折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

街のすみか

2019-12-31 21:49:00 | 忘れものがかり
曲がり角には
街に一つのファミリーレストランがある

ファミリーレストランのそばには大きな木がある
木の下には茂みがある
茂みの中には猫のすみかがある
茂みの脇には小皿がある
小皿の上には
時々猫のごはんがある
街の誰かが時々それを持ってくる

猫はこの街の猫である

信号を渡る時
私は時々すれ違う

すみかにしゃがむ人の影と
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創作寿司

2019-12-30 02:04:00 | 自分探しの迷子
 寿司職人になりたくて僕は日々修行の中にいた。ティッシュをシャリに見立てて握る。わさびに見立てた消し屑を入れて、ネタに見立てた付箋を乗っけて。「へいお待ち!」イカだよ。タコだよ。ハマチだよ。「へいお待ち!」僕は休む間もなく握り続ける。寿司職人は忙しいんだ。「へいお待ち!」寿司職人になるために、私は厳しい修行の中に立っていたのです。シャリに見立てたティッシュを握り、消し屑のわさびを程良く挟み付箋のネタを乗っけます。「へいお待ち!」イカだよ。タコだよ。ハマチじゃなくて、カンパチだよ。「へいお待ち!」店全体を見渡して、私は次の注文に耳を澄まします。どこからでもかかってきなさい! 私の寿司は真剣勝負なのでした。「へいお待ち!」

 寿司職人から逆算して俺は今ティッシュを握っている。だんだんと手についてきた。もはやシャリにしか思えない。師匠はいない。だが、多くを見て回ってきた。上から被せる師匠は俺を壊すだろう。俺は俺のやり方を見つけた。この消し屑は俺のわさび。この付箋は俺の自慢のネタだ。「へいお待ち!」イカだよ。タコだよ。ハマチだよ。「へいお待ち!」イカだよ。タコだよ。ハマチだよ。「へいお待ち! 何か他握りやしょうか?」お茶ですかい。あいよー! お茶入りやす! 付箋の数だけネタの数はある。いやそれ以上だ。付箋は何にでも化ける。そいつは俺の見立てによるのだから。「へいお待ち! 何か握りやしょうか?」俺は客を放置はしない。馬のように目を光らせ、兎のように耳を立てている。微かな注文の気配を受けて、俺の手はもう動き出している。

 寿司職人になりたくて僕はティッシュの箱を山積みにした。「へいらっしゃい! 何しやしょう?」何が来ても驚かない。何が来ても断らない。なければ創り出せばいい。客のがっかりした顔を見たくないから、リクエストにノーはない。「へいお待ち! イカです」手さばきは夏よりも流星よりも速く客の心を根こそぎ持って行きたい。握っても握ってもまだまだ修行に終わりは見えてこない。馴染んだようで馴染んでいない。もっと技術の高い職人に比べれば、私の寿司職人としてのレベルはまだ序の口のように思えるのでした。もっともっと握らなければ、もっともっと積み重ねなければ、私の到達すべきところは一流の寿司職人なのだから。「へいお待ち! 次いきやしょうか?」どん欲な胃袋を私は求めている。厳しいリクエストを私は待ち望んでいる。修練だけが私を高みへと導いてくれるのです。「へいお待ち! ハマチです」何度握っても同じ精度で、いつ握っても最高の形で、目の前にいる者が誰であれ心から満足を覚えてくれるように、また来たいという余韻を持ち帰ってくれるように、今はまだ駆け出しの私は一時も手を抜くことなんてできないのです。

「へいらっしゃい! らっしゃい、らっしゃい、へいらっしゃい!」俺はフローリングのように目を光らせて客の数をカウントする。「へいらっしゃい! 7名様、カウンターへどうぞ!」次々と入る注文を俺は慣れたさばきで片づける。一切の無駄を省く。その動きは武芸にも通じるものがある。俺は客を一切待たせない。猫よりもクジラよりも速く俺は動く。積み重なったティッシュの箱が次々と空になる。無限仕様の付箋が花火のように消えていく。「へいお待ち! イカ、タコ、ハマチです」「へいお待ち! ハマチ、ハマチ、ハマチ、ハマチ、ハマチ、ハマチ!」舌の上でとろけるような食感に、皆が驚きの声を上げている。「ありがたーす」まだまだこんなもんじゃない。俺の目指すところは遙かに高い。一流の寿司職人。その道程はそう柔じゃない。

