折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

身から出る引用

2019-04-30 22:52:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
感傷のガジェットが我が身を切れば引用はナルシストの墓場
(折句「鏡石」短歌)
 
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おでかけですか

2019-04-29 11:23:15 | 短歌/折句/あいうえお作文

 

早々に
コートを置いた
かみさまが
詩をのっぺらと
コーデする春
 
「そこかしこ」
 
 
明日のない
寝具の中に
降り出した
ラムネは春の
いい日旅立ち
 
「アジフライ」
 
 
轍さえ
たずねてみえぬ
詩の道に
踏み出すハツカ
ネズミの迷い
 
「渡し舟」
 
 
挑戦が
弾めば今夜
闇を越え
風車の町へ
ルーラで5秒
 
「ちはやぶる」
 

おでかけですか(折句)
 
 
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捨ててください

2019-04-28 10:31:19 | ワニがドーナッツ!
ゴミ捨て場の側にお布団さんは立っていた
 
ワニがドーナッツ!
 
月曜日火曜日水曜日
いくつもの朝が過ぎても
まだ
お布団さんは立っていたのだ
 
ワニがドーナッツ!!
 
木曜日金曜日土曜日
いくつもの朝が過ぎても
まだ
お布団さんは立っていたのだ
朝に訪れる収集車は
お布団さんを呑み込まなかった
日曜日
お布団さんは立っていた
 
!ワーニがドーナッツ!
 
月曜日の朝がやってきた
お布団さんは立っていた
火曜日になると
お布団さんは歩道に投げ出され伸びていた
 
!ワーニがドーナッツ!
!ワーニがドーナッツ!
!ワーニがドーナッツ!
 
「早くどこかにつれてってくれ!」
 
水曜日の朝
お布団さんは二つ折りになり
ゴミ捨て場の側に身を寄せていた
木曜日金曜日土曜日
いくつもの朝が過ぎても
まだ
お布団さんは立っていたのだ
日曜日
お布団さんは立っていた
 
!ワーニがドーナッツ!
 
月曜日の朝がやってきた
お布団さんの側に
新しいお布団さんがやってきた
 
ワニがドーナッツ!!
 
火曜日水曜日木曜日
いくつもの朝が過ぎても
ずっと
お布団さんたちは立っていた
 
ワニがドーナッツ!!
 
「早く誰かつれてってくれよ!」
 
ワニがドーナッツ!!!
 
 
 
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神の宇宙

2019-04-27 21:23:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
闇にサンキュー星々が溶け出した宇宙は神のフリーズドライ
(折句「焼き豆腐」短歌)
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みえすぎる夜

2019-04-27 01:57:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
敗局が鳴かせた弦を見通せばすすきの先に今日の幽霊
(折句「ハナミズキ」短歌)
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卒業ロケット

2019-04-26 02:21:08 | 夢追い
「あなたの話をわかる人。それが理解者というものです。もしもあなたの話を聞いて何も理解を示さない、あるいはまるで耳を貸さないというなら、その人はあなたに向いていないのです。それは善し悪しとはまるで関係がなく……」
 ほとんどの者は、先生の話をまるで聞いていない。さっきから、先生の話は、ずっと同じところをさまよっていて、発展性が感じられない。まるでただ時間をつぶしているかのように眠気を誘う。半数近くの生徒は眠っているのかもしれない。

「もしもあなたの話に耳を傾けて、時折相槌を打ったり、少なからず関心を寄せている。そういう人は、あなたの理解者である。あるいは、あなたのよき理解者になる素質を備えている。その人はあなたに向いているのです。例えば風なら、あなたの方に吹いているのです」
 先生が背中を向けた瞬間、僕は教室のドアを潜り抜けた。誰も気づかない。
「理解者は、あなたの話をわかるだろう……」
 

