「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

モーツァルトが変えた人生~その3~

2023年02月04日 | ウマさん便り

お待たせしました。「~その2~」からの続きです。

「お前のブログなんてどうだっていいからモーツァルト・・を早く投稿しろ」という声が聞こえてきそうですね(笑)。

さあ、今回から第二段階目の新たなストーリーが展開します。

もう、ずいぶん前のことになるけど、完成したばかりの関西空港からパリへ飛ぶ飛行機の中で、たまたま隣り同士になったTさんとの楽しいやり取りは、ウマ便りに書いた。(「その1」と「その2」参照) 

その後、彼から何度か手紙をもらったことはあったけど、彼と再会したのは、たしか僕が、スコットランドへ移住を決めた頃だったと思う。

彼と会うことには、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)した。正直言うけど、彼が元(もと)組員だったというのがその理由です。ところが、これは大間違いやった。

彼の語る<その後>を聞いて、なんと僕は、大いに心洗(こころあら)われることになったんや。こんな素晴らしい再会って、そうあるもんじゃないとも思った。
 

天王寺・茶臼山(ちゃうすやま)のドイツ・ビヤレストラン<ウィリー>で会った。

久しぶりに会う彼だけど、以前と違い、かなり穏(おだ)やかで優しい表情になっていたので、オッ!と思ったね。喋(しゃべ)り方(かた)も以前とは明らかに違う。

以下は、久しぶりに会った彼と僕のやりとり、そして、彼が語(かた)った話の聞き書きです。出来るだけ忠実に書こうと思うんやけど、さあ、どうやろ? 

亡くなった恋人の遺品(いひん)にあったカセットテープで、モーツァルトと出逢(であ)ったヤクザのTさんやけど、その彼が、すったもんだの末、組を辞(や)めた時の話は面白(おもしろ)かった。 

「辞めたい理由はなんや?」

「これです。聴いてみてください…」

渡そうとしたレコードを取り上げた組長は「訳の分からんこと云うな、絶対に辞めさせへん!」と、そのLPレコードを膝(ひざ)で叩(たた)き割(わ)り、Tさんに投げ返したそうです。Tさんは組長のお気に入りで、近い将来の、組の若頭(わかがしら)候補の筆頭だったという。

何度か組長にレコードを渡そうとしたTさんだったけど、その度(たび)に目の前で割られ、辞意(じい)は完全に無視されたそうです。 

僕は、北島三郎の「兄弟仁義(きょうだいじんぎ)」や、あの高倉健の「唐獅子牡丹(からじしぼたん)」も好きやけど、ヤクザの組長にもモーツァルトを聴いて欲しいよなあ。

健さんの「唐獅子牡丹(からじしぼたん)」って、学生運動真(ま)っ盛(さか)りの、あの70年安保(あんぽ)の頃、流行(はや)ったんだよなあ。この歌、全共闘(ぜんきょうとう)の連中にも、なにか通じるものがあったんやろと思う。ああ懐(なつ)かしい…

♪…義理と人情を秤(はかり)にかけりゃ~…♪…♪背中(せな)で泣いてる唐獅子牡丹(からじしぼたん)~…♪ 

えーとー、なんの話やったかいな? 

そうや! 組を辞(や)める話や…  

意(い)を決(けっ)したTさんは、レコードと携帯(けいたい)プレーヤー、それに包丁(ほうちょう)とまな板を持って組長宅へ行き、彼が頼(たよ)りにしていた姉(あね)さん、つまり、組長の奥さんにも同席してもらい「指詰(ゆびつ)めさせてもらいますけど、その前に、とにかく聴いてみてください」と、強引(ごういん)に組長に迫(せま)り、モーツァルトのピアノ協奏曲21番・第二楽章をかけたんだって。

しかしさあ、ヤクザの組長が、モーツァルトを聴く情景って、失礼ながら、ちょっと想像出来ないよなあ。どんな顔してはったんやろ? でも、これ、ほんまの話しなんだよね。

Tさんは、遠い過去を懐(なつ)かしむように、淡々(たんたん)と語ってくれた。

…そして、あの夢見るような第二楽章が終わった時、恐ろしい形相(ぎょうそう)で腕組(うでぐ)みしていた組長が「もう勝手にせい!」と立ち上がった。

「じゃ、指詰めさせてもらいます」とTさんは覚悟を決め、右手で包丁を握(にぎ)り、左手の小指をまな板においた。

が、組長は、まな板と包丁を取り上げ「そんなことせんでもええ。すぐ出ていけ!なにがモーツァルトじゃ、このアホ!」そして付け加えたそうです。「二度と顔を出すな。他の組員にも絶対に会うな」

組を辞める時は指を詰(つ)める…これはヤクザの世界の掟(おきて)でしょう。だから、指の付いたままの彼だと示(しめ)しがつかないから他の組員には会うなと云う組長の配慮(はいりょ)だったんでしょうね。 

組を辞(や)め、亡き恋人を想(おも)い、毎日、そのモーツァルトを聴いていたTさんやけど、たまたま、<モーツァルトの家を訪ねませんか>と云う旅行会社のちらし広告を見て、居ても立っても居られず、ザルツブルグツアー参加を思い立ったんですね。

で、その飛行機で、たまたま隣りの席にいたのが、僕、ウマだったというのは、ウマ便りに書いた通りです。 

Tさんは、その後、大阪の今宮(いまみや)にある兄の鐵工所(てっこうしょ)を手伝うかたわら、夜間高校を出たあと大阪市立大学の夜間部に通ったという。少年院を出たり入ったりで、中学もまともに出ていないという彼だけど、偉いと思うよ。頑張ったんやねえ。

彼の人相(にんそう)・表情に変化を見た僕は思った…教育って人相を変えるんやな。

しかし、彼の人相が変わった最大の原因は、そう、もちろん、あの偉大な作曲家の存在ですよね、間違いなく。

以下、続く。

追記

「言わずもがな」ですが、改めて「音楽が持つ力(ちから)」に感心させられます。

つい「五味康佑」さん(故人)の著作(「西方の音」、「天の声」)に「いい音楽は人の倫理感に訴えかけてきて、正しく生きようという気を起こさせる」と、あったのを思い出しましたよ。

おっと・・、自分が書くとつい説教臭くなりますね~(笑)。



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