「へいお待ち! どうしましょう」少し利かせすぎてしまったかな。鼻の上にわさびが突き抜けるようだと客が訴えている。「へへへ。熱いお茶をどうぞ」寿司職人はただ握っていればいいのではない。客の気持ちを測ることも大事だと僕は思う。「へいお待ち! イカですかい?」私の一握りが客の口に運ばれて儚く消えていく。その刹那に浮かぶ客の表情を私は注意深く観察しています。そこに私の現在地が見えています。「へいお待ち! カンパチです」




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スーパー・イヤホン

2019-12-29 11:24:00 | ナノライト
耳のうわさに
新しいイヤホンが刺さる

新しいイヤホンは
耳にやさしいという
新しいイヤホンは
音をよく拾うという

新しいイヤホンは
雨に強い
親身になって悩みを聞く
隠れてカレーを煮込む
朝夕犬を散歩させる

新しいイヤホンは
ジョークを飛ばす

発売は新春のいつか
価格はオープンという
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クリスマス・パーティー(ロング・ステイ)

2019-12-28 12:10:00 | 【創作note】
盆と正月が同時にきた
それではまだ生ぬるい
(クリスマスがやってきたのだ!)
行列が渦を巻きカオスと化している

僕は館からアウトしたコーヒーを手に
ケンタッキーの横を通り過ぎた

上階へ進むと
別世界のフードコート
渡り鳥のように人々が広がっている

pomeraを開くと
3日前に打った読点をさらし
詩がはにかんでいた

さて、何だったかな……

コーヒーはほんの少し
のどを潤すくらい
すぐにカップをはなす

少しの経験を宝物のようにして
生き延びるのだ

周辺視野に入る人々の仕草が
凝り固まった詩に風穴をあける

まだまだ

僕はここにいるぞ
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ユア・ターン

2019-12-27 11:49:58 | ワンゴール

「サッカーの醍醐味を君たちは知っているのか?」

「ゴールを決めることでしょう?」

「ここのゴールには鍵がかかっているのか?」

「何を馬鹿な」

「まるで無数の鍵がかかっているみたいじゃないか」

「そんなはずはありませんよ。ゴールは金庫じゃないんです」

「だったら何だね?」

「いったいゴールはどこにあるんです?」

「何だと?」

「みんな本当にわかっているんですか?」

「問題はもっと深刻だったようだな」

「さっきまでは、遙か先に微かに見えていたんですが」

「なるほど」

「今では影さえも見えなくなってしまいました」

「それではシュートはとんでもない方向に飛んでいくはずだ」

「僕はシュートを打ちましたか?」

「君は少し疲れているようだな」

「そうでしょうか」

「少し休め。そこでいいから少し横になっていろ」

「ここでいいんですか?」

「そう。そこでいい」

「おかしくないでしょうか? 突然すぎて」

「疲れた時には、休むのが自然だ」

「ですが、不真面目にすぎないでしょうか?」

「真面目もすぎると自らを傷つけてしまう」

「だけど、自分だけが……。本当にいいんでしょうか?」

「あまり考えすぎるな。時には何も考えるな」

「……」

「誰も君を責めはしない」

「すぐに笛が吹かれます」

「どうだろうか」

「あるいは誰かがボールを外に出すでしょう。異変に気がついて、みんな僕のところへ集まって来るでしょう」

「まあしばらく様子をみるとしよう」

「僕がこうしている間にも、どこかで数的不利が発生してしまう」

「それはどこででも起こり得ることだ」

「僕のせいで致命的な結果が生まれてしまうかもしれません」

「そんなにチームのことが心配かね?」

「勿論です。他に心配することがないほどです」

「チーム愛かね?」

「僕はいつでもチームの中心でありたいと願っていたんです」

「君がいなくても、何事もなくゲームは続いているようだ」

「そんなはずがありません。何かよくないことが起きているのでは……」

「とても静かに進んでいる」

「そんな」

「君が思うほどに、君一人の影響は少なかったようだな」

「そんなはずはありません。みんなが頑張っているんです。僕がいない分を、他のみんなが一人一人必死になって頑張ってくれているからです」

「どうだね。みんなが動いている間に自分だけがくつろいでいる気分は」

「何か奇妙な感じです。ここにいながら、ここにいないような……」

「芝生の状態はどうだね?」

「最高です。最高のベッドです」

「そうか。それはよかった」

「ただ心の底からくつろげる気分にはなりません」

「申し分のないベッドなのに」

「何か自分だけ置いていかれたような気分です」