 罰走のように校庭を走った。
 眠りに落ちないためには、そうするしかないのだ。与えれた罰よりも強く働きかけるのは、自身からの指令。無慈悲な理解者たちが空虚な場所で空回りしている間に、僕はここで出口を見つけるために、走り続けなければならない。時折、振り返って、誰かがついてきていないことを確かめる。僕を先頭に偶然の授業が始まってしまうことは避けなければ。これはただ一人の、自分を高見へと押し上げるための疾走だ。まだ、誰にも見つかってない。この円周は、自分だけの滑走路となるだろう。
 その先に何がある? 
 安易に先へ先へと思考するようでは、まだ、僕はちっぽけな教室の中から抜け出せていない。
 あと何周? 違うんだ。カウントすることに、意味はない。
 

 後をついてくるものは、自身からくる不安に過ぎない。
(不安は生きたお友達)
 僕のポケットはちっぽけだ
 僕の逃避はちっぽけだ
 僕の体はちっぽけだ
 僕の足跡はちっぽけだ
 僕の夢はちっぽけだ
 僕のすみかはちっぽけだ
 僕の未来はちっぽけだ
 僕の寝息はちっぽけだ
 僕の不安はちっぽけだ
 僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の
(不安は絶望とは違うよ)
 

 照りつける不安から逃れて、木陰に入った。
 風を受けて、僕と同じ歳の木は静かに何かを語り始めていたけれど、理解者になれない。
 頭上の枝の一つから、音もなく葉が落ちる。
 手を差し出して、受け止めようと思った瞬間、もう一枚の葉が落ちる。葉が、二枚。僕の体は反応を止めた。一枚なら、全力を尽くして受け止めることができた。(自信があった。受け止めることが好きだった)
 その瞬間、僕はもう歩み寄ることをやめた。
 ただ、舞い落ちる様を見送ることを選んだ。
(もう、何もしなくていいんだ)
 あきらめる道を開いてくれたのは、風。
 

 風のように戻ると自分がいた机には鬼が着いていて、自分の席はなくなっていた。少し離れた間に、理解を超えた時が流れていたのだ。
「助走は楽しんだか?」
「今、戻りました」
「今、戻りました?」
 先生は馬鹿みたいに繰り返した。
「だが、もうここにおまえの場所はない」
「どうしてですか?」
「おまえはここにいてもいいんだぞ」
「では、新しい席を作ってください」
「だが、おまえはここだけにいてはならん!」
「でも、僕は一人だけです」
「だから自分で選ばねばならん。おまえだけの居場所を、今。
校門の前に、ロケットを待たせてある」
「どこに行けばいいんですか?」
「行けばわかるさ。さあ、そこまで送ろう」
 生徒はみんなロボットとなり、熱心にノートを取っていた。

 学校を出ると美しい馬が待っていた。
「ロケット。いい子にしてたな」
 僕は馬上の人。乗馬教室で習った通りに、ロケットを操って町を出た。
 

「言葉にすればほんの一行だ。だがそれは宇宙の果てまで続いていく。そんな一行を見たことがあるかね?」
「いいえ。僕が見たことがあるのは、飛行機雲だけです」
「そうかね。だったら、それはまた先の話だね」
「ここはどこなんですか?」
「私の名前は疑問惑星さ」
「あなたは話せるんですね?」
「私の中で疑問を失うことはできないからね。どこへでも、好きに行くがいいよ」
「僕に選べるんでしょうか?」
「選んでいくしかないだろう」
「どうしてですか?」
「それだよ。その心を、忘れないようにすることさ」
 
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雨と太陽

2019-04-26 01:26:05 | 短歌/折句/あいうえお作文
雨粒がぽつり帽子に落ちたとも推測される信号は青
 
 
雨風が強まる中に出て行った君の野心は尽きぬ太陽
 
 
回答を寄せた頃には雨風が強まり街は僕を打ち消す
 
 
雨雲に僕が与えた一瞬の名前を君は覚えておいて
 
 
水を知り水を得る手を知る人がみずともなれる水を得た魚
 
 
七色のため息を持つ傷心の君が吐き出す明日への虹


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シングル・スクール

2019-04-26 00:41:22 | 自分探しの迷子
 
 教えなければならないことが私の持ち時間を遙かに超えてしまったから。私に教えることは何もなくなった。そう言い残して先生は教室から出て行こうとしている。先生は逃げるんですね。僕たちを置いて。今までのことはどうしてくれるのです。何もなかったというのに何を教えていたのです。僕は逃げ出していく先生の肩にぶつかって先生を止めた。ファールだと窓にくっついていた虫が騒いだけれど、主審はファールを取らなかった。先生そうはいきませんよ。もしも行くなら僕も一緒です。先生のいない教室はただの部屋、公園、大通り……。私はいずれにせよ、この場所に残る以外のことを考えることはしなかった。与えられた時間を与えられた場所で過ごすこと。
 
