見もの・読みもの日記

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詩情と水彩画/ただいま やさしき明治(府中市美術館)

2022-06-16 22:29:05 | 行ったもの(美術館・見仏)

府中市美術館 「発見された日本の風景」連携展・孤高の高野光正コレクションが語る『ただいま やさしき明治』(2022年5月21日~7月10日)

 いつも「春の江戸絵画まつり」を見に行っている同館で、明治絵画の展覧会があるというので見てきた。明治期に来日した外国人画家たち、そして西洋画を学んだ日本人画家たちが、日本の風景を描いた作品は、当時、多くが欧米諸国に渡ってしまった。高野光正氏は、これら、海外に流出した絵画約700点を蒐集して里帰りさせており、本展では展示替えを含め約300点を紹介する。

 例によって何も予習せずに行ったので、最初の展示室「忘れられた画家」笠木治郎吉の作品特集(18点展示)で衝撃を受け、慌てて、高野光正コレクションの説明パネルを読んで、上記の概要を知った。笠木治郎吉(1870-1923)は五姓田芳柳・義松に洋風画を学んだと見られ、横浜に住み、日本の風俗を描いて外国人に喜ばれたという。作品は水彩だというが、細部まできっちり描き込まれた濃密な描写は油彩画の雰囲気に近い。また、描かれた人物たちの表情は個性的で親しみやすい。高野氏は「J. Kasagi」のサインをたよりに当時の電話帳からご遺族を探し当て、徐々に作品の発見と研究が進んでいるという。すごい。

 笠木について調べてみたら、2018年に横浜市歴史博物館の企画展『神奈川の記憶-歴史を見つめる新聞記者の視点-』で8点が展示されていた。記者発表資料がネットに残っているのだが、このタイトルじゃ美術ファンの関心を惹かないよなあ…。さらに調べたら、笠木治郎吉をルーツとする「かさぎ画廊」のブログに、見覚えのある作品が掲載されていた。そろばんやお習字帳など、たくさんの荷物を身に着けた小柄な少女を描いた『下校の子供』。2019年、歴博の企画展示『学びの歴史像』の最後に「近代教育」の象徴のように置かれていた、印象深い絵画である。あれは笠木の作品だったのか。

 展示は、はじめに来日外国人が描いた日本の風景、風俗画を紹介する。この嚆矢となったのは、英国人新聞記者(挿絵画家)のチャールズ・ワーグマン。富士山や七里ヶ浜など、油彩の風景画もあるが、人物が登場する作品は、即興的なスケッチに軽く色をつけたものが多い。英国人画家の作品は、何気ない日常の風景を描いたものが多いという。彼らが「日本の名所」を知らなかったとか、行動の自由がなかったとか、この時代の「水彩画」が日常風景にマッチするメディアだったとか、理由はいろいろ考えられるが、彼らのおかげで、明治日本の「平凡な風景」に触れることができるのはありがたい。

 次に外国人に学んだ日本人の洋画家たちが登場する。私は、むかしからこの世代の作品に興味がある。五姓田義松の『北陸・東海道御巡幸記録図』(油彩)は、どこか非現実的で好き。山本芳翠の『月下波上の船』は図録に図版が載っているが、展示されないことになっていた。佐賀県美の『白馬、翔びたつ』で見た『帆船』と同じ作品ではないかと思う。

 やがて、工部美術学校ではフォンタネージの指導が始まり、日本人洋画家の第二世代が成長する。彼らはバルビゾン派に学び、日本各地の名もなき風景を、みずみずしく描き出した。同時に富士山や日光などの名所も、紋切り型でなく、画家の個性と詩情を込めて表現するようになった。沼辺強太郎、河久保正名、五百城文哉がそれぞれ描いている『日光東照宮陽明門』は、それぞれによい。

 また、明治の前半にアメリカに渡った画家の中に吉田博の名前があった。2021年の『没後70年 吉田博展』は版画が中心だったので、水彩画はずいぶん雰囲気が異なる感じがした。吉田ふじをという画家の作品がいいなと思ったのだが、吉田博の妻となった人だった。中川八郎、満谷国四郎もよい。鹿子木孟郎は、先日『加茂の競馬』を見て意識した名前である。

 明治末年には日本全国に水彩画ブームが起き、その副産物として、身近な風景に自分らしい「詩情」を込めようとする美意識が発展した。という趣旨の解説が最後に掲げられていたが、分かったような分からないような微妙な気持ちになったのは、私が、元来「詩情」を解さないためかもしれない。

 ちなみに会場では、関連図録が3冊売られている。

(1)『おかえり「美しき明治」』(2019年9月14日~12月1日、府中市美術館)の図録
(2)『発見された日本の風景 美しかりし明治への旅』(2021年9月7日~10月31日、京都国立近代美術館)の図録(※2022年5月21日~7月10日、府中市美術館へ巡回の記載あり)
(3)本展『ただいま やさしき明治』(2022年5月21日~7月10日、府中市美術館)の図録

 (1)(2)は見逃した展覧会だが、こういうかたちでリマインドされて記憶に留めることができ、よかったと思う。図録は(2)(3)を買って帰った。重なる作品もあるが、重ならない作品もあるので、楽しく眺めている。


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