〇中之島香雪美術館 特別展・朝日新聞創刊140周年記念『明恵の夢と高山寺』(2019年3月21日〜5月6日)
週末旅行で大阪・奈良・京都・滋賀の美術館・博物館を1つずつ回ってきた。本当は、3月末に彦根とMIHOミュージアム訪問が実現していれば、この週末は奈良博プラス日吉大社山王祭の予定だったのだが、社会人の年度末は、なかなか思うようにはいかない。それでも1泊2日で、いま一番見たいものは全て見てきた。
本展は、鎌倉時代の高僧・明恵上人(1173-1232)に迫る特別展。なぜ同館が明恵上人を?と少し不思議に思ったが、1つには、同館が所蔵する村山龍平コレクションにも「夢記」の一部が含まれているのだそうだ。また、明恵ゆかりの高山寺が所蔵する国宝『鳥獣戯画』全4巻は、近年、朝日新聞文化財団の助成で大がかりな修理が施されたことから、本展の開催となったようだ。しかし、展覧会の焦点はあくまで「明恵上人」で、あまり『鳥獣戯画』を売りに出していないので、同作品が見られることは、あまり認知されていないのではないかと思う。
会場に入ると、いつもと少し場内ルートが違っていて、『鳥獣戯画』を展示するための別室が設けられている。細長い空間で、まず右側の壁に同作品全体図の複製写真が掲げられている。それを眺めながら折り返すと、左側の壁に沿って長い展示ケースが続き、甲巻の後半(ウサギ、カエル、サル、キツネ、烏帽子ネコ。仏像になりすますカエルと袈裟を着たサルなど)と乙巻(リアルだけど表情が人間くさい動物たち)が開いていた。順序よく見ようというお客さんが多くて、甲巻に到達するまで15分ほど並んだが、乙巻の前はガラガラに空いていたので、好きなだけ独り占め状態で見ることができた。いや~乙巻好きなので嬉しい。冒頭のニワトリの目つきが鋭くて、ちょっと家光描くニワトリに似ている。
『鳥獣戯画』は、東博や京博の展覧会では2時間待ちとも3時間待ちとも言われたお宝。こんなふうにそっと見せてくれるのはとても嬉しい。なお、甲巻・乙巻は4/14までで、4/16から丙巻・丁巻に展示替えとなる。
さて明恵上人に関する展示品の所蔵者に気を付けていると、京都・高山寺は当然として、大阪・久米田寺、和歌山・施無畏寺など、知らない寺院の名前がいくつかあった。明恵さんが紀伊国の生まれで、平氏であることを知って驚く。驚きながら、あれ?どこかで聞いたような?と思ったのは、2017年の和歌山県立博物館の企画展『西行と明恵』を、気になりながら見逃したのだ。明恵上人は、父は平重国(伊勢平氏の家人で、高倉上皇の武者所に伺候)、母は紀伊国の有力者であった湯浅宗重四女で、20代の頃は紀伊国内を転々として修行と学問の生活を送ったという。
天竺へ渡って仏跡を巡礼しようとしたが、春日明神の神託によって断念した、という説明を読み、『春日権現験記絵』を思い出して微笑んでしまった。展示には香雪美術館所蔵の『春日鹿曼荼羅』や『春日社寺曼荼羅』あり。それから奈良・東大寺の『華厳海会善知識曼荼羅』も面白かった。明恵さんは、文殊菩薩に導かれ、真理探究の旅をする善財童子に我が身を重ねていたのだな。訪ね歩く善知識には、遊女や「夜の女神tあだ」たちなど、女性が多い気がする。あと船子(船頭?)もいた。
高山寺の木造『神鹿(2躯)』『馬』も来ていた。『子犬』がいないなあ、と思ったら最後の部屋にいた。古なじみのわんこなので、山深い高山寺を訪ねて会うのも趣き深いが、こういう展示会場で会うのも嬉しいものだ。『将軍塚絵巻』が見られたのも儲けもの。村山コレクションには、この江戸時代の摸本があり、後期は摸本の展示にあるようだ。
『夢記』は諸本が展示されており、特に毘盧舎那像を見て、その姿を絵に描き止めているのは興味深かった。手練れたスケッチである。ただ、もっと面白い夢はいくつもあるはずで、せっかくこのタイトルの展覧会にしたのなら、もう少し夢の紹介が欲しかった。