「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「柔らかな犀(さい)の角(つの)」~読書コーナー~

2024年08月06日 | 読書コーナー

お隣さんの購読紙は「日経新聞」で我が家は「読売新聞」・・、新聞にも「品格」というものがあるとすればやはり前者の方が上だと思うが、家人が大の巨人ファンなので仕方なく現状に合わせている。

「老いては妻に従え」だからね(笑)。

で、「日経」を読みたいばかりにお隣さんに「1日遅れの新聞を交換しましょうよ」と、もちかけてから早いものでもう10年以上にもなる。

「日経」のどこがいいかというと、どこにも偏らない「政治・経済記事」の精確さに加えて「文化芸術面の記事」の充実度にあると個人的には思っている。

とりわけ、政財界、芸術界、スポーツ界などで功成り名を遂げた方々の生涯記ともいえる「私の履歴書」には必ず目を通している。

さすがに各界の一流の方々なので参考になることが多く、そして出自の方も「どこの馬の骨かわからない」という方よりも、由緒ある方のほうが圧倒的に多いように思える。

やっぱり、人間は何やかや言ってみても「遺伝が大きな要素を占めているなあ・・」と、自分とひき較べてみて諦めと悲嘆の境地に達しているのがホンネ(笑)。

そういう中で、去る7月の1か月間はある名門の不動産会社の会長さんが投稿されていたが、経済不況の中で都会の「大プロジェクト」を次から次に押し進める方だった。まさに「行けゆけ、どんどんタイプ」で、ものすごく馬力があって仕事熱心~。


それはそれでたいへん立派なことで、十分尊敬に値する方だと思ったが、読み進むにつれ、「仕事を取ったら何も残らないような人生」にある種の「物足りなさ」を感じるようになった。

言い換えると、サクセス・ストーリーにはもう飽きた・・、失敗談や人付き合い、音楽に熱中したりとか、そういう幅の広いエピソードが欲しいんだけど・・、ちょっと「無いものねだり」なのかな~(笑)。

その点、2~3年ほど前に登場された映画俳優「山崎 努」さんの「私の履歴書」は型破りだった。



己の失敗談を衒うことなくさらけ出して、実に柔らかであっけらかんとした表現で詳らかにされている・・、つまり「政財界に比べて芸能界の方が人間観察にかけては一枚上かな」という印象を持っている次第。

その山崎さんの著作が図書館の新刊コーナーで目についたので喜び勇んで借りてきた。週刊文春の好評連載「私の読書日記」6年分を収録したものだという。



いやあ、実に面白かった。内容はいろんな本を読んで(ものすごい読書量です!)、その感想をエッセイ風に書き記されている。

たとえば54頁にこういうことが述べられている。

「演技する上で大切なのは、危なっかしくやることである。失敗を覚悟で、どうなってしまうかわからないところへ自分を追い込んで行く。それが大事。失敗は正直怖いが、そのリスクを背負わない安全運転的演技などなんの価値もない。

危険を避けるのではなく安全を避けなければならない。実を言うと、演技には失敗も成功もない。失敗だって成立する。問題は、どんなことにこだわり、どれだけ自分を投げ出せたか、ということなのだ。」

どうです・・、これだけでも、とても「一筋縄ではいかない役者」さんというのがわかるでしょう。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」というのか、これは、いろんなことに通じそうですよ~、ほら「演奏」や「オーディオ弄り」だってそうとは思いませんかね・・(笑)。

もう一つ紹介、91頁~。

養老孟司が「養老訓」で「年をとって良かったなと思うことが沢山あります」と言っている。年寄りは上機嫌で生きましょう。

じいさんは笑っていればいいのです、先日亡くなられた河合隼雄(かわいはやお)さんは、いつもニコニコされて駄洒落ばかり言っていました。人の意見を訂正することもなかった」という。

いつも、まず「そうですね」「なるほど」とイエスで受け止め、その上で穏やかに相手の言葉に寄り添うように話し出す。あれは真似ができない。どうしても、思わず「いや」「でも」と返してしまう。

大人(たいじん)と小人、器が違うのだから仕方がないが、とりあえず僕は話した後にニコっと笑顔を付け加えるよう努めている。それが気持ち悪いと言われたりするが。

老人はすべからく「上機嫌」で生きたいものですね!(笑)

そして最後に未練がましいがもう一つ~(327頁)。

赤瀬川源平が「健康半分」の中でこう言っている。

「怪我や病気で落ち込んでも、何か小さな未来の好きなことを先ず思い浮かべる。夜のプロ野球中継を期待したり、夕食はどうもオデンになるらしいぞとか、何か近未来の自分の楽しみを期待する。」

歳をとるとどうしても「頻尿」になる。赤瀬川は町でトイレを見かけたら、「まだ大丈夫」でも「後悔をしないように」必ず用を足すようにしているという。鳥は空を飛ぶために身を軽くしておかないといけない。

だから少しでも溜まると飛行しながら排泄しているらしい。老人は鳥に近づいているのだ、と思っておけばいいそうだ。

同感です!(笑)

そして、最後の最後にもう一つ~(399頁)。

ある老賢人がこんなことを言っていた。「毒」という字には「母」がいるぞ。男の子は母が死んでやっと一人前になるのさ。生きているうちはだめだね。とはいえ、おねしょに付き合ってくれた人の残像が消えて無くなることはない。

以上のとおり興味のある話が満載・・、読書好きの方にはぜひお薦めしたい一冊です!


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