見もの・読みもの日記

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今年も300歳/雑誌・芸術新潮「若冲・水墨ニューウェイヴ」

2016-05-20 00:50:20 | 読んだもの(書籍)
○雑誌『芸術新潮』2016年5月号「若冲・水墨ニューウェイヴ」 新潮社 2016.5

 表紙では一直線に急降下する叭々鳥が「今年も300歳だぜぇ、ハッハー」とつぶやいている。「今年も」ってなんだよ、「も」って。誤植じゃないのか?と思ったら、1716年生まれの伊藤若冲は、昨年、数えで三百歳。今年は満で三百歳なのだそうだ。そういえば、昨年は『象と鯨図屏風』の白象が「三百歳だゾウ」と言っていた。二年にわたって祝福されるのは、今や若冲が日本美術史きっての人気者である証しである。

 昨年の「生誕300年大特集」は『動植綵絵』の部分拡大図など、ページをめくると色彩の乱舞につぐ乱舞だった。今年は水墨画にフォーカスする。うれしい。私は若冲を好きになって約30年、はじめは『動植綵絵』みたいな彩色画ばかり追いかけていたが、じわじわと水墨画に目覚めてきた。筆の運びがはっきり分かって、作者の心の動きまで、分かるような気がするのだ。

 本誌では、京都国立博物館研究員の副士雄也さん(若いなあ~)が「革新者(イノベーター)若冲の軌跡」を解説。宝暦9年(1759)制作の鹿苑寺大書院の障壁画は、ふだんパーツで見ることが多いのだが、全体の配置・構成の妙について解説があって、興味深く読んだ。ちょうど本誌で『竹図』を見たあとに、京博の『禅』展でホンモノを見ることができた。

 2009年『伊藤若冲 アナザーワールド』展の開催直前に、新たに見つかった作品がある。宝暦9年(1759)作の『四季花鳥図押絵貼屏風』。小さな図版が載っているが、正直、あまり魅力的な作品ではない。黒々した墨が目立って、強引な感じ。副士さんは「それまで中国や朝鮮の古画に倣ったやや硬い感じの水墨画を描いていた若冲が、どうしてこのような異なるタイプの絵を描いたのでしょう」と疑問を呈し、「そこにはおそらく鶴亭という画家の影響があります」と答えを見つけ出す。なるほど、神戸市立博物館の『我が名は鶴亭』を見て来た上で、この箇所を読み返すと、さらに感慨深い。

 最先端の鶴亭スタイルを学ぶにあたり、最初は力みの目立った若冲だが、わずか1年の間に筆の勢いや滲みをコントロールする力を身につけ、鶴亭風をたちまち脱して自分のスタイルに変換してしまう。すごい~。そして、副士さんいわく、要するに若冲とひとくちに言っても、滅茶苦茶上手いものもあれば、まだ発展途上のものもあるということ。そうなんだなあ。ときどき、若冲の落款があっても、どう見ても工房作や贋作だろ、という作品を見るのだが、今後は、そうした「下手」な作品も愛情を持ってじっくり眺めてみよう。

 個人的に衝撃情報だったのは、若冲には、升目描きの『釈迦十六羅漢図屏風』という作品があるということ。四曲一双?いや八曲なのか? 右端に獅子、左端に白象がいる。府立大阪博物館の所蔵で、その後、行方不明になったそうで、1933年の『名家秘蔵品展覧会図録 御幸記念』から小さなセピア色の写真が転載されている。戦争で焼けていないといいんだけどなあ。いつか、どこからか出てこないかなあ。画家・諏訪敦さんが「筋目描き」に挑んだルポも面白かった。さすがプロ!初挑戦でもここまで出来るものか。墨(和墨、唐墨)や紙の選択が重要ということもよく分かった。

 「水墨画」つながりで、山下裕二さんは「奇想四人衆、龍虎くらべ」。若冲・蕭白・応挙・蘆雪を「龍」と「虎」の図で比較する。若冲の『竹虎図』(鹿苑寺)、あらためてアップで見ると、もふもふ(むしろツルツル)した毛が気持ちよさそうで、誌面に頬ずりしたくなる。

 それから金子信久さんが「若冲だけじゃないんです かわいい江戸の水墨画」で登場。風外本高の『虎図』とか三浦樗良の『双鹿図』とか、好きな作品ばかりでうれしいが、徳川家光の『兎図』は反則だと思う(上様の超越)。執筆者の似顔絵を描いている二宮由希子さんのイラストもかわいい(→たぶんこのウェブサイトの方)。

 東京都美術館の『生誕300年記念 若冲展』は、ものすごいことになっているらしい。すごすぎて、法螺話みたいで笑っている。後期の再訪はあきらめて、このあと細見美術館、岡田美術館、京都市美術館、京都国立美術館などの若冲展を粛々と巡礼する予定。
※参考:京都市情報「伊藤若冲関連の取組」

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