 それ以外に私たちが学んだことはなかったのだから。動こうとしても動くことができないのです。教えることがなくなったとしても、私たちには学ぶべきことが残されている。先生が逃げ出すしかなかった理由について、私たちは最初に学び始めることができます。まさにそこに先生という存在がいないからこそ、より長くより深く、それぞれの想像を働かせて、そこにぽっかりと空いた空間のことをじっと考えることができるのです。俺は先生を追いはしない。俺にとっては元からそこに存在していないからだ。俺は先生の声を信じない。
 
 俺は人間の声を信じない。俺は主人公の声を、二次元の声を信じない。元をたどればそこにはいつも人間がいる。ふっ、人間じゃねえか。信じられないな。俺と同じ生き物なんて。俺は鳥の歌声を信じる。俺には理解できない歌だ。だから、疑う余地もない。いったいここにいる人々は何を待っておるのかのう。わしはラーメン・コールを待ちながら、ふとそんなことを考えておったもんじゃ。今そこにある雨はほんの序の口。本降りと言える強い雨は、この先に控えておる。それなのにここにおる人々は何をのんびりと構えておるのじゃろうか。おぬしはそれについてどう考えておるのかの。
 
のーよ。
 
 ふん、聞く耳持たずか。まあ、それもよかろう。何でも聞いておったらろくなことにならんからの。まったく油断ならん世の中よの。雨はどんどん強くなるぞ。おぬしもそうかの。「どうせ教え切れないのだから」それが立ち去る理由だと言うのですか。「そうともさ」だって、教えなくても同じことでしょう。
 
「だったらどうして教えないのですか」
 
 僕は先生のあとを追って教室を飛び出した。逃げていく自分を僕は追いかける。追いかけずにいる自分。居座る自分、不動の自分、居残る自分、動かぬ自分、微動だにしない自分、岩のような自分、銅像のような自分……。「現実から逃げるんですか」いいえ。逆よね。先生が去ったあとの教室には、今までで最も難しい授業が残された。独りの僕と、無数に見え隠れする自分たちが、戸惑いながらも逃避の先にある新しい現実と向き合おうとしていた。
 
 
 
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アイ・ラブ・ユー

2019-04-25 04:06:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
長編を虚空にはなすバーガーの月が今夜はとてもきれいだ
(折句「チョコバット」短歌)
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お出かけマインド

2019-04-24 04:17:59 | 短歌/折句/あいうえお作文
「さあ出かけるぞ」
「出かけるっていったいどこへ?」
「とにかくお出かけだ」
「そんな無茶な」
「無茶でも何でもない」
「行先も決めずに出かけるなんて!」
「ほんのそこまでだ」
「そんなので大丈夫?」
「大丈夫に決まってる」
「危険よ。危険すぎる」
「慎重になりすぎるのも危険だ」
「少しは決めてからでないと」
「ここではないどこかだ」
「それでは広すぎる」
「歩きながら考えるんだ!」
「私たちはそんなに器用なの?」
「そんなに難しいことじゃない」
「そんなにも簡単?」
「難しくない」
「道を外れてからでは遅いのよ!」
「そんなに遠くまで行くわけじゃない」
「何も決まっていないのに?」
「少し風に当たるだけだよ」
「じゃあ何か羽織が必要ね」
「ああ。行こう。ふらっと出かけよう」
「ふらっとね」
「そうさ」
「すぐに帰るのね」
「そのために出かけるのさ」
 
 
カップスター
外出楽し
ミシュランの
123を
凌ぐ夜桜
 
折句「鏡石」短歌
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幽体離脱

2019-04-24 01:55:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
離れればいい湯だったと思う頃「またね」は遠く澄んだふるさと
(折句「バイオマス」短歌)
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秘密クラブ

