「ウマさん」(南スコットランド在住)からのお便りです。
「ケイト・テンペスト」
ラップミュージックって知ってるよね?
音楽に乗せて、速射砲みたいに詩やメッセージを歌う(語る?)んやけど、それ自身にメロディーはほとんどない。アメリカで生まれた音楽の一つのジャンルやと思うけど、この手の音楽、僕は苦手で、とんと興味はない。なぜか?
そもそも、言ってる内容がわからないと聴いてる意味がないからや。自分の奥さんのしゃべる英語がわからなくて聞き返すことは毎日のことです。そんな僕が、ラップミュージシャンの語る早口の英語がわからんのは当たり前や。
ほんでな、普通、音楽ってさあ、メロディ、リズム、そしてハーモニー、この三つの要素があってこそ音楽じゃないの?だから、歌詞にメロディーが付かないラップミュージックって音楽やろか?とも思う。
ところがね、そんな考えを根底から覆したのが、ケイト・テンペストなんです。2015年6月、世界最大の音楽祭、グラストンベリーフェスティバルで、数万人の前で演奏する長女のくれあをBBCの実況中継で観た。
その時、くれあのすぐ前で歌って(?)いたのが、英国、いや、世界的にも珍しい女性のラップミュージシャン、ケイト・テンペストだったんです。
テレビカメラが映す観客・聴衆の様子を見て僕はびっくりした。中高年が圧倒的に多いその広い会場で、なんと泣いてる人が少なからずいるんや。
僕にはケイトの歌ってる(語ってる)言葉の意味はわからない。でも、その内容が、聴衆の胸に響いている、いや、迫っている事実は十分理解出来た。
ラップミュージックというのは、韻を多く含んだ歌詞を、音楽、特にリズムに乗せて語る、ま、ダンス用ミュージックやろと思ってた僕に衝撃を与えたのがケイト・テンペストだったのね。
BBCのその映像を観てて、もちろん彼女が語る内容は理解出来なかったけど、僕は思った。この人、ラップミュージシャンとちゃう、詩人、いや、メッセンジャーや! 彼女の語る言葉に涙を流す聴衆は、間違いなく彼女のメッセージに心打たれているんやとも思った。
ラップミュージックは音楽とは言いにくいと云った僕やけど、数万人の聴衆を惹きつけ、さらに涙を流させるケイト・テンペストは普通じゃない。さらに、こんなミュージシャンって、そうそういるもんじゃないと、ある種の感銘さえ覚えた。ステージで彼女が語る(歌う?)その意味がほとんどわからないにもかかわらずですよ…
その後、ケイトと頻繁にワールドツアーに出たくれあが、彼女の価値を述べたことがあった…
「おとーちゃんな、本を丸一冊暗記してそれを朗読出来る人っておるか?ケイトはな、それに近いことをやってるんや。彼女が自分で書いた長い詩やメッセージは、社会、政治、経済、歴史、文化、恋愛、戦争、性、貧困、あらゆるテーマを含んでる。
それらを30分40分、ときには1時間近くぶっ続けで語るんや、いっさいメモを見ずにやで。わたし、毎回、彼女の後ろで伴奏してて、この人天才ちゃうかと思うねん」
詩人?ケイトが初めて書いた小説は、出版社の間で取り合いになり、結局、出版社間で入札したそうや。これ、前代未聞とちゃうか?そして、その小説は、英国最高の文学賞にノミネートされた。
とにかく言えることは、ケイト・テンペストは才女、いや、超才女だと云うことですね。さらに、ケイト・テンペストのCDは、毎年、英国で発売されるベスト50に必ず入ってるそうです。
いつだったか、ケイトがグラスゴーで公演したとき、僕やキャロラインを招待してくれた。開演前、会場のコーヒーショップでくつろいでいたとき、なんと、ケイトがわざわざ僕らのテーブルに来て挨拶したんや。これにはびっくりした。普通、スーパースターはそんなことせえへんやろ。その時、ケイトは僕の寿司の差し入れに、めっちゃ感激してくれた。
その後、縁があったんやろか、今や、世界的なカリスマメッセンジャーと言えるケイト・テンペスト、そんな彼女がアラントンを訪ねてくれた。もちろん、ウマは、お寿司を作りましたで。細巻きで書いた彼女のキャッチフレーズ「LOVE MORE」を見た彼女、もう目を丸くして、なんとウマにビッグハグやった。
この人は、間違いなく英国社会、いや、そのほか多くの国で、少なからず影響を与えていると思う。その証拠に、彼女が何か政治的発言をすると、必ずメディアが取り上げる。
2019年のグラストンベリー音楽祭で、ケイトはくれあだけの伴奏でパフォーマンスした。というのは、それに先立つヨーロッパツアーで、くれあだけの伴奏が、より自分を表現出来ると判断したようなんです。
で、今回のBBCの実況中継、巨大なメインステージは、ケイトとくれあだけだった。だから、くれあのアップが頻繁に出てきたんで、親としては嬉しかったですね。
そして、ケイトが大観衆に向かって「クレア・ウチマー!」と紹介した瞬間、大歓声が上がった。で、ウマはテレビ画面の観客に向かって叫んでしまった。
「クレア・ウチマのおとーちゃんはここにおるでぇー!」
いかんいかん、やっぱりミーハーおやじでござるなあ。反省自省…
BBC実況中継2019年グラストンベリーフェスティバル、くれあとケイト