「あれっ? これは目の錯覚でなければ、挑戦者の駒台の上にシュークリームが置かれているように見えますが、先生あれは」
「錯覚ではございません。おっしゃる通りです」
「駒台にシュークリーム。ということは、いよいよ手段が尽きたということになるのでしょうか?」
「それもないわけではないですが、全くその逆もあり得ますね」
「逆ですか? 手段があふれているのでしょうか」
「解説しますと、棋士あるあるになるのですが。ついつい読みに夢中になるあまり、他のことを忘れてしまうことがありまして。現状では、食べている途中でシュークリームの存在を忘れた可能性がありますね」
「そんなことがあるのでしょうか? 私などは何があっても絶対に忘れない自信がありますが」
「局面の切迫度から言って、十分あり得る話です」
「それだけ難解な局面ということなのですね」
「そういうわけです」
「今、記録の少年が指をさして指摘したようです」
「いい記録係ですね」
「なかなか横から言いにくいところを、勇気を持って指摘するのは偉いですね」
「シュークリームもかたくなってしまいますから」
「せっかく美味しそうなシュークリームですものね」
「そういうことです」
「この後も、引き続き名人戦生中継をお楽しみください」