「笛の音は聞こえたかね?」

「いいえ。大地の鼓動が聞こえます」

「大地の?」

「戦いの鼓動です」

「そうだ。大地は語り部だ。戦いの歴史を知っている」

「はい。僕はずっとここに立つ日を夢見ていたのです」

「多くの者が描く夢だな」

「はい」

「ほとんどの者はそれを描き切ることはできない」

「まだベンチにも入れない頃、そこに入ることは大きな目標でした」

「現実的な目標を定めるのは悪いことではない」

「初めてそこに到達した時、僕はベンチを温め続けることしかできませんでした」

「誰かがそれをしなければ、ベンチは空っぽになってしまうからな」

「僕は目標を誤っていたのではと思いました。目指していた場所に行って失望だけを持ち帰ったのだから」

「本当のゴールが見えている者は希だ」

「ずっと山を登っているつもりで来ました」

「人はみんな登山家だとも言える」

「そこが頂上だと思ってたどり着いたら、思ってもいないものを見た気がします」

「遠くから見る風景は、いつもどこか現実とは離れているものだ」

「はい。実際にそうでした」

「何が見えたのかね?」

「月の大地を踏んでいるようでした」

「地上とは違っていたというわけだな」

「そこから見える景色は、想像していたものとはまるで違っていました。今までの自分ではもういられないほどに」

「景色は人を変えるものだな」

「僕はもっと遠くを見ておくべきでした。もっと早くに」

「遅くはないんじゃないかな? 遠くを見ることに遅いということはないんじゃないかな」

「自分に足りないものをたくさん知りました」

「完全な選手なんて一人もいないさ」

「得意であったものにさえ、自信を失いかけました」

「一度失ってみるのもいい。そこで見つけられるものが本当に必要なものだ」

「でももう一度帰って来ると誓いました。そして、今度はベンチだけを温めるのではなく……」

「何を温めるのかね?」

「温めるのではなく、あつくするのです」

「もう、地球は十分にあついのではないかね」

「監督。それは皮肉ですか?」

「私が皮肉を言わない監督に見えるかね?」

「わかりません。人は見かけ通りとは限りません」

「その通りだ」

「熱狂させるんです。このスタジアム全体を!」

「そうか。それで今の君はどうだね?」

「ああ、僕はいったい何をしているんだ?」

「もう、十分休んだだろう」

「こんなところで何をしていたんだ。僕としたことが」

「いつまで寝ているのだ。さあ、早く立ち上がれ!」

「教えてください。どうして僕はこんなところで寝ているんです?」

「何かを失ったからだ。大切にしていた何かを失い疲れて倒れ込んだ」

「大切な何かを?」

「私がなぜ君を代えなかったかわかるかね」

「わかりません。まるでわかりません」

「待っていたのだよ」

「まるでわかりません。こんな選手を待つなんて、監督は監督に向いていないんじゃないでしょうか」

「強い愛は強すぎるが故に離れてしまうことがある」

「それはトラップを誤るようなものですか?」

「トラップを誤ってボールは足下から離れていってしまう」

「はい。トラップは一番大事だったのに」

「だが、思いが強く残っていれば、それは再び引き寄せられて戻って来る」

「運がよければ……」

「愛はいずれ戻ってくるのだ。消えたようでもな」

「愛……」

「それが私が待っていたことの理由だ」

「これからどこを目指せばいいのでしょうか?」

「最初にあったところだ」

「もう、みんな僕のことを忘れてしまったのでは?」

「覚悟を決めるのだ。そして覚悟ができたら立ち上がれ」

「どんな覚悟を決めればいいのやら」

「繰り返すことだ」

「繰り返す……」

「失敗と挫折を繰り返す」

「まだ失敗を重ねなければならないんですか?」

「失敗と挫折、パスとゴー……。子供たちが君を見ているぞ」

「僕を?」

「君が登った山。君が見た幻想、君が見た夢。今では君が、人々に見せる番なのだ」

「僕が?」

「君がここで動き回る。その仕草の一つ一つすべてが新しい風景となって誰かの夢を育むことになるだろう」

「僕にそんな力があったとは……」

「驚くのはまだ早いぞ! 覚悟ができたら立ち上がれ!」

「僕はここで繰り返す。失敗と挫折とドリブルとシュートと……」

「そうだ。これから君のすることは、小さくて大きなことだ」

「小さくて大きなこと……」

「これから君の生むゴールは、瞬間の歓喜や目先の勝利だけのためではない」

「僕は僕のゴールで勝ちたい」

「君は記憶の種を蒔くのだ」

「はい。僕の番だから」

「そうとも。それは眠っていてはできないぞ」

「ここで生きる。繰り返し、繰り返し、ここで生きていく」

「そうだ。生きていくのだ」

「記憶の種を、僕が蒔く!」

「そうだ。君ならそれができる!」

「僕はここで生きていきます!」

「さあ、覚悟ができたら顔を上げよ!」

 