2019-04-24 00:04:07 | 夢追い

「ああ、腹いっぱいだ」

「ちょっとあんた、今何と?」

 おいおい、みんな、ちょっと聞いてくれ。ちょっと来てくれ。

「腹一杯食う奴なんて信用できるかよ」

 そうだ、そうだ。危険人物だ。追い出しちゃえ。とっとと追い出しちまおうぜ。追い出さないと、こちらが危うくなっちまうよ。

「全人格を否定しなくては!」

 全人格を否定されては、どうして平気でいることができるだろう。新しい町の始まりは、いつも孤立と共にある。友達なんて、簡単に見つかるはずもない。

 頼りになるのは、自分の歩いてきた道程だけだった。幾度の苦い失敗から学び取ったことを寄せ集めるのだ。

 

 

「足跡帳を持ってきている人はいますか?」

 誰も答えない。何を馬鹿なことを聞くかという空気が漂っている。

「そんなものは必要ありませんよ」

 念を押すように先生は言い、両手を机の上で結んだ。頑固な拳が、老いた鬼の面のように見えた。

 足跡帳を教科書で覆い隠すようにして、僕は密かに引き出しに隠した。全人格を否定されるのはまっぴらだ。ベルが鳴る。みんなは引き出しからジェットニンジンを取り出す。どちらの扉にも向かわない。次々と窓から飛び立っていく。明日からは春休みだった。

 

 

 夕暮れになると噂の通り人々はカードを持って集まってくる。門が開き、次々と人が呑み込まれていく様を、石の上に座って眺めていた。少し離れた所には、まだ動こうとしない男が石の上に座っていたが、胸にはゴールドカードがぶら下がっているのが見えた。やはり、噂は本当だったのだ。秘密の会員制唐揚げ屋さんの存在を、この日僕はついに突き止めることに成功した。

「どうぞ」

 店の中から着物姿の女が出てくるとゴールドの男に向かって声をかけた。

「今日はまだ……」

 男はもう少し後にするというようなことを言った。隠語めいた細かいやりとりがあって、素人の僕にはよく理解できなかった。親密な様子からしてかなりの常連に違いない。

「他にはいませんか? 選べますよ」

 僕の方に向かって言っているように聞こえた。引き込まれるように、門を潜ると見たこともないような唐揚げが並んでいた。

 

「これは……」

 やはり聞いたことのない名前。

「これを。いくらですか?」

「1万8千円」

(高い!)思わず声に出そうになった。

「…8千円以下だから、80円です」

 今度は急に値が下がったので驚いた。

「食べたことのない味です」

 他に感想が思い浮かばなかった。まずいということはなく美味いといえば美味い。けれども、毎日のように通うかというと微妙なところだった。もう一度来るだろうかと考えれば、いつか来ることもあるだろう。結論を出すには、一口食べただけでは、まだ早過ぎる。

 広々とした店の中には食べ物を扱っているという気配はまるでなく、大きな窓から入り込んだ夕日が照らしているのは種々様々な色形をした陶器の類だった。少し見た限りでは、値札のついたものは見当たらない。

(ここは何なんですか?)

 興味を直接的にぶつけていいものかどうか、迷っていた。

(何がメインなんですか?)

 夕日の色合いを身につけた陶器はみな優しげで、どこかおじいさんの家に遊びに来たみたいだった。

(どこで作っているんですか?)

 肉の消えた串を手に持ったまま、まだ陶器には触れなかった。

 

 

 

 

 

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恐ろしく他人

2019-04-23 03:07:51 | 短歌/折句/あいうえお作文
鬼めいた
猛スピードで
敵を抜く
謎めいたツー
シャドーの男
 
「おもてなし」
 
 
ありふれた
人生と肩
触れ合って
ラーメンを食う
一夜もあった
 
「アジフライ」
 
 
海老となり
駒をさばいた
真夜中の
二人の会話
他言は無用
 
「エゴマ豚」
 
 
汗ばんだ
記憶にぬっと
踏み入れた
ために打たれる
一時の雨
 
「秋舞台」
 
 
 
恐ろしく他人(折句)
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遠い雨傘

2019-04-23 02:21:02 | 夢追い

 

