大阪東洋陶磁美術館の汝窯水仙盆を見たあと、ただちに京都に向かったら、空間がねじれているかのような天気の違い…。コートの雪を払いながら、京都国立博物館の平成知新館に入る。
■平成知新館2F-1~2 新春特集陳列『とりづくし-干支を愛でる-』(2016年12月13日~2017年1月15日)
3階は閉室中のため、展示は1、2階のみ。新春特集の「干支づくし」展示は、東博ではもう12年以上の歴史を持つが、京博では昨年始まったばかり。干支が一周するまで、当分楽しめそうだ。冒頭は斉白石の『大鶏小鶏図』。東博も斉白石の『雛鶏図』と『菊群鶏図』を出していたので、おや偶然?と思った。ほほえましいヒヨコとニワトリに和む。宋紫石の『牡丹双鶏図』は、記憶にない珍しいもの。白色レグホンみたいな鶏の夫婦が描かれている。華やかで楽しい『百鳥文様打掛』は、かつて特別展観『百獣の楽園』で見たことがある。
雪舟の『四季花鳥図屏風』(京博所蔵)は、東京にいるとなかなか見る機会のないもので、こんな特集陳列で見てよいのかと驚いた。ぼんやり眺めているうち、右隻の身を反り返らせた松(細い枝先が画面の中央あたりに空から垂れている)と、左隻の左上から斜めに降下し、また上に向かうとする白梅のかたちが、光琳の『紅白梅図屏風』によく似ていることに気づいた。この絵は何度か見ているはずなのに、突然感じたことなので記しておく。
京狩野六代目・狩野永敬の『四季花鳥図屏風』は、ちょっと狩野派と思えない。沈南蘋の影響を受けているとかで若冲にも似ている。長山孔寅という画家の『群鶏図屏風』も若冲もどきで、これは注文に応じて、意識的に斗米翁(若冲)を模倣したことが書き付けられている。そして仕切りの壁をまわると、次室から若冲特集である。
■平成知新館2F-3~5 特集陳列『生誕300年 伊藤若冲』(2016年12月13日~2017年1月15日)
全28点という小規模展示(うち京博所蔵7点)だが、セレクションが素晴らしい。『墨竹図』とか『筍図』とか墨画の小品からして「私の見たかった若冲」にドンピシャ嵌る。『四季花鳥図押絵貼屏風』は、『芸術新潮』2016年5月号の特集「若冲・水墨ニューウェイヴ」で、学芸員の副士雄也さんが紹介していた作品。雑誌には小さな写真しか載っていなくて、よく分からん!とフラストレーションを感じたのだが、ついに実物を見ることができた。なるほど技量は未熟だ。顔だけ白くて体が真黒なニワトリとか何あれ。でも画面に顔を近づけて、墨の黒さ、筆さばきのスピードを味わうと「力技ともいうべき大胆さ」「ほとばしる情熱・エネルギー」が、だんだん愛おしくなってくる。この特集展示の担当は福士さんであったか、と気づく。
このエネルギッシュな作品が40代半ば。50代の作品は『隠元豆双鶏図』など、温和で抑制された表現が見られる。若冲らしい面白味に欠けるので、あまり注目されてこなかったが、70代の軽妙洒脱な画風に移行していく重要な過渡期と考えられている。少ない作品数で、若冲の変化と進化がよく分かる展示構成である。
人物画、山水画にも目配りが行き届いている。近年、見出された『六歌仙図押絵貼屏風』は初公開。しかし、幾何学図形のように簡略化されたフォルムの六歌仙が、ニワトリに見えてならない。特に小町。思わず笑ってしまう『蝦蟇河豚相撲図』は大好き。着色画は少なめだったが、初公開の『大根に鶏図』は晩年の作で、工芸品のような美しいニワトリなのに、無心に大根の葉をつまむ姿がリアルで面白かった。
11メートルを超える画巻『乗興舟』は完全公開。漆黒の空、淡墨の川、その中間の墨色の山、という三色の帯が、それぞれ太くなったり細くなったりしながら続いていく姿に、気持ちよいリズムがある。出発点が伏水(伏見)口で、最後は霞に浮かぶ天満橋なのだが、漢文には「虹橋」という文字が見えて、やっぱり清明上河図を意識しているのかなと思った。羅漢さんのユートピアを描いたような『石峰寺図』も、なかなか見られないもの。『石燈籠図屏風』『百犬図』(※これは寄託品)『果蔬涅槃図』は「京博の若冲」を語る上で外せないもので、ちゃんと出してくれて嬉しかった。
昨年は主な若冲展を全て見てまわったけど、「京都国立博物館だより」に書かれていた「若冲は別腹」に、すごく共感してしまった。そして、若冲イヤー2016年の掉尾を飾る素晴らしい展覧会を開催してくれた京博には感謝の言葉しかない。最終日に駆け込みだったので、雪で臨時閉館したらどうしようと気を揉んだけれど、見ることができて本当によかった。
■平成知新館1F-2,3,5 特集陳列『皇室の御寺 泉涌寺』(2016年12月13日~2017年2月5日)
1階は、一部の展示室を使って本展を開催。京都市東山区の泉涌寺は、平安時代の草創と伝えるが、実質的な開基は鎌倉時代の俊芿(しゅんじょう)法師で、入宋して多くの文物を持ち帰り、宋風の伽藍を目指した。彫刻は、塔頭・来迎院の三宝荒神坐像(四臂、秘仏)、楊貴妃観音と呼ばれる観音菩薩坐像、筋骨たくましい五体の護法神立像、宋や高麗の仏画に多い逆手の阿弥陀如来立像、いかにも宋風で人間的な月蓋長者像など、個性的なものが多くて見飽きない。その他、頂相、書画、工芸など豊富で面白かったが、出品リストしかないのは寂しい。せめてリーフレットくらい欲しかった。
