長らく東京に単身赴任されていたSさん(福岡)が、昨年(2015年)4月、めでたく勤務替えになって帰郷されたのを機に始めた「AXIOM80愛好家の集い」だが、早くも区切りとなる第10回目を迎えた。
「集い」の趣旨を端的に言えば稀代の名ユニットとされているものの、とても気難しい「AXIOM80」をうまく鳴らすためのノウハウを同じユニットを使っている者同士(3名)の交流を通じて探求していきましょうというわけ。
終着駅がまったく見えないオーディオの世界だが、これまで9回の試聴会を通じて三者三様の個性が見事に炙り出されてきたように思っている。Kさんは「骨格のしっかりした剛直な音」を、Sさんは「繊細かつ優美な音」を、じぶんはといえば「中庸」という言葉が大好きだが、そのとおり両者の中間に位置する音が狙い目となっている。
とにかく、それぞれの性格が見事に音に反映されているようで、オーディオの愉しみは好きな音を楽しむだけではなく人間同士の交流、いわば個性のぶつかり合いにあることにも気付かされたのは大きな収穫だった。
さて、前回が1月9日(土)のSさん宅だったので今回はおよそ2か月ぶりの開催となったが、この間、道路の凍結や年度末で忙しかったりと、日程のやり繰りがたいへんでちょっと間延びしてしまった感は否めない。
今回は持ち回りの順番で3月5日(土)にKさん宅(福岡)での開催となった。
Kさんの横顔を紹介すると、古典管アンプを10数台所有されている完璧なアンプ党だが、併せてたいへんな古典管マニアである。たとえば、お気に入りのレイセオンのエンボス・マーク付きの稀少管ともなると、まずディスプレイ用に1ペア、実際に鳴らす用として1ペア、スペアとして2ペアを揃えて計4ぺアを確保しないと気が済まない方である。
したがって、マニア垂涎の貴重な古典管が唸るほどゴロゴロしているが、「どうせ命尽きるまでには使い切れないんだから少しぐらい譲ってくださいよ」と、ときどき“からかう”のだがガンとして応じてくださらない。たいへん困った御仁だ(笑)。
待ちに待った当日は前日までの厳しい寒さがウソのように、すっかり春の気配が漂う穏やかな天気のもと、いつもの旧型のクラウンとは違って家内のクルマ「アクア」を運転して片道120kmの高速をぶっ飛ばした。
さすがにハイブリッド車だけあってメーター上での燃費が1リットルあたり84kmをたたき出したのには驚いたが、少しでもガソリン代を節約して古典管を買う足しになればと“さもしい根性”の持ち主である(笑)。
予定の13時前にきっかり到着。すでにお二方とも揃い踏みだった。
今回の試聴会のハイライトは次の2点に尽きる。
☆ 新しく導入されたWE349Aプッシュプルアンプ(以下「349A」)の実力拝聴
☆ 稀少なメッシュプレートの出力管「50」「45」のお手並み拝聴
はじめに「349A」アンプから試聴に入った。
見るからに重装備といった感じだが、使ってある部品が由緒ある物ばかりだった。
入力トランス「ランジバン408D」 ドライバー管「77」(パンチプレート・タイプ4本) 出力管「WE348A」(4本) 出力トランス「WE171Cリビルト品」 整流管「シルヴァニア274B」 電源トランス、チョークコイルはともにウェスタンのリビルト品 配線材と板抵抗もすべてウェスタン、ハンダはウェスタン指定のナッソ
つまり名器とされる「WE131」アンプと同じ回路と部品が使ってあるそうでいわばそのコピー品といっていいが、このアンプを製作した「チューブ・オーディオ・ラボ」(新潟市)さんのホームページ(クリック可)に製作過程が公開してあるので興味のある方はどうかご覧になってくださいな。
肝心の試聴結果だが、聴いているうちに「これは・・・・」と、つい冷静さを失ってしまったことを正直に告白しておこう。
とにかく凄い音なのである。低音域の制動力をはじめ、分解能、奥行き感、繊細な表現力など音質に関わるあらゆる要素が満たされている音といっていい。しかもプッシュプル型式なのにまるでシングル型式のような緻密さを持ち合わせていることにも驚嘆した。
以下、続く。