見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

付録が充実/中国の扇面画+橋本コレクションの中国絵画(松濤美術館)

2010-06-28 23:23:46 | 行ったもの(美術館・見仏)
渋谷区立松濤美術館 『中國美術館所蔵 中国の扇面画』併催『橋本コレクションの中国絵画』(2010年6月8日~6月27日)

 迷っていた展覧会だが、最終日に覗きに行った。北京・中國美術館が所蔵する、明末から現代までの扇面画約100点を紹介する展覧会。中国では、円形の「うちわ」と扇形の「おうぎ」をまとめて「扇面画」と呼ぶらしい。私は、こと絵画に関しては、日本の「おうぎ」、中国の「うちわ」というイメージを持っているが、この展覧会は「おうぎ」画のほうが多かった。ただ、面白かったのは、拡大レンズで覗いたような求心性のある植物を描いた「うちわ」画である。中国の「おうぎ」画は(日本の宗達・光琳みたいな)面白さがない。のっぺりと平面的で、折る・たたむ・ちょっとだけ開く、というようなスクリーンの可変性が、全く意識されていないように感じた。

 そこで思い出したのは、中国の歴史ドラマでは、皇帝や貴公子が扇子を持って登場すると、ばん!と勢いよく左右いっぱいに広げて、おもむろにあおぎ始めることだ。畳むか開くか、有か無か、黒か白か。日本人のように、開きかけの扇をぱちりぱちりと鳴らして、行きつ戻りつするなんてことはしないのである。そのへんの所作の違いが、扇面画のデザインにも影響しているのではないかと思う。

 最後に2階奥の小さな特別陳列室に入った。併設展『橋本コレクションの中国絵画』はわずか9点の小展示だったが、正直なところ、扇面画100点よりも見応えがあって興奮した。壁には「橋本末吉(1902-1991)」と「桑名鉄城(1864-1938)」という2人の人物の簡単な紹介パネル。橋本末吉は、高槻の自宅に中国書画800点を擁した大コレクター。中国絵画の蒐集に力を入れ始めたのは、戦後の混乱期に桑名鉄城の中国画コレクションを入手したのが転機だという(この人のことは、ネットで調べてもいまいちよく分からない)。

 桑名鉄城は篆刻家で、中国で篆刻新風を学び、京都における篆刻の新派の大家となった。いま、京都の泉屋博古館が所蔵する、八大山人の『安晩帖』や石濤の『廬山観瀑図』も、桑名の旧蔵品だそうだ。ということは、この「橋本コレクション」は『安晩帖』『廬山観瀑図』の兄弟分か!と思うと、急に親しみが湧く。実際、どの作品も個性的で好きだ。人物を大きく描いて感情移入しやすい、伝・馬俊『騎驢訪友図』。全体に白っぽい万寿棋『高松幽岑図』。李士達の『騎驢尋梅図』は金箋に描かれたもので、背景にのたうつ渓流と、手前にちらりと覗いた丸木橋が、扇面という図形を巧く使っている。この展覧会で、ほとんど唯一感心した扇面画である。

 石鋭『探花図巻』は、遠望する緑の山と松の間に白い雲がたなびいている図。「探花」と聞いて、白いものは桜かと思ったら、どこにも花はなかった。文章を読むと「建試之日、南都之太学ニ入ル」云々とあって、もしかして、題の探花って科挙の第三位合格者の意味?と首をひねったが、よく分からず。描かれた風景は、仁清の吉野山図みたいだったけど。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最初の20年間/洋服・散髪・... | トップ | 武士の美学、茶人の美学/陶... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
探花図 の 補足 (ゆきんこ)
2012-08-03 15:10:54
大阪での展示の前期に行ってきました。探花図は後期の展示となりますが、仰るとおり「探花」とは科挙の第三位成績取得者で、この絵は石鋭が、顧余慶(こ・よけい)という人物の科挙の試験合格を祈願して送ったものだそうです。
返信する
探花図の補足 (ゆきんこ)
2012-08-03 15:14:12
仰るとおり科挙の試験と関係しています。
この絵は 石鋭が 顧余慶(こよけい)という人物の科挙の試験合格を祈って送った絵とされているそうです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

行ったもの(美術館・見仏)」カテゴリの最新記事