 大きな傘を買った。

 誰でも入っておいで。

 

 雨に困った通行人が訪れて苦しい一時期を他人の傘の下で凌いだ。大きな傘には困った人たちを受け入れる十分な大きさがあった。どこからでも入ることができる、自由で寛容な傘だった。強まるばかりの雨の中を、傘を持たない顔見知りが挨拶一つで訪れて、僅かに気まずい一時期を大きな傘の下で過ごした。しばらく顔を見ていなかった友人が、傘の大きさにいつの間にか含まれて立っていた。

「やあ、久しぶり」

「ああ、ほんと久しぶりの雨だね」

「よかったね。大きな傘を買えるようになったんだね」

「ありがとう。それほどでもないよ」

 本当にそんな風に思っているのか。久しぶりに会ったのだから、余計な波風は立てない方がいい。それが江戸仕草というものかどうかは知らないが、小さな傘を携えた人とそれ違う時、僕は傘を大胆に高く持ち上げた。それは傘下にいる人や猫たちを守る管理者責任のようなものだ。

 

「あそこから、地下に下りますので」

「では、また。お元気で」

「あなたも」

 雨はまだまだ降り止まない。みんなはそれぞれ帰るところを告げて去っていった。

 誰でも入っておいで。

 どこからでも入ることのできる、開かれた傘を持っていた。入り口はあらゆる方向に開かれていた。君は少し離れた場所から、こちらを見つめている。

 

(どうして入ればいいの)

 あらゆる扉が開かれているというのに、君は足を踏み入れようとしないばかりが、近寄ることさえためらっている。どうして、君はそんなに離れて立っているのか。今度は、君の番だった。最初から、君の居場所は、この傘の中に含まれている。最初に作ったのは君の居場所の方だった。その上に大きな傘を買ったのかもしれなかった。

「誰でも入っておいで」

 その中に君が入っていないことはあり得ないことだった。君だけが入っていないことなど、間違っていることだった。

(どこから入ればいいと言うの?)

 ただ真っ直ぐこちらに向かってくればいいじゃないか。どうして、そんなに簡単なことが、君にはわからないのだ。君だけに理解できないというのだ。

 君は相変わらず、少し離れた場所からこちらを見つめている。あるいは、ただ眺めているだけだったのだろうか。長い雨の中を。

 

 

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チャーハンの時代

2019-04-22 23:27:09 | 好きなことばかり
 
 チャーハン屋はあってもラーメン屋はない。そういう時代だ。チャーハンを作りたくて旅に出る若者はいても、ラーメンを心に抱き道を行く者はいない。もはやラーメンは忘れられてしまった。何かの例えの中では下の方に置かれる。あるいは鼻で笑われるような存在だ。一方でチャーハンは光をあびて輝いている。すべての若者の憧れであり、誰からも愛されて、求められる存在だ。私はラーメン屋。ずっと昔ながらのラーメン屋だ。
 今夜はカウンターに一人の紳士を迎えられたことに感謝している。文句の一つも言わず麺を啜る姿を見ていると、目頭が熱くなるのだ。
「ごめんなさいね。ラーメンしかなくて」
「そんなことないですよ」
「よかったら替え玉でもしていってください」
「ありがとう。でも、ちょっと約束があって……」
 無理に引き止めることはできない。紳士はスープまですっかり飲み干してくれた。
「ごちそうさま。美味しかった」
 その言葉にうそはないようだ。こういうことがあるから私はまだラーメン屋を続けているのかもしれない。まだまだ捨てたもんじゃない。そう思わせてくれる、そんな夜もある。
「いらっしゃい」
 暖簾が派手に揺れて、いかにも酔っぱらった二人がガラガラと扉を開けた。
「チャーハンあるか?」
「ごめんなさい。うちはラーメンだけで……」
 急に男の顔が険しくなるのがわかる。
「はあ?」
 不条理な事態に直面した時に表れる怒りが、顔中に浮き出ている。それ以上、前進することはなかった。
「二度と来るか!」
 捨て台詞と共に扉は閉まった。よい夢は一夜に一度でいい。
 
 
 
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