見もの・読みもの日記

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2021年7月@関西:高野山の名宝(霊宝館)

2021-07-26 20:38:32 | 行ったもの(美術館・見仏)

高野山霊宝館 開館100周年記念大宝蔵展『高野山の名宝』(第2期:2021年6月8日~8月1日)

 大正10年(1921)に開館した高野山霊宝館が100周年を迎えることを記念して、同館では今年4月から11月まで、4期にわたる名宝展が開催されている。

 四連休初日の朝早く、空席の多い新幹線で大阪へ。南海線に乗り継いで高野山入りする。宿坊(清浄心院)に荷物を置き、定食屋で昼食を済ませて、霊宝館に入った。受付のあと、床に書かれた矢印に従って展示室に向かいながら、なんとなく違和感。いつもは新館→本館の順なのに、今回だけ(?)逆ルートなのだ。

 いつも最後にたどりつく放光閣に、今回は最初に入る。ここの展示はあまり変えないのかな、と思ったが、前回訪問時の記録(2018年10月)に近代作の狩場明神像があったと書いているから、少し変わっているようだ。正面には釈迦と阿弥陀を脇侍にした大日如来坐像。高室院の小さな薬師如来坐像(重文)は優美さに惹かれる。親王院の兜跋毘沙門天立像はあまり異国風でなく、表情もポーズも穏やかな印象。地天女が静かに足元を支えている。金剛峯寺の四天王像はずんぐりして生気にあふれ、可愛い。特に軽く腰をひねった広目天が好き。

 次の展示室には、見慣れない小型の木製五輪塔が多数、写真パネルも含めて多角的に紹介されていた。2019年4月に高野山圓通寺(円通寺)で見つかったもので、江戸時代後期、全国を遊行した高野聖が死者の供養のために奉納した「八万四千宝塔」と見られている。その数、1万数千基とのこと。木塔の底部には奉納者(?)の人名が墨書されており、チヨ、カメなどの女性名、〇左衛門、〇助などの男性名、さらに明善、知玄など「名乗」らしきものもあり、最近読んだ本『氏名の誕生』を思い出して興味深かった。

※参考:小型の木製五輪塔1万数千基見つかる 高野山圓通寺(産経WEST 2019/7/1)

 次室(回廊)には、霊宝館の開館と歴史に関する資料を展示。霊宝館は、政財界人有志の寄付で建設されたのか。初めて知った!『霊宝館一宇寄進状』には発起人総代8名として、益田孝、根津嘉一郎、馬越恭平、村井吉兵衛、原富太郎、朝吹常吉、野崎広太、高橋義雄が名前を連ねる。百年前の財界人は偉かったんだなあ。折しも東京オリンピックで、日本のハイカルチャーが壊滅寸前であることを思い知らされたので身に沁みる。それから高野山の年表パネルにも見入ってしまった。直近の百年に限っても大小の火災が繰り返し起きており、台風や水害も多い。いま平安時代の仏像や仏画が残されていることが、いかに尊い僥倖かを感じて粛然となった。

※参考:高野山文化財年表(霊宝館)(詳しい!)

 本館最後の紫雲殿には絵画を展示。中央のスペースには、有志八幡講『五大力菩薩像』の金剛吼・竜王吼・無畏十力吼の3幅を展示(2幅は明治21年の火災で焼失)。左右の竜王吼・無畏十力吼は手足を振り上げて威嚇のポーズ。しかし正面に座って、目と口をカッと開いた金剛吼がいちばん怖い。黒い肌と瞼の裏、唇、舌の赤の対比が突き刺さるようだ。優美な花のかたちの瓔珞を胸に下げているのも、かえって怖い(大好きなので褒めている)。

 これで本館を一周し、渡り廊下を伝って新館へ。エントランスでは弘法大師(結縁大師)と写真が撮れるようになっていて和む。

 第1室は、いつもの阿弥陀如来坐像と不動明王立像、その並びの壇上に執金剛神立像と深沙大将立像、これと正対するのが四天王立像、一番奥で参観者を見下ろしているのが孔雀明王像。完全に「快慶ワールド」のコーナーになっている。と思ったら「シン・快慶 霊宝館版:愛」というパネルあり。誰だよ、このコーナータイトル考えたのは。しかし孔雀明王は美しいなあ。やっぱりこの見上げる角度がよい。あと照明のせいか、金色と温かみのある小豆色の映え具合がとてもよい。

 第2室は「シン・運慶 霊宝館版:命」と名付けて、八大童子立像を展示。第1室からすでに見えていたのだが、びっくりするような大胆な演出を施している。部屋全体が青い照明と緑色にまたたく星明りで覆われ、深い海の底、あるいは宇宙空間に迷い込んだようなイメージ。正面の低い壇上には不動明王坐像の左右に阿耨達童子(龍に乗る)と指徳童子。背景の効果で、虚空に浮かんでいるような阿耨達童子がとても魅力的。残りの六童子は、それぞれ単独のケースに収まり、壁を背に、ぐるりと展示室を囲む。不動明王の正面の壁の上方には、白い円光に梵字が浮かび、音響効果として微かに声明と法螺貝の音が流れる。

 やがて夜明けを迎えるように、青い照明が展示室の下のほうから少しずつ消えていき、高い天井に残った星明りもついには消えてしまった(梵字だけは残る)。この瞬間に展示室に入ってきた人たちは、普通の展示だと思ってひとまわりして出ていく。私は、もう一回星空が見たくて粘っていたが、なかなか始まらない。10分くらい待って、ようやく二度目を見ることができた。これは4期までずっと行われているのであれば、ぜひ見逃さないでほしいパフォーマンス。

 第3室は『聾瞽指帰』(上巻は原本、下巻は複製)など。弘法大師が霊地選定のため、唐から投げた金銅三鈷杵(飛行三鈷杵)がそれらしくて面白かった。


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