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生者のミッション

2019-12-27 04:52:00 | 忘れものがかり
磨かなきゃ……
寝る前に磨かなきゃ
自らに言い聞かせながら
ずるずると
布団の上に伸びている

(もう少し、もう少し)
遅延を繰り返す内に
現在から離れていく
列車に揺られて
僕は緑を見ていた
どこまで行っても緑だ
トンネルを抜けて
かえってくる緑
またトンネル
そして玄関に着いた

「あんた帰ったの」
母が台所に立っていた

「いつ行くの?」
「すぐ」
ご飯を食べたら
もう行かなくちゃ
(起きている内にやることがあるんだ)

「そう。忙しそうね」
「まあね」
道草食ってる暇なんてない

「おにぎりでいい?」
いいに決まっている
だけど妙だな

さっき食べたような気がするんだよ
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感想マッチ

2019-12-26 10:53:00 | 忘れものがかり
向き合って座ったまま
声1つなく
意志と意志がぶつかり合う
2人は動じないまま
1時間が過ぎる

「ビーフストロガノフ」
「カレーうどん」

短くささやいて
沈黙にかえる

あっ、そっかー
ひえー
時々口から漏れる
それは会話とは程遠い


「負けました」
(少し無理でしたか……)
敗者は7筋辺りを指して
勝者と初めて視線を交わした

2人はふりだしに戻って
今日1日の感想を述べ合う
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夢も思い出

2019-12-25 03:23:40 | 夢追い
 一つ手前の駅で降りた。ふらふらと家とは反対の方へ僕は歩き始めた。見知らぬ街の方へ行きたくなった。見知らぬ街を欲する自分が時々目覚める。駅から少し行くと細い道に出た。空が低い。学生たちが横一列になって歩く。もう雨は上がったようだ。僕は傘を閉じた。物憂い表情をした女が風船を配っている。こちらの方まで手が伸びてきそうなので、少し膨らみながら通り過ぎた。タブレットを手にサラリーマン川柳を募る男たち。
「お兄さん。一ついかがですか」そんなにパッと浮かぶものだろうか。
 
 街頭インタビューに立つ犬。
「パパの好きなとこを教えて」
 なかなか答える者がいないようだ。犬が嫌いなのかパパが嫌いなのか、避けて通る人が続いた。その時、水色のランドセルを背負った女の子が駆け寄ってきた。
「まあかわいい!」ぎゅっと犬を抱きしめながら言った。
「大好き! パパと同じくらい!」
 
 見知らぬ街は時を忘れさせる。自分を空っぽにしてくれる。無になって歩く内に歩いていることも忘れている。どこを見てもカフェは人でいっぱいだ。
ああなんかもう疲れたねひとり旅。
 硝子に顔を寄せた拍子に店の旗が倒れてきた。立てようと何度試しても立たない。旗を持ってもがいていると若者が近づいてきた。
「出発は何時ですか」
 
 
 
 ちゃんと眠れない時、デタラメな夢を見る。散らかりっぱなしの部屋がもっと散らかるような夢。その中ではハラハラしたり迷ったり誤ったりする。現実と同じように感情も揺れる。目覚めた時には、遠くへ旅して帰ってきたような気分になる。特に筋書きがあるわけでもなく、夢の中で何かを成し遂げたわけでもないけど、どこか清々しい余韻のようなものが残っている。断片的な風景が消えない内に、枕元でメモを取る。ささやかだけど、思い出を大切にしたい。
 
 
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ホーム&ユー

2019-12-24 23:09:00 | 自分探しの迷子
「本日ライブのため貸し切り」

 ようやくたどり着いた時にはもう閉店時間が迫っていた。入店してすぐに帰り支度をしなければならない。ついてないな。僕が外出を始めたのは自分のホームを広げていくためだった。決済をして次の場所へ向かう。グーグルの情報は既に尽きていた。商店街の入り口に近いところの明るく奥行きのある喫茶店に入った。分煙はされておらず、ずっともくもくとしていた。場所がいいのか回転は早かった。仕事帰りの会社の集まりのような人が賑やかに入ってきた。U字型のカウンターの隅にかけて物を書いた。

