見もの・読みもの日記

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明清絵画の名品を一気に見る/典雅と奇想(泉屋博古館分館) 

2017-12-07 21:14:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館分館 特別展『典雅と奇想-明末清初の中国名画展』(2017年11月3日~12月10日)

 京都の泉屋博古館には何度も行っている。特に中国絵画コレクションは大好きだ。私が明清絵画の魅力に目覚めたのは、泉屋博古館のおかげと言っても過言ではない、東京・六本木の分館で中国名画展があると聞いて、ああ、あのコレクションがくるのだな、くらいに思っていた。ところが、行ってみたら、東博、京博、大阪市立美術館などの名品が出陳されており、初めて見る個人蔵作品も多くてびっくりした。「特別展」の看板は伊達じゃない。

 そのことに気づいたのは、冒頭の徐渭筆『花卉雑画巻』である。展示箇所は、厚く茂った葉の間に垂れ下がる葡萄の房を、湿潤な水墨で瀟洒に描く。不思議なのは、この作者、この題名の画巻を泉屋博古館で見ているはずなのに、絵柄に全く記憶がなかった。見ると東京国立博物館所蔵とある。そして、徐渭筆『花卉雑画巻』がもう1件あって、こちらは泉屋博古館の所蔵だった。実は、日本には2件の徐渭の画巻が伝来しているのだそうだ。東博の作品は、2008~2009年頃に「中国書画精華」で展示されたようだが、覚えていない。見ていないかもしれない…。

 そしていわゆる「明末奇想家」の作品が次々に登場する。董其昌『山水(書画合壁)図冊』(東博)、趙左『竹院逢僧図』(大阪市美)など、予想していなかった作品に出会って驚く。抽象画のような奇石を描いた米万鐘『柱石図』(根津美術館)もあまり見たことがない。米万鐘『寒林訪客図』(橋本コレクション)も、自然の風景にはとても見えない異様な山水。でも淡々と道を行く小さな人物が描かれている。呉彬の『渓山絶塵図』(橋本コレクション)も大好きな作品。あやしい生命力を感じる、SF的な造形の山水で、やっぱり小さな四阿に人の姿が描かれているのが面白い。張瑞図の『山水書画巻』は金箋に墨色が美しい。峻険な岩山に家や橋が添えられているが、人の姿は見えない。

 次に「都市と地方」と題し、浙派(職業画人)と呉派(文人)の対比を念頭におきながら、蘇州を拠点とした呉派を中心に見ていく。邵弥『山水図』や徐枋『倣倪瓉山水図』の、病的に近い繊細さ(称賛)は、いかにも泉屋博古館のコレクションらしい(住友春翠らしい)感じがする。当時の生活の活気や旅の情緒を感じさせるのは、張宏の『越中名勝図冊』(大和文華館)。どちらも好き。「遺民と弐臣」は、いよいよ明の滅亡後、混乱の時代を生きた文人たちの作品だが、「遺民」や「弐臣」という立場と造形の嗜好には明確な関わりが認められないというのは、まあ当たり前の結論だと思う。展示作品は、ほぼ全て墨画で、人の姿のない、純粋な山水画(人間の痕跡は四阿や石塔くらい)が多い。龔賢の山水はいいなあ~。楊文驄『秋林遠岫図』もよい。

 以上が第1室。エントランスホールに戻ると、漸江の画巻2件『竹岸蘆浦図巻』と『江山無尽図巻』が全面展示で出ていた。うれしい~。前者は竹林や水辺の蘆の繊細な描写、後者はかすかな淡彩が見どころ。ここから第2室にかけてが「明末四和尚」(漸江、石渓、八大山人、石濤)、最後に「清初の正統派、四王呉惲」で結ぶ。石濤は、泉屋博古館の名品『黄山図巻』『黄山八勝図冊』『廬山観瀑図』に加えて、京博所蔵の『黄山図冊』をたぶん初めて見た。かなり画風が違っていて面白かった。

 八大山人は『書画合壁巻』(山水と二羽の鳥)に加えて『安晩帖』。えええ、会期中に画面替えで20図(題字を入れると22面)全部を見せる展示だったのか! 知っていれば、毎週末に通ったのに! この日は「12.冬瓜鼠図」が開いていた。「2.瓶花図」「4.山水図」「6.魚図」「7.叭々鳥図」「10.蓮翡翠図」に加え、6図を見たことになる。「冬瓜鼠図」は、まだらに墨を置いたデコボコの冬瓜を斜めに描き、ヘタのあたりに小さなネズミが張り付いている(どう考えても冬瓜がデカすぎる)。横向きに描かれたネズミは、耳が大きく、頭が黒い。黒いベレー帽をかぶっているようにも見える。シッポはピンと横に張り出している。展示室の壁には、題字も入れた全画面が。ゆっくり順番に投影されていた。ありがとうございます。ほんとにありがとうございます!

 関連図録『典雅と奇想』は東京美術より書籍として発売中。写真もきれいで読み応えがあって大変よろしいが、掲載番号と会場での展示番号が一部異なるので、注意が必要である。静嘉堂文庫美術館 『あこがれの明清絵画』(207年10月28日~12月17日)もあわせて楽しみたいが、おすすめはこちら。もう1回、行ってみるかも。


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