前回からの続きです。
Kさんがこのほど新調された「WE349A・PP」アンプの音にはただただ感心するばかりだった。
また、細身で繊細な佇まいが持ち味の「AXIOM80」だが、どちらかといえばヴェジタリアン(菜食主義者)的な要素が強いスピーカーにもかかわらず、まるで肉食主義者に変身したかのような鳴りっぷりで、「これがAXIOM80ですか?」と、度胆を抜かれてしまった。駆動するアンプによって変幻自在の顔を見せる「AXIOM80」の潜在能力に改めて刮目したのは言うまでもない。
カタログ上では再生周波数帯域が20~2万ヘルツとされているが「20へルツの低音まで再生できるなんて嘘でしょう」と、ずっと思ってきたが、「新世界より」(ケルテス指揮)の冒頭のティンパニーの音で窓枠のサッシがビリついたのだから恐れ入った。
「やっと理想のアンプに巡り会えました。これでアンプは打ち止めです。」と、Kさん。
10数台持ってある真空管アンプの中でも明らかにベスト1であることは衆目が一致するところだろう。
お値段のことを持ち出すのはちょっと品位に欠けるが、気になって仕方がないので単刀直入に伺ってみたところおよそ80万円ぐらいかかったそうで、「この音ならそのくらい出しても惜しくないですね~」と、Sさんともども頷いたことだった。
製作にあたった「チューブ・オーディオ・ラボ」さん(新潟市)の店主さんが長年「349A」アンプの構想を暖め、それにマッチした部品をこつこつと集めてあったそうで、ニーズとサプライのタイミングが見事に合致して、こういう名品が誕生したのだろう。
2時間半ばかり「349A」を聴かせていただいてから、今度はスピーカーをローサーの「PM6」に切り替えての試聴となった。
左側が45のシングル、右側が「50」のシングルアンプ。
通常出回っている45や50と違うところは、いずれも、めったに市場に出回ることのない「メッシュプレート」タイプというところ。通常の板プレートの出力管と比べてどこがどう違うかというと音の純度というか透明感がまったく違うのがメッシュプレートの持ち味である。
「45」も良かったが「50」の音にはひときわ痺れた。口径の小さいPM6がまるで大型スピーカーのような鳴りっぷり。
「349Aと50があればもうアンプは十分じゃないですか!」との我々の言葉に対してKさん曰く「やはり171や45、1枚プレートの2A3じゃないと出ない音がありますので捨てきれません。」
ハイハイ、わかりました(笑)。
時間の経つのも忘れてたっぷり「Kサウンド」を堪能させてもらってから、ようやく夕方近くになって辞去した。
「いい音楽」と「つまらない音楽」を分ける尺度については自分の場合、時間の経過に依ることにしている。つまり、聴いたときの印象をどれだけの時間、持続させることができるかだ。例を挙げるとショパンなんて聴いたときにはたしかに美しい音楽だが、そのときにもうケリがついてしまってまったく後に尾を引かない類の音楽である。
「いい音」と「つまらない音」についても同じことが言える。
今回のKさん宅の音はいまだに尾を引いているが、そのうち素朴な疑問が2点ほど湧いた。
1 「349A」はインターステージ・トランスを使っていないのにどうしてあんなにいい音がしたんだろう?
2 どうやらグッドマンの指定エンクロージャーでは「AXIOM80」から本格的な低音を出すのは無理かもしれない。
<昨日(9日)、1についての疑問を率直に「北国の真空管博士」にぶつけたところ、実に興味深い回答が返ってきたが長くなるのでここでは省略し、稿を改めて紹介することにしよう。>
帰りの道中は珍しくも巡航速度の安全運転で走りながら物思いに耽ってしまった。
「次回の開催は我が家の順番になるが同じ土俵で勝負するとなると、とても適いそうにないなあ。意表をついてフワっとゆったりして空間を漂うような音を狙ってみようか。柔よく剛を制すという言葉もあることだし~。」
順調に1時間半後に我が家に到着するとSさんからメールが届いていた。
「いや~、今日のKさん邸の音は凄かったですね。私の中では余り評価が高くなかったPPアンプもWE球も見直しました。これからも、本質を知らずに見損なう事が無い様に気を付けなくてはなりませんね。また切磋琢磨すべき目標ができましたが、越えなくてはならないハードルが、どんどん高くなるのは困ったものです。〇〇邸も前回から随分と手を入れられ、変化された様ですから次回の会も楽しみにしています。」
すぐに返信メールを打った。
「今日の音は正直言って想像以上でした。しかし、これにめげずに次回の試聴会では私なりの持ち味を出してみたいと思います。乞う、ご期待です(笑)。」