■平成知新館2F-1~2 新春特集陳列『とりづくし-干支を愛でる-』(2016年12月13日~2017年1月15日)
3階は閉室中のため、展示は1、2階のみ。新春特集の「干支づくし」展示は、東博ではもう12年以上の歴史を持つが、京博では昨年始まったばかり。干支が一周するまで、当分楽しめそうだ。冒頭は斉白石の『大鶏小鶏図』。東博も斉白石の『雛鶏図』と『菊群鶏図』を出していたので、おや偶然?と思った。ほほえましいヒヨコとニワトリに和む。宋紫石の『牡丹双鶏図』は、記憶にない珍しいもの。白色レグホンみたいな鶏の夫婦が描かれている。華やかで楽しい『百鳥文様打掛』は、かつて特別展観『百獣の楽園』で見たことがある。
雪舟の『四季花鳥図屏風』(京博所蔵)は、東京にいるとなかなか見る機会のないもので、こんな特集陳列で見てよいのかと驚いた。ぼんやり眺めているうち、右隻の身を反り返らせた松(細い枝先が画面の中央あたりに空から垂れている)と、左隻の左上から斜めに降下し、また上に向かうとする白梅のかたちが、光琳の『紅白梅図屏風』によく似ていることに気づいた。この絵は何度か見ているはずなのに、突然感じたことなので記しておく。
京狩野六代目・狩野永敬の『四季花鳥図屏風』は、ちょっと狩野派と思えない。沈南蘋の影響を受けているとかで若冲にも似ている。長山孔寅という画家の『群鶏図屏風』も若冲もどきで、これは注文に応じて、意識的に斗米翁(若冲)を模倣したことが書き付けられている。そして仕切りの壁をまわると、次室から若冲特集である。
■平成知新館2F-3~5 特集陳列『生誕300年 伊藤若冲』(2016年12月13日~2017年1月15日)
全28点という小規模展示(うち京博所蔵7点)だが、セレクションが素晴らしい。『墨竹図』とか『筍図』とか墨画の小品からして「私の見たかった若冲」にドンピシャ嵌る。『四季花鳥図押絵貼屏風』は、『芸術新潮』2016年5月号の特集「若冲・水墨ニューウェイヴ」で、学芸員の副士雄也さんが紹介していた作品。雑誌には小さな写真しか載っていなくて、よく分からん!とフラストレーションを感じたのだが、ついに実物を見ることができた。なるほど技量は未熟だ。顔だけ白くて体が真黒なニワトリとか何あれ。でも画面に顔を近づけて、墨の黒さ、筆さばきのスピードを味わうと「力技ともいうべき大胆さ」「ほとばしる情熱・エネルギー」が、だんだん愛おしくなってくる。この特集展示の担当は福士さんであったか、と気づく。
このエネルギッシュな作品が40代半ば。50代の作品は『隠元豆双鶏図』など、温和で抑制された表現が見られる。若冲らしい面白味に欠けるので、あまり注目されてこなかったが、70代の軽妙洒脱な画風に移行していく重要な過渡期と考えられている。少ない作品数で、若冲の変化と進化がよく分かる展示構成である。
人物画、山水画にも目配りが行き届いている。近年、見出された『六歌仙図押絵貼屏風』は初公開。しかし、幾何学図形のように簡略化されたフォルムの六歌仙が、ニワトリに見えてならない。特に小町。思わず笑ってしまう『蝦蟇河豚相撲図』は大好き。着色画は少なめだったが、初公開の『大根に鶏図』は晩年の作で、工芸品のような美しいニワトリなのに、無心に大根の葉をつまむ姿がリアルで面白かった。
11メートルを超える画巻『乗興舟』は完全公開。漆黒の空、淡墨の川、その中間の墨色の山、という三色の帯が、それぞれ太くなったり細くなったりしながら続いていく姿に、気持ちよいリズムがある。出発点が伏水(伏見)口で、最後は霞に浮かぶ天満橋なのだが、漢文には「虹橋」という文字が見えて、やっぱり清明上河図を意識しているのかなと思った。羅漢さんのユートピアを描いたような『石峰寺図』も、なかなか見られないもの。『石燈籠図屏風』『百犬図』(※これは寄託品)『果蔬涅槃図』は「京博の若冲」を語る上で外せないもので、ちゃんと出してくれて嬉しかった。
昨年は主な若冲展を全て見てまわったけど、「京都国立博物館だより」に書かれていた「若冲は別腹」に、すごく共感してしまった。そして、若冲イヤー2016年の掉尾を飾る素晴らしい展覧会を開催してくれた京博には感謝の言葉しかない。最終日に駆け込みだったので、雪で臨時閉館したらどうしようと気を揉んだけれど、見ることができて本当によかった。
■平成知新館1F-2,3,5 特集陳列『皇室の御寺 泉涌寺』(2016年12月13日~2017年2月5日)
1階は、一部の展示室を使って本展を開催。京都市東山区の泉涌寺は、平安時代の草創と伝えるが、実質的な開基は鎌倉時代の俊芿(しゅんじょう)法師で、入宋して多くの文物を持ち帰り、宋風の伽藍を目指した。彫刻は、塔頭・来迎院の三宝荒神坐像(四臂、秘仏)、楊貴妃観音と呼ばれる観音菩薩坐像、筋骨たくましい五体の護法神立像、宋や高麗の仏画に多い逆手の阿弥陀如来立像、いかにも宋風で人間的な月蓋長者像など、個性的なものが多くて見飽きない。その他、頂相、書画、工芸など豊富で面白かったが、出品リストしかないのは寂しい。せめてリーフレットくらい欲しかった。