見もの・読みもの日記

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おうこくさんに出会う/木島櫻谷(泉屋博古館東京)

2023-07-05 22:04:56 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 特別展『木島櫻谷-山水夢中』(2023年6月3日~7月23日)

  近年再評価がすすむ日本画家・木島櫻谷(このしま おうこく、1877-1938)の多彩な山水画を展観する。あわせて写生帖や収蔵品の古典絵画や水石も紹介し、櫻谷の根底にあり続けた心の風景を探る。

 私が櫻谷の名前を覚えたのは、この10年くらいの間だと思う。京都方面への旅行の計画があって、イベント情報をチェックすると、櫻谷に関する展覧会を見かけることがあった。いま調べたら、京都の泉屋博古館では、2013年、2017年、2021年にも櫻谷の展覧会を開催している。しかし、特に興味がなかったので、一度も見に行ったことはなかった。今回も、正直なところ、あまり期待はしていなかったのだが、行ってみたら、なかなか良かった。

 入館すると、いつもはガランとしたエントランスホールに大きな仮設の展示ケースが備え付けてあった。上から覗き込むタイプの平たいケースで、櫻谷が明治~大正時代に描き続けた、膨大な写生帖などが展示されていたが、後回しにして、展示室の作品から見ていく。第1室は、墨画や淡彩による伝統的な山水図が中心。6曲1双の大きな山水図屏風が4件(たぶん)並んでいて、本物の山水に包まれたような、ゆったりした気持ちで鑑賞することができた。

 第2室はエントランスホールの裏側の狭いスペースだが、本展の見ものが揃う。私が見たとき(前期)は『寒月』『駅路之春(うまやじのはる)』『天高く山粧う』の着色の6曲1双屏風3件。いずれも大正年間の作品である。『寒月』は竹林(常緑の広葉樹が少し混じる)の雪原をトボトボと歩き行く一匹のキツネ。灰緑色の空には低く上弦の月が掛かっている。白と深緑を基調にした色彩には、洋画の影響が感じられる。

 『駅路之春』は明るく華やかな色彩で描かれた楽しい作品。街道筋の茶店なのだろう、右隻には腹掛けをした二頭の馬。その横でこちらに背を向けて地面に腰を下ろしているのは駕籠かきだろうか。奥に空の籠も見える。茶店の縁台には、老若男女さまざまな人々が休んでいて、朱色の羽織(男性)や扇文様の華やかな振袖も見える。しかし人々の顔は笠や幔幕に隠されてあまりよく分からない。手前の木々は柳と桜だろう。桜の花は見えないが、細かい花びらが舞っている。この2作品で、私はすっかり櫻谷さんのファンになってしまった。

 第3室は大正から昭和、晩年の多様な作品を集める。山水画だけでなく、大きな画板(?)を立てかけて、創作に励む老境の自画像もあって、微笑ましかった。人物画や動物画ももっと見たくなった。それから、京都の旧家の主人である大橋松次郎宛ての絵葉書帖が出ていた。これは2020年に京都文化博物館の展示でも見たものだった。

 最後にエントランスホールに戻って多数の写生帖を眺める。いすれも櫻谷文庫所蔵。櫻谷文庫は、櫻谷の旧居、遺作品、法帖、書画、典籍、当時の生活道具類等を整備・保存・公開等することを目的とする公益財団法人である。こうやって遺品全般が適切に管理されているのは、非常に幸せな例だと思う。写生帖には、友人たちの似顔絵もあり、京都洛北や富士山、濃尾飛騨、耶馬渓などへの写生旅行の記録もある(この時代の人たちは耶馬渓が好きだなあ)。櫻谷は京都府商業学校予科に通ったが、簿記や数学に興味が持てず、唯一楽しんだのが図画だった。教員の平清水亮太郎は、京都府画学校で田村宗立に西洋絵画を学んだ画家だったという。よかったねえ、いい教員に会えて。と思って、ちょっと調べたら、平清水は、画家としては特別な仕事を残さなかったが、同じく商業学校で安井曽太郎(1888-1955)のことも教えていた。縁というのは面白い。


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