秋の時季になると恒例のようにオーディオ愛好家同士の交流が激しくなる。
暑くもないし、寒くもないし音楽鑑賞には最適の時期なので、必然的にオーディオ装置に向かい合う時間が増えるわけだが、そうすると何かと音質に不満が出てきて装置のどこか一部を入れ替えたりするのが通常のパターン。
そこで、音が随分良くなったと自己満足の世界に浸り、他の愛好家にも是非聴いてもらって褒めてもらいたい、自慢したいという欲が出て来るというわけで、間違いなく自分もそういう類(たぐい)の一人(笑)。
「我が家のオーディオ装置が随分と様変わりしたので聴きに来ませんか」とお誘いをしたところ早速オーディオ愛好家たちが我が家にやって来てくれた。
11月13日(木)の午後のことで、メンバーは大分市にお住まいのO石さん、M山さん、A田さんの3名。
いずれもオーディオには随分と年季の入った方々ばかりでそれぞれ一家言の持ち主。
O石さんは現役の頃、百貨店でオーディオ製品の取り扱い責任者として活躍され、売り手と使い手の両面から酸いも甘いも噛みつくした方で現在JBLの「パラゴン」を愛用されているが、マニア垂涎の的の60cmウーファーのハートレーも所有されている。
M山さんは自宅でタンノイ「オートグラフ」と「アルテック」のSPを使い分けされている若手だが自分のポリシーのもと簡単に妥協しないシビアな方、それにA田さんは50年以上もジャズに熱中されてきて限りなく場数を踏んで非常に耳の肥えた人。
いつも我が家にお見えになるときは3人トリオの体制で今回の訪問はたしか4回目ぐらい。
前回のときは、中域にJBL375を使っていたので「アキシオム80」に替えてからは初めてのご訪問。
ただし、今回わざわざ来ていただいた本当の狙いは「ワディア270CDトランスポート」(以下「270」)とiPod用の「170iトランスポート」(以下「170」)の音質を比較してもらうこと。
我が家のオーディオ装置にいち早くiPodを取り入れたのでその先進性をひけらかしたいという邪念がないといえばウソになるが、もちろんそれに見合った「170」の音質が背景にあるのはいうまでもない。
ところが、結論からいえばこちらの当初の思惑がものの見事に外れてしまった。
3名ともにジャズ系なので求められるままに、まず「iPod」と「170」のコンビで次々にジャズの名曲を聴いてもらったが、みなさんどうも”浮かぬ表情”。
キャノンボール・アダレーの「枯葉」を最後に、今度は同曲をCDと「270」のコンビで聴いてもらった。いよいよ「170」と「270」の直接対決というわけだが、これが試聴後一斉に”「270」の方が断然いい”という大合唱。
ウーン、これには正直言って参った。概要、次のような意見だった。
☆「270」の方が音楽表現として豊かでリアルだ。
☆レコードからCDに移行したときに感じた落差と同じものをCDからiPodへの移行に感じる。
☆「170」は音切れが早すぎて響きが少なく、(歌手の)口の中まで聴かせてくれる様な湿り気がない。いかにもデジタルくさい。
「そうかなあ~」と少々納得しかねるが、3人から断定的かつ異口同音にやられると3対1の多勢に無勢、自信喪失気味になってしまった。
以後の試聴はすべてCDと「270」のコンビで再生するのみ。すると今度は一転して絶賛の嵐へ!
サラ・ヴォーン(女声ボーカル)の「センド・イン・ザ・クラウンズ」は彼女の歌声の魅力が最大限に発揮された曲目だと思うが、まずO石さんから”「アキシオム80」はボーカルが素晴らしいですねえ”と感嘆の声が上がった。
サラ・ヴォーン「センド・イン・ザ・クラウンズ」 →
次いでM山さんが持ってきたカラヤン指揮ムター演奏のコンビによるブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」でヴァイオリンの音色のあまりの艶やかさに全員息を呑んで感銘を受けられたご様子。
さすがに「アキシオム80」、その独自のクリティカルな構造によって「音の抜け」「リアルさ」「反応の速さ」など「コーン・スピーカーの最高傑作」といわれただけのことはある。
結局、結果的には「アキシオム80のひとり舞台」となった感のある今回の試聴だった。