小ささだった。
好んで座る隅っこの隣に、その金色の小さい物はあった。
一瞬、僕はそれを見た。
小さいけれど、人だろうか動物だろうか、それは何かの形をしていたけれど、小さくてはっきりとはわからないまま、僕は目を閉じた。小さいもののおかげだろうか、僕の隣に、誰かが座る気配はいつになってもない。いつからそこにいるのだろうか。かつて隣に添っていたものと離れる時に、誰かはそれを見ていただろうか。そして、その小ささを見て、声をかけることをためらったのかもしれない。時々、目を開けて、僕はその小さいものを視界の隅で確認した。いつか誰かがその小ささを無だと思って、僕の隣に、あるいは僕がいなくなった後で、座ってしまうのかもしれない。僕はもうずっと前からここにいる。そのずっと前は、どこかにもいたのだ。

目を閉じた。
隣のキミは消えてしまう。

僕はまだ小さくて、向き合った二人掛けの席の片方に友達と二人で座っていたのだった。巡ってきた車掌は、よいしょっと言って、僕と肘掛の小さなほんの小さな隙間に無理に割って入ってきた。よいしょっ、よいしょっ、と言いながら押し入ってくるので僕の両肘は痛いほど体に食い込んでいき、息をするのも苦しくなっていくのだった。どうしてこの人は、僕らのいる場所に、こんなにも唐突に入ってくるのだろう? もしかしたら、僕らが子供すぎるために、ここにいることがわからないのだろうか?
います、います、と僕は縮まりながら、訴えた。コードが違うのだ。僕の言葉は、蚊の羽音にすぎない。すみません、すみません……。
それでも、車掌は悪魔に追い詰められた牛のように身を寄せてくる。もう、押し潰されそうだった。不条理に訪れた攻撃は、突然終わった。立ち上がり、車掌は口を大きく開けて笑った。紅潮した面の中で、その目はいたずらっ子のようにきらめいていた。

ドアが開き、冷たい風と白い波、知らない人々が入ってくる。
僕の隣は避けられて、落ち着く場所へみなは落ち着く。
僕は目を閉じる。

一人分の距離を置いて、キミは固定されたまま座っている。
歌うことも、問いかけることも、叫ぶことももはやない。キミは花のように静かだ。キミの沈黙に気がついた、本当はその遥かに前からキミは敏感に、間もなく訪れる別れの匂いを嗅ぎ取っていたのだ。情念に任せて泣くこと。それだけでは表せない、もっと異質の遠い場所からやってくる深く複雑で厄介なかなしみの存在に、キミは気がついて。延々と続く田園の間も、川に陽の光が跳ね返りきらきらと輝いている時も、キミの見開かれた二つの空虚な穴はただ前だけを向いていた。しあわせとパンのヒーローが駆け抜けた後で、80年代の赤い花の一輪が人形を抱いたキミの胸を突き刺してしまったのか、もう一度、もう一度、とキミはほんの微かな母にしか聴き取れないほどの声で、願った。散々投げつけられた小さな熊は、僕の膝の上で、かなしみの結晶のように黙り込んでいた。花の歌は、僕の胸にも突き刺さってきた。繰り返し、繰り返し、何度も……。

不安の中で、僕は目を開く。
忘れられた種火のように、キミはそこにいる。
たったひとつわかっていること。僕は終点に向かって旅をしている。
安堵の中で、僕は目を閉じる。

前田さんが歩いてくる。どこから見ても前田さんだ。その髪形も、メガネの形も、顔の形も、肌の色も、着ている服も、体格も、姿勢も、歩き方も、全部、全部、すべてが前田さんだ。あの日のままの前田さんが、今、こうして僕の前を歩いて向かってくる。前田さんは、何も変わっていない。不変の前田さん。それはきっと偽物だ。偽物の前田さんは、一瞬僕の方を見てそのまま通り過ぎてしまう。今が帰ってくる。

「キミはまだいたのかい。
 振動し続ける不安定な座標の上に、キミは誰かに糸で縫いつけられているのか?
 もう自分ひとりでは身動きもできなくなって。
 きっと誰にもわからないよね。
 どうして、自分がここに来たのかなんて。

 別れが、ひとつの雨粒のように近づいてくる。
 けれども、キミをつれていくことはできないよ。
 キミは昔の僕でもあるのだから。

 もうすぐ、キミはいなくなる。
 それは僕がいなくなるからだ。
 その小さいもの、キミと僕との終点。」


*


眠りに落ちた猫の枕元から、マキはケータイを抜き取って開いた。
猫の手によって運ばれてきた文字が、点々とそこにあった。

「前田さんは、タイムスリップしてやってきたのかもよ。
 ねえ、ノヴェル。そんな可能性は絵空事ですか?」

小さな問いを、猫は完全に無視した。
前田さんは、淡々とスクロールされて見えなくなってしまった。


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