「玩具はみんな飽きたな」
「まあ、じゃあ何がいいかな」
「魔法使い」
「そうね。もっと素敵なものがあったわ」
「えーっ。何?」
「あとのお楽しみね」
チャカチャンチャンチャン♪
「何これ、食パン?」
「食べ物じゃない」
「だよね」
「こうやって開くの」
「わーっ! 鳥みたい」
「こうして閉じたり開いたりできるの」
「えーっ、飛べるの?」
「風が吹くとほらパタパタ音がする」
「面白いね。飛べるの?」
「想像の翼を借りればね」
チャカチャンチャンチャン♪
「紙の本?」
「そうよ」
「何これ? スイッチはどこ? どこで充電するの?
どうやって見るの?」
「ほれほれ、いっぺんに訊かないの」
「えっ、何これ? 紙の本」
「紙の本よ」
チャカチャンチャンチャン♪
「スイッチは?」
「ついてないのよ。いらないの」
「えーっ、どうなってるの?」
「紙と紙がね、こうやってくっついてるのよ」
「えーっ!」
「それでこうやって見るとほら字が書いてある」
「あっ! ほんとだ!」
「こうやってパラパラすると次のページに行けるの」
「えっ? 指でひっかけるんだ」
「そう、やれば簡単よ」
チャカチャンチャンチャン♪
「電池入ってないの?」
「充電も電池もいらないの」
「本当?」
「これだけで読めるのよ」
「すごい! バッテリーが切れたりしないんだね」
「そうよ。触れてごらん」
「わーっ。みんな紙でできてる!」
チャカチャンチャンチャン♪
「1枚1枚めくるのよ」
「わーっ。面白い! めくった分だけ読めるんだ!」
「そうよ。好きなだけ読めるの」
「でも、途中でやめる時はどうすればいいの?」
「いい疑問ね」
「ここまで読んだよ。でも閉じたら忘れちゃう」
「この栞を挟むのよ。ページとページ間に」
「えーっ! 紙に紙を挟むんだ!」
「そうよ。それが栞よ」
チャカチャンチャンチャン♪
「すごい! 続きが読めるね!」
「栞は待ち合わせ場所に挟む目印よ」
「へー、そうなんだ」
「栞を抜き取るとそこから物語が動き始めるの」
「栞がない時はどうなるの?」
「代わりにハンカチでも挟むといいわ」
「ハンカチ?」
「その時にある物を挟めばいいのよ」
「じゃあ鉛筆は?」
「鉛筆も挟めるわ」
「じゃあじゃあ物差しは?」
「勿論挟めるわ」
「じゃあじゃあチョコレートは?」
「ええええ」
チャカチャンチャンチャン♪
「何でも挟める?」
「だいたいの物ならね」
「壊れない?」
「簡単には壊れないわ」
「ずっとずっと?」
チャカチャンチャンチャン♪
「だんだんと色が変わって行くわ」
「どうして変わるの?」
「そうね。風や光や虫や雨によってよ」
「自然に変わるの?」
「ドーナツやチョコレートによっても変わるわ」
「へー、気をつけなくちゃ」
「時にあなたの涙もね」
「水に弱いの?」
「そうよ。ハンカチを用意して読みなさい」
チャカチャンチャンチャン♪
「ありがとう。おばあさん」
「ええ、大事にね」
「明日から読んでみるよ」