 目の前に置かれた造花の向こうから女の吸う煙草の煙が漂ってくる。冷房が利きすぎていないことが救いだった。物を書く内に私は時の経つのを忘れていました。気がつくとすっかりと人の気配がなくなっていました。お店の人が床にモップを走らせている様子が見えました。「もう終わりですか」そんな……。私は残ったコーヒーを一気に飲み込まなければなりませんでした。歩き出すと急にお腹が空いてきた。僕が消えている間に脳内で激しい運動が行われたのかもしれない。僕は次の街へと向かう。

 僕が外出の味を覚えたのは家の落ち着きを知ってからだ。自分の家が最も落ち着く。落ち着きが最大化するのは家に帰ってきた瞬間だ。居続けるとその内に息苦しくなるから不思議だ。その時はまた外出を試みねばならない。俺は外へと向かって歩きながらホームを広げていった。隣の街まで行けば自分の街はホームになった。その先に行けば、既に行った街もホームになった。俺が外へと向かえば向かうほど、その内側は俺のホームになる。

 俺は歩きながら自分のホームを広げていく。俺の本当のホームには部屋が一つばかりあるだけだ。だが俺のホームは狭くはない。俺のホームはいくらでも広がり続けるばかりだ。そうしてたどり着いたかどっこのうどん屋は昼しかやっていないとかで、またもう一つある父ちゃんのうどん屋の方は、もう麺が尽きてしまったとかで、空腹を満たす機会は私から逃げて行くばかりでした。閉鎖しました。移転のお知らせ。閉店のお知らせ。ここも駄目。ここも違う。望むような場所はすべて私に微笑みを返さないようになっていました。今日は最初のカフェからしてそうだったし、こういう一日というのは、何から何までが裏目に出るものだけど、いつもいつも行き当たりバッタリだからこうなる運命なのかもしれません。

 もう広げることには心底疲れました。たった一つのあなたを僕は求めていた。そうすればもう何も迷うこともない。あなたはいつも無数のあなたと一緒になっていて本当のあなたを見分けることは難しかった。「あなた?」あなたは何も答えてくれない。きっと違うのだろう。僕は本当のホーム(あなた)にたどり着くために歩き続けている。いつもいつも歩き続けて探し回っている。きっとそのためにあなたを見つけることができないのだろう。誰よりあなたをわかっていないのは僕かもしれない。

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未来を指しながら

2019-12-24 04:08:00 | 自分探しの迷子
 テーブルの上に寝そべったまま僕は誰かが僕を動かしてくれるのを待っていた。
 その手に導かれて僕はどこへ向かうのだろう。まだ僕の知らない未来。ここにいる長い時間のことを思えば、どこへでもいいと思うだろう。理想もないとこだとしても、その瞬間は、離れていくという事実が何よりも最初の救いになるだろう。
 僕に触れて導いていくものの存在。君はいつやってくるのだろう。
 僕には君が必要だ。そして私はいくつものテーブルの間を縫って、ついに私という存在を見つけ出すあなたが現れる瞬間を心待ちにしながら、今という退屈な時間をただ待つという行為に捧げているのでした。他に方法があるのなら、例えば自ら声を上げてあなたに私という存在を知らせることができたなら。あるいは、他のものに頼んでそのヒントの端くれのようなものでも、どこかにそっと置くことができたなら。
 できるものなら、私は迷うことなくそうすることでしょう。僕は小屋から抜け出すことを知らない犬のようなものだ。わしはコントロールされて駆けることを覚えすぎた馬のようなものじゃ。

ヒヒーン! ヒヒヒヒーン! そうわしの声はそのように単純に訳することもできるのじゃ。じゃがな、もし、わしが馬であったとして。俺はペン。ずっと俺はここにいる。ここに忘れられたままだ。いったい誰が? それを問うたとこで何になる。
 ともかく俺は待つしかない。
 待つしかない存在。それが俺だ。だが、俺は自分のことを疑ってはいない。そいつは必ずやってくるだろう。
 俺はここに存在する。お前はどこかで俺を探している。俺を探してさまよっている。動かなくても俺には見える。俺は動かない。お前はあきらめない。だから、俺にはわかっている。出会うことは必然だ。俺は未来を指している。あっしはヒヒーンの使い。ずっと一つの未来を指しながら、僕はここで君が訪れるのを待っている。忘れられた哀れな存在などではない。僕はここに静止した状態で長い助走を取っているのだと思う。
 ここに流れている時間は、きっとそういう時間だ。
 僕には君が必要だ。君にとっても同じだろう。

