これまでなるべく後悔しないような「生き方」をしてきた積もりだが、それでもときどき「来し方」を振り返ってみて、限られた選択肢の中であれで良かったんだろうかと考えることがある。
もし、あの時違った「選択」をしていたら自分の人生も少しは変わっていたかもしれない・・・。別に今の状況に不満を覚えているわけでもないのだが。
たとえば、思い付くだけでも人との出会い、高校や大学の進学先、就職先、居住地の選択など岐路がいろいろある。
当然のごとく、その中には「伴侶の選択」も含めたいところだが、こればかりは情が絡んでくる話だけに「選択」という事務的な言葉で括ってしまうわけにはいくまい。あまりにも寂しすぎる(笑)。
それはさておき、そうした岐路のときに豊富な選択肢に恵まれた環境さえ整っていれば、もっと飛躍できたかもしれないという憾みは拭いきれない。
そしてオーディオも例外ではない。使用の対象となる機器の選択肢が多ければ多いほど音は良くなる!
お目当ての機器をオーディオ評論家の意見や評判に感化されて購入するようでは「博打」の域を出ない。
というわけで、ここからいつものオーディオの具体的な話に移ろう(笑)。
これまで散々悩んできた「プリアンプ」(真空管式)だが、Mさん(大分市)と知り合ってから(悩みが)一気に氷解した。この2カ月余りの間にMさんが過去に製作されたプリアンプを順次持参されたがそれが何と6台にも上り、その都度1週間ばかりテストして選びに選び抜いた結果、ようやく手元に2台が残った。
これだけの数をテストして残ったのだから良いに決まっているが、そのうちの1台がこれ。
マッキントッシュの「MC22」を参考にした回路だそうで使用している真空管は「12AX7」を6本。
プリアンプによる音質の変化はシステム全般の音を根底から覆すほどの影響力があるが、我が家のシステムも気になっていた音の重心がやや下がってきたようで、ようやく相性のいいプリアンプに巡り会えた感じがしている。
これも既存のプリアンプを含めて9台の中から厳しい選抜をした賜物だといえよう。
次にパワーアンプだが、これまた選択肢が多い。
現在、我が家にあるパワーアンプは7台になる。長~い年月のうちに積もり積もった結果である。
そのうち実際にスピーカーを駆動するのに必要なパワーアンプは3台だけなので残る4台はスペアということになるが、いずれのアンプもそれぞれ捨て難いところがあって、オークションに出品してお払い箱にするには忍びなく、そのときどきの気分転換用として活用している状況だ。
そして、これら7台にこの度新たに加わることになったのが「2A3シングル」アンプ。前述したように選択肢の数が増えれば増えるほど質的な向上が見込めるのだから大歓迎(笑)。
この「2A3」アンプは実を言うと20年ほど前に購入して一時期愛用していたアンプだが、他のアンプが次第にグレードアップするにつれ存在価値が段々薄くなってきたので、出番が少なくなっていた。
しかし、出力管「2A3」の実力からするとこのままではとても惜しい気がして昨年(2016)の12月に新潟県のプロのアンプビルダー「K」さんにお願いして回路を一新していただくことになったもの。
Kさんは全国各地から引く手あまたの身の上で目の回るようなご多忙の中、わざわざ時間を割いてもらったのはたいへんありがたい。
6カ月ぶりに、このほど新装なって我が家にご帰還あそばしたのは6月30日(金)のことだった。
初段管兼ドライバー管が「6DE7」という珍しい球、出力管は前述どおり「2A3」だが、数あるブランドの中でもたいへん珍しい刻印モノの「Visseaux」(フランス)、整流管は「5X4G」(ロジャース)のコンビ。
Kさんは真空管の泰山北斗「北国の真空管博士」とご相談されて改造されたそうで、道理でこれまでまったく聞いたことのない真空管「6DE7」採用の裏事情がよ~くわかった。
いずれにせよKさんが「2A3に関する私のノウハウをすべて注ぎ込みました。」というほどの力作である。
さあ、強者(つわもの)どもがひしめく中でこのアンプがどのくらいの実力を発揮してくれるのだろうかと興味津々。しかし、まだ出来立てのホヤホヤで部品がまっさらなので「鳴らし込み」(エージング)に2か月ほどは必要なのでその辺は割り引いておく必要がある。
ちなみに、ここで既存の7台のパワーアンプの内訳を挙げておくと「WE300Bシングル」が2台、「PX25シングル」、「171シングル」「71Aシングル」、「71Aプッシュプル」、「6SN7プッシュプル」。
持ち主が言うのも変だが、出力管「WE300B」と「PX25」といえばアメリカと欧州を代表する直熱三極管の王者なので、はたしてそれに伍していけるかどうかがハイライトだ。
まずは「WE300Bシングル」アンプとの一騎打ち。
駆動するスピーカーは繊細さが持ち味の「AXIOM80」(最初期版)で、このユニットほどアンプの違いを明確に出してくれるものは自分が知っている範囲では存在しない。
1時間ほどクラシックからジャズ、歌謡曲までいろんなソースで試したが、大熱戦の末わずかに「WE300B」の方が「音の色気」において一日の長があった!
このクラスになると比較になる指標といえば周波数帯域がどうのこうのというよりもムラムラっとくるような「色気」しかない(笑)。
次に「PX25シングル」アンプとの勝負。
現在、ウェストミンスターの2ウェイ用に使用していて周波数「500ヘルツ以上」を受け持ちながら裸の「AXIOM80」を鳴らしているが、まったく音に不満は感じないものの、「2A3」が挑戦者としてどういう勝負を挑むか、これまたじっくり耳を澄ましてみた。
まず「音の色気」の方だが、どうやらイギリス球とフランス球との性格の違いが醸し出されるような気がした。
片やイギリスの上流社会の貴婦人を連想させるし、片やエスプリ(才知)の利いた知的なフランス女優を連想させる。そういえば「ダニエル・ダリュー」という往年の名女優がいたっけ~。ググってみたらいまだ存命中でもう100歳になる!
いずれにしても、名にし負う「PX25」と遜色がないのだからお値段からすると「2A3」大健闘の巻である。
結局、これからは日替わりメニューのように交替させて雰囲気を楽しむしかないが、どちらにしようと「至福の時間」になることは間違いなし(笑)。