 どこまでもどこまでも進むことができる。それが君と僕の先にある未来なのだから。誰かが私の存在に気づいて近づいてくるけれど、その目は長い間探し続けたものをついに発見した人の目ではなく、ただ何となくそれを見てしまった者の目なのでした。見たいものを見つめるのではなく、他に何も見あたらないからという理由で、気もなく向いているような目。
 その時、私は寒気さえも感じ、実際テーブルの上で音を立てて震え始めていたのでした。

「君じゃない!」僕が待っていたのは君じゃない! 
来ないでくれ! 向こうに行ってくれ! 
どうか見つけないでくれ! 
「触れないでくれ!」僕をどこにもつれてかないで。
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何も書きたくない

2019-12-23 23:27:00 | 【創作note】
書くことは怖い

自分の中の「原形」を
壊していくのかもしれない
書けばどんどん離れていくのかもしれない

大事にしてあったものを
表すことはできず
思い知るのは自分の中の拙さだ

「書く」ことは「失う」ことになる

書きたかったものと
書かれたものとの隔たりを
受け入れることはできるだろうか

書き出していく「決意」は
何も書かないことへの「不安」が
満ちるまでやってこない
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不親切読書案内

2019-12-22 23:09:00 | 【創作note】
 主人公は人間じゃない。人称は彼女だった。誰のものでもなかったので、彼女には名前がなかった。彼女の住む森には名前があった。彼女は絶滅危惧種のように儚い存在らしかった。人間からは遠い存在だったがどこか他人に思えないところがあった。彼女は最初、誰とも一緒にいなかった。年齢について触れられていたが数字は出てこなかった。彼女の色を海との距離や月の夜に降る何かに喩えて語られた。人とは違う時が流れている様子だった。彼女の瞳について語られた。彼女の動作について何かの影に喩えて語られた。喩えがよく出てくるお話だった。彼女はよく何かと間違えられるらしい。それは、何だったっけ……。
 物語のはじまり方が特に好きだった。はじまりから繰り返し読んだ。適当なページを開いて読んでみることもあった。読むほどにどんどん好きになっていった。好きであるために何が起きてもその世界のことを疑うことができなかった。あまりに入り込むために、向こうの方が現実の世界でむしろこちら側こそが架空の世界ではと思えることさえあった。人がおかしな世界に入る時は、このような感じなのかもしれない。
 どうせなら誰も傷つかずにだまされるのがよいと思う。どうせなら、人をしあわせにする方にだましたいと思う。



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ロスト・ワールド

2019-12-21 14:18:00 | 【創作note】
長い眠りの間に
すっかり置いていかれた
ここはどこ?
僕は誰だ?
どれだけ見つめれば思い出せるのか

長いものに巻かれすぎて
すっかり見失っていた
これは何?
note?
pomera?

言葉が随分散らかっているが
詩?
はてな

どれだけ見知らぬ街を歩けば
自分のところへ帰れるだろう

何をすべき?

何が大事だった?

昨日生まれたにしては
あまりにも独りだけど
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ニュー・レコード

2019-12-20 02:18:00 | 忘れものがかり
ライオンは
柵の向こう
行ったり来たり
落ち着かない

(早くみんな帰らないかな)
愚か者たちの好奇の目
薄い関心はまっぴらだ

ライオンは
深い溝の向こう
行ったり戻ったり
落ち着かない

(日が暮れればいいのに)
野次馬たちのひそひそ話
上から浴びせるエールはうんざりだ

(早くあの子が来ないかな)
あの子のことだけ待ちわびながら
行ったり来たり

ライオンの歩いた距離は
ボローニャのトミーを超えた
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推定迷子

2019-12-19 23:37:00 | ナノライト
自動ドアが開いて猫が入ってきた
白とオレンジの細い猫だった
まっすぐこちらをみた

屋敷の奥まで入られては一大事だ

即刻退場を命じる
普通の言い方では通じない
猫の嫌いなあらゆる言葉を投げつけた
威圧的な擬声語をあびせかけた

猫はこちらの存在を
あまり気にかけていない様子だった

上がり框を越えてくることもなかった
しばらく様子をみて
猫なりに納得して帰っていった

見慣れぬ猫だった

きっと迷子だ
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